冷たい雨が降りしきる中、私はあの人と出会った。 その時私は足を怪我して身動きが取れなかった。 ニンゲンが捨てたゴミの中にあったガラス片で深く切ってしまったらしい。 ちょうどひろやゆかとはぐれていた為、私は覚悟をせざるを得なかった。 なぜならニンゲンは私達ももっちを殺そうとする生き物だと教わっていたから。  私の一生もこんな所で終わっちゃうのかな…今この通りにニンゲンが来たら… 私はニンゲンたちに見つかる前に仲間の二人が見つけてくれることを祈った。 でも、そこに現れたのは一人のニンゲンだった。 彼はじっと私を見つめていて、ふと足の怪我に気付いたらしく、「大丈夫か?」と聞いてきた。 何か変だ、と、私は思った。 目の前に居るニンゲンからは何か安心できる雰囲気が感じられた。 ニンゲンなのに。 私はその問いに頷いて答えると彼はいきなり私を抱きかかえた。 驚いた、咄嗟の出来事で抵抗する事も出来なかった。 もっとも足の怪我と長雨に打たれていたせいで体力も無かったからたいした抵抗も出来なかっただろうけど。 このニンゲンは私がモンスターだと気付いていないんだろうか? それとも油断させたところを襲うつもりなのだろうか? 彼が取る行動が私が聞いていたものとはまるで違かった。 それでも私は相手がニンゲンである以上警戒を続けていようと思った。 とある家に入る。 どうやらココが彼の寝床らしい。 建物に入ると彼は私を椅子に座らせて奥に入っていった。 暫くすると奥からタオルと小さな箱を持って来る。 タオルで濡れた体を拭き、その箱から小さな瓶を取り出すと、その中にある液体を傷口に塗り始めた。  っく… 傷口がしみる、何をしようとしているのかわからなかった。 その後傷口を布で巻いていく、怪我の治療をしてくれたのだ。 しかし、怪我をしたら大抵ゆかが治癒魔法で直してくれていたので薬で治す習慣が無かった為毒か何かでも塗られたのかと不安になった。 そして彼は聞く。  「君、モンスターのももっちだね、他に仲間はいなかったのかな?」 他のみんなも捕まえるつもりなのだろうか? 私は答えなかった。  「ん〜…まあ、警戒されてるのは仕方ないか」 そういうとそのニンゲンは手に持っていたパンを差し出す。 けどすぐ何かに気付いたのかパンを一口食べて見せた。  「ほら、喰っても大丈夫だ」 パンを手渡される。  「俺は風呂の用意と何か代えの服を探してくるから、いつまでも濡れたままじゃ風引いちまう」 そう言って家の奥に行った。 私は、手渡されたパンを口にした。  美味しい… 暫くぶりにまともな食べ物を口にした。 皆と旅をしてる時は集落を出る時に持ってきた干し肉とその辺に生えてた食べられる草だけだったから。 私は警戒するのも忘れ夢中で食べた。  「旨いか?」 いつの間にか戻っていたらしい。 私がパンを食べるのに夢中になってるところを見られた。 か〜っと顔が熱くなる、恥ずかしい… 彼は手に持った服を差し出すと奥のほうを指差して言った。  「今風呂を沸かしてるから沸いたら入るといい」 暫くしてお風呂が沸いたけど、私はまだ一人では上手く歩けなかった。 なので仕方なく彼の手を借りる。 彼は脱衣場に私を下ろすとすぐに扉の外に出て行った。 私は服を脱ごうとしたけど怪我をした足が上手く動かなくて思うように服が脱げない。 何とか服を脱ぐことは出来たけど座り込んで起き上がれなくなってお風呂場の扉に手が届かない。 彼に助けを求めようと思ったけど私は既に服を脱いでいる。 折角気を使って外に出て行ってくれたのに呼ぶのはなんだか申し訳なく感じたし、何より恥ずかしい。 見てくれは10歳前後のニンゲンの子供のような姿でも私はもう16歳、異性に肌を見られるのには種族が違えど抵抗はある。 