◆登場人物◆ コンスタンタン・デュシェーヌ【監督】 九絵蓮根(ここのえ はすね)【5番ピッチャー】 滝田孫六(たきた まごろく)【4番キャッチャー】 海月メロス(うみつき めろす)【6番ファースト】 霧々麻衣(きりきり まい)【3番セカンド】 一本槍魁子(いっぽんやり かいこ)【2番サード】 時櫛桂(ときぐし かつら)【8番ショート】 潮風たなご(しおかぜ たなご)【9番レフト】 茶倉緑(ちゃくら みどり)【7番センター】 九逆六(くさか りく)【1番ライト】 水砦蓮乃丞(みずとりで はすのじょう)【補欠】 忍術学園の皆さん【対戦相手】 「という訳でみなさんには今から試合をしていただきます」  コンスタンタン・デュシェーヌは開口一番そんな事を言い放った。  開口一番なので当然何が『という訳で』なのか誰も知らない。  今は使われていない空き教室に集められた生徒の数は10人、突然校内放送で呼び出されここに集められたのだがまさか いきなり試合をしてもらうなんて言われるとは誰も予想していなかった。  いや、それとも試合というのは聞き間違いで本当は殺し合いと言ったのかもしれない。  この学園ならありえない事ではないがそれにしては10人という数はいささか少なすぎる気がしないでもない、案外この くらいの人数の方が丁度いいのかもしれないが・・・。  教室の天井付近が?マークで溢れ返っている中1人の生徒が優雅に手を挙げた。 「先生、いきなり集められて試合をしていただきますじゃあ説明不足ですわ」  水砦蓮乃丞がこの場にいる全員を代表するかのような質問を投げかけた。 「言ったままの通り、試合をしていただくんですよ、ほっほっほっ」 「なるほど、分かりましたわ」  分かったらしい。 「それでは今から1時間後に第3グラウンドに集合してください。ユニフォームはここに置いておきますから各自着替え てきてください。ほっほっほっ」  そう言い残すとデュシェーヌは教室から去っていった。    そして1時間後の第3グラウンド。 「なぁ麻衣、この格好って野球のユニフォームだよね」 「誰がどう見ても野球のユニフォームだと思うわよ」  そう、試合とは野球、もとい兵衛守墓雨流の試合だったのだ! 「兵衛守墓雨流て・・・また胡散臭い競技が出たわね」 「あらあら皆さんは兵衛守墓雨流をご存知ないんですか?」 「レン先輩!?」  いつの間にか魁子達の後ろに居た蓮乃丞が口を挟む。 「兵衛守墓雨流というのは言霊学園に古くから伝わる伝統的な対決方法ですのよ。起源は中国の秦時代にまで遡るとか遡ら ないとか」 「レン先輩は物知りですね、凄いです」  低い位置から声が聞こえたので蓮乃丞が下を見るとメダカの様に小さな女の子が見上げていた。 「あら可愛い子」 「初めましてです、自分は潮風タナゴっていいます。四天王のレン先輩とお近づきになれて光栄です!」 「あらあらそれは光栄ですわ、うふふ」   元気良く喋るタナゴをまるで眩しい物を見るかの様に目を細めて微笑む蓮乃丞。  実際カチューシャで晒されたタナゴのおでこに日光が反射して眩しかった。  同じく目を細めながらその様子を見ていた魁子はふと気配を感じて横を見ると糸目の少女と9連ピアスの少女がやって来 ていた。 「さすがレン先輩は有名人ね、ウチらとはえらい違いだわ」 「押忍」 「ん?あぁ緑とレンコンも来たか、遅かったな」 「レンコンがあそこの馬鹿に絡まれてね、それで遅くなったの」  すっと指差す緑。  その指差す方にはドレッドヘアーに派手なサングラスをかけたいかにも馬鹿っぽい九逆六という名の男がいた。ちなみに 魁子の舎弟である。 「ちょっ、てめぇ何姐さんにチクッってんだYO!」  六は少し離れた位置からもうダッシュで駆け寄って来て緑の口を塞ごうとしたが時すでに遅し、言葉は魁子の耳に届いて いた。  次の瞬間、愚かにも魁子の射程内に入っていた六は顎にハンマーの様に重い突きを喰らっていた、哀れである。 「グハァ痛ぇYO!い、いや、痛いっすYO!姐さん!」 「六お前いいかげん覚えろよ。あたしの友達には絡むんじゃねぇって言ったでしょうが」 「す、すんません。自分ちょっと調子コイてました、いやもうホント目が覚めたっていうか平和最高、みたいな?」 