■ 私立言霊学園第1話■ -------------------------------------------------- ◆登場人物紹介◆ 一本槍魁子(いっぽんやり かいこ)【武道家】 霧々麻衣(きりきり まい)【剣士】 戦木零(おののき れい)【自信家】 『言霊学園――それは日本のどこかにある私立高校。生徒総数1000人ジャスト。 全寮制で巨大な寮も含めると総面積は東京ドーム10個分程にもなるマンモス校でその存在を知る者には「共学制の男塾」だとか「漫画と 現実の国境」などと言われている。これはその言霊学園を舞台にしたお話です。』 言霊学園截拳道同好会部室兼道場にて。 「Don't think.FEEL!考えちゃ駄目!感じるのよっ!」 そう叫びながら少女はサンドバックに拳や蹴りを打ち込んでいる、型から見るにジークンドーだろう、なんとなくブルース・リーっぽいし。 「「Don't think.FEEL!」」 少女に続いて同じ様に叫ぶ少女が2人、こちらも同じくサンドバックを打っている。 最初の少女と合わせて3人―――これが言霊学園截拳道(ジークンドー)同好会の総数である。 ここ言霊学園は学園側に申請さえすれば自由に部を作る事ができるのだがそれには最低5人が必要で5人に満たない場合、「部」の名称は 貰えず部費も出ない「同好会」や「倶楽部」など違った名称を付けなければならない。 とはいってもそれなりに学園の設備を使わせて貰えるし空きさえあれば部室だって貰える、さらには大会の出場まで許されているという結 構な厚遇で、截拳道同好会もその中の1つだった。 「よし、そこまで!」 最初の少女がそう叫ぶと他の2人も手を止めた、どうやら最初の少女が一番偉いらしい。 「はい、今日はここまでよ。2人ともお疲れ、明日もあるしゆっくり身体を休めなさい。」 「はーい、お疲れ様です会長」「会長もほどほどにしてくださいねー」 そう言って2人の少女は汗を拭って帰り支度を始める、同性しかいないのでわざわざ更衣室まで行く必要もないからだ。 「そうね、もうすぐ8時だし。まぁ適当に切り上げるし気にしないでさっさと帰っちゃっていいわよ。」 と、ヌンチャクを振り回しながらそう告げた。言霊学園は夜8時になると全ての部室の鍵が閉められる為閉じ込められると翌朝まで出る事 ができない。 「ォアチャァァァァァ!!!!!!!!!」 いきなり怪鳥音を上げる少女を見ながら苦笑しながら部室を後にする2人の少女。これで部室には少女1人だけになった。 フォォォォォ、と呼吸を整えようやく動きを止めた。 少女の名前は一本槍魁子、健康的に日焼けした肌とショートヘアが特徴的な言霊学園2年生である。 同時刻、言霊学園女子剣術部道場。 そこでは10人程の少女が木刀を素振りしていた。 「997、998、999、1000!素振り終了!よっしゃ帰るぞ!」 滝の様な汗を流しながらも少女たちは誰1人呼吸を乱していない。 「はいはいみんなお疲れさん、明日もまた頑張りましょーね。」 適当な労いの言葉をかけているのは赤い縁のメガネをかけたポニーテイルの少女である、驚くくらいメガネが似合っていない。 「麻衣さんはこれから帰って飯食ってさっさと寝るから、チャオ。」 そう言ってさっさと着替えて道場を後にした少女はこれでも女子剣術部の部長を務めている、どうしてだろう。 スキップしながら寮へと帰る少女の名前は霧々麻衣。宮元武蔵と岩本虎眼を尊敬する言霊学園2年生である。 さらに同時刻、言霊学園女子寮の一室。 そこには水色のパジャマに身を包んだ少女が1人ベッドに腰掛けてテレビを見ていた。 「こんなに暑いのに部活動なんてやってられないわ。それにしてもクーラーって誰が考えたのかしら?」 ・・・少女の名前は戦木零。日本人形の様な長い黒髪と真っ赤な唇をした言霊学園2年生である。 アーチェリー部(弓道部)に属する彼女は暑いという理由で部活動をサボっていた。 「クーラーを発明した人はきっと天才ね、私には及ばないにしてもそれは間違いないわ。」 性格は自信家。 先に紹介した3人の少女達はクラスメイトである。 