しかし彼に助けを求める以外に手は無く、その場にあったタオルを体に巻いて彼を呼ぶことにした。  「あ、あの…外にいるんでしょうか?」 2、3度呼びかける。  「ん、どうした?」  「あの、扉が開けられなくて…」  「え?あ、あ〜…そうか、ちょっと待ってて」 彼が脱衣場の中に入ってくる。 彼は私の姿を見て驚いていた、少し恥ずかしそうにして。 彼はそのまま余り私のほうを見ないようにしながら風呂場の戸を開けるとそそくさと出て行ってしまった。 私は湯船に浸かりながら考える。 何で彼は私にここまでしてくれるのだろう? 普通モンスターを見かけたら大抵は退治をする。 私なんかももっちなのに。 それでも退治をしないなら目的は別にあるってことだろうか? ニンゲンは時に私達のようなモンスターを陵辱すると聞いたこともある。 やはりそういった目的があるんだろうか? でも、彼からはなんと言うか、そういったものは感じられなかった… …少しボーっとしてきた。 疲れてたし、さっきパンも食べてたから眠くなってきた… あぁ、でもお風呂から上がらないと… … ふと目が覚める。 お風呂場じゃない、さっきの部屋だった。  あれ、確か私お風呂に入ってたんじゃなかったっけ? 上半身を起こして周りを見ると、彼がテーブルに突っ伏して寝ていた。 起き上がろうとしたら私に掛かっていたタオルが床に落ちる  「っ!?」 裸のままだった。 すると、彼も起きてしまった。  「あ、目が覚め…た……」  「っきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  「ご、ゴメン!!」 私は慌ててタオルを体に掛ける。 彼も後ろを向いてしまった 見られてしまった… … しばしの沈黙。  「…あの…見ました?」  「えーと…ゴメン…」  「…」  「…」 聞かなきゃよかったかも知れない。 今たぶん私の顔は恥ずかしさで茹だった蛸のように真っ赤になっていただろう。 そこで、あることに気が付く。 私はたぶんお風呂場で寝入ってしまったんだろう、という事は…  「あの…貴方が運んで来たん…です…よね…」  「え、あ、あぁ、いつまで経っても上がって来ないから心配になって…」  「あ、その…」  「え?」  「あ、ありが…とう…」  「あ、あぁ」  「でも、私の裸見たんですよね…」  「あぁー、だ、大丈夫俺そんな子供にどうとかって趣味は無いから」  「なっ!?子供って…私はこれでももう16です!!」  「えぇ!?」 何を口走ってるんだ私。 言い終わって気が付く、これじゃある意味意識されて無い事に怒ってるみたいじゃない? って言うかこの人もなんて反し方をして来るんだ…  「と、ともかく俺は君をどうこうしようと考えてるわけじゃないから」  「じゃあなんで私をここまで連れてきたんですか?」  「別に、困ってる奴がいたから助けた、それだけだよ」  「でも私、モンスターだし…」  「俺は別に、モンスターはそんなに悪い者じゃないと思ってるし」  「…変わってますね」  「ああ、俺は人間としてはかなり変わってるだろうな」  「ふふっ」  「とりあえず、怪我が治るまでの間俺の家ですごすと良い、外は物騒だしな」  「じゃあ好意に甘えさせてもらいます、ところで…」  「ん?」  「着替えたいんですが…」  「…あぁ!?ゴ、ゴメン!!」 慌てて彼は部屋の外に出て行ってしまった。 私はその後姿がちょっと可笑しかった。 着替えを終えてふと、私が完全に警戒を解いてしまっていたことに気が付く。 不思議な人だ…でも、彼は信用していいような気がする。 私は布団に潜りつつ仲間の二人のことを思い浮かべる。  あの二人のことも彼に相談してみようかな? とりあえずそれらはまた明日にするとして、私は程なくして眠りに付いた。 続く