RPGSS ジーザスの冒険『冒険者殺人事件』     〜♪         〜♪ 幼い声は遠くこだまする。彼女は知らず。また、彼らも知らず その声は運命の糸に引き付けられるかのように一行の耳に届かせようとする 共鳴の声は果てをも彩り、彼らの道を作っていく ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「死んだ!?」 私はとある閑散とした村にある村長宅におじゃましていた。 私はジーザス・ツヴァルト。皇国騎士の隊長をやっている者だった…しかし 今は各地を点々とする一介の冒険者である。 「はい。先月お亡くなりになりまして…」 ゼクスの秘密を知る人間の死――――――ゼクスとは私の持つこの剣のことである 剣の隠された秘密を知っているという酒場のマスターの言葉を聞き、私はここへ赴いたのだが まさか死んでいるとは。初っ端から出鼻を挫かれた感じがして拍子抜けしてしまった 「そうですか…わかりました」 「なんだか無駄骨だったね。せっかく面白い話が聞けそうだと思ったのに」 私の相棒的な存在、トトは肩を下げながらため息をついた。 それこそ何日もかかった結構な長旅だったためか。私たちは一礼してその場を去ろうとした 「お待ちくだされ」 と、村長は私たちを呼び止める。私はどうしました?と聞くと 「冒険者の皆々様方がここにこうして来なすったのも何かの縁、冒険者様。 こちらの張り紙に興味がおありでしたら是非ともご参加くだされませ」 張り紙にはこう書かれてあった。『洞窟探索者募る!』と。 「最近、私たちの村の近くの東の洞窟の奥から地鳴りに近いようなうめきが聞こえるのですじゃ 今のところ特に被害は出てはおらんのじゃが、村人が怖がって農作業も捗らぬ始末。 どうか冒険者様方、これも何かの縁と思ってこの依頼、受けて下さらぬかのう…?」 「わかりました」 即答だった。困っている人が私たちに助けを求めているのだ、断る理由が無い。 村長の先ほどまでの渋った顔は変わり、とたんに明るくなった 「おお…!ありがたい。では今日はお疲れの様じゃから明日早速お願いしますじゃ。 宿はわしが言って用意しておきますのでどうかゆっくりしていってくだされ」 そう言われると、私たちは村長宅を後にした。 私たちは適当にこの長閑な村を周り、夕方になってから宿に行く道で落ち合った 「あのさ、ジーザス」 「どうしましたか?」 「昨日パーティ解散しちゃったよね?僕ら二人で大丈夫なの?」 トトは歩きながら私のほうを見て心配そうに尋ねる 「それには心配及びません、どうやら村長があと三人ぐらい同業の人を募ったようなのですよ」 「へぇ、そうなんだ。どんな人なの?」 「わかりませんが、宿にいるとの話です。おっと、着きましたね。では入りましょう」 私たちは宿の中に入った。素朴な村らしい木の造り、私は料理を片付ける店の主人に泊まる部屋を聞く 宿の主人によると私たちと一緒に冒険をする人の部屋と一緒の部屋に泊まることになっているようだ 「二階ね、ありがとう。おじさん」 階段を上りその部屋の前に来る。私はドアノブに手をかけようとしたが、一瞬躊躇った ドアの奥から聞こえてくるカンッと鋼の打音、そしてドタバタと鳴り響く足音。そして獣のようなけたたましい怒声 向こうで起こっている尋常ではない状況を把握した 「ジーザス…」 「わかっています…トト。では…」 いつでも抜けるように剣に手をかける。トトも戦闘態勢に入っている事を確認すると 指で合図を送った。私はノブに手をかけ、ドアを思いっきり押し開いた 「…!!」 そこには二人の男と一匹の馬がいた。ベッドの上に突っ伏して倒れている一人は冒険者の風貌をした男。 そしてベッドに立ち尽くしているもう一人は… 「我輩は仮面紳士アンバー=ランスである!!しかし名がない!!」 と言い、冒険者風の男に唾を吐きかけた。そしてどこから入ってきたのか横にいる大柄の白馬にひょいと乗り 二階の窓ガラスを突き抜けて何処かへ去っていってしまった。 