■私立言霊学園第2話前編■ -------------------------------------------------- ◆登場人物紹介◆ 一本槍魁子(いっぽんやり かいこ)【武道家】 霧々麻衣(きりきり まい)【剣士】 戦木零(おののき れい)【自信家】 ナンパ男(なんぱおとこ)【サーファー】 〜あらすじ〜 『私立言霊学園に通う魁子、麻衣、零の3人は夏休み初日から海に行く事になりました。』 『7月21日(晴れ):今日から楽しい夏休み、と言ってもあたしはほとんど毎日部活に汗を流すんだけど。 だけどどういう訳か、悪友、もとい友人の戦木零の策略により泊りがけで海に遊びに行く事になった。 まぁ同好会の後輩達も実家に帰っちゃったから部活を休んでも文句を言う奴はいないのだけど何だか天国のリー先生に申し訳ない。 でもまぁせっかくなんで海を満喫しようと思う。』 【一本槍魁子の日記帳より(無断で)抜粋】 『7月21日(晴れ):目が覚めるとそこは海だった。あたしがまだ寝てる間に運ばれていたらしい。 いつの間にか水着になっていたのは寛大な心を持って許す、けどビーチパラソルの柱に縛り付けて頭に冷凍ミカンが乗っているのは許せる 訳がない、しかも頭上の冷凍ミカンを零が弓矢で狙ってればなおさら。 零の事だからミカンが夏の暑さで傷まない様に気をつけただけなのだろうが今回はそれに救われた、冷凍ミカンの冷たさで目を覚ます事が できたのだから・・・我ながら恐ろしい友人を持ってしまったものだ。』 【霧々麻衣の日記帳より(無断で)抜粋】 『7月21日(快晴):せっかくの夏休みなのに友人の一本槍魁子と霧々麻衣は部活に明け暮れると恐ろしい事を言ったので私は2人を海 に連れてってあげる事にした、甘いわね、私も。 すると2人は大喜びで私に感謝の言葉を述べた。嫌だわ、友達なんだからこんな事でお礼を言わないでちょうだいな、水臭い。 体育会系まっしぐらな2人とはいえやはり女子高生の本能には逆らえないみたい、海を目の前にして鏡を見たチンパンジーの様にはしゃい でいるわ、微笑ましいわね、うふふ。』 【戦木零の日記帳より抜粋】 「言霊学園夏休み初日、一本槍魁子と霧々麻衣と戦木零は日差しが眩しい夏に海に来ているのでした。」 「何ナレーションっぽく言ってるんだよ零。」 「ねぇ魁子、麻衣。」 「何よ。」 「何?」 「海よ。」 「海だな。」 「海ね。」 (ザザ〜ン)と涼しげに響く波の音。 「さぁ行くわよ。」 「ちょっと待て。」 「何よ魁子。太平洋が私を呼んでるのよ、早く行かなきゃ。」 「お前のその水着はなんだ・・・。」 「うん、あたしも気になってた・・・。」 そういう2人の目線の先には水着を着た零の姿。肌の露出を嫌う彼女が水着など着れるのかというと――現に着ているのだから着れるのだ ろう。しかしそのデザインに問題があった。 なんと言うのだろう、言葉に表すなら水着生地のウェットスーツといった所だろうか、肌の見えてる箇所は顔と手首と足首しかない。 「あら、何か問題でもあるのかしら、これも立派な水着よ。」 「水着かもしれないけどさぁ・・・立派じゃあないだろう。」 魁子のツッコミを無視して再び海へと向かう零。夏休み初日という事もあって人もそれなりに多く零の異様な水着姿は注目の的だった。 「まぁ本人が気にしてないんだしいいんじゃないの?それよりあたし達も泳ごうよ。せっかく海に来たんだし。」 「そうだな、零の事は気にするだけ無駄だし。うっし、泳ぐか!」 「おー!」 そう言って魁子と麻衣も海へと向かった。もちろん2人の水着は零とは違って極普通のビキニとワンピースの水着、ちなみに魁子がビキニ で麻衣がワンピースの水着である。それと麻衣はいつもかけてるメガネを外している。 零の水着の事は気にしない事にして遊んでいると当然腹が減る。時間もちょうどお昼時だったので昼食を取ろうという事になった。 「海に来たらやっぱり海の家でラーメンだろ。」 「いやいやカレーライスよ、やっぱり。」 「何を言っているの2人とも。海の家といえば焼きそばに決まってるじゃない。」 「すいませーん、ラーメン3つお願いします。1つは大盛りで。」 「ちょっと何勝手に頼んでるのよ、すいません、ラーメンじゃなくてカレー3つに変更で。」 「貴女たちは馬鹿なの?すいません、ラーメン大盛りとカレーライス福神漬け抜き、それと焼きそばマヨネーズ多めでお願いします。」 