RPGSS 「学者は踊る〜NEXT GENERATION〜」 その1 喰うために生きるのか、生きるために喰うのか 学者とは、「世界の真実と真理を探究する者たち。 広義の意味での冒険者である。」 世界の冒険者や一般人、貴族にいたる人々に衝撃を与えた「魔物生態辞典」の著者である 三人 ハロウド=グドバイ 夢里皇七郎 トゥルシィ=アーキィ 魔術師としての一般知識、応用学問を体系化して一般的なものにした「魔導目録」の著者 ガトー=フラシュル 大戦期における魔族側の資料として名高い「超魔王紳士録」の著者である二人 魔王「悪魔」アドルファス 元魔同盟・小アルカナ「杖のA」大賢者レオス=イルファウト この三冊うち二冊は人魔統一暦以前の物であり日々新しい知識が追加されるたびに版を重ね 強化されていく。 「超魔王紳士録」に関しては大戦の記憶がまだ新しい頃に発刊された物で当時の詳しい 資料や魔族側の人々を描いた一大伝記となっている。 これは主な本であり、日の目を見る事のない本は幾らでもある。 その中で発禁処分を受けた「インペランサはお魚さん」は有名だ。 詳しい内容はさておいて、一大センセーショナルを巻き起こしたこの本の著者は学者で あり希代の冒険者とも言われている。 本とはその人間のあり方でありまたは人生だ。 それは様々な人と混ざり合い価値が足されていく物といっても過言ではない。 発禁処分になった本にも価値はあるのだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 多分、人生において飢えというのは何度も襲い掛かる危機だと考えられる。 ぶっちゃけ三日ほど何も食べてないと思考すらまともにならない。 つうか、やべぇ! 「なあ、相棒、腹減ったー」 「喋るなよ不思議生物、カロリーが減る・・・・」 「つうかさあ、こんな深い山の中に入ってどうするのさ?未知の味の探求で遭難して飢え 死んでりゃ世話ないって」 「黙れ、羽毟って食うぞ・・・・妖精」 俺の頭の上で皮肉たっぷりな事を言ってくれてるのは相棒の晶妖精。 気品に溢れ高貴な出で立ちをしているが性格はとんでもなく捻くれてとんでもない剣呑家 な上に口も減らない嫌な奴。 しかし腹が減った。 「つうかさ、保存食の一つも持たないで山を越えようってのが信じられないよ」 「うるせえな、山に入れば食える生き物がいると思ったんだよ!なのにいやしねえっての はどういう事だ!?」 「あんまり大声だすと余計お腹減るよ」 「だったら黙れ」 本当に口の減らない奴だ。 どうして俺たちが遭難したかというと旅費が尽き、旅馬車での移動が出来なくなったので 東国の西に広がる大森林を抜けて行こうと思ったのが甘かった。 森にはたくさんの動物がいて、それらを狩って食べればいいと考えていたのだが、なぜか 動物はおらず虫の子ですら一匹もいない。 そんなこんなでこの三日間何も食べてないのだ。 山道を歩くスピードも日増しに落ち、今では一歩踏み出すのも辛い。 やばい、目も霞んできやがった。 まじで頭の上のアホを羽毟って食ってやろうかな・・・・・。 「相棒、今さあ、俺の事食べようと思ったろ」 何でばれてんだ? 「そんなこと思ってないぞ、相棒」 「目が血走ってるぞ、相棒」 キィイイイイイイイ、全てお見通しかよ! ちくしょう!なんて時代だ! アホだ、歩きながらなんで俺はこんなカロリー消費の多いことしてんだ? やばいなあ、本格的に死神が見えてきたぞ。 「おい、相棒・・・・なんかいるぞ」 「何がいるんだ・・・・・・・食い物だな・・・・・」 「それはちょっと早計過ぎないか?」 「この世にはな、不味いとか美味いとか無いんだ。食えるのか、それとも食えないのか・・・・ それだけだ」 腰に挿した、二つの鞘から刀を抜く。 右手に持つはヒヒイロカネの刀「究極」 左手に持つはオリハルコンの刀「至高」 東国よりも東にある島国の伝統的な剣である「刀」、その鋭さはこの大陸の剣の比には ならない。武器に対して勘違いした平和主義者が「使う者によって兵器の意味は変わる」 と言うがどこまで行こうとも武器は「人殺しの道具でしかない」、本質はどこまで行って も変わらないのだ。 俺が好んで「刀」を使うのも自重だけで分厚い肉を裁断する程の鋭さとフォルムが好きと いう理由だけで使っている。 結局「武器」は「生き物」を「肉」に変える為の道具だ。 「早く姿を見せろ、出ないとあたり構わず凪払うぞ」 シーンと静まりかえったまま何も起こらない。 これで出てきたら出てくる方がアホだろ。 ドサッ そいつは俺の考えに反して出てきやがった。 黒い体に薄く毛が生えた八本の足、やたらと八つの単眼が赤く輝いている。 