これは、三人の男たちが、己の生き様のために命を賭け―― 「なあ皇七郎君。常々から私は思っていたのだがね、我々は幸運なのだろうか? それともこの上ない不運なのだろうか?」  危険極まりない魔物の巣へと飛び込んでいく―― 「そりゃま、魔物生態学者としては幸運なんじゃないですかねえ? ボクとしちゃあ絶対不運ですけど。  いちいちこんな危険に飛び込まなくたっていいじゃないですか!」  魔物生態学者たちの―― 「リコへ。私は死にかけですが元気にしています。それもこれも私の親友たちのせいです。アーキィより。……さて、どうしようか」  ――真剣極まりないバカ話である。    RPG世界観SS 『 愉快な旅をしないかね 』  海での冒険は終わり、舞台は一転して大陸へと移る。広大な大地、その果てに広がる巨大な山脈。  魔物たちの聖域――人も魔物も近寄らない、意味としての世界の果て。  リアス山脈に、三人の男たちは、あっさりと踏み入った。 「ふむ。皇七郎君、その情報は確かなのかね? いや、君を疑っているわけではないんだ。  疑うまでもなく君の情報は大抵不確かだからね。はずれならまだしも、大抵予想するより酷い事態が待ってるんだ」 「その言葉丸々そっくり返しますよハロウドさん。あんたのせいで死に掛けたことは一度やニ度じゃすまないんですからね!」 「その言葉を私も繰り返させてもらおうかな。君たちのせいで死に掛けたことは」 「ああ、なんて嘆かわしいことだ! 我が友人には一度死んで生き返った人までいるというのに!」  三人は、誰もが魔物生態学者だった。  一人は落ち着いた壮年の男、知に長け、魔物生態研究所にて日々研究を続ける男――トゥルシィ=アーキィ。  一人は同じく壮年の、しかし子供のようにはしゃぐロングコート、全身に小道具を仕込んだ歩く災厄――ハロウド=グドバイ。  魔物生態学者にして神学者。毒舌と極悪な性格、突拍子もない奇抜で的確な学説で知られる――夢里皇七郎。  この三人が協力し魔物生態辞典を造り上げ、同時に変人極まりない集団として知られていた。  もっとも、魔物に積極的に関わる人間に、変人じゃない人間などいなかったが。 「ほら、見てくださいよこれ! 白銀の魔石です、これを扉にねじ込むことによって――って聞いてやがりませんねあんたがた?」 「だってなあアーキィ君」 「そうだねグドバイ」 「……なんですか?」 『ありがちだよ』 「! 殺す、ぜったい殺す、ありっちアーミーの巣に投げ込んで殺してやる!」 「はっはっは、私がありっちの習性を知らないとでも思ってるのかね君は。  郡体習性とある種の香りで行動を統制できるのだと君も知ってるはずだろう」 「そのある種の香りを切らしていたね、グドバイ。私のもとにたかりにきただろう」 「ほーらみろほお――らみろ! 大体ですね、ボクぁ思うんですけど。  ハロウドさんあんた肝心なもんをいっつも忘れてやしませんかね? ツメが甘いんですよツメが」  そんなこんなの珍道中。  魔物を倒したり―― 「ゴメン……君を倒す気なんて、ボクにはなかったんだ」 「皇七郎君」  ぐったりとうなだれる皇七郎に向かって、ハロウドが言葉を投げる。 「コリを追い払っただけで何を嘆いてるんだね君は。殺したわけでもあるまいし」 「ええい! しょっちゅう魔物たちを投げ飛ばしてるあんたにボクの悲しみがわかってたまるか!  ああ畜生! 神様ボクにバツを! そして救いを!」 「――ああ平和だ」  アーキィが万能急須から紅茶を取り出して飲み干した。  魔物に倒されたり―― 「グドバイ。あれは、」 「のんびりいってるばあいかね!? アーキィ君全力で逃げろ!」 「うっわすごいなラバークリムゾン食べてる。あそこまで大きなライノサラスは初めてだ」 「だから君らは冒険の危機を憶えたまえ! ああくそ、なんでこんなときにカイル君はいないのかね!?」  