■ 第十二話 Black Gale AND The East ONE ■  目が醒めたら幼妻がいた。 「――――」  あまりの衝撃に眠気が一瞬で潰えた。いつかそうしたように、とっさに剣をとって攻撃した りもしなかった。目を覚まし、瞼を開け、横を見た瞬間に意識と動きが見事に凍結した。それ くらいに衝撃のある光景だった。  ロリ=ペドがエプロンを着て果物をむいている姿は。  フリルのついた白いエプロンの下に着ているのは、西方特有の洋服だ。ケープと肩飾りのつ いた烏色のミニ・ワンピース。胸元には赤いリボン。全体としてはどこかのお嬢さまにしか見 えないが――黄金色の首輪だけが、どうしようもないほどに違和感をかもし出していた。  逆にそれがなければ、その黒と白のコントラストは、ロリ=ペドの外見年齢と相まって学術 都市の生徒にも見えた。  目が醒めたカイルのことに気付いていない。木製ベッドの脇、椅子に腰掛けて、一心不乱に 果物の皮を向いている。いつもは大剣を振り回しているその手は、器用に果物ナイフを操って いる。  黄金色の髪が肩口にかかり、一房ベッドの布上へと流れていた。それを意識が硬直したカイ ルは、何もふかく考えずに手にとってみる。掌の中で、金の髪が砂のように流れる感触。よほ ど集中しているのか、ロリ=ペドは気付いた様子もない。 「…………」  何をすればいいのか、何を言えばいいのか。まったく分からない。  ――そもそも僕、なんでこんなところにいるんだ?  脳内で疑問を発してみるが、答が返ってくるはずもない。ソィルやユメと別れたところまで は憶えている。そこからぐっすりと眠りについて――そこから先は、まったく覚えていない。  気付いたら、横に幼な妻風のロリ=ペドがいた。 「…………」  何か、夢を見たような気がする。  遠い夢だった。  遠い、遠い――忘れてはいけない、大切な夢だったように思う。  けれどそれは、忘れてはいけないはずのそれは、完全に霧散してしまった。思い出すことを 封じられているかのように、深い心の底へと沈んでしまっている。残ったのは、わずかな印象 だけだった。  多分、それは。  十年前の――夢だ。 「…………」  夢ではなく、現実として思い出してしまい、気分が暗雲とする。できればあれは、思い出し たくない出来事だったから。  そんなカイルの思惑を完全に無視して、 「……できました」  意識をぶった切るように、ロリ=ペドが一人で呟いた。  明らかに、独り言な呟きだった。  満足げな、呟きだった。 「…………」  何のことだろう、と思って見遣ると、ロリ=ペドが手にしていた果物の皮がすべてむけてい た。ああ、綺麗にむけてたな――そう思うカイルの前で、ロリ=ペドは微かに唇の端を吊り上 げ、笑みと共に果物を六等分にし、 「頂きます」  自分で食べた。  ぱくりと、二つ一気に食べた。しゃくりしゃくりと咀嚼し、さらにもう一個、口にした。あ っというまに果物が半分なくなる。それでもロリ=ペドの手は停まらず、唖然とするカイルの 前で、四個目と五個目と六個目が消化された。  即ち、全部食べられた。 「……自分で食べるのか!?」  思わず――今までの状況とか、なんでここにロリ=ペドがいるのかとか、そういうことを全 て放棄してカイルは突っ込んでしまう。突っ込む気もなかったのに突っ込んでしまうのは、周 りにボケ体質か我が道を行く系の人間だらけだったせいなのかもしれない。  が、本気で驚いたのはロリ=ペドの方だった。椅子の上でビクンと身体が撥ね、目を見開い てカイルを見る。手に持っていた果物ナイフが滑り落ちて、刃先から床に突き刺さった。  目が合う。  見開いたロリ=ペドの金色の瞳と、目があった。  自分が驚いているのだとカイルは自覚している――そしてその自分以上に、相手の方が驚い ていることも、なんとなく分かっていた。  なぜ驚いているのかは、まったくわからない。  ――達人なんだから、気配を感じ取ったっておかしくないのに……  そう思うが、ロリ=ペドの驚きようは嘘には見えなかった。驚いた瞳のまま、カイルとむき 終わった果物の皮を見比べ、 「……食べますか?」  控えめな声で、そんなことを言った。 「いらない……」  つかれきった声でそう言って、カイルははぁ、とため息を吐いた。  ただ起きるだけで、どっと疲れた。  さらにもう一度ため息を吐き、身を起こして状況を確認する。  二本の剣はベッドの脇に。鎧は、身につけたままだった。鎧を着たままだという事実に安堵 する。一度死に、魂を鎧に定着させて生き返ったカイルは、鎧を長時間脱ぐと完全に死んでし まう。具体的に言えば、魂が抜け落ちた体が腐れ落ち、リビング・アーマーのような存在に成 り果ててしまう。それは紛れもない弱点であり、ソレを知っているのは幾人かしかいない。  