臨戦体勢は整っているらしい。 こちとら呆気に取られてるのに・・・・・何でこうやる気満々なんだ? 「相棒、コイツ食うの?」 頭の上の相棒が聞いてくる。 「フラッシュハウンドだっけか?こいつは食った事無いからな・・・・・食う」 頭の上から冷ややかな視線を感じた。 そんなに嫌なら食うな。 ていうか、絶対に食わせない。 「さあて、MrだかMIss蜘蛛、悪いがお前は――――」 ザシャ こちらの口上が終わらないうちに飛び掛る。 だから嫌なんだよ節足動物は!話を聞こうともしやがらない! フラッシュハウンドは牙を蠢かし挟み込もうとする。 逆手に構えた「至高」を牙に斬りつけ、そこを支点に左回りに体を回転させ裏に回り込み 尻に右手の「究極」を突き立てるが思ったよりも弾力のある肉が刃を防ぐ。 後ろに飛び間合いを取る。 さて、どうしたものか・・・・・ 思いのほかフラッシュハウンドの肉は柔らかく固い。あの弾力性をどうにかしないと解体も 出来ない。 ふうむ、関節に差し込むか、それとも奥の手を使うか・・・・・ ポフポフポフポフッ なんか頭の上の相棒が俺の頭を叩いてますよ?ええい気が散る! 「なんだ抗議か?」 「俺とお前の契約は「美味い物を食べさせる」だぞ!あんな物食わせる気か!?」 「あんな物とはアイツに失礼だぞ。ひょっとしたら美味いかもしれない」 「あんなんだよ!?食えるか!」 フラッシュハウンドは体長2m程のタランチュラ型の蜘蛛だ。 蜘蛛はチョコレートの味がすると聞く、どこぞの部族では特定のミミズは村長しか食べら れない貴重品だそうだ。 それなのにあんな食いでがありそうな蜘蛛を嫌うなんて酷いな。 好き嫌いはいけない。親の顔が見てみたい。 「さあて、あんまりカロリーを消費したくないんで速攻で解体させてもらうぞ」 型の柄に付いているトリガーを引く。 キュイィイイイイイン 甲高い音を立て、刀身が動き始める。 王立魔導研究所開発・弐式技巧剣参型、通称・「神殺(カミゴロシ)」 大戦時における魔導技術の拡大により魔術起動による機械の開発において作られた新型 の剣がこれである。 元々はエンジン部だけが開発されていて、発見した俺が大師匠であるエデンスの婆さんに 頼んで造ったのが「究極」と「至高」だ。 「至高」と「究極」の刃は目に見えないぐらい小さな鋸刃で構成されトリガーを引くこと で刀身に沿って回転し前後に引くことなく相手を切ることが出来る。 起動した二刀を構え、間合いを計る。 フラッシュハウンドも刀の奇妙な機械音に注意を払う。 足に力をいれ間合いを一気に詰めた。 足の動きを見てかフラッシュハウンドは飛び上がる。 いきなりの行動に呆気に取られたが、落ちて襲い掛かるまでに数コンマ何秒かある。 全身に力をいれフラッシュハンドの無防備な胸部目掛けて突き上げる。 「単剣・螺旋」 刀の切っ先が触れた瞬間に刀を捻り回転を加える。 ギュギィイイイイイイ 耳障りな音を立て回転する刃が肉を噛み、捻りが肉を捻り切る。 刃が肉に喰い込み固定、その柄頭を狙って蹴り込む。 「ファーライト流、蹴技・裂破」 突き刺さった刀が蹴りの衝撃で貫通し風穴の開いた胸部からフラッシュハウンドは真っ二 つに裂けた。 解体には程遠いが、食いやすくは多少なったな。 二つに分かれたフラッシュハウンドの体を集め切り開く。 ねっとりとした粘液に塗れた肉を切り取り臭いをかぐ。少々の生臭さとややチョコレート に近い臭いが鼻をくすぐる。 臭いから察すると食べられない事は無い。だが、食べられる確率は低い。 今度は舌先に肉片をのせ味を確かめる。 微妙に海老に近い味がしたがそれよりも口に広がるのは芳醇な甘味とコクのある微かな苦味 確かに味はチョコレートに近いな。舌に違和感は感じない。 見た目に反して中々繊細な味じゃないか。 「相棒よ食えるぞ♪」 「嬉しそうだな・・・・・・最悪だよコイツ。絶対に味覚おかしいって!」 「そう思うなら少し食べてみろって」 「嫌だ!」 「いいから食ってみろって」 「頭の上にゲロ吐いてやる!」 「ああもう、うるせえな!喰え!」 頭の上でキャンキャン騒いでる奴を掴み口の中に肉片を無理矢理詰め込む。 ジタバタもがいているが基本スペックと大きさが違うのだから抵抗なんぞ無意味! さあ、じっくりと味わうが良い! 「モゴーモゴー」 「ああん?人間様の言葉喋れや。クヒャヒャヒャヒャ」 「モグモグモグ・・・・・ゴクン、意外と美味いな蜘蛛」 「現金だな相棒・・・・」 「もっと喰いたいぞ♪相棒」 俺とコイツの関係はいつもこんな感じだ。 さて、こいつもフラッシュハウンドの味を覚えたことだし本格的に喰うか。 