最悪の始祖―序章 陽炎のレオン/ルビィ ―ハロウドとアイシオンが島に向かう、三日ほど前。 とある港町。 蒼い鎧を身に纏い、アルビノの少女を連れた騎士が行く。 そこは終末の大通り。大勢の人間で賑わう場所。 道行く人は興味の視線を投げかけ、欲深い者は傍らの少女に視線を注ぐ。 だが、手は出さない。いや、出せない。 なぜならば、蒼い鎧の剣士が強烈な殺気を放っているからだ。 全身から放たれる「手を出せば殺す」という言葉。 無言だからこそ、それが強烈に伝わっていた。 自然、人ごみは割れる。 お陰で歩くのには不自由しなかったが、強烈に目立つ。 不意に、剣士が歩みを止めた。その視線は手を繋いで歩く少女に注がれている。 そして、その少女はある一点をぼんやりと見つめていた。 視線の先にあるのは、装身具の露店。 「どれが欲しい?」 「ぇ、えと、でも……」 「遠慮はするな」 苦笑して、剣士は少女と店の前まで歩く。 先程まで漂っていた殺気は嘘のように霧散して、周囲の人々はその変化に戸惑う。 「えと、これ……」 アルビノの少女が指で示したのは、四葉の彫刻が施されたメダルがついたペンダント。 「それだな?オヤジ、これを貰うぞ」 「あ、はい。ありがとうございます」 そうして買い物が済めば、また剣士は殺気をまとう。 激しい変化に、影で少女を狙っていた者が剣を収めた。 「行くぞ」 少女の手を引いて、剣士は歩き出す。 人の流れを掻き分けて、なるべく人気が少ない方へ。 ただただ、歩く。 ※ 「ありがとう」 人の少ない港まで来て、二人は近くにあったベンチに座っていた。 少女の胸元には、四葉が彫刻されたメダルが。 「視線を釘付けにされてはかなわないからな」 冷たく斬り捨てて、剣士は明後日の方向を向いた。 でも、少女は悲しむでもなく笑う。 何故なら、剣士の頬は僅かに紅潮していたから。 そして、その言葉が照れ隠しである事を知っているから。 彼女―アルビノのももっち、ルビィはずっとこの剣士―陽炎のレオンと共に旅をしていた。 魔物に襲われ、虫の息だった彼を見つけて、自分でもわからないままに助けていた。 彼の話は聞いたことがあった。灼熱の剣と、凍てつく鎧を身に着け、陽炎を纏った剣士。 冷酷にして非情、敵対するものは人であろうと魔物であろうと斬り捨てる存在。 なのに、彼女は彼を助けた。 どうしてなのかは今でもわからないだろう。 でも、少なくとも彼女はは殺されていないし、それどころか大切にされているように思える。 今履いているブーツだって、彼が買ってくれたものだ。 だから、彼女は思う。 この人は、本当は優しい人なのだと。 「ルビィ」  唐突に、彼が自分の名前を呼んだ。 ルビィ―アルビノにちなんで付けられた名前。 自分を呼ぶのに名無しでは不便だから、と彼がくれた名前。 「どうしたの、レオン」 「始祖の島の話を、知っているか?」 始祖の島―最近見つかった、未開の地だという話だ。 「始祖の島……?うん、知ってるけど?」 でも、いきなりこんな事を聞くなんて、どうしたのだろう。 そう思っていると、彼は疑問の答を紡いだ。 「そこに行こうと思う。もしかしたら、そこに落ち着ける場所があるかもしれない」 その赤い瞳は、遠くの空を見ている。 何かを決意した瞳は、確かに自分の求める未来を見据えている。 「危険かもしれない。それでも、いいか?」 彼はきっと、その島に行くつもりなのだ。 自分と暮らすために。旅の目的を果たす為に。 自分自身では、それが良いことなのかよくわからない。 ただ、彼と一緒にいたいという気持ちがある。 だから、頷いた。 「うん」 力強く、縦に。 「ありがとう……。行こう」 彼は立ち上がり、始祖の島へ出る船を探す。 もちろん、少女も一緒だ。 二人が向かう島に、望んだ場所は存在するのだろうか。 その答は、誰も知らない。 序章 陽炎のレオン/ルビィ―了