こうして寝ている間にも鎧を脱がされていないということは、ソィルが着せたままにしてく れていたということだろう。  そのソィルの姿はどこにも見当たらなかった。十畳ほどの部屋の中、いるのはカイルとロリ =ペドだけであり、あるのは机と椅子とベッドだけだ。客人向けの、簡易な宿泊室。窓にはカ ーテンがかかっていて、外の風景を伺うことはできなかった。今が夜なのか昼なのかすら判別 できない。  ようやく、幾つかの疑問がわいてくる。思ったより長い時間頭は固まっていたらしい。  最も強く頭に浮かんだ考えを、言葉に出してみる。 「此処――どこだろう」  答えを期待してなんていなかった。先のロリ=ペドのように、独り言のつもりだった。  けれど。 「此処は――」  答えは、返ってきた。  座っていたロリ=ペドが立ち上がり、着ていたエプロンを脱いで椅子にかける。何をするつ もりだ、といぶかしむカイルの横を通り過ぎ、そのままロリ=ペドは部屋の窓辺まで歩み寄る 。  カイルに背を向けたまま、窓に掛かったカーテンを、横に開いた。  開けた視界の向こうに広がっていたのは――  ――見渡す限りの銀景色と、ぱらぱらと降る、白い雪。  くるり、と。  その場で振り返り、白い世界を背景に、金色の少女はカイルを見据える。雪から照り返す光 を浴びて、黄金色の髪が白く耀いている。  妖精のようだと、カイルは思った。  どこか――人でない雰囲気が、そこにあった。  思わず息を呑むカイルに対し、ロリ=ペドは、どこまでも淡々とした声で、告げた。 「此処は――ロウドライル。ファーライト王国北端、北部領土の城内だそうです」       †   †   †  ほぼ真円上の『大陸』において、季節感は大気中の妖精・精霊の数によって変化していく。 金と土の妖精が多い土地は砂漠となり、水と風の妖精が多い土地は寒くなる。  はじめに季節があって妖精の分布があったのか、妖精たちのすみわけによって季節が創り上 げられたのかは定かではない。その辺りは魔物生態学者たちの間でも未だに討論が続けられて いる分野であり、些細ながらも世界の成り立ちに関わることなのでこの先百年は判明しないだ ろうと言われている。  ともあれ――広大な敷地を持つファーライト王国、その北部領土といえば、もうほとんど 『冬』である。大陸の北部には厳しい雪と戦うために機械文化を発達させてきた戦闘国家ケイ ヴや、『契約』することによって豪雪から免れている北方の(自称)暗黒帝国グリナテッレな どがあるが、ロウドライルはそこまで酷くはない。この季節になれば雪が降り積もるが、一年 中続いているわけでもない。  それでも、窓から吹き込む風は、十分に冷たさを孕んでいた。 「もう少し北なりにいけば、リアス高原を大きく迂回して皇国側に出れる。東に南下したら、 旧クローゼンシール王国領を通過して、東国、その先の『極東』へ行ける……」  窓の外を見ながら、隣に立つロリ=ペドに向けてカイルは説明する。『ロウドライルとはど のような土地なのですか』と問われての答だった。  並んで立つと兄妹ほどに背が離れてしまうため、今ロリ=ペドは窓枠に腰掛けていた。背が 小さすぎるせいで、脚が床にまで届かない。そこまでしてようやく、カイルと目線の高さが一 緒になった。  窓の外に広がるのは雪の城下街と、その先にどこまでも続く雪原だった。 「詳しいのですね」  カイルの横顔を見ながらロリ=ペドが言う。 「妖精のことは、必要以上に教えてくれる人が身近にいたしね……土地について詳しいのは、 まあ――僕は此処の出身だし」 「ファーライトの聖騎士――ですか」 「そうだね」カイルは自嘲するように笑い、「今では、何の因果かニセモノらしいけど」 「『聖騎士の詐称』は重罪です……今も、昔も」  どこか。  どこか感情のこもる声で、ロリペドは言った。端整な顔立ちに変化はない。降りおちる雪を 見る瞳は、ここではない遠くを見ているように思えた。  そのまなざしに、カイルは思い出す。  ロリ=ペドも、また。  黄金色の聖騎士と呼ばれる存在であり――今は、その騎士の証たる鎧を身にまとっていない ことを。  正義とは何ですか、とロリペドは問うた。  そのために、カイルの元まで来たのだ。ここのところ事態が急変しすぎていてすっかり忘れ てゐた。それどころか、町にロリ=ペドを置いてきてしまったことすら気づいていなかった。 こうして顔をあわせて、始めて存在を思い出したくらいだ。  われながら薄情だな、とカイルは思う。  もっとも、よくよく考えてみれば元より味方でもない、明確に命のやり取りを交わした『敵 』だったのだから、薄情にはあたらないのかもしれない――しれないが、少女にしか見えない ロリペドの姿を見ていると、ちくちくと罪悪感が沸いてくる。 