言及だけの出演含めて使わせてもらったキャラは 構えずのスエイ              西国騎士団 聖女クリス=アルクと魔剣ビスティ     西国騎士団 エルネスト=レインと魔弓サイクロディア  西国騎士団 銀陽の魔刃                西国騎士団 神父イル=ヘンストック          聖教会 『ゴスペル』ディバイン=クァイト     聖教会 傑士聖ドラクロワ             西国 イノケンティウス=パウロ=メックト    聖教会異端 破天冥王イツォル             魔同盟 不敗将軍黒雲星羅轟天尊          魔同盟 原初の朱                 事象龍 エレム=P=エルンドラード        皇国将軍 無刀のキルツ               皇国将軍 ブラックバーン=アーム          皇国将軍 ガーデニア=ローデシルト         東国騎士団 です。 話の都合に微妙にあわせてる部分もあります。ご了承のほどを。               『西国最強の――』                the West ONE  腹の底に響く振動で目が覚めた。まぶたをこすり、やわらかな羽毛の布団の感触を楽し んだところで気付く。ああこれは鐘の音だろう。窓を見やれば案の定外はまだまだ薄暗い。 全く、これだから坊主というのはね。  まだいいだろうという思いとは裏腹に意識ははっきりしてきて、観念して身体を起こし た。布団は上物としても目に飛び込んでくる部屋の内装は寂しいものだ。何がどんな風に あって寂しいかって、寂しいのは当然何もないからで……まあそのお陰で寝起きに大きく 体を動かしてほぐしても何かに当たる心配がないのは悪くはない。  意識に次いで体が完全に覚醒した時には、既に重い鐘の響きは止んでいた。途中で起き たので回数は分からなかったが、しかし鳴る定刻と外の様子を見るに今は午前五時らしい。  ここは二階で、そう見晴らしがいいというわけではないから日の出る地平が見えるわけ ではない。代わりにと、すぐそこに見えるのは重苦しい尖塔だった。さきほどの音が響い てきた大元だ。流石、聖教会の三大権威の一つが在る場所に相応しい荘厳さ。しかし暁の 暗さの中見上げるそれはただただ重苦しく、寝起きにまず目に入れたいとは思えない。 「〜〜〜〜ったく、あ〜眠ィ……」  首を回しながら大げさに毒づく。こういう事は今のように独りで居る時にしか出来ない 事だ。機会は有効活用せねばならない。  しかしそれも、長くは続かないようだった。ドアの向こう、遠くから足音が聞こえて来 る。軋む音が悪魔の鳴き声のように感じるのは、俺にとってと限ればまんざら間違いでも ない。慌てて寝巻きを剥いでベッドの横にかけてある服を引っつかむと、素早く身につけ ていく。我ながら恐るべき早業。昔から何かと器用で良かったとつくづく思うが、こんな 風に慌てている事自体その器用さがもたらした境遇なのだからそれは変か。一人頷きなが ら、両の手で二度ほど頬を叩く。引き締めなければならない。身も心もだ。  何にしろ、部屋のドアが二度ノックされた時には、ぴっちりと着替え終わって更に頭に 軽く手櫛を通した俺は窓際に立って今まさに昇らんとする太陽を眺めており、低く抑えた 声で「起きているよ」とだけ簡潔に答えた。ギイと古臭い音を立てて開かれるドアにタイ ミングを合わせ、そちらへと視線を流す。  開かれたドアの向こうに居るのはローブ状の黒っぽく地味な衣に身を包んだ男だ。その しみったれた服装と同じくしみったれた顔で頭を垂れる。言っておくが別に彼が個人的に 嫌いなわけではない。まあ勿論起こして貰うなら男より女がいい。今俺が居るここは教会 関係の建物なのでそれは望むべくもないが、しかし例えば起きて目を開けたそこに、『彼 女』が居たら……ショック死しそうだな。 「おはようございます。