冒険者は旅をする 自分が生きている限りの地図を足で作り続ける 人が生涯を使ってでも周る事のできない世界を股にかけて ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『ジーザス=ツヴァルト』。私は皇国という一大の国の騎士団の 団長をやっていた男だ。しかし、ある日を境に騎士を辞めた。 私の失敗で私の率いる軍が壊滅してしまい、その責任を苦に自ら騎士の身分を捨てたのだ 現在の私は自分が必要としている者の為に冒険者家業をしている 自分はこの世界を生きる中で誰が私を必要としているのだろう。そう思ったからだ だが、今現在、私は冒険者になってからも同じ過ちを繰り返そうとしている リーダーとしての責任と仲間の統率を欠いたからだ。私が悪い、全て悪いのだ… ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「「「………。」」」 ここは、人々が体休める街の宿。冒険者達はそこの宿泊部屋にいた 「…これだけ?」 無言で固まる彼らの中の一人が口を開く 「何か問題でも…?」 金髪の男が恐る恐る聞くと 部屋中に響く怒声が 「馬鹿かてめぇ!!!これっぽっちじゃエールもまともに飲めねぇよ!!!!」 髭面の屈強な戦士…ルイ=ライ 笑いに混じったため息が 「ははは。こりゃちぃっと痛いだべな…」 憧れを持つ女の斧使い…ノエル=ブッシュド 諦観が 「大アリ…です…はぁ…」 寡黙で勤勉な女魔術師…セリ=シフリーヌ 一人一人が口を開くたび、男は恐縮そうな態度をとる 「申し訳ありませんでした…世間知らずなもので…」 「うるせぇ!この落とし前をどうつけてくれんだよ!!この野郎!!」 ルイ両腕で机を叩きながら怒鳴る 「あんた、あの皇国の騎士団長してたんだろ?あんたみたいなのが勤まるんなら 俺でもなれるな、ヘッ!」 ふんと鼻を鳴らして縮こまる冒険者を睨み続ける 「…っ。」 何かを言おうとごもったが、次の一言でさえぎられた 「それぐらいにしてやりなよ。」 何処からともなく声が聞こえて、一同は声のほうを見る 「ジーザスもさ、こういう時は堂々としておいたほうがいいよ。結局怒られるんだし」 「………。」 ネコ耳フードの冒険者…トトと呼ばれる少年は金髪の冒険者… そう、彼。ジーザス=ツヴァルトを見ながら言った 「こんな奴がうちのリーダーじゃどうしようもねぇな。俺は降りさせてもらう、あばよ。」 部屋を去ろうとするルイにセリがはっと立ち、後をついていく 「………私も…短い間……お疲れ様でした」 宿舎を出て行った二人を跡に、しんと静まり返った部屋 「行ってしまっただな…」 「…まぁ、依頼料も持ってかれなかったみたいだし。この人数ならお金、足りるから 結果オーライなんじゃない?」 残された三人の冒険者、トトがふてくされる様に言いながらベッドの上に寝転がる 彼は知らなかったとはいえ、本当に申し訳ないことをしたと思っていた 「…。」 「しょうがないな、じゃあ…ジーザス」 「なんでしょうか…」 「こっち来なよ、一杯やろ。ノエルもさ」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「すみません…ヒック!」 「あんな少しの酒で酔いすぎだよジーザス。」 酷く落ち込んでいるようであったジーザスを慰めようと 今日の報酬を使い切ってエールを飲み交わしたのだが、飲んだ酒が知らない上に非常に強く 他の二人が酔う前に彼のほうが先に立てないぐらいぐでんぐでんになってしまっていた。 ノエルが私に肩を貸し、宿の外へ出て夜風に当たらせようとする 「本当にすみません…私がしっかりしていなかったばかりに…」 「いんやもう気にしてないべさ、また次頑張るべ。」 「そうそう、あんまり気にしすぎると胃に穴が開くよー?」 (私の罪は重い。殺しはしなかったものの私の失敗で仲間を失ってしまった こういう時、かつて私の率いた軍が惨憺たるものになってしまった事を思い返してしまう) 二人は冗談を言いつつ笑っているが、彼には笑うことができなかった 「…どった?