オレキャラ嘘予告SS  「冒険者達の音楽祭!」      南方に位置する、ある大国では一年に一度の音楽祭が行われる。  その地に眠る神々に感謝の印として演奏を捧げ、また一年を見守ってもらうための祭典。  今年も最高の楽団による盛大な祭りが行われるはずだった。  だが、楽団員たちが調子を崩し、さらには行方不明になってしまう。  このままでは音楽祭を開く事が出来ない―そうなれば、神々はここを見捨ててしまう。  焦った実行委員は、この地を訪れている冒険者達に音楽祭を行ってもらうという決定を下す。  ひょんな事から大ホールに集められる冒険者達。  全てがぶっつけ本番、成り行き任せで音楽祭の幕が開ける。    漆黒と銀のスティックを巧みに操り、カイル=F=セイラムがドラムを打ち鳴らす。  風のような速さで手が動き、規則正しい乱打音が大ホールに響く。  彼の左手側には、玩具のように真っ白いエレキギターをかき鳴らすエオスの姿。  右手側には月色のベースを弾くララバイの姿がある。  奇妙な組み合わせではあるが、これも何かの縁だろう、と自分を納得させて、彼はドラムを打ち鳴らす。  少し不安だったボーカルの更葉は、見事な歌声を披露している。  奇妙な組み合わせではあるが、悪くは無い。  そんな事を思いながら、彼らは自らの曲を演奏する事に没頭していた。  熱気が大ホールに満ち、観客達のテンションを上げる。  熱狂の渦の中心に、自分達がいる。  そのことが、不思議と心地よかった。    賑やかな宴は滞りなく進み、参加者・観客の区別無く気分を昂揚させていく。  人々が音楽に夢中になるその裏で、黒幕は静かに静かにイトを引く。    「どうしたのかね、皇七郎君」  「いやね、僕の記憶が確かならば、この地方には音楽祭なんて行事が存在するはずないんですよ。そもそもこの地方の国を守護するような存在の神話を聞いたことが無い」  「つまりそれは、この音楽祭には何か裏がある、と」  「確証はもてませんがね、調べる価値はあると思ってます。ただ問題があるとすれば―」  そう言って、彼―皇七郎君は図書館の入り口を見やる。  視線をそちらに向ければ、確かに問題となりそうな、明らかに不釣合いな外見の厳つい門番が図書館の入り口をしっかりと守っていた。  「なるほど、あの門番、か」  「ええ、見張り番を交代する場面も見ましたから、おそらくは中にも同様の奴らがいる筈。それを僕ら二人だけでどうにかできるかと聞かれれば―」  「確かに、少々分が悪いかもしれないな」  「力を貸そうか」  どうするか、と考えあぐねていた時に、背後から声がかかった。  一体だれが、と思って振り返れば、そこに立っていたのは、  「レオン君」  白髪に緋色の瞳を持つ剣士―陽炎のレオンだった。    音楽祭の目的、大地に眠る神々の正体。  現れたるは影。迎え撃つは冒険者。  音楽に彩られた戦の幕が開く。    「これは……!そうか、そう言うことだったのか。音楽祭なんてのは全部嘘っぱちで、まずい、まずいぞ。これが本当なら今すぐにでも音楽祭を止めさせないと!」  何かに勘付き、動き出す冒険者達。     エオスは大ホールの外に来ていた。  周囲、人気の無い町並みの様子を見渡し、眉根に皺を寄せて虚空を睨みつける。  「空気が重てえ。嫌な感じだと思わないか?嬢ちゃん」  横に立つ少女―剣聖が一人、クゥクンに声を投げる。  「確かに、とても嫌な感じがします」  胸騒ぎを覚えた数名が、同じように町並みを眺めていた。    ※     影よ影よ、地の底より出でよ。  全てを飲み込み、闇と化して全てを一つへ。  溢れ出す影。それは何も知らぬ者達を飲み込もうと広がり、大地を埋める。  力なき人々はすべて飲まれ、全てを同じ闇へと変える。  だが、黙ってそれを見ているだけの者はいない。  「まぁ、音楽祭とかはどーでもいいんだけどよぉ、魔物が来るってんなら、俺がでねぇとなぁ?ひゃはははははははははははっ」  「力無人見捨、悪」  「やれやれ……勇者殿は勤勉でいらっしゃる。私としてはのんびりと音楽を聴いていたいのですけどねぇ」  勇者と聖騎士と大魔道士。  