そちらのお食事の用意はさせていただきましたが……」 「あ、ああ」  軽薄にならない程度の笑みを浮かべて答える俺の脳裏に全然別の事がふと浮かぶ。つま り目やにはちゃんととっただろうかと。そんなものへばりつけていたんじゃ急いで着替え た苦労も水の泡。全くキマらない。  だがまあ相手を見るに、そんなことは無かったかもしくは彼がそういう事に無頓着な相 手であるようだった。ただ俺の返事が歯切れ悪い事にかすかに首をかしげる程度で。 「あの?」 「いや、なんでもない。今すぐいただこう」  外套を手に、使者を促した。窓を離れる一瞬、質の悪いところどころが半透明なガラス に顔が映った。やや縦長の輪郭に切れ長の瞳が冷静沈着な風に澄ましている。我ながらま さにいけすかない野郎だと苦笑した。顔には出さないが。  そしてこの顔が存外いい仕事をしてくれる。 「ではこちらです、スエイ殿。昨晩と同じ場所で」  俺は今西国にとって……いや大陸中央部のほぼ全ての人間にとって重要な場所の一 つに居る。  周囲全てを水に囲まれた、湖の小島に建つ大聖堂。いや、大聖堂そのものになった小島。 数百年に渡って増築されてきた多層建築物は、水が照り返す夜明けの光を受けて輝いてい るだろう。さきほどは重苦しく寝起きには悪いとは言ったが、外に出て見るそれはまた別 だ。  それがここ、聖教会三大山が一つネウストール総主教座が置かれた水上大聖堂である。    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  西国の最上位に居る者とは、西国最強の権力(パワー)を持つ者とは誰だろうか。  西国は教会の国と言われる。傑士聖ドラクロワをはじめとする西国四大諸侯は全て聖職 にありながら領地を持つ聖界諸侯だし、西国の頭脳と呼ばれる男もルゥエンの大司教だ。 これは、聖教会の三つの総主教座のうちの一つが領内にある事と無関係ではない。総主教 とは端的に言って教会のトップである。当然その影響は巨大なのだ。  では西国最強の権力とはネウストール総主教なのか? (…………には見えないよな)  朝食をとって二時間ほど後、俺は先ほど居た質素な建物ではなく石造りの館の中に居た。 当然大聖堂の根幹を為す礼拝堂ではなくてもっと機能的に意味のある執務用の館である。  そしてここを執務室として普段使う者が――つまり総主教が俺の前に居た。  深く刻まれた皺は彼の年功を示していたが、眼前の若輩者を見るその視線が全てをぶち 壊していた。  怯えだ。  頑張って貼り付けた冷ややかな表情の俺を前に、総主教は完全に萎縮していた。  ――教権は、敗北していた。百年以上前の三大山の教会分裂(シスマ)は俗権に対して 決定的な機会を提供してしまったのだ。内紛につけ込んだ各国は教会の権力をしきりに蚕 食した。  かつて王国連盟が今の形になるもっと以前には、全ての国に働きかけて魔王『皇帝』イ ツォルの東方破天帝国へ十字軍を派遣させたという。その歴史には皇主に鐙を支えさせた という一幕もあった。聖教会が聖典と“認めている分の”創世記にて、『唯一の創造神た り全事象が彼(か)と同一たる』と記された原初の朱(はじまりのヴァーミリオン)と、 あの黄金正義を別位であると主張した暁龍派――提唱者からケレスト派とも言う――を異 端認定し、その中心人物で王とまで呼ばれた枢機卿イノケンティウス=パウロ=メックト ごと葬り去った事もある。  それも今は昔、前大戦を越えずして彼らはその力を失った。いや、教会の没落と皇国の 飛翔こそが前大戦へと歴史を流れさせたのかもしれない。どちらにしろ、三大山の中で最 も強大な勢力を持ち、総主教座の中での首位を主張して教皇を名乗ったロタリア教皇庁も 皇国に屈した。今や教皇は十五歳の若輩で、しかも女だ。もはや権威など地に堕ちたに留 まらず泥に塗れて踏みつけられている。彼女・エルンドラードは全く優秀な人間だそうだ が、つまり優秀な皇国の傀儡がまだまだ死なないのだ。聖教会にとっては悪夢以外の何だ ろうか。  