最悪の始祖―序章 びゃくらいのぐらにえす/エオス・フルグラント ―レオンとルビィが島に向かう四日前。 ―つまり、ハロウドとアイシオンが島に向かう一週間前。  さる王国の一軒家にて。 「エオス。お前は始祖の島を知っているか?」 唐突に、ソファに寝転がる少女が問い掛けてきた。 「……始祖種が生きてるとかで噂になってる島か?」 コーヒーを運びながら、問い掛けられた男―エオス・フルグラントが答える。 「正直、怪しいもんだ」 「実はな、その島から何かを感じるのだ」 白い長髪の少女―びゃくらいのぐらにえすはソファから立ち上がって言う。 「島に居る何かに、呼ばれているような気分になる」と。 「引き寄せられる……ってことか?」 そう言って、彼はコーヒーを一口含み、嚥下する。 何かを考えながら。 「……正直、よくわからない。呼ばれているのかもしれないし、行きたがっているのかもしれない」 「島と同じくらいあやふやだな」 でも、気になるんだろう?と彼は言う。気になるなら、行くしかないと。 「エオス……」 「俺とお前は運命共同体、二人で一人―いや、一匹か?」 どちらにせよ、俺はお前と居る事を望む。だから遠慮はするな、と彼は言う。 「一緒に、来てくれるか?」 聞かなくても、帰ってくる答えはわかっているのに、それでも聞かずにはいられなかった。 彼の真剣で真摯で、この上ない気持ちの篭った言葉が聞きたかったから。 「もちろんだ」 コーヒーを全て飲み干して、彼は立ち上がる。 これから旅の支度を始めるのだろう。 「実はな、ティアマトからも言われていたんだよ。始祖の島について調べて来い、ってな」 そう言ってこちらを向いて、彼はばつが悪そうに苦笑した。 ※ 王国から少し離れた草原に彼らはいた。 「準備はできたのか?」 「もちろん、というか、私は何も持っていかなくていいんだけど」 エオスの装備は最低限度、食料と衣服と武器くらいだ。 ぐらにえすも同様。 「じゃ、行くか」 そう言って、彼はティアマトから預かった角笛を吹く。 高く、大きな音が響く。 その音が木霊し、反応して現れるのは翼竜。龍騎士の友人とも呼べる龍―ドラグニルだ。 ドラグニルはエオスの姿を見つけると急降下、草原に降り立った。 旧友との再会を喜ぶように、ドラグニルが吠えた。 「始祖の島まで頼むぜ、旧友」 ぐらにえすと共にその背に跨り、彼はドラグニルの頭部をぽんぽんと叩いた。 それは親しみを込めての行動であり、龍もまたそれを知っていた。 故に、龍騎士と龍を乗せた龍は一際高く吠え、その翼で力強く羽ばたく。 目的地は始祖の島。 誰も帰還しえぬ未踏の地。 事象龍とその騎士は、一体なにを目撃するのか。 びゃくらいのぐらにえす/エオス・フルグラント―了