ドドドドドドッ―――――――――――――――――――ギュアアギャアアアアアアア 地鳴りような音と獣の咆哮があたり一面に響く。 ああ、そうかだからこの森には何もいなかったのか・・・・・・ 咆哮の主を見て俺は確信した。 二つの頭と巨大な翼、屈強な鱗に身を包む世界の覇者たる龍の一種 アジ=ダズ=ゲイズ 群で行動する世界危険魔物ランク7位 流石に実物は見た事無かったがやばいって事は見ただけで分かる。 だが、相手との距離は目測で300m程あり少し動けば遭遇しないですみそうだ。 肉を持ち運ぼうとした時だった。 「いやあああああ、私なにも悪い子としてませんようー」 スライムを頭に載せた眼鏡の少女が全速力で駆けて行く。 誰だ? 「あんたが悪いんだろうがー、なんで傷ついて寝てる相手を刺激するのよ!」 軽装の鎧に見を包んだ女性が尻尾を振って眼鏡の少女を追い駆けていく。 あの尻尾はアクセサリーなのか? 「こんな人たちのパーティに入るんじゃなかったー、フギャラルギャゴギャアアア」 ビキニアーマーに身を包んだ少女が二人を追う。 ベルガ族の言語か?何にしてもあんなかっこうしてるんだから痴女確定。 はあ、なんなんだろうね今日は・・・・・ グチャ 何かを踏み潰す音がした・・・・・・ 「相棒、あれ!」 ギャラロギャアオオオオオオオオオオオオオオオ アジ=ダズ=ゲイズが咆哮し三人が走り去った方向へ駆ける。 なるほど、あの三人組を追いかけてたわけか・・・・・ で、さっきの「グチャ」って音は何? 分ってるんだ、答えはわかってる理解したくないだけなんだ。 がっくりとうなだれている相棒が答えなんだ。 アジ=ダズ=ゲイズに踏まれて肉となったフラッシュハウンドはぐちゃぐちゃの泥まみれに なっていた。 「うああああああああー、三日ぶりの食料だったのにぃー」 魂の慟哭が響く。 無念だ、無念すぎる!新しい味に出会えたのに、グロテスクな外見だが甘美な物だったの に。世界の一ページに名を刻む者なのに。 ふらふらと飛び、俺の頭に座る相棒。 「なあ、相棒・・・・悪いのは誰かなあ?」 「悪いのか・・・・・あの美味そうなドラゴンと三人組・・・・・」 「一番悪いのは?」 「あの三人組・・・・・」 もうやる事は一つしかない。 「「あの三人組に謝罪と賠償を要求する!」」 空腹などどこ吹く風と言わんばかりに全速力で三人組の後を追った。 俺の名前はハロウド=ガスト=グドバイ 相棒の名前はロアージュ、ダマスカスの晶妖精 我が師・夢里皇七郎曰く、俺の敬愛してやまないハロウド=グドバイと一つだけ共通して いる所があるそうだ。 「自分からトラブルに首を突っ込みたくなる」 ああ、この時はまだ自分の間違いと無知さに気が付かなかった。 続く 登場人物 ハロウド=ガスト=グドバイ 2355年に「美味!肉食大全」という古今東西の肉料理やあらゆる肉の食し方を記した 辞典を出版した学者。 ハロウド=グドバイを死ぬほど尊敬しているため、ハロウドと名乗っている。ちなみに ガスト=グドバイが本名。 学術都市ウォンベリエにおいて天才の名を欲しいままにしたが、「インペランサはお魚 さん」に触発され本を書く為に学校を自主退学し、世界中の料理や様々な肉を食べ歩き本 を記した。 ハーフエルフで外見は幼くとってもわぁい。20歳過ぎなのだが、中々大人に見てもらえ ない為かとても凶暴かつ乱暴。別名「学者ベルセルク」 学者だが、戦闘能力が高く。ダマスカスの晶妖精と契約し、刀型のチェーンソー2本が武器で これを使って肉を解体する。 「学者が弱いと思ったら大間違いだ、解体してやる覚悟しろ!」 ティナ・グリーグス 人間とベルガ族のハーフとして生まれた少女。16歳 青髪ロングヘアーをツインテールにしており、獣のように鋭い赤目を持つ ビキニアーマーと篭手・具足を身に着けており、身の丈ほどもある大剣を得物としている 父は南方でも屈指の戦士で、人間とベルガ族のハーフがどこまで人間社会に適合できるかに興味を示し、1匹のベルガ族を強引に従わせて彼女を誕生させた 人間と同等の教育を受けており、気さくで明るい性格で多少の差別にも動じない しかし半分ベルガ族の血が流れているせいか、怒ると獣のような咆哮をあげながら暴れまわる 現在はベルガ族がいるという山奥まで旅に出かけているが、街を訪れる度に注目の的になるのが悩みの種 ビギナーニ=ベンリ http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/87.html 罷璃=ニードレスベンチ http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/391.html