爺より可憐な少女の方が目にはいいなと思うが、終身である聖職者だ。経験豊富で酸い も甘いも噛み分け、そして何より“どうせ長くはない”ご老体の何と適任なことか。世界 は上手く出来ているもんだよ。  そして西国も同じ事だ。聖界諸侯が多いのは教会の力が強いからでは決してない。逆だ。 司教や大司教を誰が選ぶのか、その権利を国王が握っているから司教領主が多い。叙任権 を制した王宮は領土を制し、貴族を制した。  西国における権力集中は、他の王国連盟加盟国に比べて頭一つ抜けている。 「なに…………」  椅子に預けていた背を起こし、机に肘をついておもむろに前に出た。相手があからさま に引きつるのが見える。楽しいのでもっとやりたいが、『スエイ』のガラではない。繰り 返す事はせずにそのまま息を吐いた。 「そう身構える必要はありません。私が来たのは至極簡単な頼みを伝える為です」  極めて冷静に、なだめるようにしてかすかに微笑む。しかしそれで相手は安堵を覚えは すまい。笑う俺は冷徹な、形だけの笑いを浮かべた畏怖すべき者に映っているだろう。だ が実際俺は彼に対してそう悪い感情は持っていないし、そして彼は今凄く幸せな立場で、 それをめでたく――と言っては言いすぎかもしれないが「よかったね」程度には思ってい る。  彼は幸福だろう。ちょっとした地位についているだけの、油断ならぬ風に見えるだけの、 その俺に見つめられているだけなのだから。『彼女』が直接来たわけではないのだから。 彼にはその幸福が実感出来ないとしても、だ。 「至極、簡単な。……は、はあ」  俺の言葉を復唱して、しかし総主教は得心していないようだった。ロタリア教皇庁が皇 国に強要された屈辱の事を考えればそれも判らなくはない。とはいえ、この国は教会を最 大限に利用している。必要以上に陵辱する意味はない。 「聖歌(ゴスペル)と神意(プロヴィデンス)を借していただきたい」  一段身を乗り出して目を見開く。悪いが威圧ぐらいはさせて貰おう。必要とあらば耐え もするが、まどろっこしいのは好きじゃない。 「裏聖堂参事会を出せというのか」  ただ、今わの際で絞り出すような総主教の声を聞いても、俺はサディスティックな愉悦 とかを感じたりはしなかった。    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  『神意』イル=ヘンストック。異様な精密動作によって自在に操る銃より精神を塗り替 える弾丸を発射し、敵の撃破と共に戦力を増強する攻防一体の狙撃手。  『聖歌』ディバイン=クァイト。徹底的な偏向教育と肉体強化によって生まれた神の家 の狂戦士。二本のハルベルドを軽々と振り回し、全てを薙ぎ払う暴風。  巨体の神父と華奢な修道女。この二人こそ俺が総主教より引き出してきたカードだった。  『裏聖堂参事会』。長きに渡って教会が練り上げてきた技術の全てを結集した聖教会の 最強戦力。その数までは把握していないが、そう多くはないだろう。彼らは絞り込まれた 一騎当千の戦士だ。ちなみにどこか特定の聖堂の参事会というわけではないらしい。よう は神の聖堂、という事か。  夕焼けが見える頃。王都が間近に迫ってきたのを見て、馬車の中で俺は呟いた。前には その二人が居る。 「エルンドラード」  教皇にして皇国の将軍に就けられた、少女の名。彼女は武勇にも優れ、他の将軍にひけ をとらぬと言われている。あの、かつて存在した巨大傭兵団で最強を誇った副長や、十二 賢者の一人とタメを張るほどの死霊術師の居る将軍達と?……十五歳の少女が?  二人が顔を上げた。 「……彼女も裏聖堂参事会“製”だな」  必要以上に目を鋭くして、二人を見据える。狂徒を前にして、俺はいつもどおりのポー ズを崩す事はしなかった。それは俺の生き方だからだ。そしてそれは彼らにも十分意味の あるもののようだ。キョロキョロと忙しなくこちらと神父を見るクァイトと、真っ直ぐこ ちらを睨むヘンストック。 