「……どうして、ここに?」  そう問いかけたのは、単にへたれたからだった。  真っ先に問うべき問いだというのに、返ってくる答えを聞くのが怖くて、先延ばしにしてい たに過ぎない。  ファーライト王都で別れたはずのロリペドが、どうしてここにいるのか。  その問いに、ロリペドは表情を変えることなく、淡々と答えた。 「貴方を……追ってきたからです」 「…………」  告白みたいだ、と思う。  なんとなく赤面してしまうカイルの顔を見上げて、ロリペドは言葉を続ける。 「どうして――私を、置いていったんですか」 「いや、別に置いていったってわけじゃ……そんな言い方されると僕がすごい悪人みたいじゃ ないか」 「――ごめんなさい」 「いや、素直に謝られても、その……」  困る。  いつも周りにいる人間といえば、他人の都合なんて考えない人だったり、他人の都合を知っ ていてあえて無視する人間ばかりなカイルにとって、ロリペドのような存在は珍しかった。 『黄金鎧の聖騎士』ならばいい。それは明瞭とした、闘うべき相手だ。  けれど、少女・ロリペドとなると、話は変わってくる。こういうのには、なれていないのだ。 「僕こそ、ごめん。あのときは、逃げることで精一杯だったから……」 「いえ。私の方こそ、言い過ぎました。御免なさい」 「迎えにいくべきだったのかなぁ……」 「なにか――」  ロリ=ペドは。  ここで始めて、歳相応の少女のように―― 「――駆け落ちの相談のようですね」  くすりと、笑った。  ひょっとしたら始めて見るロリペドの笑みにカイルは絶句してしまう。  ――こんな顔で笑うんだ。  心にわいた思いが、一体何だったのかカイルにも分からない。  敵としてではない。  闘うべき相手としてでもない。  初めて――  初めて、少女としてのロリペドを見たような気がした。  生きている、一個人の相手として。 「あのさ、僕は」  そのことに、カイルは何かを言いかけて。 「じゃあ俺は間男か? 参ったな、個人的には主人公が好みなんだが」  言い終わるよりも早く、遮る声があった。 「あ」 「…………」  ロリペドが呟きと共に、カイルは嫌な予感と共に振り返る。二人がいる窓際と対角側、入り 口の扉を開けたところに声の主は立っていた。カイルとは対照的な銀の鎧を身につけ、長剣グ ラディウスを腰にたずさえた男。顔は軽く笑っていて、人懐っこい表情だった。  何気ない仕草で、そこに立っている。  東国最強が、そこにいる。 「……お久しぶりです」  カイルが――嫌々ながら――挨拶をすると、ジュバが「よっ」と片手をあげて応じた。街角 で友人に出会ったかのような、気さくな動作だった。 「相変わらず辛気臭い顔をしてんな、カイル」 「ほっといてください。大体、間男ってのは別に間違ってないでしょう。貴方確か前に――」 「ストップ!」  いきなり、遮られた。  ジュバ=リマインダスは、「ちっちっちっ」と指先を左右に振って、 「俺は過去を振り返らない素敵な男だ」 「……はぁ」 「ついでに言えば未来も見ていない素敵な男だ」 「素敵を通り越して駄目駄目じゃないですか」 「今を生きてるって言えば格好いいだろ?」  言い切ってジュバは笑う。いきなり現れ、いきなりしゃべり続けるジュバに対応できないの か――それとも対応する気がないのか、ロリペドはじっとカイルの横顔だけを見ていた。  ジュバを見据えるカイルは、そのことに気づかない。  そもそも、目を剃らせられるような相手ではないのだ。  一見気のよさそうな近所の兄ちゃんにしか見えないこの男は――紛れもなく。  大陸の東を占める戦闘大国・東国で最強の名を欲しいがままにする男なのだから。  ジュバは一歩だけ室内へと踏み込み、後ろ手で扉をしめた。ぱたんと、軽い音をたてて扉が 閉ざされる。それ以上は、近寄ろうとはしない。  そこはもうすでに、間合いだ。  部屋にいる三人、誰にとっても――必殺の間合い内だ。 「数年ぶりだが、話だけは聞いてたぜ」  剣に手をかけることなく、気軽な調子でジュバが言う。何と答えればいいのか迷い、結局カ イルは曖昧に 「……はあ」  とだけ頷いた。  その返事にジュバは笑い、 「おもに俺の部下からな。ララバイが世話になったそうだな」 「…………」  ぎし、と。  空気が緊張するのがはっきりと分かった。  ララバイ――クレセント=ララバイ。  東国ナンバーツーにして、東国騎士団の副団長。奇妙な形の槍を振るい、『月斬』という奥 義を駆使する強力な騎士。銀の長い髪が駆け抜ける様は、東の戦場では死の代名詞になってい る。  その名に心当たりはあった。心当たりどころか――半年ほど前、カイルは南の果てでクレセ ント=ララバイと刃を交えている。最終的には共闘という形になったが、敵同士であったこと には変わりない。