需要とかそういうのじゃない! 書きたくなったから書くんだ! というか趣味バラしすぎだ! SS  ◆審判が下るその日まで◆  ◆登場人物紹介◆  フォルサキューズ……『審判/悲壮なる溺愛者』  少女……死人の花嫁  ◆序章◆  中位の場所と呼ばれるその世界に彼はいた。  その男は自らの胸の中にひとりの少女を抱き、ただただ一心不乱に"魂"を喰らっている。  まるで、断罪のように。  彼の心が乱されることはない。  たとえ、彼のその行為に何の正当性もないことに気づきながらも。  彼の心が乱されることはない。  たとえ、彼の手にかかる魂が悲痛な叫びをあげようとも。  彼の心が乱されることはない。  たとえ、彼の抱く少女が悲哀に満ちた表情を浮かべながらも。  それはまるで、絶対に公平たる審判者のように。  全てに公平であるために。  ──すべての魂を喰らう気なのだろう。    容赦なく続くその光景を、ひとりの少女がただ哀しげに見つめていた。  ◆本章◆  愛というものは往々にして盲目だ。  その少女は、つくづくそのことを実感している。 「ふん。集会──正に愚の骨頂だな。どうやらあいつは愚者の名を地で行ってるらしい」  その少女を抱いて木製の質素な椅子に着く、悪魔の男──通称『魔審官』フォルサキューズは、手に取っていた便箋に目を通しながらぼやく。  差出人にはフィリア・ペドとある。そして音もたてずにその紙は、彼の手の中で燃え落ちた。 「……宜しいのですか? そういえば、先月もそんな」 「構わんさ。──あんなモノよりも、お前の方が大切なのだから」  自らの所属する『同盟』をあんなモノ呼ばわりしたついで、きっぱりとそう言い切ると彼は、自らの膝の上に居る少女の髪を愛おしむように撫ぜる。  それに応じるように、ん、と声を上げて少女は目を閉じる。  ただしばらく、ふたりは、そんなことを続けていた。  それは、とある平和な日のこと。  ◆◆◆  フォルサキューズは魔王だ。  正真正銘、『魔審官』という二つ名さえ持つ強大な悪魔である。  ──しかし彼には、魔王としては特異な点がいくつかある。  ひとつめに、今彼がいるここはとある辺境の国の山奥であり、その山中の森に木で小屋を建てて、そこを住居としているのだ。  本来の魔王といえば大抵の人間は、例え小さかろうとも城を構え、城内に護衛なりなんなりと部下を配置しておく──そのような様相を想像するだろう。  もちろん、それは決して間違いではない。その基本を通す魔王だって当然存在する。  つまりフォルサキューズは──その前提を堂々とぶち壊すことをしている、といえる。 「旦那さま、紅茶をお持ちいたしましたよ?」  椅子を倒して寝入っていたフォルサキューズの顔を、覗き込むようにしながら声をかける少女。  はたと我に返り目を開ければ、きょとんとしたその表情が視界に入る。 「……ああ。置いておいてくれ」  ぼんやりとしたその言葉に少女は薄く微笑むと、背を向けてティーカップを机に置く。相変わらずこれも木製。  ──ふ、と、フォルサキューズの中に悪戯心が湧いた。少女の服の後ろの襟首を掴み、ずいと引っ張ってみる。  きゃ、という小さな悲鳴と共に、彼の概ね予想通り、彼女の小柄な体躯はあっさりと引っ張られて倒れこんだ。  これをフォルサキューズは楽々と抱きとめてみせる。 「……あの、旦那さま。これでは掃除とか片付けとかその他諸々が」 「そんなモノはいつでもいいさ。しばらく、こうさせてくれ」  彼はそういうと、優しげな調子で少女の髪にふれる。  大きな、悪魔の手。  あまたの人々を殺めた、血まみれの手。  無数もの死人の魂を裁いた、審判者の手。  少女自身を束縛した、禁断の手。  ──冥界の業火から彼女を護り通した、愛する夫の手。  少女はただ、されるがままにしていた。 「……もう離れてもいいぞ?」  フォルサキューズが軽く呟く。しかしそれへの返答はない。  不意に疑問に思った。いつもより、妙に静かではないかと。  少女の顔を覗きこむ。 「……はっはっは」  思わず、乾いた笑い声がこぼれる。  少女は、彼の腕の中ですうすうと寝入っていた。実に安らかな表情で。  たとえ彼が魔王であろうと、彼女を起こすことがしのばれる程に。  フォルサキューズは、なにか面白いもの、あるいはめずらしいものでも見るかのようにその寝顔を見つめている。  寝ているはずのその少女が、不意に口を開いた。 