「そうか」  答えを待たずに、俺は頷いた。ヘンストックがかすかに目を細めて、そして一つ息を吐 くと口を開いた。 「どうして我々を?」  それは答えようのない質問だった。知らないのだから。俺はただ『彼女』に言われて彼 らを迎えに行っただけの事だ。とはいえ裏聖堂参事会を動かそうと言うのだからただの使 いっ走りで済ませるというわけにも行かなかったわけだ。 「着いたら説明しよう」  だがそんな事は喋らず、大仰にただそれだけを返す。俺はただのパシリです知りません とは、言えないのだ。 「…………ふん」  それを最後に訪れた沈黙は、そう長く続く事はなかった。 「あの、何処へ行くのでしょうか」  王都へ着いたのだ。それでもメインストリートを真っ直ぐ進む馬車に、修道女が不安げ な視線をよこした。全く、これが教会の切り札たるバーサーカーとはにわかに信じられな いが、欺く外見は他人事でもない。 「城に決まっているだろう」  突き放すような俺の物言いに、「はあ」とだけ答えて修道女は外へ視点を泳がせた。つ られてというわけでもないが、同じく外を見やる。教会の尖塔の向こう、朱に照った白亜 の城が段々と近づいていた。 「王様ですか……」  しばらくして、漏れるように放たれた修道女の呟きに、俺は一瞥だけくれて何も言わな かった。別にその言葉に間違いはないからだ。正確ではないとしても。  かくして王宮の敷地内に入ったところで馬車は停止した。油断ならぬ二人を前に狭苦し いカゴの中で揺られ続けるのもやっと終わりだ。伸びをしたいところだったが、ぐっと抑 えて無表情を貼り付けたまま二人を振り返る。「ご苦労だったな」……あたかも自分は何 でもないという風に。  二人が馬車から降りて本殿の方に向かおうとするのを、俺は呼び止めた。きょとんと修 道女が振り返る。 「そちらではない。こちらだ」  脇を指して、俺は歩き出した。せかせか急ぐのはみっともないので大また気味にちんた ら歩く。布に包まれた自分の背ほどもある何かを担いでのそのそと歩く神父の後から、修 道女が戸惑いながら着いてきている。 「スエイ殿!」  と、後ろから御者の声がした。立ち止まって振り返ればこちらへと小走りで近づいてく る。なるべく怪訝そうな顔はせぬように、相手を迎えた。 「なにか」 「え、あ、いや、え〜と、そのですねぇ」  御者の男は歯切れ悪い。少し考えて、腰を探る。金貨を一枚握らせてやると、男はその 表情を更ににやけさせた。 「すまない。これからも頼むぞ」 「へ、へ、無論でさぁ」  また小走りで立ち去って行く御者を見て、失態に後悔する。ただし苦い表情は心の中だ けに留めておこう。  すぐに気をとり直して歩き出そうとしたとき、修道女が高い声を上げた。 「『構えずの』スエイさん、なん、ですかぁ?」  頷きながら、そういえば此処に来るまで誰も俺の名を呼ばなかったし、俺も名乗ってい ない事に気付いた。察しの悪い娘だと思ったが、戦闘以外は切り捨てているのだろう。  娘の視線を気に留めぬフリをして、俺は真っ直ぐ城に備えられている礼拝堂へと向かっ た。  ――『構えずの』。それが俺の二つ名だ。無益な戦いは絶対にしない誇り高き騎士。抜 剣さえ見えぬ剣技は西国において右に出る者なし。故に西国最強。  ――嘘だ。俺は剣技ってものがからっきしダメで、とてもじゃないが人に見せれたもの じゃない。鍛錬ぐらいはしているにしても、元々運動自体それほど得意でもなかったしセ ンスという面で語ればひどいものだ。覚えの悪さは折り紙つきだった。ゆっくりと落ち着 いた風に歩くのはそれをごまかす為でもある。  無論俺にだって長所はある。俺が評判を上げたのは、ある時王の御前で行われた集団騎 馬戦の試合での圧勝が元々だった。俺はこと用兵に関しては絶対的な自信を持っている。 親から貰ったこの顔は、その能力を見る者により驚異的に映させた。冷たい表情と鋭い眼 光の下で、容赦なく勝利を得る指揮官。そういう演出を味方に、そしてそれは馬上以外で も役に立った。