交渉人・ジェイド=T・I・S・A=ルーベル、通称「言霊の魔術師」。 10年以上続いた東国と皇国の資源戦争「アーメイダスの山戦」を他国委譲という解決策をもって 終わらせるのに一役かった。皇国側の交渉人として現れた彼は、皇国有利と思われる協定を東国 首脳陣に受け入れさ、さらに東国に対する皇国の賠償金という形を取らせた。 協定の内容は、 ・資源鉱山であるアーメイダスを他国に委譲し資源などを両国は手放す。 ・アーメイダス鉱山に関所を設け、関税などの権利に関しては皇国が持つ。 ・皇国は東国に対し賠償金を5年間支払う。 完全にアーメイダス鉱山に対しての権利を無くした東国は、各地で協定に不満を持つ市民が暴動を 起こし、一時は社会不安となったが皇国からの賠償金による国庫の安定・経済活性による高度な 経済成長を見せ、鉱山を得るよりも大きな成長を遂げた。 関所と関税に対する権利を手に入れられた皇国は、鉱山にあった大きな街道に繋がる道の利権を手に 入れ、輸出入などによる小規模だが確実な利益を得る事が出来た。これにより長期的な経済的展望が 見え、東国への賠償金と鉱山の利権よりも大きい物となった。 アーメイダス鉱山を手に入れたのは中堅国家で、宰相であるアルダマスという老人が先頭を切って 交渉に出てきたのだ。資源に乏しい国家だったので今回のことは渡りに船だったのだろう。 一国が傾くような金額を払い鉱山を手に入れた。 結局、ア−メイダス鉱山に関わった3つの国家は損をすることなく、得だけを手に入れた。 そんなありえない事を可能にした交渉人、彼は今日もひっそりと歴史の影で動いている。 東国諜報斥候部 リリア・マクレーン 魔王様の華麗なる御仕事 俺は少々困っていた。 目の前にいる眼帯の美女(巨乳)は、意外な事にとても頑固というか怖かった。 □ 「で、ジェイドさん。貴方は父に頼まれて私と交渉しに来たんですね?」 私はとても不機嫌だ。 目の前にいる優男は愛想笑いを浮かべ、なんとか私の機嫌を取ろうと四苦八苦している。 父・トゥルーシィ=アキオも最低だ、娘ときちんと向き合おうとせずに他人に頼むなんて言語道断 だ。 というか、私はガトー所長に頼まれた仕事を終わらせて寝るつもりだった。しかも三徹、自分でも 「最高にハイな気分」ってやつと「まるでそびえ立つ巨大なクソを見た気分」がごちゃ混ぜになっ ている。そんな時に彼は来たのだ。 「普通、アポイントメントとか取りませんか?私も暇じゃないんですけど」 「いえ、連絡したのですが全然電話が繋がらなかったので・・・・それと依頼人の方から大急ぎでと 言われまして・・・・それで・・・・ええ、なんと言いますか・・・・・すいません」 困ってる困ってる。シュンとしている犬のようだ、意外と可愛いなこの人。 「まあ、仕事だからといって電話に出なかった私もいけないのでここはイーブンということで」 「本当ですか、ありがとうございます」 ああ、なんか犬耳とパタパタ振ってる尻尾が見える。 「話を伺いましょうか、交渉人さん」 なんとか彼女は機嫌を直してくれたみたいだ。 しかし、何だあの目はまるで小動物を見るような目だ、なんつうか小学生の女の子の目と言った ところか。 うわあ、生きた心地しないな。 いかん、いかんよ、このまま相手のペースに乗っていたら、確実に失敗する。 気持ちを切り替えるべきだ、うん、それしかない。 「アキコさん、お父様からのご依頼なのですが、今回お父様とお母様が温泉旅行・・・つまりは家族旅 行をしたいので、それに参加していただけるよう交渉に来たんです。どうしたんですか、もの凄く 頭が痛そうですけど?」 「いえ、気にしないで・・・・・・・あの馬鹿親父――――!」 頭をかかえて、ブツブツと怒っている、怖いよー。 