クラスメイトというのは同じ学校の同じ教室で机を並べているという意味で友達とイコールではない。 もちろん中には友達も居るだろうが逆に嫌いな奴も居るのがクラスという物だ。 そしてどの学校のどのクラスにも目立つ奴というのは1人は居るもので、良い意味でなら人気者になり悪い意味では嫌われ者となるのだが ――先に紹介した3人は前者に分類され、そして友達同士でもあった。 そしてここは2年8組の教室、時刻はホームルーム10分前の8時20分。 「ねぇ魁子。」 「ん、何?」 「毎日同じ事聞くけど何であんたヌンチャク携帯してるの?」 「じゃあお前はなんで竹光腰に差してんだよ。」 「そりゃあ勿論侍の魂だからいつも持ってなきゃ駄目でしょうよ。」 「あたしも似たようなもんよ。」 「なんだっていいじゃないの2人とも。何言ったところで校則違反なんだもの理由は必要ないわ。」 「何よ零。あんた侍の魂を否定する気?そりゃあ竹光を持つのは校則違反かもしれないけど竹光だろうと刀を捨てたら侍じゃないのよ。分 かる?」 「何だと零。確かにヌンチャクは校則違反かもしれないけどこれはリー先生の魂を具現化した物だからいつも持ってなきゃ意味がないんだ よ。分かる?」 「分からないわ。」 ステレオ放送で熱く語る魁子と麻衣をバッサリと切り捨てる零。 「それより暑いからあまり熱く語らないでくれるかしら。私は暑いのが苦手だって知ってるでしょうに友達甲斐がないわね。」 「「じゃあ夏服を着ろ。」」 ダブルツッコミ。 戦木零は肌の露出を酷く嫌い夏でも冬服のブレザーを着ている。さらに脚にはニーソックスまで履いているので見ている方が暑くなってく る。 「それは嫌よ。何で私の肌を大衆の目前に晒さなきゃならないのよ。肌を晒すくらいなら迷わず冬服を着るわ。」 そんないつものやり取りをしている内にホームルームの始まりを告げる鐘の音がが鳴り始め教師が教室に入ってくる。 「いよいよ明日から夏休みだね。実家に帰る人寮に残る人いろいろ居るだろうけど事故ったり警察のご厄介になったりしないでくれよ、学 園としても困るから。あとはまぁ夏休みのしおりに書いてあるから読んでおいてくれたまえ、捨てるなよ。それにても夏休みの宿題が無い なんてなんて素敵な学校だろうね、ここは。先生としちゃかつて自分が味わった苦しみをみんなにも味わってほしいところなんだけどなぁ、 まったく甘い学校だよ、本当に。」 後半は愚痴だったが教師はそれだけ言うとさっさと教室を後にした。クーラーある職員室に一刻でも早く帰りたいのだろう。 「ねぇk魁子と麻衣は夏休みは何か予定があるのかしら?まさか毎日部活に明け暮れるなんて言わないでしょうね?」 「部活だよ。てゆーかお前も部活あるだろ、他人事みたいに言ってるけど。」 「そーよ、あんただって弓道部の合宿があるんじゃなかったの?」 「ふぅ、2人ともつまらないわね。高校2年の夏に部活なんてやってるのは不健康よ、おぞましい。という訳で明日さっそく海に行きまし ょう。すでに宿は手配済みよ。」 「・・・なんでお前が弓道部をクビにならないのか不思議だよ。てゆーかあたしも麻衣も部長なんだから初っ端から部活を休める訳ないだ ろ。」 「それなら心配いらないわ、剣術部にも截拳道同好会にも話は通してあるから。それに魁子は会長でしょ、それとも怪鳥だったかしら?」 「なんであんたがそんな権限持ってるのよ!あたしはこの夏休み中になんとしても「星流れ」をマスターするんだから休む訳にはいかない の!」 「てゆーか人の事を怪鳥呼ばわりしてんじゃねーよ!あの声出すのにどれだけカラオケボックスに通ったと思ってんだ!」 「あ、もう1時限目が始まるわ、席に着かなきゃ。」 そう言ってさっさと自分の席に行ってしまう零の後姿を騒がしく見送る魁子と麻衣、ちなみに2人の席は隣通しである。 結局、魁子と麻衣は零の策略により明日から海に行く事になるのだが本日はここまで。 それにしてもまさかいきなり夏休みに入るなんて設定あきでもある筆者も驚きです、SSって難しい。 そんな訳で次回に続く。