いつでも冷静沈着、不敵な俺は、最低限の会話という変則的な口八丁で多 くの場を切り抜け、それは試合での活躍とあいまって噂は錯綜し気付けば『構えず』の名 と共に西国最強という立場を手に入れた。  本来の俺はこんな砕けた男だが外面はあのように全然違う。一人称は私だし、たまに口 を開いて言う事は冷たい言刃かキザったらしい台詞だけ。騎馬試合の仲間達や王を含む見 ていた者達は、俺が注目される切欠となったのがその試合で、剣技ではない事を当然知っ ている。だがその者達ですら、俺が強いと思い込んでさえいる。  俺に気付けぬ相手程度にやられるほど馬鹿ではなく、そして俺に気付ける者なら不用意 には動けない。完璧な立場だった。  『彼女』に会うまではだが。  そして『彼女』に出会った後は―― 「裏聖堂参事会のお二人ですね」  俺が扉を開くと同時に、薄暗い礼拝堂の中から声がした。柔らかい女の声。 「聖女……」  言葉を零したのは俺ではなく神父だ。その声にはさほど驚きは含まれていない。引き合 わされたのが栗色の髪と金色の眼の女騎士である事は、教会側にとっても予想の範疇だと 言う事だろう。まぁそれは当たり前の事だ。 「副長殿からじきじきに連れて来られたのだ。貴女が来るのは道理だな」  ヘンストックは吐き捨てるように言う。  そう、西国最強『構えずの』スエイは西国騎士団副長でもある。そして長が、眼前の女 だ。  『聖女』クリス=アルク。西国の都市ラミアンにおいて魔王『戦車』黒雲星羅轟天尊を 撃退した“ただの女”。そのカラクリは不明だ。だからこそ奇跡であり、通常ありえぬ生 きた人間に対しての列聖などという事態を引き起こしている。まあこれは皇国に踏みつけ られた権威を取り戻し、更に言えば威信が壊滅的なロタリア総主教座を尻目にネウストー ル総主教座が返り咲くという西国王とネウストール側の思惑もあってのルール破りらしい。 事実として皇国傀儡であるロタリア側は認めていない。もはやその発言には何の影響力も ないが。  ――そしてそれはある意味成功し、ある意味失敗した。  二人が堂の中へと進んで行くのを見て後ろ手に扉を閉めた。重苦しい金属音が僅か響い たしばらく後、二人が肩を強張らせて立ち止まるのを見て、俺は普段の仮面も忘れてニヤ ニヤと表情を崩してしまう。 「な……」 「こ、国王様……?」  礼拝堂の中が薄暗いのは何の光も灯されていないせいだった。それでも外からの光とい うものが僅かながらある。前に進んだ二人は、その微かな光によって聖女の更に奥に一人 の男が居るのを見つけたのだ。  西国王を。  死人のように痩せこけた王を二人は見つけた筈だ。虚ろな目。ブツブツと何かを呟く半 開きの口。聖女が手を差し伸べれば、それにすがりつくその男を。  二人の思考がありありと手にとるように分かる。いや、細かい事に考えを巡らすのは神 父だけか。一体どうなっているのか。ここ百年以上教会を圧迫してきた西国の、その最も 新しい王のこのザマは何なのかと。そしてまさかと思考が行き着き、彼らが教会の切り札 の一つであるならばすぐに気付く筈だ。聖女の背に浮かぶ黒の気配に。 「――――ッ!」  神父は素早く手に持った荷物の封を解いた。布が舞い、中から現れたのは二本の矛槍と 一丁の長身銃。その銃を手に神父は身を捻り、正確に、礼拝堂脇の小窓へその銃口を向け る。その間に舞う矛槍は修道女の左右の手に収まり、キャッチの勢いのままバツの軌道で 振り下ろされた。  炸裂音と金属音が鳴ったのは同時。  小窓を射抜いて飛び込んできた光る矢を輝く銃弾が撃ち落とし、闇から飛び出してきた 丸い刃を交差した双牙が受け止めている。神父の足元に転がった聖書の頁が踊るようにめ くれていくのを見て、俺は目を細めた。  引き金が戻り、矛槍が刃を弾く。  一瞬の後、先ほどと同じ音が響き渡る。そしてそれはもう一度、もう一度、もう一度、 もう一度。更に、更に。  聖書の頁が次々と光になって銃に吸い込まれ、矛槍は幾度も火花を散らす。