・馬鹿が三人酒を飲む  その古びた食堂にはその歴史の長さを数えるのにちょうど良いものがある。  傷だ。  地面といわず、床といわず、机といわず。武器を引きずったような傷や、武器を振ったよう な傷がそこらかしこについている。  それはその食堂が、数々の戦乱に巻き込まれても潰れなかったことの証明であり、同時に変 わることのない誇りでもあった。  冒険者たちを迎え入れる、酒場。  今日も今日とて酒場は動き――その中に、三人組の男がいた。  はっきりいって、酒場で浮いてる男である。 「一つ、わからないことがある」  銀の鎧を着た男――ジュバ=リマインダスは、大瓶を一気に殻にして問いかけた。 「どうして俺ぁ、お前らと飲んでんだ?」 「出番がないからでしょう」  答えたのは横に座る男、黒い鎧の聖騎士・カイル=F=セイラムだ。普段から酒を飲むくせ はないが、今だけは飲んでいた。こんなもの酔わずにやってられるか――という風体だ。 「最近、妙に出番がない気がします……」 「同感だ」  三人目。右腕だけに奇妙な鎧をつけた男、長腕のディーンが頷いた。 「噂では本編そっちのけでライオネルが活躍したそうだ」 「あいかわずなんでも知ってますね……」と、カイル。 「ライオネル? ライオネル=クランベルクか?」  訊ねたのはジュバだ。興味深げな様子を隠そうともせずに、ぐいとディーンへと身を乗り出 す。ディーンはわずかに身を引いて、 「そうだが?」 「なんだ、あいつ生きてたのか。てっきり死んだと思ってたのに」 「いや、死んでる。死んでから活躍したそうだ」 「…………」 「…………」  話が途切れ、ディーンとジュバの視線が、一斉に一点に集まる。  即ち、一度死に――蘇った男、カイルへと。 「……なんですか」  嫌そうな顔をして、カイルが問う。  ジュバとディーンは、異口同音に、口をそろえて言った。 「――仲間ができてよかったな」 ―――――――――――――――――――――――――――― ■ カイルのディシプリン 最終話 希望を胸に ■  決着をつけるときがきた――長年のライバルであった東国の騎士団長・ジュバ=リマインダ スへと向けて、カイルは渾身の叫びと共に技を放つ! 「チクショオオオオオオ! 喰らえジュバ! 新必殺技双剣超覇導天武刻輪連懺吼!」  向かう先にいるジュバはあくまでも余裕を崩さない。  騎士団長としての余裕を見せたまま、ジュバもまた叫び返す。 「さあ来いカイルゥゥゥ! 俺は実は一回刺されただけで死ぬぞォォ!」  ザン!  という鋭い音と共に、カイルの黒い剣・イグニファイがジュバの身体を貫通した!  そして彼の言葉を証明するように、ジュバの体からポンプのように血が吹き出した。 「グアアア! こ、このザ・ステキと美女に持て囃される東国騎士団長のジュバが……こんな 男に……」  叫びを来てもカイルは止まらない。ジュバの体を突き刺したまま、一気に突き進む。  向かう先にあるのは扉――その向こうにこそ、真の敵たちがいるのだから。 「美人のねーちゃんの上で腹上死したかったああああああああああ!」  ドドドドドドド! という足音と、ジュバの断末魔の叫びが輪唱する。  その音の中を駆けぬけ、カイルはいっきに扉をぶち破る。  扉の向こうには―― 「ジュバがやられたようだな……」  最凶の勇者、ガチ=ペドと。 「ハハハ……あの人は僕らの中では最弱でしたからねぇ」  最悪の魔道師、ヘイ=ストと。 「影が薄い男ごときに負けるとは騎士の面汚しよ……」  龍の騎士、ロボ=ジェヴォーダンがいた。  油断するその三人に向かって、カイルは剣を、ジュバごと一気に繰り出し―― 「くらええええええ!」  ズサ、と。  いっきに、ジュバの身体ごと、ガチ=ペドとヘイ=ストとロボ=ジェヴォーダンと、ついで に部屋のすみでももっちと遊んでいたハロウドの体を突き刺した。 「「「「「グアアアアアア!」」」」」」  五人分の悲鳴が重なり、五人は地面に倒れた。  カイルの勝利、である。  重なる五つの死体を見下ろして、カイルは疲れた身体にも構わず、両手をあげて叫んだ。 「やった……ついに主役級を皆殺しだ……これで僕が名実ともに主人公だ!  ――もといディーンのいる天空城への扉が開かれる!」  その、喜ぶカイルの元に。 「よくきたな、黒い旋風カイル……待っていた……」  ギィィィィ、と、扉が開かれた。  扉の奥から聞こえるのは、紛れもない宿敵、長い腕のディーンの声だ。 「こ、ここが天空城だったのか……! 感じる……ディーンの気配を……」  扉の向こう。  玉座に座ったディーンは、その長い腕で、カイルを指差していった。 「カイル……戦う前に一つ言っておくことがある。  お前は俺が色々企んでいると思っているようだが……実は全部暇潰しだ」 「な、何だって!?」  ここにきての衝撃の事実に、カイルは驚愕を隠せない。  だが、驚くべきことはそれだけではなかった。  重厚なる殺意を隠そうともせずに、ディーンは言葉を続けた。 「そしてロリ=ペドはあまりに可愛かったので学術都市に入学させて制服を着せてみた。来週 からは学園編だな。  あとは俺を倒すだけだな、フッフッフ……」  言うと同時に、ディーンの右腕がにょきりと伸びる。  伸びた右手は、魔人の右手だ。その長い腕を見捨てて、カイルは答える。 「フ……上等だ……僕も一つ言っておくことがある。  僕は一度死んで蘇ったような気がしていたけど別にそんなことはなかったよ!」 「そうか」 「ウオオオオいくぞおおお!」 「さあこいカイル!」  カイルの剣と――ディーンの右腕が交差する!  この決着は世界にあんまり関係ないけれど、それでもカイルの勇気が世界を救うと信じて、 彼は戦い続けるのだ!  ご愛読ありがとうございました!