「…〜♪   …〜♪」 静かな夜の森に透き通るような歌声 その声は生きとし生ける者達の為に歌う安らかな子守唄のよう 清らかに歌う声の主はそれとは裏腹に、恐れられるべき魔族の少女 しかし邪まな心を露にしない彼女の美声は優しく響き、魔族も人も関係なく聞くもの全てを癒す 「…〜♪   …?     ……!」 ガサガサッ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「…何か、聞こえませんでしたか?」 「ん?別に何も聞こえないよ」 私はジーザス=ツヴァルト、嘗ては"皇国"という国家の騎士団の団長をやっていたが 訳あって今は冒険者をやっている。パーティのリーダーだが、己自身が弱く、世間知らずだ 返事をした彼はトト。私たちは冒険者パーティの一員だ。魔法使いで、私たちのサポート係に 役立っている。人懐っこい反面しっかり者で、私の知る限りではへたな大人より大人っぽい印象を受ける 今は新たな依頼でこの地…『オルピアンツ森』と呼ばれる場所に来ている 「ふふ、リーダーさんは疲れているのよ。いつも一生懸命で私たちを気遣って下さってるものね」 「あーいいなー!オレもパルちゃんに指でほっペさらさらして欲しいな!」 彼らもまた同じ冒険者パーティの一員だ。 私に慰めの声を掛けている踊り子風の彼女の名前は、パル=メザン。 その有り余る美貌で世の男性を魅了する女性で、キスだけで別荘を貰ったという程のものだという 誘惑する事があっても自分は処女だと言っている事実がある辺り、芯のしっかりした女性なのかもしれない 私の事を羨ましそうに見つめている気迫たっぷりな性格のラフな格好をした彼はニッカ=ボッカ。 熱血漢でいかにも体育会系の顔つきをした彼には、この冒険の熱気のエネルギーを貰っている 堂々として涙脆い様はまさに"男"といった感じだろうか。つるはしを武器にして戦っている 前回パーティにいたメンバーとはもう随分前に別れてしまっていた 原因は別に喧嘩別れとかではなく、至極円満的な形で。 同じ仲間と永遠を共にし旅をする冒険者達がいる中、最近では仲間を度々変え続けることで 冒険者間の情報ネットワークを広めるというスタイルが増えてきた 私たちもその一環にあり、私たちは契期を迎えて別れた。そこには涙もあった。 「あはは、ジーザス照れてる」 「そ、そんな事は…」 …しかし、トトは例外だった。彼は前回にいたパーティの一人だった 私たちは別れると、すぐに私の跡を付いて来た。初めはこれはルールなのでと断ったが それでも私の元を離れず、熱心で真っ直ぐな物言いに感化されてしまった私は 結局彼を再びパーティに向かい入れる事にしたのだ 「うるさいですよ!少し黙っててくれませんか?」 私たちの笑い声を遮るが如く、大声を発する一人の魔法使い…マルメ=カイオは言った 「お前!そんな言い方無いだろうが!」 「うるさいからうるさいって言ったんですよ、それの何処が悪いって言うんですか 耳障りにそちらで話されては私の仕事に支障を来たしますから黙っててください」 彼もまた私たちの仲間なのだが、また例外で、それは冒険者養成学院からの依頼であり 一定期間私たちに同行しその冒険の仕事を実習してもらいたいというものだった 「なんだと…!」 「まぁ、落ち着いてください。それでマルメさん、首尾はどうですか?」 「ふん。」 ジーザスがニッカをなだめる。マルメはそんなニッカを睨みながらメガネに指を当てる 私は一応依頼として任され、報酬も受け取ったのだが、無理に冒険を強要され 自由を奪われ不貞腐れる彼を見ていると、(酷な事です)と私は同情をせざるを得ないでいた 「私の魔力反応の調べによりますと、この先を抜けたところに目的のものがあると推測します」 「ふうん、この先を行けばあの"古木"に会えるって事ね?」 「はい、そうです。」 「ふふ、さっさと行ってとっとと片付けちゃいましょ?じゃ、マルメちゃんお疲れ様。ちゅっ」 パルがマルメの頬にキスをする。一瞬何が起こったかと彼は思うと 自分のされた事を自覚し、頬をさすりながら赤面をする パルは早く行こうと言わんばかりに大降りの手で一足先に奥へと入っていく 「ほらリーダー!早く行こうぜ!今日こそ夜ぐっすりと眠りたいからな!はははは!」 大いに笑いながらニッカはパルの跡をついて行く。 彼らはキャリアのある冒険者。彼らは自由だ。冒険そのものを生きる道として 精一杯楽しく生きている。私たち冒険者とはそういうものだ。 「そうですね。トト、行きましょうか」 「ん?ああ、そうだね…マルメ、早く来ないと置いていくよ」 「…わかってます。」 一同は目的の場所へ向かった ガサガサッ オヤジナイトがあらわれた! 「やっと骨のありそうなやつが出てきてくれたわね」 「よっしゃー!燃えてきたぜー!いっちょやっかー!!!」 「前衛は頼みました、トトとマルメさんは私たちの後ろで援護を頼みます」 「わかったよ」 「任せてください。」 「オギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 オヤジのような生物に鎧を纏った騎士が乗っかっているようなそのまんまのモンスターは 腹をすかせ咆哮を上げながら私たちの前に5、6匹の集団で現れた その中の1匹は剣を振り翳しニッカの方へと突進してきた! 