◆登場人物◆ コンスタンタン・デュシェーヌ【監督】 九絵蓮根(ここのえ はすね)【5番ピッチャー】 滝田孫六(たきた まごろく)【4番キャッチャー】 海月メロス(うみつき めろす)【6番ファースト】 霧々麻衣(きりきり まい)【3番セカンド】 一本槍魁子(いっぽんやり かいこ)【2番サード】 時櫛桂(ときぐし かつら)【8番ショート】 潮風たなご(しおかぜ たなご)【9番レフト】 茶倉緑(ちゃくら みどり)【7番センター】 九逆六(くさか りく)【1番ライト】 水砦蓮乃丞(みずとりで はすのじょう)【補欠】 忍術学園の皆さん【対戦相手】  爽やかな風の吹く穏やかな昼下がりはスポーツをするのに最高の環境だろう、とデュシェーヌは思っていた。  こんな日こそ若者は外に出て爽やかな汗を流すべきだとも思っていた。  実際自分も若かった頃は毎日朝から晩までヘトヘトになるまで動き回っていた、だが最近の若者は外で遊ぶ事を忘れ、ビ デオゲームを筆頭とした不健康な遊びばかりに興味を奪われ自らの殻に閉じ篭り汗を流すという事の素晴らしさを忘れてし まった。それどころか最初から知らない者さえいるしまつだ。  嘆かわしい。実に嘆かわしい。  傭兵であった過去を封印し教師になったのが今から20年前、当時すでに40歳過ぎだったが教育者としての熱意は若い 新任教師に勝るとも劣らなかった。  しかし現実は理想とはかけ離れていた。  最初に赴任したのは中学校だった。  40過ぎの新任教師を受け入れてくれたのはありがたかったがその学校には熱意がなかった。  覇気の無い生徒に覇気の無い教師、飼育小屋の鶏が一番元気だったと今でもよく覚えている。  次に赴任したのは高等学校だった。  当時すでに爆発的に流行していたビデオゲームに加え若者が悪い事に憧れる風潮がありいわゆる不良と呼ばれる生徒が大 量発生していた。  そこには覇気はあったがモラルがなかった。  その後もいくつか学校を転々としいろいろな教育現場を体験してきた。  そして数年前に言霊学園へとやって来た。  ここは素晴らしかった。  多少変わった校風で変わった生徒や教師(自分もその1人だが)が在籍しているがここには覇気もモラルも情熱も、自分 が望んでいた物が全てあった。  もうレンタルビデオ屋で「3年B組金八先生」や「スクールウォーズ」を借りて観なくてもいいのだ。  そして今どういった競技かは知らないが(おそらく野球の様なものだろう)目の前で自分が監督するチームが試合をする のだ。  これぞ青春、これぞ若さだ。  表面では冷静さを保っているが心の中では感動の涙をナイアガラの滝の様に流していた。  などと感慨に耽っているうちに主審を務める対戦校の教師が試合開始を宣言していた。  試合の結果が気にならないと言えば嘘になるがたとえ負けても若さと若さをぶつけ合ったという経験はきっと生徒達の心 の中でかけがえのない思い出として一生残る事だろう。  と、目のゴミを取るふりをして涙を拭う。  最近自分も涙脆くなった、と思っていたその時。  1番バッターの九逆六の身体に無数の手裏剣が突き刺さった。  ピシッ  デュシェーヌの顔から何かヒビが入った音が確かに聞こえた。 「ウギャーーーーーーッ!!ッガクリ」 「え、んな、六ぅ!?」  あまりに突然だったので離れたベンチにいる者は何が起こったのか把握するまで数秒を要したが2番バッターとしてネク ストバッターサークルにいた魁子は何が起こったのかはっきりと目撃していた。 「ククク、これはこれは失礼したでゴザル。うっかりボールと手裏剣を間違えて投げてしまったでゴザルよ」 「ククク、乱丸はおっちょこちょいでゴザルな。なぁしん太郎」 「ククク、全くでゴザルなぁきり兵衛」  ファーストにいる前髪の長い男とキャッチャーの太った男がニヤニヤしながら口を開く。同じ顔だったのは変装で試合直 前に素顔に戻っていたのだ。 「あ、あううう・・・」 「六!しっかりしろ傷は浅いぞ!おい!」 「いや魁子、傷浅くてもそんなガクガク揺らしたらヤバいって」  六に刺さった手裏剣は右手に2つ、わき腹に1つ、右足に1つの合計4つ。