『東国騎士団の野望』をカイルと、もう一人の学者が打ち砕いたことは確か なのだ。  そもそも。  そのとき、共闘して戦った相手というのが――隣に座るロリペドなのだ。  不吉な雰囲気にならないほうがどうかしている。 「俺の女を好き放題嬲ってくれたそうじゃねぇか」 「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」  即、否定。  否定しないわけにはいかなかった。 「誰がいつ嬲ったんですか!?」 「嬲るっていう字はエロいよな。女を男がはさんでるんだぞ?」 「誰もそんなことは聞いてませんよ!」 「俺としては女が男をはさむ字の方が好きだがな」 「誰が貴方の性癖を暴露しろって頼みましたか!?」 「女が三つで姦って最高だよな……男が三つだと地獄だが」 「もう駄目だこの人……」 「俺は女が好きなんだよ! わかれよ!」 「逆ギレ!?」  はぁ、とカイルは人生で数百回目のため息を吐いた。その仕草を、ロリペドが興味深そうに 覗き込んでいる。  ――なんていうか。  もう一度カイルはため息を吐き、 「本当に久しぶりなのに……まったく変わってませんね」 「まぁな」  ジュバは頷き、それから不適な笑みを浮かべ、 「時間如きじゃ俺を変えられんよ。俺が変わるときは――俺がそう望んだときだけだ」 「……相変わらず無駄に格好いいなあ……」 「なんか言ったか?」 「いえ、何も」  カイルが肩を落とし、ジュバは肩をすくめた。  最後にあったのがいつだったか、覚えてもいない。東国とファーライトは王国連合の加入国 同士だとはいえ、加入以前には隣接する敵国家だった国だ。頻繁な交流をすることもなく、戦 場以外で会うことはなかった。  こうして平和に顔をつき合わせてあう機会など、あるはずもない。  ここもまた戦場だと考えるのならば、話は異なるが。 「元気そうでよかったな。ん? 一度死んだんだっけ、お前」 「……言いにくいことあっさり言いますね」 「それが俺の美点だからな」 「…………。まあ、だいたいそんなところです」 「死んでいきかえって騎士辞めて、今は『ただのカイル』か。ふん。いっそ名前も捨てちまえ ばよかったのにな」 「…………。捨てられないものもあるんですよ、いろいろと」  本当に。  本当に言いにくいことをあっさりというなあ、とカイルは思う。あまりもの容赦のなさに、 怒るどころかあきれてしまう。ここまではっきりと物事を言ってくれると逆に心地よくすら感 じてしまう。  ジュバの言っていることには、嘘も偽りもない。全てが、確かな過去だ。  カイル=F=セイラムのたどってきた道だ。 「……死んだ、とは――どういうことなのですか」  口を挟んだのは、他の誰でもない、ロリ=ペドだった。  窓枠から飛び降り、カイルの横に並び立ってジュバとカイルの顔を見比べる。その顔に浮か んでいるのは、かすかながらも――間違いなく、驚きだった。  驚いている理由が、カイルにはわからない。むしろ、ロリペドが驚いていることに驚いてし まう。 「あれ、言ってないのお前?」  不思議そうにジュバが言う。何をいまさら、と声が物語っていた。 「言ってないというか……そもそも、どうしてこの子と貴方がここにいるんです?」 「そりゃあ俺が連れてきたからだよ。正確には道案内を頼んだんだがな。その子供、お前の居 場所が『なんとなく』わかるそうだから――」 「死んだとは、どういうことですか?」  もう一度、ロリペドが言う。先よりも、強い口調で繰り返す。  誤魔化しも、嘘も許さない、強く堅い言葉だった。 「…………」  誰も彼もが、言いにくいことを容赦なく聞いてくると思う。この世界に優しさはないのか、 戦いの中に平和はないんだろうか――そんなことを真面目に考えたくなってしまう。  はぁ、とため息。  カイルは半身をずらし、正面からロリ=ペドに向き直った。自分の肩ほどまでしかない少女 の瞳を、真正面から覗き込む。 「そのままの意味だよ」  そして、言う。 「僕は過去に――一度、死んでいるんだ」  己の過去を、カイルは語る。 「死、んだ――?」 「そう。色々あって、殺されて……やっぱり色々あって、生き返った」 「はしょりすぎだバカ」  横からジュバ。壁に背をあずけ、すがむような目で見ている。ロリペドにとってははじめて の話でも、ジュバにとっては聞き覚えた話なのだろう。  ――ハロウドさん辺りに聞いたのかも。  心中で納得し、カイルは説明を続ける。  あまり語りたくはない、己の過去を。 「条件付き、なんだけどね。この鎧に命を定着して蘇って……まあ、リビング・アーマーの遠 い親戚みたいな体なんだ」  自分でいってて悲しくなるが、事実だから仕方がない。  鎧を長時間脱げば死んでしまう。  一度死んだ事実は消えはしない。  そんな――不便な、体だ。  