「どこから突っ込んでいいのかわかりませんでした…」 「いや、そういう問題じゃなくて…というか、大丈夫ですか…?」 トトが恐る恐る冒険者風の男に話しかける。と、息はまだあったようで声に応えるように体を起こした 「いててて…大丈夫じゃない…」 「何があったんですか?」 「…夜盗だ…突然ここに入ってきて『冒険に疲れたであろう?』とか訳の分らない事を…グッ…」 「そうですか…だ、大丈夫ですか?トト、オヤジさんを呼んできてください!」 トトは頷くと部屋を出ようとする。だがやはり親父さんもあの音には気づいていたらしく 一同が振り向くと、オヤジさんはドアの前に立っていた。 暫くして…私たちはあの部屋とは別の部屋に取り替えてもらった後、そこで暖をとっていた 「あ、クライスさん」 「ああ…」 ドアが開き男が中に入る。彼の名はクライス・ターナー。さっき倒れていた冒険者風の男の名前だ。 見るからに先ほどよりかは顔色は良くなっているようだ。 「チッ、屈辱だぜ…」 部屋に入るなりベッドの脇に腰掛けた彼は、怒りをぶつけるかのように木彫りのベッドの床を強く叩いた。 「まあまあ落ち着いてください…私はジーザス・ツヴァルトと言います。こっちの彼はトト」 「よろしく」 トトは手を伸ばすと、クライスはしぶしぶながらも手を出してくれて、二人は握手した 「ところでさ…あのおじさん、誰なの?」 トトが恐る恐る先ほどの謎の人物のことを切り出す。クライスは苦虫を噛み潰したような顔をして言った 「俺にもわからねぇよ。旅疲れしていたんで仮眠をとってたんだ。 それで起きると突然目の前に怪しい男が馬と一緒にいたんだ。」 「なるほど…納得しました。」 「納得できねぇ…」 と言う私もトトの言うとおりだった。なぜその人物は彼の前に現れたのか。 そしてどこから入ってきたのか、特に馬は宿の外面も傷つけずに如何にして入ってきたのか 分らないこと、納得のいかないことばかりだった 「ジーザス」 「どうしました?」 「あのさ、この間ここの村長さんの家に行ったよね?もしかすると…」 「私の剣の秘密を知る人物のゴーストが彼を襲ったと?」 トトは無言で頷く。少し考えたが、それはありえないと思った。 もしゴーストだったとしても、去り際にガラスの窓をぶち抜いて脱出することはできない。 さらには地に足も着いていた。他にも考えられることはたくさんあったが 結局納得のいく結論には出会えず、推測の渦はこんがらがるばかりだった 「アンバー=ランス…」 「…クライスさん、何かご存知なんですか?」 「ああ、仮面紳士アンバー=ランス。俺が旅の道中に噂で聞いたんだが…伝説上の存在、らしいんだ。」 「伝説上の存在?じゃあまさかその架空の人がクライスさんが襲ったって言うの?」 「わからねぇが…俺は罰が当たるような事をしたのかもな…」 伝説上の人物が人を襲う? まず考えられるのはその人物を騙った偽者が襲ったと考えるのが一番現実的だ。しかしなぜ? 考えれば考えるほど事件の謎は深まるばかりだった。 「おい、ところで…」 と、クライスは私のほうを見て声を上げる。とても不思議そうな顔をしていた 「もう一人、冒険者がいなかったか?あの、何だ、あのパンチパーマの男だよ」 「いえ…」 見てない事を言おうとしたが、その声は次の一声によってかき消されてしまった キャーーーー!! 絹を裂く様な男の悲鳴。色々な意味で私たちは息を呑むと、声のあった方へすぐさま駆け出した (今度は何が起こった)、と私たちは新たな事件の展開を直感していた。 「オヤジさん!どうしました!」 壁に寄りかかりガタガタと震える宿のオヤジさん。私が聞くと、視線をどこへも反らさずに 黙って廊下の突き当たりのほうへ指をさした 「ああ!グッシーさん!!」 そこには人が壁に寄りかかるようにして倒れていた。 目をカッと開き、強張った表情をして額から血を流していた 「し、死んでるぅ!!」 