「……だんな、さまぁ……」  たった一言、そうこぼすと同時に身をよじれば、ふたたび小さな寝息をたてはじめる。  ただしばらく、彼は、安らかに眠る少女を見守るように見つめていた。  そんな、とある平和な日の昼下がり。  ──ふたつめの、彼が特異であり異端である理由。  彼が、死した人間である少女を、妻に娶っている点だ。    ◆◆◆  少女は死人だ。  一度は確実に、なんの疑いもなく、この世を去った身である。  なぜ死んだか。生前、どんなことをしていたか。少女自身の記憶の中には、その一切が存在していない。  ──彼女自身の、名前さえも。 「そう怖がらなくてもいいさ。楽にしろ、楽に」  フォルサキューズは、なるべく優しい声をかけようと試みる。少女の緊張を解すために。  同じベッドの上で。 「……はい、旦那さま」  か細い声でぽそりと呟く少女の声は、かすかに震えている。  そして、身体も。  彼女の様子を見た彼は、思わず苦笑を浮かべた。 「まあいいさ。少しずつ慣れればいい」 「ご、ごめん……なさい」  どこか呆れたような調子の声に、反射的に少女は謝罪の言葉を発する。  が、それはすぐに打ち消される。 「謝るなよ」  そう一言で断ずると、フォルサキューズは少女のあごに手をかけた。  彼女は反射的に目をつむる。その表情はわずかな、しかしはっきりとした不安の色に染まっていた。  彼はゆっくりと少女の顔をひきよせ、唇を奪う。といえど、決して奪うというほどの乱暴さはない、ふれ合う程度の優しいもの。  フォルサキューズは、ぴくりと身体を振るわせた少女の様子を確認すると、唇の合間を割って舌をいれる。  そして、少女の奥に引っこんでいた小さな舌にそれをからませ、まるで唾液を行き来させるように口腔を愛撫する。  少女はそれの予想外の激しさに目を白黒とさせ、やがてその表情を上気させた。頬を紅く染め、まるで涙を流した後のように目元が濡れている。  しばらくそうしていた後、彼はようやく彼女を解放した。 「は、あっ……」  思わず喘ぐような甘い声をもらす少女。  そろそろ頃合だろうか。そう判断してフォルサキューズは彼女の寝間着に手をかけようとする。  が、それより早く、少女の指がフォルサキューズの胸元をつかんだ。まるで懇願するかのように。  その身体は、見知らぬことへの恐怖に震えていた。 「ま、しょうがねえか」 「……ごめんなさい」  申し訳なさそうに消え入りそうな声で呟くと、気恥ずかしそうに、まるで表情を隠すためのようにシーツを巻き取って自らの身体に覆いかぶせ、ベッドに寝転がる。  そんな少女を、フォルサキューズは背後から抱きすくめる。シーツを剥ぎ取ると、いつものようにその髪を撫ぜて。 「だからさ。気にするなよ」   その言葉に、少女はこくりと頷いた。彼はその少女の耳元に、口を寄せる。そして告げた。 「愛してる」  かっ、と。少女の表情が、先ほどとは比べ物にならないほど真っ赤に染まった。それを隠すように彼の方に向き直り、その広い胸に顔をうずめる。  そしてそのまま、少女は彼に言葉を返す。 「……わたしも、です」  そしてしばらくの後、ふたりは身を寄せて同じベッドで眠った。  とある平和な夜更けのこと。       ──けれども彼女は、過去を振り返らない。  今、少女は、自らを愛してくれている男を、愛している。  それだけで彼女は幸せであり。  少女に過去は、無用なものだった。  ◆終章◆  とある小国の山中に、彼と少女は住んでいた。  その男はその少女を自らの花嫁とし、ただただ盲目的に彼女を愛している。  まるで、それが永遠に続くかのように。  彼の心が満たされることはない。  たとえ、少女が、自らは純粋などではないと、そう告げたとしても。  彼の心が満たされることはない。  たとえ、彼の手にかかる魂が自らの永遠の力となろうとも。  彼の心が満たされることはない。  たとえ、彼の抱く少女が満面の笑みを浮かべようとも。  それはまるで、絶対に失格たる審判者のように。  彼女ただひとりに不公平であるために。  ──永遠の時の中で、彼女と共に生きるのだろうか。    自らの髪を撫ぜる夫のことを、ひとりの少女がただ愛おしげに見つめていた。  ◆蛇章◆  わたしは、あなたのことを、あいしています。  たとえ、あなたがこわれてしまったとしても。  あなたという──つみびとへの。  しんぱんがくだる、そのひまで。  End...?