「えーと、それでお父様から出された提案はですね、温泉旅行に参加してくれたら、王立魔法研究 所の仕事を三ヶ月有給休暇にするそうです。在宅で仕事されてるそうですが、それでもという事 らしいです」 「別に仕事なんて受けなけりゃいいだけなのに、なに考えてるのかしら」 「お父様が「子供には思い出が必要だ」って仰ってました」 「思い出?」 「ええ、幼い時の思いではこれから生きていく上で大切な物だって言ってました、これから先 いつか誰かがいなくなった時に決してその人のことを愛し忘れない為に思い出が必要だそうです。 正直、ちょっとジーンとくる物がありました。お父様は、貴方をとても大切に思ってらっしゃい ます、それに貴方と暮らしているお子さん達の分も宿を取っているそうです」 「へえ、父さんが」 彼女の心の琴線に触れたのか優しい笑みを浮かべる。 やっぱ美人は笑顔が一番だ。 「父さんがそこまで言うんなら仕方ないわね」 「ということは、その申し出を了解されるという事ですね」 「ええ、受けさせてもらいます」 OK出たよ、マジで一時はどうなるかと思った。 神様、一生懸命頑張る魔王は救われるんですね。 「ジェイドさん、私はこれから一度仮眠を取ります。それから村にある宿屋の食堂で一緒に食事 でもどうです?」 「良いですね、喜んで」 「うちの子達も後一時間ぐらいで帰ってくると思うから、それからだから18時くらいに食堂で」 「解りました」 そう言うと彼女はリビングから出て行った。 さて、俺も宿屋に戻るか。変だな何か視線を感じた、4人か・・・・。 ちらりと窓から外を見る、洗濯物が邪魔で見えないが右の方向に気配を感じる、3人? おかしい、一人足りない。 「ジェイドさん、どうかしたんですか?」 ドアから顔を覗かせるアキコさん。 「いえ、何も、いい天気ですね」 「これだけ天気が良いと洗濯物が早く乾いて助かるわ」 この人が狙われている心配はなさそうだな・・・・となると俺か、狙われてるのは。 ■ 「ちくしょう、あの野郎アキコさんに馴れ馴れしくしやがって!」 「あ!アキコさんが頭抱えたぞ!」 「あの野郎ただじゃおかねえ!」 アキコの家の近くの茂みに隠れる3人組、宿屋の親父・アルカンプにジェイドの監視を頼まれた 冒険者パーティだ(上から順番にA・B・Cと仮称しておく)、ちなみに報酬は「トゥルーシィ= アキコ親衛隊に入隊(本人非公認)」と「看板娘アイナから食事を受け取れる」だ。 「あんにゃろう、アキコさんの笑顔を独り占めだと!」 騒ぐ冒険者A。 「俺たちの女神を汚しやがって!」 ハンカチを噛んで悔しがる冒険者B。 「もう我慢できねぇ!」 いきり立つ冒険者C。 「親父さん、こちらスネーク、そろそろ行動に移ります、以上!」 魔道通信機のスイッチを切る冒険者B、通信機の向こう側にいるアルカンプが何か言っているが 聞いちゃいなかった。 「どうやって口裏を合わせたものか、あの親父ボロ出さないかなあ」 トゥルーシィ=アキコ宅を出て少し行った所、ほんの20mも離れておらず、俺が気配を感じた所 だ。 そして考える。 実は彼女に話した事は真実が半分で嘘が半分。 彼女の父親は、少しは同居人の子達を認めてはいたが、やっぱり一緒に温泉旅行に連れて行くこと に関しては反対だった。同居人の部屋を用意したのは彼女の母親、トゥルーシィ=アキナ。 夫であるアキオから話を聞いていた彼女は、娘の選択を信じ夫に黙って用意していたのだ。 アキオ氏から依頼された後、事務所にアキナさんが来て事の仔細を説明し、追加の依頼をした。 それは、「夫・トゥルーシィ=アキオと娘・トゥルーシィ=アキコの仲を取り持つ」だ。 赤の他人が取り持つというのはいかがな物かと思ったが、アキコさんと過保護親父のこじれ具合か らいったら第3者が取り持った方がうまくいく可能性が大きかった。