顔色悪いべ。吐くんか?」 「い、いや、別に…」 「遠慮はなしだよ。ここで吐いちゃいなよ!」 「本当にいいんですよ…ふぐっ!」 背中を思いっきり叩かれた。今のが原因で本当に吐きそうになってしまう 「ちょ、やりすぎだべさトト…」 「ご、ごめん…大丈夫?」 咳をしながら蹲る私に二人は私の背中をさする (無様とはこの事を言うのでしょう、自分が惨めになってきました) 「ジーザス泣いてる…?」 そんなこんなをしていると、正面の向こうから黒い集団がこちらに歩いてくる 軽装にターバン姿、ナイフをしまっておく鞘。見るからに堅気の連中じゃない様子の連中 ここら一帯にシマを張っている盗賊達だ。彼らはジーザスたちを囲んだ 「へへへ…有り金全部置いていきな」 「生憎、お金はもう持ってないんだべ、他をあたってくんろ」 「ふざけんじゃねえ!隠してねぇで出さねぇと女子供関係なく殺すぞ!」 脅しにも本気にも聞こえるその声にも関わらず、彼らは落ち着きを払っていた。 そう、冒険者はこれぐらいでは怖気づく事はない。いくつも修羅場をくぐってきた 彼らという人種は、騎士をも凌ぐほどの勇敢な心を持っているのだ。 「ここらへんの治安は悪いみたいだね…で、どうするの?やる?」 「…治安隊が来るまで時間を稼ぎましょう。分かっているとは思いますが、殺してはいけませんよ」 「了解、そうでなくっちゃ。」 そう言うとトトは相手の有無を言わさずに手に持つ杖で盗賊の顔目掛けて突いてきた 「ぐあああ!」 「て、てめぇ!やっちまえ!!」 まとめてかかってくる盗賊たち。だが突如、ノエルが前に出てきて斧を力いっぱいに 大振りする。盗賊は怯み後ずさんだ 「そんなに束になって掛かっちゃ卑怯だべ。女子供相手に一対一ぐらいハンデをくれてもいいっぺ?」 「うるせぇ!お前ら怯むな!ぶっ殺せ!!」 次々と掛かってくる盗賊に二人は見事に牽制をしていく。 「…私も…おあっ!」 私は立とうとするが、まだ酔いが回っているらしくまだ足が言うことを聞いてくれず 尻餅をついてしまった (…我ながら情けない) 「うわぁっ!」 トトが殴られ、仰向けに吹っ飛ばされた。そして盗賊がナイフで止めを刺そうとする 「トト―――――!!」 もう駄目だと思ったその瞬間、私は思った 『また、仲間を失ってしまうのか…』 と。私はその恐怖に追い込まれ、思わず目を瞑ってしまった …どれだけの時間が経っただろう。目をあけるとそこには先ほどの状態となんら変わらなかった ナイフから身を守ろうと蹲っているトトに、ナイフを突き立てる盗賊。 しかし盗賊は動かない、のではなく動けないのだ。そういった様子だった 「………あぶない。」 束縛の魔法をかけた魔術師…セリ=シフリーヌは杖を掲げながらそう言った 「…蒼炎…」 ゴオオオオ、と盗賊の体が青白い炎に埋め尽くされていく 「セ、セリさん!」 「……こんばんわ………もう大丈夫です……」 「殺してはいけませんよ!」 「……え?………あ。」 セリは杖を引っ込めると、盗賊は黒焦げになってぶっ倒れた 「大丈夫……息はしてます……」 唖然となる一同に今度は別の方面から咆哮を上げるような怒声が聞こえる 「おらぁぁー!!!死ねやあぁぁぁ!!!!」 見れば熟齢の戦士ルイ=ライが30メートルもの剣を翳して今にも落とさんとしている 「ルイさん!!」 「おう若いの!元気そうじゃねえか!!」 「振り下ろさねぇでくんろ!こっちもおっ死んじまうべさ!!」 「お、おう。そうかそうか…」 二人の登場により、盗賊たちは怖気づき、やがて次々と逃げ出していった 「ふぅ…助かったみたいだね」 トトは状態をゆっくりと起こすと、ため息をついた 「でもまたなんでここに?」 ノエルが体についた埃を振り払いながらセリ達に聞く 「いやな、セリちゃんが…いででっ いてぇな!」 