不遇な人生、なのかもしれない。  あまり、自覚はないけれど。 「貴方も――死なない体、だったのですか……?」  かすかに目を見開いてロリペドが言う。その『微か』さが、ロリペドにとっては最大級の感 情表現であることにカイルは気づいていた。  今、ロリペドは、心底驚愕している。 「……いや」  ひっかかるものがあった。  貴方『も』と、ロリペドは言った。その言葉の意味は、何となく理解している。ハロウド= グドバイが、彼女と、彼女の兄について語っていたのを思い出す。  ――百年以上を生きている。  その幼い、姿のままで。  長い時間を、戦いと共に。  龍の騎士――ロリ=ペド。  暁のトランギドールの、騎士。 「死ぬし、老いるよ。あくまで……一度蘇っただけなんだ、僕は」 「死ぬの――ですね」  驚愕が、変わる。  軽い失意と、どこか、寂しさを伴った表情へと。  憂いを帯びた瞳で、ロリペドは言う。 「死ぬことがないから、強いのかと……少しだけ、思ってしまいました」  ――死ぬことがない。  死なない。  ソレはたとえば、ロリ=ペドのように。  ソレはたとえば、ガチ=ペドのように。  ソレはたとえば、ヘイ=ストのように。  不完全ながらも、死からは遠い体。人の律から離れた存在。  けれど、カイルは。 「――いや」  静かに、首を振った。 「きっと……死んでしまうから、強いんだと思うよ」  その言葉に、ロリペドが小さく首を傾げた。どういう意味だと、金色の瞳が問い掛けてくる。  言葉で説明するのは、難しい気がした。  どう説明しようか悩むカイルに、 「ふん」  ジュバが、話を遮るように、息を吐いた。  そして、腕を組んで、カイルを眇めながら言う。 「お前、少し変わったな」  感心したような、口調だった。  何を感心されたのか、まったく分からない。 「そうですか? 自分じゃ、そういうのってわかりませんけど」 「十年前は青臭いただの餓鬼だったのにな」 「十年前って……相当前じゃないですか」 「初めて会ったときのことくらい、印象深く覚えてるもんだろ。特に――あんな状況ならな」  ――あんな状況。  その言葉に、カイルはどうしても思い出してしまう。思い出さずにはいられない。  初めての敗北と。  守れなかった、記憶を。         †   †   †  そのときにはもう、ジュバ=リマインダスはもはや自分の手ではどうにもならないことに気 づいていた。  状況は悪かった。最悪、というほどには悪くない。凶悪、というにはぬるすぎる。街の外周 ではハロウド=グドバイの指示のもと、東国騎士団員が適切な戦いを進めている。クローゼン シール王国騎士団による国民の避難も順調だ。街に火が放たれ、災禍は広がっているものの、 絶望を感じるには弱すぎる。  それでも、事態はもう決定的に後戻りができないところまできていた。  クローゼンシール王国は――途絶えてしまうだろう。  目の間に広がる惨状を見て、ジュバはそれを悟った。  血まみれの王宮。血まみれの王室。体を三十以上の部分に分けられた王と、裂かれた腹に頭 をねじ込まれた王妃。臣下の貴族や兵士は血の海に溶けるように沈み、ただ一人の貴族だけが 、血まみれの剣を手に笑っている。  哄笑、している。 「……ちっ」  その笑みを聞いてジュバは舌打ちした。貴族の声はとうに正気を失っていた。狂気すらも、 その身にはなかった。ただただ、空っぽの体の中に笑い声のみが反響している。  笑いが感染したかのように。  にやにや笑いを浮かべながら――絶叫のような、笑い声を出している。  その貴族の身体を、 「とりあえず、黙れ」  慈悲を持って、ジュバは両断した。  長大なグラディウスを片手で振るい、はるか遠くから頭からまたぐらまでを一刀両断する。 右半分と左半分がずれ、血の中に音をたてて沈んだ。あまりにも早すぎて、痛みすら感じなか っただろう。  笑い声が、ようやく止まる。  死にふした貴族に構わず、ジュバは血の海に視線を走らせる。王、王妃、貴族、兵士――死 体を順に眺めていき、 「……王女がいないな」  すぐに、気づいた。  山と重なる海と列なる死体の中に――リストリカ=クローゼンシールの遺骸はない。この惨 状だ、跡形も残らないような酷い目にあったという可能性もあるが、ジュバはそれを信じなか った。  こんな惨状を作り出す人間ならば、そんなことで済ませるとは思えなかった。 「さっきの貴族が全部やったわけじゃあるまい……くそ、まだ敵がいるか。ファーライトの餓 鬼が、守りきれてりゃいいんだが――」  王妃がファーライトの若手騎士――カイル=F=セイラムやソィル=L=ジェノバと共に外 へ出かけたことは知っていた。いくら若造とはいえ、騎士である限りファーライト王女を放っ て逃げるようなまねはしないだろう。