魔物と友達になったり―― 「は・じ・め・ま・し・て。ボクの言葉わかる?」  こくり、とマッドアイ・イフリートがうなずく。  前髪で隠されている瞳は、完全に閉ざされていた。 「迷子の魔人か。事象眼は制御が困難だからね」とアーキィ。 「なあに、私たちが親元まで連れて行って遣ればいい!」  とハロウドはいい、マッドアイ・イフリートの手を繋いだ。  閉じた瞳で、マッドアイは微笑む。 「さあいざ行こう、祭壇へ!」 「アーキィさん、道逆ですよ」  魔物と恋愛したり―― 「カール・カーラは剣の掟。命を振うは人への定め。  皇七郎様――わたくしは、貴方の剣になりましょう」 「…………」 「よかったね皇七郎。カールカーラ族の末裔との契約だなんて、剣士ならば誰もがうらやむことだよ」 「一ついいですかね?」 「なんだい?」 「ボクぁ剣なんざ一切使えないんですけど」 『――あ!』  人間以外とばっかり触れ合いながら、三人はリアス山脈の奥地――伝説の神殿とやらを目指す。  神殿があってもなくても構わなかった。  旅の途中で触れ合う魔物こそが、彼らにとっては、何よりもの宝なのだから。  そして――山脈の地下へと彼らは踏み入る。  暗い坑道の中へと。  坑道で待つのは――冒険と危険、そして出会い。 「シャイルーアの群れ!? いかん、皆伏せたまえ!」  危険がいっぱい。 『ようこそ、冒険者たちよ。我が名は、結晶龍。意志と石の担い手だ――どうだね、渋いかね。決まってるかね?』  素敵もいっぱい。 「機動を正常に確認。魔道力学併用機械式ゴーレム、戦闘に移ります。  簡単に言えば――デストロイ、です」  逃げたり戦ったり戦わなかったり逃げなかったり。  そんなこんなで、色々あったりなかったり。  あっちにいったりこっちにいったり。  そんなことを繰り返しているうちに、三人は辿り着く。  魔物生態学者ならば誰もが憧れる聖地、リアス高原の奥。  幻の祭壇へと。  そして、そこにいたのは―― 『どうしてウサギがここに?』  祭壇の上でニンジンをこっそり食べていたウサギは、ぽりぽりと頭を掻きながら答えた。  ――そんなこと言われてもナァ。     そして、本当の冒険が始まる。   時間を越えた、魔物生態学者たちの冒険が。                  ――滅びる小国の物語―― 「貴方様は、神の使いでしょうか?」             ――リストリカ=クローゼンシール。                  ――騎士集う王宮の物語―― 「無礼者。名を名乗りなさい」                ――故国の姫君。                  ――遠い未来の戦乱記―― 「アナタに死が見えるわ」                  ――リアナ・クロイツェフ。              そして。           学者たちは、彼に出会う。 「君の名前は?」  アーキィの問いに、金の髪を持った幼い少年は答えた。  後ろに座る、金の髪の妹を守るようにして立ち塞がったまま。 「僕の名前は、ガチ――誇り高き、ペド家の長男です」           学者たちは、『彼女』に出会う。 「なあ皇七郎君、アーキィ君。人生で三度も――三度も事象龍に出会った男は、私だけだと思うよ」          広大な大地を巡る、時を越えての大冒険。     勇者と、事象龍と、24時の魔法使いの運命が、学者の手で絡み合う。                記録者は三人。              そして、誰もが主人公。          人生という旅を駆け抜ける者たちの物語。                                 RPG世界観SS              『 愉快な旅をしないかね 』                 COMMING SOON!!