■私立言霊学園第2話後編■ -------------------------------------------------- ◆登場人物紹介◆ 一本槍魁子(いっぽんやり かいこ)【武道家】 霧々麻衣(きりきり まい)【剣士】 戦木零(おののき れい)【自信家】 阿修羅崎眼九郎(あしゅらざき がんくろう)【???】 〜あらすじ〜 『海で遊んだ魁子、麻衣、零の3人は日が暮れたので宿に向かいました。』 現在時刻午後5時半、3人は零が手配した宿の前に立っていた。 「・・・なぁ零、『宿』は手配済みって言ってたよね。」 「言ったわ。」 「なんか『宿』っぽくないんだけど、この『宿』。」 魁子は渋い顔で目の前の『宿』を見ながら零へと語りかける。 「『宿』って言うより屋敷って感じね、その筋の人達の偉い人が住んでる様な。」 同じく渋い顔で麻衣も言葉を洩らす。 麻衣の言うとおり3人の前にそびえる『宿』は組っぽい外観をしている。 少なくとも立派な造りの門とそこに掲げられた『阿修羅崎』の看板からは確実に危険な雰囲気が漂っている。 「ていうか絶対ヤバイって、零も悪ふざけが過ぎるわよ、もー。」 「まったく麻衣の言うとおりよ。さ、十分驚いたし早くホントの宿に行こ、な?」 ははは、と軽い感じで笑う魁子と麻衣だが笑顔が引きつっている。 「ここが宿よ。」 漫画的表現だがピシリと笑顔が凍りつく魁子と麻衣、しかし笑顔はすぐに解凍され、勢いよく零に詰め寄った。 「「ちょっと!ちょっとちょっと!!」」 「ザ・たっち?」 「「違う!!」」 「てゆーかこれ明らかにその筋のお屋敷じゃん!組じゃん!」 「だからここが宿なのよ。」 「どの角度から見たってここが旅館に見えるわけないでしょ!あの看板にこの門構えときたら絶対『や』で始まる自営業だって!」 「どんなに有り得ない事だろうとそれが目の前にあるのならそれはそういう物なのよ。それに私は一度も旅館とは言っていないわ。」 と、次の瞬間。 「お待ちしておりました、零様。そちらの御二人はお友達ですね?お話は伺っております。」 巨大な門に付いている小さな扉がガチャリと開くと中から背の高い着物姿の青年が顔を除かせ――─ 「ここでは蚊に食われてしまいますので早く屋敷にお入り下さい、荷物は私がお持ちいたしますので。」 丁寧に3人を迎え入れた。 青年の案内で中に通されると、屋敷の中は外観に反して意外にも普通の日本家屋といった感じでどこか雅な雰囲気すら感じるほどだった。 「ねぇ、これってどういう事なの?」 麻衣がひそひそと零に尋ねると、答えたのは零ではなく前を歩く青年だった。 「ここ阿修羅崎家と零様の御実家の戦木家は親戚筋にあたるんですよ、麻衣さん。零様から話を聞いていませんでしたか?」 聞いていない、と思ったが言葉には出さずははは、と笑って誤魔化した。 というか向こうはこちらの名前やら何やらは零から説明を受けて知っているらしいく、麻衣は何となくやりづらく思えた。 魁子はというとさっきから一言も喋らずに、ぽーっとしながら歩いている、心なしか頬が赤く染まっている様にも見えるが。 「零様から今日海に行くから宿を提供してほしいと連絡がありまして。当主にその事を伝えたら2つ返事で許可がおりましたよ。当主は 昔から零様に甘いですからね、ははは。」 さっきから1人で楽しそうに喋っている青年はおそらくここの使用人なのだろう、とかなんとなくいろいろ考えながら歩いている麻衣の 目にある物が飛び込んできた。 「!──す、すいません。あの部屋って。」 「あぁ武器庫ですね、阿修羅崎家は戦闘一族の家系として古くから続いていますから刀剣の類はたくさんありまして。麻衣さんは武器に 興味がおありですか?」 「武器っていうか刀オンリーですけど興味あります!」 「そうですか、それではよろしければ後ほど御覧になりますか?──と、そろそろ当主の部屋ですお静かに願います。」 ふと、急にあたりの空気が重くなった、と麻衣は感じた。 魁子もそう感じたのかぽーっとした表情から部活動時に見られるキリっとした顔つきになっている。 「2人ともそんなに緊張しなくても大丈夫よ、眼九郎兄さんは怒らなければ優しい人よ。ちょっと凶悪だけど。」 零はいつもと変わらない涼しげな顔をしている。青年も黙ってはいるものの特に緊張した様子はない。 2人の様子から察するにどうやらこの屋敷ではこの空気はさほど珍しくないようだ。と、不意に青年の足が止まった、当主とやらの部屋 に着いたらしい。 「眼九郎様、零様達を御連れいたしました。」 「おう、入れ。」 