恐らくは、今も一緒にいるはずだ。  問題は。  若手騎士などでは、手に負えない『敵』だった場合だ。 「状況からするとその可能性が高ぇんだよな――くそ、わりがあわん仕事だ……」  ぼやきながら、ジュバは駆け出す。血の海を一気に飛び越え、通路の中を駆け出す。暗いは ずの通路は明るい――城下町の火が、城へと映り始めたからだ。ぱちぱちと、炎のはじける音 が遠くから聞こえてくる。廊下にさす光は、赤い炎の明かりだ。  敵に殺されるか、火にまかれるか。  どちらにせよ――急がなくてはならない。  こうなってしまった以上、リストリカだけが、クローゼンシール王国を立て直す切り札だ。 クローゼンシール王国は間違いなく滅びる。そして、滅びたあとに待つのは利権争いだ。この 土地を誰が治めるのか。東国か。ファーライトか。王国連合か。そのとき、クローゼンシール 王国の正当な血筋であるリストリカを確保していれば、傀儡政権を打ち立てることができる。  そんな、打算を、抜きにして。 「綺麗な女をむざむざ殺すのは――俺の好みじゃないな!」  吼え、ジュバは一層の力を足にこめる。銀の風になったかのように、長身の体躯を低く沈め て駆け抜ける。障害物も炎も気にしない。己の本能と、『敵ならばどうするか』という状況を 頭の中で整理しながら、もっとも居る確率が堅い道をゆく。  案の定、それはすぐに見えた。  そこで戦いがあったことを示す、砕けた天井や床の跡と。  地面に倒れ付す――カイルと、リストリカの姿。 「――王女様!」  迷わず、駆け寄った。  途中に倒れていたカイルを気付けがわりに蹴り飛ばし、リストリカの元へ駆けつける。「お 怪我は」ありませんか、とはいえなかった。見ただけですぐに分かる怪我が、リストリカには あった。  いや、あったのではない。  ないのだ。  本来あるべき右足が――切り落とされていた。  血自体が意志をもっているかのように、切断面の血はとまっていた。ピンク色の断面がはっ きりと見える。そして足の向こう、めくれたスカートの中には――なぜか、貞操帯があった。  思わずソレを見てしまいそうになり、思わずではなく自分の意志でしっかりとパンツと貞操 帯を見る。役得だ、と思う反面――それがただの貞操帯ではないことに、気付く。  まがまがしい。  それ自体が、呪いであるかのように。  下手をすれば――切れらた右足よりも、残酷だと、思った。 「……う、……」  背後でうめき声が聞こえた。振り返ると、気絶していた騎士が、よろよろと立ち上がってい た。その身は満身創痍で、今にも倒れてしまいそうだったが、命にかかわる怪我は、なかった。  ――王女は右足を切り飛ばされているのに。  そのことが、ジュバを動かした。 「……リストリカ、さんは……」  よろめきながらも、近づいてきたカイルを。 「この――莫迦餓鬼が!」  力の限りに、殴り飛ばした。  当時にして東国最強――片手でグラディウスを振り回す拳が、鎧の上からとはいえ突き刺さ ったのだ。  無事ですむわけがない。  嗚咽すら漏らせずに、カイルの体が後ろへと飛んだ。壁にぶち当たり、瓦礫となって壁が砕 けた。そのまま地面に倒れ伏し、今度こそ動かなくなる。 「……ふん」  それでも。  すぐに起き上がって、状況を確認しようとしたことだけは認めながら――ジュバは気絶した リストリカの身体を抱きかかえた。ついでとばかりに、カイルの体を片手で引きずるようにし て持つ。 「結局――誰が、やったんだ?」  最後に、そう呟いて。  ジュバもまた駆け出す。もはや、この国にいる必要はなかった。撤退の始まった本隊に合流 するようにして、ジュバは地下へと駆けていく。  その背後で、城が、ゆっくりと燃え崩れ落ちていった――         †   †   † 「……よく考えれば第一印象最悪ですよね」 「まあな。あんな状況だからな」 「…………よくよく考えれば第一印象以外もろくなことなかったんですけど」  ついでとばかりに、カイルは今までのことを思い出す。幾度か、ハロウド他学者たちに引き 連れられて、ジュバとパーティを組んだことがあったが――そのどれもがろくでもない思い出 に塗りつぶされている。人の話をきかない学者と、女好きの最強のコンビは、厄介すぎるに程 がない。  思い出すと悲しくなるので、思い出さないことにした。 「……結局、リストリカさんはあのままですか?」  話を無理やりに戻すと、ジュバの顔色が翳った。リストリカを助け出し、その後も面倒を見 ている人間として、色々と思うものがあるのだろう。  どこか沈んだ口調で、 「ああ。相変わらず呪いはとけてないから、『あのまま』だ。魔道学者が言うには、『呪い』 じゃなくて『祝い』らしいんだが――まあ、どっちも同じことだな」 「…………」  カイルは思い返す。