「だいたいお前じゃレンコンに勝てるわけないだろ?まともにやったら骨の1本や2本じゃ済まないぞ」 「まぁまぁ魁子、その辺にしときなって。今の一発でかかったし六だってさすがに今度こそ学習したと思うよ」  殴られた上に説教までされている六をさすがに哀れに思った麻衣が助け舟を漕ぎ出した。 「さ、さすが麻衣さん、分かってらっしゃるその通りですYO!」 「ったく調子のいい奴め。麻衣に感謝しなさいよ。あと次やったら・・・分かるよな」 「は、はいぃ!そ、それじゃ俺はこの辺で失礼しますYO」  スタコラサッサと逃亡を計る六、しかし前をよく見ていなかったせいで何かにぶつかり尻餅をついてしまった。 「アウチッ!てめえどこ見てんだYO!」  余所見をしてたのは自分の方だがそんな事は気にしないのが六という男である、要するに馬鹿だ。 「ククク、これはこれは失礼したでゴザル」  しかし被害者であるはずの相手は六の失礼極まりない行動に反論もせず素直に謝った。  いや、それよりも気になる事は――― 「ゴザルって言った!?今ゴザルって言ったよこの人!?」  いきなり麻衣が喰いついた、さすがはシグルイ脳を持つ女子高生、素晴らしい反応である。 「ククク、面白いおなごでゴザルな」 「また言った!?ウチ"ゴザル"なんて生で聞いたの初めてよ」 「押忍!てゆーかこいつ何者なのよ!?」  突然現れた謎の人物にざわめく一同、謎の人物は何も語らずただ不敵な笑みを浮かべているだけだ。  そこに全ての事情を知る人物が集合時間に10分遅れてやって来た。 「すいません少し遅れてしまいました・・・おや?もう来ていましたか」 「「「デュシェーヌ先生!」」」  見事なハモリを披露する言霊学園チーム。 「紹介しましょう、彼らが今回の対戦相手『忍術学園』の皆さんです」  デュシェーヌが"彼"ではなく"彼ら"と言ったのは謎の人物の数がいつの間にか10倍に増えていたからである。  ズラリと並んだ異形の影、その数10。  その全てが同じ顔で同じ様に笑っているというのはかなり不気味な絵だった、言霊学園でもこんな奴らはいないだろう、 たぶん。 「よろしくお願いするでゴザル」(×10)  異様な迫力にたじろぐ言霊学園チームだったがただ1人動じていない人物がいた。 「あらあらご丁寧にどうも。こちらこそよろしくお願いしますわ、うふふ」  最強撫子こと水砦蓮乃丞である。  どんな状況だろうと決して動じない精神力の強さとどんな相手だろうと薙ぎ倒す実力を持つ彼女の存在は他の者達にとっ てとても心強いものだった。 「ク・・・ククク、それでは拙者達はベンチに入らせていただくでゴザル」(×10)  やはり10人同時に同じセリフを喋る忍術学園チームだがさきほどまでの迫力はなくなっていた。  彼らは10人同時に喋るというパフォーマンスは試合前に相手の同様を誘う常套手段だったのだが普通に返されてしまい その効果を失ってしまったのである。 「凄いですレン先輩!あの不気味な人達を圧倒するなんて素敵ですカッコイイです!」 「凄ぇぜ!さすが四天王って呼ばれるだけの事はあるYO!」  入学して半年もたっていない1年生2人は蓮乃丞の凄さを垣間見た事で興奮している。  今は落ち着いて見える魁子や麻衣達2年生も去年初めて四天王と呼ばれる人種を見た時は纏うオーラの凄さに思わず興奮 したものだ。  蓮乃丞さえいれば自分達に怖い物などないと思えるくらい蓮乃丞の持つオーラは凄いのだ。  どんなルールなのか誰も知らない競技だが言霊学園チームの誰もがこの試合は勝ったと心の中で思っていたのだが・・・ 「それじゃあみなさん頑張ってくださいね」  そう言って蓮乃丞は何故かさっさとベンチに座ってしまった。 「・・・すいませんデュシェーヌ先生、レン先輩のポジションってどこだか分かります」  嫌な予感がしていた一同を代表してなんとなくメロスが監督であるデュシェーヌに質問する。 「水砦くんですか?えーと、あぁ、補欠になってますね、ほっほっほっ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」  長い沈黙が辺りを包む、まるで何か力を溜めているかの様に。  そして何かが弾けた。 「補欠かよっ!!!」×9   次回やっと試合開始