「凄い数の軍勢ですが、勝ち目はあると思います」  「よく言った、それでこそアタシのお気に入りだよ」  剣聖と賢者。  「またアンタと、肩を並べて戦えるとはな」  灼熱の炎剣を携え、氷河の蒼色を宿した鎧を身に着けた剣士が笑った。  「まったくだぜ。……しかしお互い大変だよなぁ、守りたいもんが近くにあるとよ」  大剣を握りしめ、龍に仕える騎士もまた笑う。  騎士と剣士。  「影の軍勢、ですか……。武器とか通じるんでしょうかね?」  「あの男の話によると、高密度で実体を持つに到った影の魔物だそうだ」  「えーと、それはつまりどういうことですか?」  その質問に、三日月の矛を持った騎士が獰猛に笑う。  「倒せる、という事だ」  聖騎士と騎士と斧戦士。  迫り来る影の軍勢、迎え撃つのは冒険者達。  全ては背後に居る人々を守るため。  流れ出す音楽に見を任せ、心を振り抜け。  雄叫びを遠くへ響かせ、全てを断ち切る刃へ変えよ。  恐れるな、仲間がいるなら。    ※    「くそ、囲まれたか」  ゴブリンやリザードマンの影がエオスを取り囲み、逃げる隙間すら与えてくれなかった。  それでも、エオスは愛用のツヴァイハンダーを握りしめ、臆す事無く立ち向かう。  「おぉぉぉぉぁぁぁああぁあぁああぁぁぁぁぁぁ!!!」  その時、上空から降臨したのは一条の白き雷。  白雷をまとって、白雷のぐらにえすが魔者達の輪に突っ込んできた。  「お前……」  「馬鹿者、私とお前は二人で一人だろう。騎士が剣を忘れて戦に出向いて、どうするつもりだったんだ」  言葉と共に差し出されたのは、刻印が強く輝く左手。  「すまない」  そうして、エオスは右手で左手を握り返した。  伝わる温もり、心と心。  少女は雷に包まれて姿を変え、一振りの剣となって騎士の手に収まった。  「力を貸りるぞ、グラニエス」  一瞬。  本来の剣を手にした騎士が、雷の如く影を割った。  ―大ホール、エントランス。  「戦い……」  真っ白な少女が、周囲に広がる影を見ていた。  ぼんやりとしか見えないけど、きっと彼もあの場所で戦っているのだろう。  なら、自分ができることは。  「頑張って……」  分厚いペンダントを握りしめ、彼へと祈る。  負けないで、帰ってきて。  「!この感じ……ルビィか」  灼熱の炎剣を振るっていたレオンは、自らの体を包むぬくもりを感じた。  彼女が自分の為に祈ってくれていることを理解し、自然と頬が緩む。  「ありがとう、ルビィ」  小さく呟き、灼熱の赤を強く握った。  刃には赤い燐光が、鎧には蒼い燐光が表れている。  「よぉレオン。お前もこれから本領発揮か」  右手に白い剣を握りしめたエオスが、影の魔物を斬り捨てながら隣に並んだ。  「結局、そうなったか」  「まぁな、ついでに叱られちまった」  襲い掛かってきた魔物を斬り捨て、エオスは苦笑。  二人は背中を預けあい、影の魔物を斬り捨てていく。  「暖まってきたな、そろそろやるか」  「ああ、一気に蹴散らすぞ!」  突然の力の高まりを感じて、周囲の魔物達が一歩退いた。  「灼熱の赤よ、極寒の蒼よ」  「龍騎士の名の元に」  始まるのは力の解放、刃を隠す時間は終わった。  「無垢なる少女の祈りを受けて」  「約束の言葉を紡ぐ」  解き放て、暴れ回れ。  「解き放て」  「俺の全てをくれてやる」  巻き起こるのは蒸気と雷。  蒸気の中から現れたのは、氷の鎧に身を包んだ、悪魔のような姿のレオン。  溢れ出す煉獄の焔を携え、真っ直ぐに影の軍勢を睨みつける。  雷の中から現れたのは、白雷を宿す鋼色の全身鎧を纏ったエオス。  白雷の剣を手に、三本角の龍を模した兜が魔物達を捉える。  互いに目を見合わせ、二人は影の軍勢へと突撃した。    ※    「ひゃはははははははははっ!上等じゃねぇか、全員ぶっ殺してやらぁっ!!」  勇者は影の軍勢の中心にあって、それでもなお笑っていた。  獰猛な笑みを浮かべ、素手で魔物を駆逐していく。  その四肢は音速を超え、直撃すれば骨ごと部位を持っていく。  圧倒的なまでの力を存分に振るって、屍を増やしつづける。  その後方では、黄金の全身鎧を着込んだ聖騎士が、鞘ごと剣を振るっていた。  お前達には、剣を抜く必要も無いというかのように。  