■私立言霊学園第5話■ -------------------------------------------------- ◆登場人物紹介◆ 海月メロス(うみつき めろす)【作者】 鴉谷へび(からすや へび)【迷探偵】 猫神狐狗狸(ねこがみ こくり)【KMR】 『これは前回学園にある千手観音の腕が消失した事件の後にあったお話です。』 『キッカケはいつだって些細な物だ。 例えば今日地球に隕石が落ちて人類が滅亡したとしよう。その場合どうして隕石が落ちてきて人類が滅んだのかというとそれは宇宙が 誕生したからである。 例えば食べたアイスが当たり棒だったとしよう。その場合どうして当たり棒のアイスを食べる事ができたのかというとそれは宇宙が誕 生したからである。 例えば宝くじで1等3億円を当選したとしよう。その場合どうして宝くじに当選したかというとそれは宇宙が誕生したからである。 つまりどんな出来事だろうと原始まで遡ればキッカケは同じという事だ。 もちろん宇宙ができる「以前」という物もあっただろうが現在ではそこまで解明されてないっぽいので遡るとしたら宇宙誕生くらいま ででいいだろう。 この世は1つの物語でこの世にある全ての物は物語の中の1個の文字に過ぎず、文字が集まり文章になる、それを人生と呼ぶ。 物語の中でどんな登場人物がどんな最後を迎えようとそれは物語の中の1つの文に句点を打ったに過ぎない。 物語の中で世界が滅びようともそれは物語の中の一節に句点を打ったに過ぎない。 この世には始まりはあっても終わりはないのだ。 永遠に終わりのない物語の中では偶像の作者に抗う事はできない、作者とは神なのだから。 これはそんな終わりのない物語の中で神に抗った者達の戦いの記録である。 メビウス〜終焉のない世界〜』 「なるほど、これが次回作という訳かい、メロス。」 「うわぁっ!吃驚した!!」 「ちゃんとノックはしたよ、返事はなかったけどね。」 「返事があるまで入るなってドアに書いてあるでしょーが、てゆーか鍵かかってなかったっけ・・・あぁ、そうね。」 狐狗狸は指先でつまんだ針金を私に見せ付けるようにプラプラと振っていた。そういう事らしい。 この友人は暗号解読やピッキング等のどこで学んだのか分からない様な怪しい技術をたくさん持っていた。 「基本的には独学かな。」 「心を読まないでよ。」 これは読心術、という訳ではなく半分以上勘で言っているに過ぎないのだけど狐狗狸は独自のテクニックで本当に心を読んでるのでは ないかと思わせるくらい相手の考えている事をよく当てる。 「それより何の用よ、人の部室に勝手に侵入するくらいなんだからそれなりの用事なんでしょうね?」 ああそれなんだがねと床に置いてあった鞄から密閉された小さなビニール袋を取り出した。 「これ何?」 「『ミロの千手観音事件』の現場に残されていた証拠品だよ。」 「ふぅん、証拠品ねぇ。」 そう言われてまじまじとビニール袋を見つめる。真っ黒い髪の毛だ、この長さからするとたぶん持ち主は女性かな。 「現場には他にも髪の毛は落ちていたけど僕の見立てが正しければこれは犯人の髪の毛だ。」 「DNA検査でもするんなら話は別だけど現場に落ちてた髪の毛拾って証拠品ってさすがに無理ないかなぁ。」 「普通に考えればそうだろうね。だけど僕の推理を聞けばメロスだってこれが犯人の手掛かりだという事に納得がいくはずだ。」 「へぇ?じゃあそこまで言うんなら狐狗狸、貴方の推理を聞かせてくれるかしら。」 「ふふふ、聞いて驚いてくれメロス。実はこの髪の毛、厳密には現場に『落ちていた』んじゃあないんだよ。」 「はぁ?さっき落ちてたって言ったじゃない。」 「細かい事は気にしないでくれ。