部屋の中から気が弱い者なら聞いただけで腰を抜かしてしまいそうな攻撃的な声が聞こえた。 この声の持ち主ならばこの空気の重さも納得できるというものだろう。 「よく来たな、まぁゆっくりしてってくれよ。」 スラリと襖を開けるとそこには髪は短く刈り込み金髪に染め上げ──おそらくカラーコンタクトだろう──赤い瞳した凶悪な外見をした 男があぐらをかいて座っていた。 この男が戦木零の親戚にして阿修羅崎家三十三代目当主、阿修羅崎眼九郎だった。 「久しぶりだなぁ零、いい女に成長しやがって。俺と結婚するか?」 「遠慮しておくわ。それに10年前私が告白した時はガキなんか相手にするかって言って一蹴したじゃない。あの時幼い私の心は割りと 傷ついたのよ。」 「阿呆、お前当時7歳じゃねーか。俺はどこのロリコンだボケ。」 「女子高生に求婚するのもロリコンに負けないくらい変態的よ、さすが眼九郎兄さんね、うふふ。」 「あの、2人で盛り上がってるとこすいませんけどあたし達は・・・。」 「おう、悪ぃ悪ぃ。えーと、魁子ちゃんと麻衣ちゃんだっけ?零から話は聞いてるぜ。かわいい女子高生を2人連れてくるってな。ギャ ハハハハ!」 風貌と身に纏う雰囲気は恐ろしいが確かに零の言っていた通り気は優しいらしい、と言ってもまだ零と話したとこしか見ていないのだか ら何とも言えないだろうが。 「だだっ広いだけの屋敷だけど適当に寛いでってくれや。」 「ありがとうございます。あと、その1つ聞いてもいいですか?」 おずおずと質問する魁子、豪快な性格の魁子とはいえただならぬ雰囲気を纏った男を目の前にしては緊張を禁じえないようだ。 「その腕何ですか?」 ピキ! 魁子が質問を投げかけると突如眼九郎のコメカミに血管が浮き上がった、地雷を踏んでしまったのか──? 「あぁ?俺の腕がどうしたってんだよコラ。返答次第じゃ犯すぞ。」 「・・・いや、やっぱ何でもないです。素敵な腕ですね、あはは。」 (か、魁子が飲まれてるっ!こんな魁子見るのは初めてかもしれないわ・・・。) そう心の中で呟く麻衣だが彼女自身も眼九郎の雰囲気に飲まれてしまい借りてきた猫と化していて、さっきから一言も喋っていない。 「嫌だわ眼九郎兄さんたら、そんな義腕を4本もぶら下げてたら誰だってツッコミを入れたくなる衝動に駆られるというものよ。」 「あぁ?あー、まぁそれもそうか、ギャハハ!おぅ教えてやるよこの腕はな、俺の『武器』だ。」 この男が短に怒り易い、というより性格に『むら』がある様で別に地雷を踏んだ訳ではないようだ、それより気になるのは── 「・・・武器ですか?」 「おうよ、阿修羅崎ってのは戦闘一族でよ、昔っから手前の実力でその立場を守ってきたんだよ。ご先祖やら親父は刀やら槍やら銃やら 使ってたみてーだけどよ。俺は刃物とか飛び道具ってあんま好きじゃなくてな、それでこの義腕って訳よ。」 「はぁ。」 だからといって普通義腕なんかを武器に選んだりはしないだろう、それも4本も。 呆れた様に相槌を打つ魁子に構わず眼九郎は話を続ける。 「ガキの頃は素手とかメリケンサックだったんだけどよ。もうちっと個性ってもんが欲しくてどっかの研究所脅して造らせたんだよ。」 「そうでしたか、何て言うか、そのエキセントリックですね。」 「エキセントリックってか?ギャハハハハ!お嬢ちゃんイカしたセンスしてるじゃねぇかオイ!」 それにしてもこの男、底抜けにテンションが高い。 確実に20歳は過ぎてるだろうにもう少し落ち着きを持てよとか魁子と麻衣がそう思っていると零が口を出してきた。 「さて、それじゃあ魁子と麻衣が眼九郎兄さんと仲良く打ち解けた事だしそろそろ夕飯にしましょう。実はさっきからお腹がぺこぺこだ ったりするのよ、私。」 今のやり取りを見てどうすれば打ち解けたと思えるのかは解からないが2人にしてみれば正直助かったというところだった。 何せこの男、変人奇人が多数いる言霊学園にも居ない様な未知の存在なのだから。 「おう、久しぶりの客だし今夜は合成に宴会すんぞ。手前等も飲めよ。」 「あらあら眼九郎兄さんたら、合成じゃなくて豪勢よ。相変わらず頭が弱いわね、うふふ。」 「んだとぶっ殺すぞ零!!」 そんなやりとりを見ながら魁子と麻衣は今回の旅行に参加した事を激しく後悔するのだった。 ──その日深夜まで宴会は行われ、魁子と麻衣は飲めない酒を眼九郎に脅されて無理矢理飲まされ、さっさと酔い潰れ眠りに落ち、零は 眼九郎と昔話に花を咲かせながらヤマタノオロチの様に酒を飲み続けた、というか未成年だろう手前等。 そして翌日、魁子と麻衣は激しい二日酔いに苦しむのだがそれは次のお話で。 次回に続く