「ちくしょう!誰がこんな事を!!」 冒険者、グッシー・ケンヨーコーと呼ばれる人物は見るも無残な姿で発見されていた。 「………」 まるで何かに驚いたかのように天井を見上げる死体、よく見ると横には人が壊したような大きな穴が 人は入れなくもないようなサイズだが、どちらかと言うと子供がやっと入れるぐらいの大きさのものだった その穴は外を見渡せた。穴の向こうには森が広がっていた。 私はそこをよく見ると、森の奥に何かがいる事に気づく。 森の見えるところのど真ん中に黒いシルエットが見える、大きな角と闇夜に怪しく光る眼光。 その目は私たちを見据え、まるで見下しているかのように思えた。 「どいてろっ!!」 クライスは手に持っていた弓を構えると、ジャベリンを矢代わりにセットし。弓を引いた 「仇だ!死ね!!」 ジャベリンの矢を放つとそれは黒い影目掛けまっすぐ飛んでいった。 ガサガサと草木が揺れ動く音、とたんに黒い影の輝きを放っていた光も消える。 「っ!」 「クライスさん!」 手ごたえを確認する前にクライスはぽっかり開いた穴を強引にぶち破り、外の森へと駆け出していった 「トト、行きますよ!オヤジさん、ランプ借りますよ!」 「うん!」 私たちも後を追うように夜の森へ駆けていった。 「クライス!」 静寂を支配する森に駆けながら挙げるトトの声。先ほど矢を放ったその場には彼は居なかった 「奴を追ったのか…あ!あそこ!!」 大きな棒を持った人影…クライスがもう一つの影を追いかけ走っている最中だった 「クライス!…トト!行きますよ!」 私とトトは森の深いところまで入っていく。そして私たちはクライスを見つけた 「トト!来るんじゃねぇ!!」 クライスの声に私たちが立ち止まると、そこには彼と、それに対峙する黒い影があった。 「おおおおおおぉぉぉ!!!」 手にもつジャベリンを構え、その影に突っ込んでいく。だが、その影を取り巻く不思議な力によって クライスの体ごと跳ね返されてしまう。 「ぐあっ!」 「クライスさん、大丈夫ですか?」 「足がぁっ…!…あのももっち、強えぇぞ…」 倒れてきたクライスを抱えながら闇に目を凝らしてあの影を見てみると、シルエットは次第に解かれ ある一つの魔物の形をとった。少女の形をした魔物…あの魔物の姿が露にされる 「ももっち…?」 ももっち。人畜無害、被虐的と名高いその魔物なのだが このももっちと私の見かける従来のももっちとは違っていた… 先ほどの能力もそうなのだが、本来この魔物にはある筈のない大きな二本の角が生え 夜の闇のせいというのもあるのだが、少し人の肌とは違う色をしていた。なんというか…黒かった 「あなたが、グッシーさんを殺したのですか…?」 ももっちは意思通過や会話が出来る魔物の一つで、私は魔物に質問をしてみた 「………」 黒いももっちは答えなかった。ただ無機質にこっちを見るだけだった 「何か、知っているようですね…」 私は剣を抜く。抜いた剣は自分の意思に答えるかのように轟音を出す 「剣よ、機械の剣"ゼクス"よ――――――」 剣は次第に熱を帯びていく。剣身はオレンジ色、赤色に輝き、周りには電気の力を帯びる… 同時に漲る自分の力、ゼクスは私の身体能力を最大限に促進させる 「はっ!」 掛け声と共に地を蹴った。私は俊足でターゲット目掛けて走りバックをとった。 手刀で相手を気絶させようとする。だが、黒いももっちは微動だにせず 「"…我、龍と剣の名の下において静寂を保たん…"」 そう、呟くと私の力は衰えていくのを感じた。剣の赤みは無くなり、ただの剣となってしまった 「な…うわっ!」 刹那、激しい衝撃波が自分を襲った。何事かと思えば、彼女は手を翳し詠唱せずに呪文を唱えていたのだ 「ぐはっ!」 「ジーザス!!」 クライスとトトの前まで飛ばされた私。そして負けじと膝をついて立ち上がる。 「………」 黒いももっちは表情一つ崩さなかった。そして私の顔を見るなり、背を向け逃げていった 暗い洞窟の奥へと入っていったのだ。 