鞘に収まったままの剣で、次々と魔物を寸断していく。  大魔道士は呪文を呟き、周囲を一掃している。  魔物にとっての天敵ともいえる存在が、数百もの軍勢を沈めていく。    ※    「当たれ、当たれ、当たれぇぇぇ!!」  影の軍勢に向かって、重たい斧を大振りに振りかぶる少女が一人。  到底当たりそうにない速度で振るわれた斧に油断し、防御を固めた人形の魔物を浮かせた。  「ええええええぃぃぃっ!!」  そして、そのまま、黒い鎧を着込んだ聖騎士の元へと吹き飛ばす。  「カイルさんっ」  斧戦士の少女―更葉の声を聞いて、カイルは、  「双剣――巻風!!」  体ごと回転し、二刀を吹き飛んできた魔物へと浴びせ、更に、  「――逆風!!」  イグニファイを逆手に持ち替え、周囲の魔物を薙ぐ。  その後方では、ララバイが三日月矛を振るい、次から次へと魔物の首を刎ね飛ばす。  三人が一丸となり、多数の魔物を屠っていく。    ※    「我、剣無き者の剣となる」  自らの体よりも長い太刀を振りかざし、音速の速さで少女が駆ける。  通り道に己の軌跡を残し、彗星の名を冠した刀で影を刻む。  異常重力により動きを鈍らせた軍勢は、彼女には止まって見えている事だろう。  「じゃ、潰れてもらおうか」  黒のロングコートをなびかせ、賢者がその指を鳴らす。  音に応えるかのように大地が大きく軋み、異常重力を生み出す黒球が大量に出現する。  発生した異常重力に耐え切れず、影の軍勢が次々と地面に埋没する。  「こんなもんだね」  沈み、己の娘とも呼べる剣聖に斬り捨てられていく影をみて、アイシオンは満足そうに微笑んだ。  背後、大ホールから響くアップテンポの激しい音楽を聴きながら、冒険者達は刃と踊る。  剣戟と切り裂く音と叫び声とが彩る世界が広がる。    ※    されど、影もまた強く。  闇夜にあって全てを包み、あらゆる物を飲み込むが如く。  勢い強く。    上空から襲来する影、それは雄々しく翼を広げ、一層濃い闇を大地に落す。  「龍!?」  上空より飛来した影の龍が、一斉にブレスを放った。  大地が燃え上がり、灼熱の炎に包まれる。    「おいおい、何の冗談だっつーの、こりゃ」  エオスの前に立ち塞がった一つの影。  それは人の形をしていた。  それは黒い剣を携えていた。  それは紛れも無く、聖騎士ロリ=ペドの姿をした、影の魔物だった。  影の口が動いた、ような気がした。     ザ・ブレイド  「――騎士の従――」  その言葉と同時に、足元の影から無数の剣が出現した。  その様子を見たエオスは舌打ちし、対抗するための言葉を紡ぐ。     フタエノビャクライ  「――二重の白雷――」  紡ぐと同時に、背後に展開するのは百の雷剣が二重。  しかし、それでも無数に生まれ出る影の剣を防ぎきれるかどうか。  だが、やるしかないのだ。  本物と同等の力を持つ紛い物の聖騎士が、龍騎士へと襲い掛かる。    力尽きて倒れ伏す者達。  影は嗤い、力尽きた者達を手招きして誘う。  奏でる音楽は静かな眠りを誘う物か。  それとも、希望を捨てるなと鼓舞する物か。  誰とも無く立ち上がり、負けはしないと吼えた時。  誰もが立ち上がり、負けるものかと続けて吼える。  満身創痍がどうした、力尽きたのがどうした。  己の背後には、まだ守るべきものがある。  ならば―――  「―幾多の人々の希望一つにまとまりし時、その龍降臨し、希望を叶える為の力授けん―これは神話に記されている一節なんですがね、今までは単なる伝説に過ぎないと思ってたんですよ」  エントランスから戦況を眺める皇七郎は、誰に向けてでもなく呟く。  「ふむ、では今は―――どう思っているのかね?」  何時の間にか隣に立っていたハロウドが訊ね、皇七郎は、  「実現するんじゃないかと、そう思ってますよ」  希望が一つに束ねられた時、その龍が降臨する。  ―――冒険者達よ!!決して希望を捨てぬ人の子らよ!!―――  ―――我が力、受け取るが良い!!―――  己が内に秘める希望。  それを力と成し、再び立ち上がる冒険者達。  奏でられる音もまた希望に満ちて、彼らの背中を後押しする。  