十年前に見た、リストリカ=クローゼンシールの姿を。  そして、十年が経った今も、変わらない姿をしているというリストリカのことを思う。  カイルは一切の記憶を失っていたが、対戦した相手は、よほどの悪人だったらしい。リスト リカに貞操帯と呪いを授けていったのだ。  時を止めるかのように、歳を取らない呪いを。  祝いである、というのも間違ってはいないのだろう。不老不死はいつだって人間の望みなの だから。  ただしリストリカのソレは不完全で――貞操帯をはずした瞬間、今までの『時』が反動で襲 いかかり、老いて死ぬというものだった。  好きな人ができても抱かれることもできない。  不完全な呪いは、いつ崩壊するか分からない。  鏡を見るたびに――そのことを、思い出してしまう。  故郷を失い、全てに置いていかれたリストリカ=クローゼンシールの思いを考えるだけで、 カイルの胸は張り裂けそうなほどに痛みを覚えてしまう。  ――あのとき、守れていれば。  そう、どうしても思ってしまうのだ。  守れるだけの、力があれば。 「……そういえば」  ふと、思い立ちカイルはジュバに疑問を投げる。 「あのときの『莫迦野郎』って――命を捨ててでも守れ、っていいたかったんですか?」  その問いに、ジュバは即答する。 「いや、むかついたから殴っただけだ」 「…………」  即答されてしまった。  とんでもない理由で。 「冗談だよ」  すぐにジュバが否定するが、がっくりと疲れが押し寄せてしまう。  はぁ、とため息。  本日何度目かなど、数えたくもなかった。  ため息を吐くカイルを見やり、ジュバは顔から笑みを消し、 「勝てねーなら連れて逃げろ。守るために死ぬのと、死んでも守るのは違うんだよ。お前があ のとき死んでてもおかしくなかったんだからな」  真面目に――彼にしては珍しくも真顔で――そう言った。 「どういう偶然かで、死ななかっただけだ」 「……痛いほどに、自覚してますよ」  そう、自覚している。  昔は、分からなかった。  ただただ前へ進むことしか考えていなかった十年前――クローゼンシールの滅亡。 『騎士の誇り』だけを信じていた六年前――聖騎士への挑戦。  自分は正義だと信じていた三年前――一度目の、死。  そして、迷いながら生き続けている二度目の生。  自分は変わった、とカイルは思う。  騎士として死ぬのが当然とだけ思っていたころから。  なぜ死ぬのかを、考えられる程度には、成長したように思う。それはきっと、また数年後に は反省するような、つたない考えのかもしれないけれど――それでも、思考を停止させて、戦 い続けるよりはマシな気がした。  と。 「まあ――ここまできて逃がすつもりはないけどな」  何事でもないように、軽い口調でそう言って。  前触れもなく、ジュバ=リマインダスは――腰にさげたグラディウスを引き抜いた。 「……え?」  あまりにも自然すぎて、ジュバが何をしようとしたのか、カイルには分からなかった。呆然 とするカイルと、数日前の出来事を思い出して硬直するロリペドと対峙して、ジュバは笑う。  笑いながら、剣先を、カイルへと向けた。  鋭い銀の刃が、カイル=F=セイラムへと向けられる。  そして――  ジュバは、告げる。 「さあ、勝てない戦いでも始めるか。頑張ってしろよ、無駄な抵抗」 「…………は!?」  思わず――問い返していた。  いきなり、何を言うんだと思った。ジュバはあくまでも笑っていて、冗談かと思った。剣を 向けられていなければ、冗談だと笑い飛ばしてしまっただろう。  けれど。  同時に思い出す。ジュバ=リマインダスという男は――冗談を本気でやる人間なのだと。  剣を向けたまま、ジュバは言う。 「驚くこたぁねえだろ。もともとこのためにきたんだからな」 「ってことは――ジュバさん、ファーライトに、協力を?」 「いや」  ジュバは首を振り、 「あくまでも東国のためさ。ファーライトが乱れると、うちの国も危ないんでな。お前の首一 つで浮き足立ったファーライトが静まるなら、それにこしたことはないだろ」  あくまでも、笑ったまま――ジュバは言う。 「悪いなカイル。平和の為に死んでくれ」  冗談のような――本気の言葉だった。 「知り合いなのに……って言って、通じる相手じゃなかったですね……」 「よくわかってるじゃねぇか」  笑うジュバを見て、カイルの頬に一筋汗が流れる。  ――東国最強。  それは伊達でも酔狂でもない、今のジュバの代名詞だ。東国のために近隣の小国を併合し今 の東国を作り上げた立役者。国のためなら老若男女どころか魔人ですら切り捨てる、間違いな く『人間』の中では最強クラスに入る存在だ。  彼の恐ろしいところは、その強さではなく。  東国のためならば、なんでもするという――そこに尽きると、カイルは思う。  