そしてうまくいってしまった。 ここまで来たなら後は親父の努力しだいだ。 考えてみれば姑息な手かもしれないが、隙につけ込んだのも正解だった。トゥルーシィ=アキコに とってトゥルーシィ=アキオは、父でもあり信念上の敵だ、そこにつけこむ隙がある。 考えてもらいたい、自分の敵が自分を評価し同調するような考えを持ったと知ったらどうなる だろうか?憎しみという要因がなければ、あまり敵対する事はなくなるだろう。 「敵の敵は味方」という言葉がある、信念上反対側にいる人間が自分を肯定するようになれば、敵 ではなく半分は味方と考えられる。そこまで物事は単純でないが、それが肉親だった場合、他人が 一言余計に美談にすればどうだろうか? 今回に限っては肉親の情と信念を天秤で量らせ同じ重さにして心の琴線に触れさせた。 交渉は奇麗事ではなく自分の利益や不利益、感情によって左右される、今回は感情や親子の情愛を 利用したのだが個人的にこういうのは好きじゃない。 交渉の後に美談と評価があればいい。 そこをあの親父が理解できるかどうかだ。だからこそ、あの笑顔は台無しにしたくない。 「美人の笑顔を台無しにした奴は殴り飛ばす」それは全人類に特に男に許された唯一の正義では ないだろうか?俺は絶対正義だと思う。 「正義か面倒くさいな」 3年前に出会った金ピカ傍若無人な奴を思い出す、あまり良い思い出はないな。 「おう、あんた」 目の前に現れる三人組。どうやら俺が感じた気配はこいつらみたいだ、一人足りないな。 「俺に何か用か?」 「あんたにゃ恨みはないが、すこし痛い目に合ってもらおうか!」 鎧を着た戦士がゴキゴキと拳を鳴らす。 「この野郎、ギッタンギッタンにしてやるからな!」 格闘家もゴキゴキと拳を鳴らす。 「俺たちの怒りはすごいぞ!」 魔術師もゴキゴキと拳を鳴らす。いや、魔術師よお前は頭脳戦メインじゃないのか? 出来る事なら穏便に済ませたいな、暴力はいかんないくら魔王だって人間相手にいきなり暴力と いうのはいけない。 「話し合いでもして・・・・」 「「「だまれ、この地味野郎!」」」 地味・・・・・地味って言ったなこいつら・・・・もう容赦はしなくていいな。 ゴゴゴゴゴゴゴゴと効果音が起きそうなぐらい、殺気を放つ。 「な、なんかやばくね?」 「足が震えるんだけど・・・・」 「やばいって!話し合いにしませんか」 俺にビビり始める三人組。 「もう、交渉も話し合いもないんだよ・・・・」 一歩踏み出す。 「今、誰か俺を地味って言ったか?」 「いえ、俺は、ゴフゥ」 戦士に前蹴りを叩き込む。 「お前か?」 魔術師と格闘家を睨みつける。 「「うわあああ!」」 半狂乱に突っ込んでくる。 「ネゴシエイタージャンプ」 格闘家と魔術師の攻撃を避け飛び上がる続けざまに 「ネゴシエイターキック!」 急降下し踏みつけるように蹴る。 魔術師を蹴りつけ反動で後方に飛び戦士を踏み蹴り、格闘家を回し蹴りでぶっ飛ばす。 「「「ぐはあ」」」 ばったり倒れる三人組。 「ああ、暴力最高!・・・・・て、やりすぎたかな?」 ピクピクと蠢くのを見て少々反省。 暴力はいけないな・・・・・。 微かだが大気が震える、この魔力の波長は――― 「トランギラール?」 どうやら3年前のバーズワースの因縁は途切れてないらしい。 「やれやれだ・・・・」 (続く) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― この話はGUERRE MONDIALE ZERO の序幕と同じ時間軸になっています。 GUERRE MONDIALE ZEROのSSあきすいません。なんとなくリンクさせてみたかったんで ごめんなさい。 そして、今回修正加筆した部分で多少はジェイドを掘り下げられたと思います。