反撃の狼煙を上げろ、まだ祭りは終わっちゃいない。    ※          エンシェント・ライトニング・オブ・パラディン  「――正義執行 聖騎士の神鳴る剣――」          リュウライノキシケン  「――断罪処刑 龍雷の騎士剣――」  細身の黄金鎧を纏い、足と手に黄金剣を携えたロリ=ペドが、鋼色の全身鎧を纏い、真っ白な大剣を携えたエオスが、同時に己の最大を放つ。  二筋の雷光が一つに溶け合い、影の軍勢を焼き尽くす。  「正義は」  「裁きの鎚は」  似通いながら異なる龍に選ばれた二人の騎士が、同時に叫ぶ。  『我等に在り!!』  龍騎士―エオニスフルと、聖騎士―ロリ=ペド。  どちらからともなく、二人は今だ大量に展開する影の軍勢へと斬り込んで行く。    ※    「おぉおおぉぉぉぉぉぉぁああぁぁぁあぁあぁぁあ!!!」  氷と炎の二相対を保つ鎧と剣を身に、一層強い陽炎を纏ったレオンが吼える。  周囲の大気は凍てつき、局地的な降雪が起こる程の冷気。  その中にあって平然としていられるのは、それに負けるとも劣らない高熱の剣を手にしているからだろう。  灼熱の剣から噴き出る焔は強く、今までのように広がりはしない。  「俺の剣は、影すら焼くぞ」  収束し、大地をも溶かすほどの熱を得た剣をかざし、黒の中に緋色の線を刻み込む。  何であろうと、彼に触れることは叶わない。  極寒の冷気と、煉獄の熱気を放ちながら、陽炎のレオンは悠然と大地に立っていた。    ※    「彷徨える大地の獣よ、その咆哮を刃と変えて彼の敵を討て!!」  先ほどとは別人のように、軽々と斧を振り回しながら更葉が叫ぶ。  大上段から大地に叩きつけられた斧が大地を隆起させ、鋭い刃を生成する。  「玄武――彷哮!!」  その大地、大いなる大地の獣の顎の如く。  直線状の魔物を刺し貫き、突き進んでゆく。  「おおおおぉぉぉぉぉ!!」  風を超え、刃を超え、音となってカイルが駆ける。  黒い剣、イグニファイを掲げ、銀の剣、名もないロングソードを掲げ、影を刻む。  「双剣――神風!!」  二刀を振り抜き、発生するのは斬撃による真空の刃。  一陣の風となり戦場を吹き抜け、影を散らす。  背後ではララバイが、  「不思議なものだな。月が出ていないのにこれが使えるというのも」  月色に輝く三日月の矛を翳し、放つのは満月の光。  「月斬・全っ!!」  人を容易く飲み込む大筒の光が、影を飲み込んで無へ還す。  二つの満月の光を打ち下ろし、彼女はさらに踏み込んだ。  闇を、照らすために。  ※    上空から飛来する龍の大群が、銀色の焔に薙ぎ払われる。  軌跡すらも残さない、姿すら見えぬ速度で駆けるのは小さな少女だと、誰が信じるのだろう。  「秘剣――流星群」  静かに呟き、龍の背から背へと飛び移りながら太刀を振るい、剣聖の少女は空を駆ける。  今の彼女の目に映るのは、ただ青く澄み渡る大空と、眼下の大地に仁王立ちする、産みの親とも言える賢者のみ。  腕を組み、仁王立ちするのはアイシオン・レシオン。  不敵な笑みを顔に貼り付け、彼女は静かに腕を鳴らす。  天と地の双方から発生した重力が魔者達を押し潰し、一瞬にして片をつける。    ※    「ったくよぉ、余計なことをしやがって」  勇者―ガチ=ペドには武器など、必殺技など必要ない。  それは彼の全身が武器であり、一撃が必殺の威力を秘めるからだ。  故に、彼は亜音速に達する速度の腕を振るう。  それだけで右手に存在する魔物達が消滅した。  勇者は、影の中で嗤う。  全てを皮肉ったような笑みを浮かべ、影の軍勢を虐殺していく。  はるか後方では、ヘイ=ストが魔術を派手に放っていた。  凶悪で純粋な暴力。  圧倒的で一方的な災害のように、影を押し流し、洗い流す。    ※    フィナーレの幕はまだ遠く、幕引きするには名残惜しく。  音楽と共に奏でられる物語。  最後に響くのは希望に満ちた行進曲か、絶望に満ちた葬送曲か。  ――全てを歌声と旋律に乗せ――      ――冒険者達の音楽祭、開幕――                      「音楽祭ってのも、案外悪くはねぇもんだな」  「なら、一緒に一曲やってみるか?」