私が彼に出合って数日が過ぎた。 彼に他の2人の事を相談すると探してみると言ってくれた。 ここ数日で彼に付いて幾つか聞いてみた。 彼の家族は昔の人間同士の国の戦争に巻き込まれて死んでしまったらしい。 今は町の商店で働きつつここで一人暮らしをしているそうだ。 そして彼にはある能力があるという。 彼は動物、モンスターの感情を幾らか読み取れるらしい。 その為か昔からモンスターにも抵抗が無いらしい。 よく怪我をした動物や、時にはモンスターを助けているのだという。 この彼の能力に私は思い当たる物があった。 前に集落にあった古書で見たある特殊な力を持つ人間。  モンスター使い 彼らは私たちのモンスターの心を操り、戦わせるとなっていたがおそらく彼の能力もそういったものなのだろう。 只彼はそれまでのモンスター使いとは違い、どうしようもない位いお人好しだという事。 彼のおかげで私の人間に対する見方も変わってきた。 私たちを滅ぼそうとしてくる人間ばかりではない事、彼のように自然に接してくる人間も少なからずいる事。 いつの間にか私はモンスターと人間の共存という、とてもじゃないが実現出来そうにも無い夢を抱いてた。 そんな事を考えてしまう位、彼の存在は私には心地よかった。 ある日のこと、  「怪我も治ったようだけどこれからどうする?」  「とりあえず暫くここに居てもいいですか?」  「構わないけど、いいのか?」  「何がですか?」  「いや、仲間と旅しているんだろう?もしかしたら先に行っちゃったかもしれないだろ」  「あぁ、それは無いです」  「?」  「行き先とかは私が決めていたので、あの子達も無理はしないでしょうし」 私たちは外の世界を見てみたいという、割りと単純な理由で旅をしていた。 なので、軽い感覚で行き先を決めるのを私がするようにしていたのだ。  「そうか…じゃあ早いところ見つけないとな」  「急がないと駄目ですか?」  「ん、あぁ、実はな、この間隣町に"勇者"達が来たらしい」 勇者。 それは人間たちを魔界の魔王から救い出す為に神が生み出したという人間の導き手。 但し、私たちモンスターにとっては死を呼ぶ悪魔といっても良い。 勇者が守るのは人間であって私たちは勇者にとって滅ぼすべき敵なのだから。 その勇者がそんなに近くにまで…  「心配、してくれるんですね」  「あぁ、短い間とはいえ、久々に"家族"が出来たみたいだったからな」  「家族、ですか…」  「ん、嫌だったか?」  「い、いえ、別にそういうわけじゃ…」 家族か…もう少し踏み込んだ関係でも… …って何を考えているんだ私。 これも彼のモンスター使いとしての能力なのだろうか? なんというか私は彼に対して恋愛感情に近い感情を抱いてきている。 モンスターが人間に恋をするなんて…  「…そうだ」  「?」  「これ、付けてみてくれないか?」 これって、首輪?  「あの…これって?」  「あぁ、元は親父の腕輪なんだが俺の腕でも緩くて、君が首輪にでもとか思ったんだが」  「…そういう趣味ですか…?」  「…!!いやっ、違っ!!」  「冗談です」  「…勘弁してくれ…」 渡された首輪(腕輪)を付けてみる。 くっ付いている鈴がチリンと鳴る。  「どうですか?」  「ん、いいんじゃない」  「…ありがとう」 ちょっと嬉しくなる。  「じゃあ俺は仕事があるからそろそろ行くよ、二人の事も探しておく」  「判りました、よろしくお願いします」 彼が仕事に行ってる間に私は家で洗濯等の家事をやっている。 彼は別に良いよと言っていたがここまでされて何もしないんじゃなんだか悪い気がしてくる。 で、強引に私が家事を手伝う事を承諾させた。 洗濯物を干して家の中に戻る。 怪我が治ったとはいえ病み上がりにちょっと応えた、眠くなってきた。  