揺るがない。  明確な指針のあるジュバ=リマインダスは、微塵も、揺らぐことはない。  突きつけられた刃は、必要ならば闘うだけだと、静かに告げている。 「闘わない道は――」 「あるぜ」  カイルの問いに、ジュバは軽く答える。 「お前が国外にいったり、自主的にファーライト王宮へ戻るとかな。俺としては、この状況が 収まればなんだっていいのさ」  言って、ジュバは左手でロリペドを指差し、 「一番手っ取り早い方法を選んだだけさ。そこの子供が、どこにいくとも知れないお前を追い かけれたからな」 「…………」 「ディーンやら何やらはまだ気付いてない。だから――選ぶなら今だぜ、ただのカイル=F= セイラム。  闘うのか。  闘わないのか。  なじみだ――せめて、それくらいは選ばせてやる」 「…………」  即答――できるはずもない。  闘うといえば、迷わずジュバは切りかかってくるだろう。東国のためにためらわずに。東国 最強は、その力の全てを持ってカイルを切り殺し、ファーライトの内乱の火種をつぶすだろう。  このままカイルが生き続ければ、それこそクローゼンシールのようなことにだってなりえる。  火種が、燃え広がることに、なりかねない。  けれど。  後者は――戦わないという選択は。  カイル=F=セイラムにとって、選べるはずもなかった。 「……この人は、強いです」  迷うカイルに。  横からそっと、ロリペドがささやく。  諭すように。  試すように。 「自分の正義を、持っています」 「…………」  言われなくても知っている。  そう言おうとして、けれど口は動かなかった。  ジュバ=リマインダスの正義は明確だ。東国のために。東国で暮らす民のために。東国のた めに闘う騎士たちのために。  そのために、ジュバは闘っている。  迷うことなく。  まぶしいくらいに、強い。 「貴方の正義は――どうですか」  ふと、カイルは思う。  ロリペドの言葉は。  諭すのでもなく。  試すのでもなく。  そっと、励ましてくれているのかもしれない、と。 「僕は――」  カイルは。  向けられた剣から、剣を向けてくるジュバ=リマインダスから、目をそらすことなく、答え ―― 「――失礼」    答えようとした瞬間、扉が開いた。  ロリペドとの会話を遮ってジュバが入ってきたように、突然、何の脈絡もなく、闖入者が現 れた。  ジュバとロリペドとカイルの視線がいっせいに向く。  そこに立っていた闖入者は――人ではなかった。  黒い外套に黒いフード。肌は色というものを失ったかのように白く、口にだけ薄く紅がひか れている。フードに描かれた十字架はまがまがしい逆十字であり、何よりも目立つのは――右 手と一体化したような、鋭すぎて折れそうな剣だ。  その存在の名を。 「お前は――」  ジュバ=リマインダスは、知っていた。  カイル=F=セイラムは、知っていた。  戦いの中に生きるものなら、魔物と闘うものならば、そして、それ以上の存在と戦うものな らば――知っている存在だった。  魔人による、魔人のための同盟。  ――魔同盟。  そこに属する、まごうことなき、魔人――  『 一突必殺 』 ―― 魔剣ビスティ。  剣の女王が、そこにいた。 「魔剣ビスティ!?」  カイルが飛びのき、壁に立てかけられた剣を掴む。 「てめぇ、どうして――」  ジュバが舌打ちし、カイルに向けていたグラディウスをそのまま横なぎにした。残影すら残 らない鋭い一撃。不意の一撃を、ビスティがよけれるはずもない。  それどころか。  魔剣ビスティは、よけようともしなかった。 「はじめまして、皆さん」  平然とビスティは挨拶をする。その体を――グラディウスは、虚しくすり抜けた。剣はその まま、開いた扉を切り飛ばしてしまう。  何事もなかったように、ビスティはそこに立っていた。 「え――」 「……偽者か」 「本物ですよ。此処にはいないだけです」  フードに隠された顔が笑う。口だけが笑んでいるのが、はっきりと分かった。  ――魔法を使って、映像だけを送っている?  魔人の魔力があれば不可能ではない。交信用の技術の底上げをしただけだ。  それは、分かった。  けれど――それをする理由が、わからない。  警戒するジュバとカイル、そしてロリペドを前にして、ビスティは悠然と笑う。  その瞳が見据えたのは――  カイルでも。  ロリペドでもなく。 「ジュバ=リマインダス」  ジュバを見つめていた。  魔剣は、東国最強を見つめている。  そして―― 「率直に言いますわ――私たちの仲間になりません?」  悪魔のように、ささやいたのだった。 ■ 第十二話 Black Gale AND The East ONE ... END ■                    To Be Continued SIDE 3