「こいつ!!待て!」 「トト!一人で中に入るのは危険です!」 「だって…!」 「それに、クライスさんも足を怪我して動けないでいます。今は我慢しましょう…」 「わかったよ…」 夜の洞窟は森以上に危険だ、更に怪我人が増えたら助けも呼べないだろう。 トトを制止し説得した。トトも分ってくれたらしく、私たちはクライスさんを担ぎながら宿へと帰っていった 宿に着くと。そこは人であふれ返っていた。 宿のオヤジさんが村人を集めたのだろう、あそこで殺人が起こったのだから… 「誰か!手を貸してください!」 私は玄関を上がると村人に助けを求めた。 村人達の手を借りるとクライスさんをリビングのソファに横たわらせた。 「ふぅ…一時はどうなるかと思ったよ。」 体中の泥を振りほどくトト、私にも結構な泥がついていた。床は無数の泥 泥、泥、泥 …泥? ピキーン!! 私に一瞬電撃が走った。パズルが音を立てて積みあがる衝動にかられる感覚を覚えた 「…皆さん。」 「ん、どうしたの?…ジーザス?」 「事件の、グッシー=ケンヨーコーさん殺人事件の犯人が分りました!」 「「「なんだってー!!」」」 ざわざわと村人たちが動揺する。私はそう高らかに言うと、咳払いをした 「グッシーさん…何者かに殺されたと言いました…だがあれは違う!」 「と、言うと?」 「えー、事故。それ以外にありえません。」 「ジ、ジーザスってこういうキャラだったっけ…?」 眉間に指を当てながら同じ場所を何回も往復する。まるで頭脳派の名刑事になっているようだ。 「その根拠に。見てください、私たちは外に出ることによって靴に泥をつけてきます」 「そうだよ?それがどうしたの?」 「私の記憶が正しければ、私たちが死体を見に来たときには足跡は一つしかありませんでした しかもこの足跡、当然、被害者のものでしょうね」 「…!」 「そう、あの場所であそこに行けたのは一人のみ!出口入り口以外は固定された密室だった! グッシー=ケンヨーコーさんが自分で自分を殺したに違いありません!!」 みんながしんと静まり返った。これは流石に突っ込みどころが多いかな?…なんて思ったのだが… 「ふっふっふ…ばれちゃしょうがないね…」 むくりと起き上がる一つの影。他でもない。あの男だった 「あああああああああああああ!!!!!!!!」 今回の事件の被害者そして加害者、グッシー=ケンヨーコーだった 「あのねー、僕ボクシングの練習してたら壁割ってしまったんですね。 それで破片はおでこに当たって出血して倒れちゃったんですよ」 「なんだそれ!なんだよそれ!」 トトが必死に突っ込みを入れる。皆が唖然とする中、私は思わず吹き出した。 「なるほど…私たちはグッシーさんに一杯食わされていた訳ですね?」 「チョッチュネェ(そうですね)」 「やかましいよ!!!」 同時に村人みんなが一斉に笑う トトは思わず叫んだ。嘘偽りなく放たれる彼の本心の叫びは この素朴な宿から広大な畑の広がる村々へと空しく響き渡った 依頼当日… 一行は洞窟探索へと向かうのだが クライスさんはあの怪我のせいか宿で療養してから行く羽目になり グッシーさんは修行が足りないと言い依頼を放棄。早朝どこかへ行ってしまっていた 結局私はトトと二人で行くこととなり、仲間も増えずにクエストをこなす事となったのだった… 後日分った事だが、伝説上の人物仮面紳士アンバー=ランスは確かに今に実在していたのが分った また礼儀正しくもその後クライスさんの前に再び現れ、お詫びの言葉と共に颯爽と去っていったそうな 「なるほど、これで万事解決ですね」 「いやだから、納得いかないって」 RPGSS ジーザスの冒険『冒険者殺人事件〜えげれすでは靴脱がないのよ編〜』 終 ジーザス・ツヴァルト トト くろっち グッシー=ケンヨーコー(レジェンド・オブ・ライト) 07/01/06 仮面紳士アンバー=ランス 07/01/06 クライス・ターナー 07/01/05