連続する音 に王がヒイィと情けない声を上げじたばたともがくのを聖女が片手で制した。俺はただ棒 のように立っている。 「なるほど」  そして聖女の声と共に、突如として狂想曲は終わりを告げた。 「流石の戦闘力というわけですね」  聖女の声を聞いているのか、神父と修道女の眼は赤赤と輝いたまま未だ攻撃の方を見て いる。その瞳をぼんやりと見つめて、俺は一人頷いていた。  ――魔に抗するほどの力の為に、魔を飼ったのだろう。確かにそれは教会の十八番に違 いない。 「面白イナ」  修道女の前に、暗闇からやっと姿を現したのは人ではなかった。刃が円状になった奇異 な槍を携え、僅かな光を受けて煌く銀の魔人。そして、ガチャガチャと二階のドアを開い て、弓が一体化した腕を持つ赤い体躯の魔人。 「俺の速度についてくるとはねェ。便利なもん持ってんね」  言いながら二階の手すりを越え、赤の魔人はふわりと落下した。同時、その皮膚は光と なって崩れていき、気付けばバンダナをした一人の男が着地している。 「西国騎士団付弓兵隊。その長が魔人化しているとは……」 「このエルネストも中々顔が売れてきたらしいな。スエイに劣らぬイイ男だろう?」  エルネスト=レインの軽口にヘンストックは何も答えなかった。ただ真っ直ぐ相手を見 据えている。クァイトもまた、眼前の相手――銀陽の魔人へと構えたまま。  そして再び四人が、動いた。  銃口は円槍を、矢先は矛槍を。相手を変え二条の光が吹いた。交差したそれは全く同時 に修道女と銀魔人の斬撃で霧散する。  槍使いどもが一歩出れば、既に次の光が襲い、そしてそれを再び斬撃が消し飛ばし耳を つんざく音が巻き起こる。  そして音の終わりに、鈍い音が重なった。  神父は視界の隅に膝を着く修道女を見ただろう。更には彼女に伸びた、細い、細い、致 命的な一刺しを。  銃口を向け直すも時既に遅し。 「魔剣――」  即座に放たれる二閃目に貫かれながら、神父が呟く。その目に映るのは、聖女の背後で はっきりと形を成した魔。 「の、女王……」 「この二人は良い戦力になるわね」  刀身の血を振り飛ばし嗤う黒い魔を、俺はただ見ている。  西国に君臨する魔剣を。                                    後編に続く モンサンミッシェル?何の話ですか? ……で、大全に登録されていないもののみ元々の設定をコピペしておきます 構えずのスエイ 男 27歳 西国最強の騎士と名高き男。 その剣技は光よりも速く剣を抜くさまが見えないほどといわれる。 ―――が、それらは全て尾ひれがついた噂。 御前試合の時の指揮がすばらしかったという話が、彼一人の武勇伝にすりかわってしまった結果である。 口の上手さと戦略・戦術だけは本物であり、武術の腕さえあれば本当に最強の騎士といえるのだが…。 実戦は何か理由をつけて絶対に構えないことから 無為な戦いはしない誇り高き騎士として『構えずの』スエイの名は更に広まってゆくのだった。 銀陽の魔刃 2mほどのスラリとした体系の魔人 太陽のごとき顔を持ち、銅色の髪のような後光と金色の瞳を持つ。 空に手を掲げることにより召喚する、銀色の日輪のような槍を得物とする。 一度それを振るわば正しく太陽のごとき輝きの太刀筋を見せる。 戦場や闘技場によく現れるが特に好戦的というわけでもなく、 自分の気に入った相手としか刃を交えない。 イル=ヘンストック 西国の戦闘神父。大司教を守る人間の一人 聖書の紙を弾にする銀色のマスケット銃「神意」を持ち歩いている 「神意」は魔道兵器であり、物理威力は零に等しい その代わり、魂の欠片に直接聖書の文字を書き込むという呪いを受けることができる 別名服従兵器。洗脳のために打ち放つ銃 国を愛する壮年の男だが、国を愛するが故に人間を愛さない 国のためならば女子供どころか大司教そのものすら撃ち殺すことがある もっとも、大司教の大半に「神意」は通じない 平時は西国の端で普通の神父をやっている