「少しお昼寝でもしようかな…」 私は与えられた部屋で少し休む事にした。 暫くして物音で目が覚める。 彼が帰ってきたのだろうか? 私は起きて彼を迎えに行った。  「帰ってきてたんです…か…」 しかしそこにいたのは彼じゃなかった。 3人組みの男達が家の中を物色していた。  「あ、貴方たち、誰?」 彼らがこちらを向く。  「なんだぁ、こんなところにももっちが居やがるのか?」  「おぉ、珍しいなぁ、最近じゃ見かけなくなったからなぁ」  「俺たちが結構狩っちまったからな!!」 その言葉に戦慄した。 そう、彼らはあの"勇者"なのだ。  「しかしなんでまた家の中にいるんだ?」  「ん、コイツ首輪なんかしてるぜ」  「マジだ、この家の奴が飼ってるのか」  「ハハハ、おかしな奴もいたもんだなぁ」 この勇者達は見たことも無い彼のことを侮辱しだした。  「貴方たちに彼の何がわかるというの!!」 許せなかった。 こんな奴らに彼のことを悪く言われる事に腹が立った。  「おぉ、言うねぇ」  「こぉんなに慕われてその彼とやらはさぞかし立派な奴なんだろうなぁ」  「まあでも、そんな事は俺らにゃ関係ねぇがな」  「とりあえず、お前の経験値いただくぜ」  ドスッ!! 体に衝撃が走る。  「え?」 私の胸に目の前の男がつかんでいる剣の先が付き刺さっていた。  「うっ、うあっ!!」 痛みが後からやってくる、血も逆流してきた。 後ろの男の一人が何かを唱えていた。 と、私の右腕が吹き飛ぶ。  「ぎっ、ぃぁあぁぁあああぁぁあああああぁぁぁあぁぁぁああっ!!」 逃げようとした。 全身の痛みで意識が飛びそうになる。 振り向いて駆け出そうとした時、私の体の中を風が通り抜けた。  ドシャッ!! 地面に倒れこんでしまう。 立ち上がろうとしても左手しか動かない。 もう、左上半身位しか残ってなかったからだ。  「かはっ!!ゲホッゲホッ!!」 口の中が逆流した血で一杯になった。  「ぅぁぁ…ぁぁ……」 もう声も出ない。 男達は経験値を取れたのか動けなくなった私を見るとさっさと出て行ってしまった。 涙があふれる。  私、死んじゃうんだ…  いやだ、死にたくないよ…  まだ彼に何も言って無い。  好きだとも一緒に居たいとも。 こんな死ぬ直前になって初めて素直に慣れた自分に後悔した。 もう痛みも感じられない。 意識が遠のいていく。  私、幸せだったのかな…  こんな所で死んじゃってこんな後悔しながら死んでいくなんて…  …そうか、別におかしな事じゃないんだ  私達ももっちは…こんな最期しか与えられないのが普通なんだ…  彼が、最後に夢を…見せてくれていただけ…  …でも…その分…幸せだったのかな…私… 思考も途切れていく。  彼…泣いちゃうかな…  私…の為に…泣いて…くれる……かな…  ………………………………………………………………………………………………  彼なら………………………………………………………………  きっと………………………………………………………………  ………………………………………………………………………………………………  ………………………………………………  ………………………  ………… ももっちの意識が、魂が消える。 もうそこに残っているのは只の肉片でしかなかった。 果たして彼女の生は幸せだったのだろうか? 彼女の死を青年は悲しんだ。 涙した。 唇をかみ締め、血が流れる。 彼にとっても彼女はかけがえの無い者になっていたのだ。 数日後、彼は旅に出る。 もうこのような思いをしない為、させない為。 何の力も無い自分でも"何か"をするため。 彼は旅を続けた。 後に彼は人とモンスターの共存の道を開いた。 それが彼が旅をするきっかけとなった彼女が望んでいた事だったとは知る由も無い。                END