「・・・・・。「・・・・・。」 黙り込む魁子と麻衣、恥ずかしいらしい。 「はい、かしこまりましたー!」 威勢良く応えるとバイトと思わしき従業員は厨房にかけていく。 「何で同じ物を3つ注文しようとするのよ、食べたい物が全員違うんだからそれぞれ頼みなさいな。」 「零にまともな事を言われた・・・。」 「こんな日もあるわよ魁子、10年に1度くらいきっとたぶん。」 「あらあら失礼ね2人とも。私はいつだってまともだし完璧な女よ。それより自分たちの常識のなさを誤魔化さないで受け入れる事をお勧 めするけどどうかしら?」 「「ぐぅ・・・。」」 揃って唸る2人を他所に店員が注文を運んできた。 「2人ともいつまで固まってないで食べましょうよ、冷めて不味くなってしまったら一大事だわ。」 「うん、いただきます。」 「ます。」 「あー何だかんだ言ってもやっぱり海の家で食べるラーメンは美味いな、美味美味。」 「だよね、海で食べると当社比1,3倍くらい美味しいわ。」 「2人とも単純で良いわね、見てて微笑ましくなってくるわ。あら、マヨネーズが少ないわね、多めって言ったのに。」 「零ってマヨラーだったっけ?」 「いいえ、違うわよ。でも屋台物にはマヨネーズが付いていないと許せないとは思うわ。」 と、いつも通りくだらない会話をしながら箸を進める3人にサーファーらしき男達が近寄ってきた。 「ねぇ彼女たちどっから来たの?よかったら午後から一緒に遊ばない?」 ナンパである。 魁子も麻衣も零も顔は良いので黙っていれば男は寄ってくるのだ。今回の場合男達は3人の性格を知らない初対面だったからナンパし てきたのだろう。知らないとは恐ろしい。 「こっちもちょうど3人いるしさ、ね?一夏の思い出作ろうよ、アハハ!」 一方的に喋りかけてくる男達に対して3人が取った行動は―――攻撃だった。 魁子はラーメンのスープをぶっかけ、麻衣はカレーのスプーンを人差し指と中指で挟むという異様な握りに持ち替え、零は焼きそばをもそ もそ食べていた。 思いもよらぬ攻撃を受けたサーファー達は床をのたうち回る、ラーメンスープが素肌にかかればさぞかし熱い事だろう、そう考えるとダチ ョウ倶楽部の竜ちゃんは凄いなぁ。 「ギャアアアアアアア!熱っちぃ信じらんねぇ!!」「馬っ鹿!何すんだクソっ!」「ぅ熱ちちちちちち!」 若手芸人の様なリアクションをしているサーファーを尻目に3人はさっさと会計を済ませて店を後にした。 「人が飯食ってるのに何考えてんだよあの馬鹿連中は。ハエよりウザったい。」 「素人じゃあんなもんか、やっぱりダチョウ倶楽部の方がおもしろいわね。」 「まぁ夏だもの、いろんな人が居てもおかしくないわ。それに海は人を解放的な気分にさせるしあの人たちもどこかが解放されていたんで しょうよ、きっと。」 3人の何てことないといった風から、こういう事はよくあるのだろう。 しかし流石にラーメンスープくらいじゃKOされる訳もなく店からサーファーが追いかけてきた。 「オイ待てよクソ女!テメェぶっ殺してやる!」「ふざけんじゃねーぞコラ!ボコしたあとで死ぬほど犯してやるからな!」 聞いてて(書いてて)あまり気持ちの良いもんじゃない事を叫びながらサーファーが詰め寄ってくる。そして1人が魁子の肩を掴もうとし たその時――― 「ォアチャァァァァァ!!!!!!!!!」 ドゴンッ! 怪鳥音と共に重い音が響くと、次の瞬間サーファーの体が地に伏していた。 「ホアァァァァァチャアァァァァァァァ!!!!!!!!」 さらに響く怪鳥音、やっぱりサーファーは地に伏した。以上5秒以内の出来事。 「フォォォォォ・・・・フン、情けない奴らだなー、リー先生を見習いなさい。」 「いやー魁子が居て助かったわ。あたし竹光持ってきてないし素手じゃさすがに男3人はキツかっただろうから。」 「つまりそれは剣は拳に劣るという敗北宣言って事でいいのね?」 「いや敗北宣言する訳ないでしょうが。」 「いい加減拳の方が強いって認めろよ麻衣。今こうして現実を目の当たりにしたんだし。」 とかなんとか喋りながら3人はさっさと歩いていく。残されたのは財布を抜き取られ自らのパンツを頭に被ったサーファーだけだった。 2人が喋ってる間に零がやったらしい。 その後3人は何もなかったのかの様に日が暮れるまで海で遊びカラスが鳴く頃に宿へと戻って行った。 この後宿でまた騒ぎが起こるのだがそれは後編でのお話。 そんな訳で後編に続く。