小型の物だった為幸い傷は浅いがダメージは 深かった。 「野郎・・・」  ベンチから木刀を持った目つきの悪い男、孫六が出てくるとそのまま忍術学園のピッチャーの下へと歩いていく。  孫六はピッチャーの2メートル程手前で立ち止まると木刀を突きつけた。 「手前うちの若いもんに何してくれてんだ。手前も同じ目に、いや、もっと酷い目に遭わせてやろうか」 「孫六くん!」 「滝田!?」 「孫六止めなさい!」  女子生徒達は孫六の暴挙を止めようとしたがピッチャーは目前に木刀を突きつけられながらも不気味に笑っていた。 「ククク、だから失礼したと申したであろう?そもそも拙者はルールに反していないで筈。その様な事を言われる謂れはな いでゴザルよ」 「何ぃ?そんな訳ねぇだろうがオイ!」  ピッチャーの人をおちょくった様な態度にさらに腹を立てる孫六だが実は相手の言い分は正しかった。  兵衛守墓雨流では試合中相手に隙があれば重症にならない程度に攻撃を加えても構わないのだ。当然走塁妨害や守備妨害 も存在しない。 「そんなルールの競技があってたまるか。おい審判、こいつをさっさと退場にしてくれ」 「それはできないでゴザル。先刻の乱丸の行為はルール上何の問題もない正当なプレーでゴザル」 「何だと、手前自分の生徒だからって贔屓してんじゃねぇぞ、おい」  尚も執拗に食い下がる孫六は今にも審判に掴みかかりそうな勢いだ。 「滝田くん、もうその辺にしておきなさい」 「じいさん・・・!」 「デュシェーヌ先生!」 「今ルールを確かめたところ確かに今の行為はルール違反にはなっていません。むしろ審判に噛み付いている滝田くんの方 がルール違反です。退場させられない内にベンチに戻ってください、これ以上メンバーを欠員させる訳にはいきません」 「チッ・・・クソッタレが」  孫六はぶつぶつ文句を言いながらベンチに引き下がって行く。 「いやいや、うちの生徒がとんだ御無礼をいたしました。申し訳ない」 「なぁに、若い内はあれくらい元気がある方がいいでゴザルよ。心配しなくとも退場になんかしませんから安心召されい」  この場はこれで収まりはしたが選手はおろか監督までルールを知らない言霊学園チームの先行きは不安だった。  結局、六はデッドボール扱いとなったが試合復帰は絶望的と判断され、1塁には六に代わって交代要員の蓮乃丞が置かれ てゲーム再開という事になった。  そして2番バッターの魁子がバッターボックスに入る。 「卑怯な真似してくれちゃってなぁ。要するに普通にやって勝つ自信がないんだろ」  魁子はキャッチャーの男にトゲを含んだ言葉をぶつけた。 「ククク、さて、それはどうかなでゴザル?」  ズバンッ 「素虎逝(ストライク)!」 「・・・早い、なんて球だこの野郎」  予想外の豪速球に魁子はバットを振る事も出来ず、第1球を見逃してしまった。 「拙者達は日々厳しい忍術の修行により一般人を遥かに上回る身体能力を身に着けているでゴザル。忍者こそあらゆる面で 最強の技術なのでゴザルよ、ククク」  ズバンッ、ズバンッ 「素虎逝!バッター阿疎(アウト)!」 「くっ・・・!」  魁子、3球3振でバッターボックスを後にする。  続いて麻衣と孫六もバッターボックスに立つも魁子同様3球3振と無様な結果に終わってしまった。 「ククク、3者凡退とは恥ずかしいでゴザルな。まさか球にかする事も出来ないとは・・・クスッでゴザル」 「何だと手前!」 「おっと、試合と関係のないところでの暴力行為は即退場でゴザルよ。」 「く・・・次の回覚えてやがれ」  1回表、言霊学園チームの攻撃は何も出来ずに、むしろ被害が出た分マイナスな結果に終わってしまった。  次はいよいよ忍術学園チームの攻撃する回だ。一体どんな恐ろしい忍術を使ってくるのだろうか。  そして言霊学園はその攻撃を防ぎ、六の仇をとる事ができるのか。 「握力×体重×スピード=破壊力!魔球牛殺しでお前らを血祭りにあげてやるわ、押忍!!」  1回裏、怒りに燃えるレンコンこと蓮根がピッチャーマウンドに就き言霊学園の攻撃的な守備が始まった。 2回表に続く