「……さりげなく…お尻を触らないでください……… ………謝りたくて…ついカッとなってしまいました……ごめんなさい…」 頭を下げるセリに、ルイも腕組みしながらこくりとうなづく 「俺も悪かった。ごめんな」 「あなた達は悪くはありません、謝るのは私のほうですから…すみませんでした」 彼らは互いに謝りあう。その滑稽な様を見て、トトが口を開く 「それで。また、冒険してくれるのかい?」 「ああ、若いのも反省してるようだしな。当然俺も反省してるから。 これからは0のスタートって事で」 「……これからも宜しくお願いします………」 「みんな…」 喧嘩をし、さらに固く結ばれた絆を互いに感じあう5人。 しかし、そのムードを壊すような地に響く声が聞こえた 「俺の子分が随分世話になったようじゃねぇか。」 見れば髭もじゃで、異常な背丈の屈強な大男がそこに立っていた。 「…親分がお出ましってところかな?」 「よっしゃ俺に任せろ、デカいだけのブツは俺の剣に丁度いい…ん?」 威勢よくルイが前に出ようとするが、一人の人物に遮られる 「私がやります」 ジーザスは男の前に立った 「酔ってたままで大丈夫だべか?ふらふらじゃ…」 「安心してください。これでも、戦士ですから」 そう言うと、鞘から剣を抜く。異質な姿のその剣はまるで『機械』を連想させるようだった 「ひょろっちいの、お前が俺様の相手を?笑える話だな。がはははは!」 「トト、こっちへ」 笑われるが気にせず、彼はトトを呼び、ゴニョゴニョと耳打ちをする 「…へー、うん。わかった」 「その緊張感の無さ、気にいらねぇな。じわじわと嬲り殺してやろうか」 眉間に皺を寄せる盗賊の親分、内緒話を終えるとまたジーザスも相手を睨み体制を整える 目を瞑り、手に力を入れ、剣に力を込める ―――――剣よ、『ゼクス』よ――――― 思いが念じられた時、それは「ボシュッ!」という異様な音を出す やがて剣はバチバチと轟音を鳴らす。地に鳴り響き、風が揺らぐ。 そして、剣は迸る雷を帯び、剣身は熱を帯び真っ赤に染まる 「…な、何だァ?」 「死んでもらいます…いいですね?」 「ふ、ふざけんなよ!!!しし、死ぬのはお前のほうだ!!!!おらぁ!!」 盗賊の親分の巨体がジーザスの方へ向かってくる しかしジーザスはそれを軽々と避けて彼の後ろに回った 「な、何!?」 「今ですよ、トト!!」 「よし! 『その者の滾る血を嘆きの水で薄めたまえ ブラッドロウ!!』 」 杖を掲げ、その瞬間ジーザスは青いオーラに包まれる 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」 その瞬間、雷光を帯た一閃が盗賊の親分の背中を刻んだ 「ぐはあああああぁぁぁぁぁぁ!」 巨大な体はズゥゥンという音と共に地面に伏された。冒険者達は勝利したのだ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「いやー、治安隊から懸賞金貰っちゃって今日は超ツイてるなー!」 「おまけに表彰までされちまって…こっ恥ずかしかったべ」 ここは村の宿。あの街とは別の宿。彼らは冒険者。冒険者は旅をする。 「ところでよぉ」 「なんですか?」 「俺の勘が鈍ってなけりゃあの盗賊のデカブツ、まだ死んでなかったんじゃねぇか?」 自分が生きている限りの地図を足で作り続ける。彼らの目的を遂げる為に。 「初めから殺すつもりなんてありませんでしたよ、ですよね。トト」 「うん。ジーザスにかけた魔法の事でしょ?」 「……対象の力を弱める魔法を使っていました……それを味方にかけるとは……」 人が生涯を使ってでも周る事のできない世界を股にかけて 「無意味な殺生は騎士の誇りに反しますからね」 「「「「今は?」」」」 「冒険者です」                           ――― 冒険者『ジーザス=ツヴァルト』 終 ――― キャスト ジーザス=ツヴァルト トト 06/11/11(土) セリ=シフリーヌ ♀ 06/10/29(日) ノエル=ブッシュド 06/10/22(日) ルイ=ライ