で、この髪の毛はどこにあったかというと千手観音の下にあったんだ、この意味が分かるかい?」 「いや、千手観音の下ってそんな馬鹿な話ある訳ないでしょ。どうやればそんな所に髪の毛が入り込むのよ。ん?てゆーかそれが本当 だとしたら狐狗狸、貴方はどうやってその髪の毛手に入れたのよ?」 「うん、現在更なる被害を防ぐ為に千手観音はとある場所に移されていて僕にも手が出せなくてね。それで不本意ながら千手観音を調 べるのを諦め事件現場を調べてたら発見したんだよ。」 「千手観音運んだ人の髪の毛が落ちただけじゃないの?」 「いや、それはないな。メロスも気づいてるだろうけど長さから見てこの髪の毛はおそらく女性の物だろう。さすがにあんな重たい物 運ぶのにわざわざ女性に手伝わせたりしないだろう?」 「それもそうね。狐狗狸、そういえば貴方って普通に頭は良いのよね。それに意外とみんなが見落とす様な事とか見落とさないし。」 「褒めるのは後にしてくれ。つまりこういう事だ。」 「犯人は最初は仏像を丸ごと持ち去ろうとした。しかし流石に重すぎたのかそれを断念し腕だけを持っていった。髪の毛は最初持ち去 ろうとした際に仏像を持ち上げた時に落ちたのです。」 「え?」 「誰だ!僕の推理の邪魔をするのは!!」 「あっ、ごめんなさい。通りがかったら面白そうな話が聞こえたもんでつい立ち聞きしちゃって。」 「あなたは・・・名探偵部の鴉谷へび先輩ですね。なるほど日頃名探偵部で邪魔者扱いされているあなたは自分がこの事件を解明して 部のみんなを見返そうと独自に調査していた所偶然文芸部の前を通りたまたま僕とメロスの会話が耳に入った。そして僕の推理を聞い てるうちに実は鋭い推理力を持つあなたには真相が見えてきた。その結果いきなり僕らの前に現れて一番美味しい所を持っていったと いう訳ですか。」 「う・・・。」 「なるほど図星ですか。まぁ気持ちは分からないでもないですが人の推理を聞いて事件を解明したって何にもなりませんよ、むしろマ イナスでしかない。それに残念だけど答えも間違っています。」 「え・・・そんな、ちゃんと筋は通ってるはずよ。」 「筋が通っていればそれが正解だなんて推理小説の読みすぎですね、もっと実戦経験を積むことをお勧めしますよ。」 完全に上から物を言っている、なんか偉そうだなこいつ・・・私は面識ないけど相手は先輩だっていうのに。 「僕はこれが地なんだよ。」 おっと、心を読まれてしまった。迂闊に物思いに耽ることもできない。 「じゃ、じゃあ猫神さん、あなたの推理を最後まで聞かせてちょうだい。」 「ふふん、いいでしょう。では鴉谷先輩、今度は口出しせずに最後までお聞きください。」 さっきの事を根に持ってるらしく軽く嫌味を言い放つ狐狗狸。けっこう目立ちたがり屋だからしょうがないか。 「どうして千手観音の下に髪の毛が落ちていたのか、それは実に簡単な事だったんだよ・・・なぜならこの事件の犯人は千手観音を持 ち去ろうとしていたんじゃあないんだからね。」 「え?どういう事なの猫神さん。」 「最後までちゃんと聞いてくれと言ったでしょう、鴉谷先輩。メロスのあの落ち着き様を見習ってください。」 「え?あ、はい。」 「では続けるよ。千手観音を持ち去ろうとしたんじゃあなければ犯人は何が目的だったのか?これは消失した腕の断面を見て分かった よ。あの腕の断面はまるで研磨したかの様に綺麗な物だった、手触りとしては墓石が近いかな?うん。で、普通に考えて犯行推定時刻 から発見時までの間であんなになるまで石を研磨するのは不可能だ、場所は音の響くホールだしね。そこで僕が思いついたのは犯人は 千手観音の腕を斬ったんじゃないかという仮説だ。これは一見不可能に思えるかもしれないが達人のレベルになると刀で石を切る事も できるそうだ。