「ッシャァァー!!」 襲い来る剣をニッカがつるはしではじき返す。 「今だ!いくぜええええ!!」 その反動で魔物がよろめいた隙を突いてニッカはつるはしをオヤジの乗り物の眉間に振り下ろした 「あんぎゃーーーーーーーーーーーー!!!」 大声を上げるオヤジと思しき生物。これは効いたのか、一たまりもなさそうに思わず立ち上がる 乗っている騎士は振り落とされ、オヤジが逃げると同時に騎士も逃げていった。 「よっしゃー!」 「へぇ、中々やるじゃない?次は私の番ね…」 敵の剣撃を鍛錬された身のこなしで華麗にかわしていく。それはまるで踊っているかのように 「はっ」 舞うかのようにジャンプをし、魔物の背後に回ると 持っていたカタールで騎士の鎧の隙間に刃を突き刺す、騎士はぐらりと前に倒れた 「姐さん最高!うおー!モえてキタぜー!!」 「うふふ…ありがと。さ、今度は貴方達の番よ。どっからでも掛かって来なさい」 カタールを魔物の群れに指差すように向ける、敵わないと知った魔物は怖気づき逃げていった。 「あらあら、逃げられちゃったわ」 「…へっ!つまんねぇの!これからがいい所だったのによ!」 魔物の群れを倒した! 経験値 2000オヤジ お金  1000オヤジゴールド 戦利品 オヤジの??? 戦闘を終え生き生きとしている二人を見て、ジーザスはちょっと残念そうにうつむいていた。 (…私の出番がなかった) 「終わりましたか。では先を急ぎましょう」 達成感に浸ってる二人を冷静な声でマルメが促すと、一同は森の更に奥深くに入っていった カサッ… 「さてと…ん」 トトも行こうとすると、背後から何かの気配を感じた 「魔物か?」 トトは杖を握り身構える、手に汗握る瞬間。そして突然、何か黒いものが草木から顔を出した! ガサガサッ 「…。」 「君は…」 「トトー、早くしないと行ってしまいますよー!」 一同はとある大きな古い一本の木の前にいた。 「これが例の…」 「嫌ね…なんだかこの場所、気味が悪いというか、何というか…」 パルだけでなく、他のみんなも薄々感づいているようだが、ここは何か雰囲気が違っていた その大木からは他のどこにでも生えているような木とは別な感覚におそわれた。 「何だか木々が大木を避けているようにも見えるんだがな」 「依頼主が言っていただけの事はあるって事ですね。では、マルメさん。魔力の集積を頼みましたよ」 「わかりました」 マルメが懐から空瓶を取り出す。蓋を開けると、彼はそれに向かって念じた 「…」 紫色に光る煙が瓶に集積されていく。瓶の中が満たされると、マルメは蓋をした 「できました、完璧です」 「お疲れ様でした。後は依頼主に報告をしてこれと引き換えに報酬を貰えば依頼終了です」 「よっしゃー!魔力とったどー!!」 「ははは…うーん。でもさ、何でこの木一本だけに魔力があるんだろうね」 「そうですね…こんなお話知っていますか?」 トトがふと疑問を投げかけると、私は答えた 「もう結構前の話になってしまうのですが。この木、元は"魔物の木"だったんです」 「魔物の木?」 「はい、結構な魔力を持ち合わせていまして。森の中で猛威を振るっていたそうです」 「へぇ!リーダー物知りじゃないか!博識なチャラ男だぜ!」 「ありがとうございます。チャ…?まあいいでしょう。 とにかくでも、もうとある冒険者に倒されちゃっててそれも収まったので 今は只の古びた大木という訳ですが。」 「そうだったんだ…じゃあ今は大丈夫なんだね。」 「…。」 マルメは何か深く考えるように黙っていた、パルはそれに気づく 「どうかしたの、マルメちゃん?」 「…先ほど魔力に触れた私から言わせて頂きますが、何というかそれ程邪悪なもの…とは感じませんでした」 「結構昔の話な上、倒されたお陰で魔力が善くなったとは考えられませんか?」 「そうも言えるのですが、善いとか悪いとかそう言うものではなく…」 「何か…別の何かが…」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「泣いている…の…?」 冒険者達が古木を跡にした後、一人の少女はそこにいた 魔族の彼女はその木に寄り添い、語りかけていた 彼女の名は『くろっち』…かの有名な魔物"ももっち"の亜種である 「…〜♪」 少女は歌を歌う、それは子守唄。その歌は聞くもの全てを癒していく力があった 生きるもの全て、故に古木も癒しの声を聞いていた 人と人ならざるものとの間の知られることのない悲恋 今までも、そしてこれからも永遠にそうなのであろうが 事実を理解せずとも無念を悼む優しさは、木である彼女の心に大きく響いた 「…〜♪   …〜♪」                                  ― 冒険者達の冒険『オルピアンツ森』  終 ― キャスト(+引用元) ジーザス=ツヴァルト トト 大全より マルメ=カイオ 大全より ニッカ=ボッカ 06/11/18(土) パル=メザン 06/10/21(土) オヤジナイト 06/09/30(土) くろっち 06/04/10(月) 現地(+引用元) オルピアンツ森のネリー 06/11/13(月)