だけどこれであの腕の断面の説明ができたとしてもまだ謎は残っている。それはこの髪の毛だ。どうやってこの髪の毛 が重たい石像の下に入り込んだのか。まぁこれはさっき鴉谷先輩が言った推理の一部が当てはまるね、持ち上げてその時に滑り込んだ としか説明できないだろう。」 「さっき私の推理は間違ってるって言ってたのに・・・。」 「気にしちゃ駄目ですよ先輩。狐狗狸は自分で言った事に責任とか感じない性質ですから。」 「では何故犯人は石像を持ち上げたのか、これはたぶん向きが悪かったからだと思うんだ。」 「向きって千手観音の向きですか?」 「そうです、犯人はどういう訳か千手観音の向きが気に食わなかった。だから向きを変え、そして腕を斬るとまた元の向きに戻した。 どうして向きが気に入らなかったのか?何故現在の向きで都合が悪かったのか?それは得物の長さに関係していると僕は睨んだ。」 どうしてしまったの狐狗狸、少し強引な所もあるけど貴方らしくもないちゃんとした推理じゃない。まさか本当に犯人が分かっている のかしら・・・? 「さっきは例えに刀を使ったけど石を切断できる様な刃を持った得物は他にもあるんだ。そう、例えば薙刀とかね。」 ニヤリと不適に笑う狐狗狸。貴方本当にどうしてしまったの?いつものキバヤシ節は? 「教師棟1階のホールは確かに広いけど中央に置かれた千手観音を初めゴチャゴチャと物が置かれていて人が通る分には問題ないけど 長物を振り回すには狭すぎて上から振り下ろす事しかできないだろうね。」 「なんか私犯人像が浮かんできました。」 「先輩もですか、私もなんとなく。」 「ここまでくれば2人とももう分かっただろう。今回の『ミロの千手観音事件』の犯人が。」 狐狗狸の言葉を聞いて私も先輩も自分の予想が正しいと確信した。 「今回の事件の犯人はそう──!!」 狐狗狸が語気を強めて犯人の名前を言おうとしている!私と先輩もそれに合わせて犯人の名前を叫んだ! 「宇宙人だったんだよ!」 「蓮乃丞先輩だ!」 「水砦さんです!」 ・・・なんとなく予想できてたオチだけどやっぱり狐狗狸は狐狗狸だったのね、何だか安心したわ。 結局鴉谷先輩は今回の事件からは身を引くそうだ。最終的に犯人を間違ったとしても9割9部9厘狐狗狸の推理は正しかったからもう やる事が残ってないらしく犯人も突き止めないと言っていた。 それとこの先輩話してみるとけっこう鋭い感性を持ってるのが分かったんだけどそれが何で名探偵部で邪魔者扱いされてるのかと不思 議に思ってたらその理由はすぐ分かった。なんていうか言動がミスタープロ野球こと長嶋茂雄っぽいのよ。 これじゃあ折角の推理力も活かされないだろう、可哀想だなぁ。 本人曰く周囲と自分を繋いでくれる助手が欲しいそうでまぁこの学園ならたぶんその役割を担える人材はいると思う。助手になってく れるかどうかは別として。 そういう訳で今回の事件の犯人は(たぶん)蓮乃丞先輩と判明したけど特別な証拠はないし千手観音がどうなったところで私が困る訳 じゃないからこの推理を話の種にしたりもしない。狐狗狸はほっといても平気だろうしね、たぶん。 しかし何で蓮乃丞先輩は千手観音の腕を斬ったりしたんだろ?狐狗狸はそもそも犯人は宇宙人だと思ってるから聞いても無駄だし。 それだけはちょっと気になるけど私はまだ新作の執筆を始めたばかりだしそんな事考える暇はないのよ。 それと気になる事がもう1つ―― 「ところで狐狗狸、貴方は結局何をしに来たの?」 「なぁに、キミに僕の推理を聞いて欲しいと思ってね、それだけだよ。それよりさっき書いてた小説だけどちょっと在り来たりすぎな いかな?メロスの名前が泣いているよ。」 「ほっといてちょうだい!!」 私立言霊学園第5話「終」