RPG嘘大戦ベストシーン 第4位『落日の彼方に向けて』 「国が、お城が……」  久方ぶりの祖国、その危機に逸早く引き返したエールが見たものは、燃え盛る自らの城 と、溢れんばかりの兵の数。兵が掲げている旗は、二尾の冠にそれぞれの軍団の旗印が刺 繍されたもの。このようなものを使うのはたった一つの国だけだ。 「皇国……なぜここまで!?」  同道していたジーザスは、怒りに任せるままに愛剣ゼクスを抜く。彼の心情を表すかの ごとく、掲げられた剣から雷撃が天に放たれた。  王国連合内で突如起こった、リバランス国とボレリア国との紛争。その裏には魔同盟が 一柱『法王』アルダマスの離間の計があった。それを逸早く察知した皇国はすぐさま十二 軍団の内、第二軍団『攻速』を中心にした六個軍団を、すぐさま渦中の王国連合に向かわ せた。  その際、皇帝は彼らにこう告げた。 「いかなる歴史の悪名も、怨嗟の声も全て、後になれば知ることになる。我々の行いが正 しかったことを。今果たすべきは大いなる魔の手を打ち払うことだけだ。我が戦友諸君! 我が国に税を払い我が国に仕えその死をも厭わぬ皇国軍人諸君よ! 今こそ我らがこの世 界の住人全てに泰平の未来を見せるときが来た! 切り拓くことを怖れるな! 前に進む 足を止めるな! 私は信じている! 必ずや君たちが、あの魔同盟すら打ち破り、またこ うして集えることを!」  そしてこうも付け加えた。 「凱旋式は盛大に行くぞ! 王国連合も皇国も、ましてや魔物も人も関係ない。勝利した 者全てで楽しむ! 俺が決めたんだ、付き従ってもらうぞ。さあ、行ってこい!」 「第二、第三分隊はこの辺りの敵を一掃しろ! なんとしてでも他の軍が通れるようにそ の道を切り拓け! 残りは私に続け! 城までの道を開く!」 「イエス、マム!」  六脚の軍馬にまたがった女武将の命令に、兵士達が剣を掲げて一斉に答える。怒轟軍団 を率いるイライザ・クロム・フューリーは焦っていた。なぜならば、名目上守るべきリバ ランス国が、攻めてきていたボレリア国と突如手を結び、皇国に対して攻撃してきたので ある。城下奥深くまで切り込んでいた彼女の軍団は、四面楚歌の状況に陥ってしまった。 「おのれ……豚どもが!」  彼女は怒りのまま吐き捨てる。文字通り目の前に集いつつある敵の群れの中には、ボレ リアが誇る幻豚騎士団の、特徴的な丸みを帯びたアーマーがちらほら見える。 「インペリアルアローでいくぞ!」 「イエス、マム!」  イライザを先頭にしてに十字というより矢を番えた弓のような隊形を即座に取る。馬と 彼らを包む鎧に、白い魔法文字が浮かび上がる。 「突撃ーーーー!!」  彼らが一斉に走りだすと同時に、魔法文字がそのまま光の障壁と変わり、彼らの前面を 包みこむ。これぞ怒轟軍団最大の武器である。加速による空気抵抗を大幅に減らし、光り 輝く矢となって敵陣を一気に貫く。寄って来る兵は全て触れる事もかなわず吹き飛ばされ ていくのみ。 「このまま城門まで突き進め!」  城に続く大通りを高速度で走り続けるイライザと怒轟軍団。その前に、黄金の豚鎧を着 た巨人が立ちはだかる。 「団長! 前方に敵影が見えます! あれは……!」 「あれは……黄金の巨豚か!」  幻豚騎士団副団長グスタボ・デュロックが彼らの前に立ちはだかる。 「ワールウィンドに切り替えろ!」 「イエスマム!」  脇をすり抜けようとするのかイライザは軍を左右に分けた。道を塞ぐように立つグスタ ボが、手に持つ巨大な戦槌を高々と掲げる。 「ふごぉおおおおお!」  戦槌が轟音と共に道路に振り下ろされる。道路がうねりを上げ、波となって怒轟軍団に 迫る。 「怯むな! 進めぇー!」  波に向かって速度そのままに突き進む。そして波が彼らを覆いつくさんとしたその時だ。 「今だ!」  号令と共に円形の障壁が弾け、その衝撃で波に穴が穿たれる。 「ぶひっ!?」 「このまま突破だ!」  土の波を抜け、さらに駆け進む怒轟軍団。必殺の攻撃をかわされ焦ったグスタボも、気 を取り直しまた戦槌を構えなおす。 「どっせぇいいいい!」  そこへ家屋を薙ぎ倒しながら巨人が一人乱入してきて、グスタボに組み付き倒す。怒轟 軍団は前を塞がれ動きを止めた。その巨人の肩には二尾の王冠を前に拳が描かれた刺青が ある。 「遅いぞゲイル! 30秒の遅れだ!」 「カッカカカカカ! わりぃわりぃ家が邪魔でうまく進めなかったぜ!」 「ったく……これだから野蛮な巨人は」  この巨人もまた皇国十二軍団の将、巨人族で構成された『悪壊』の軍団長ゲイル・アン バーサナーである。酒の匂いを振り撒きながらゲイルは豪快に笑う。 「まあここはわしにまかせい! おみゃーさんは先に進め!」 「それよりそこをどけ! 邪魔だ!」 「うおっと、こりゃすまねぇ」  思いだしたかのように起き上がりながら、ゲイルはグスタボの兜を片手で握りながら無 理矢理立たせた。そしてジタバタともがくグスタボの鎧を蹴りとばして、無理矢理道を作 る。 「これでいいかぁ?」 「最初からそうしろ、馬鹿者! お前達、さっさと城を占拠するぞ!」 「イエスマム!」  部下と共にイライザは、再度王城めがけて走り始めた。それをゲイルは手を振って見送 る。そうしている間に、兜の隙間から荒い息を吐きだしながらグスタボが起き上がってき た。 「ほうほう、そんなにわしと遊びたいか……こい!」 「ぶふぅうううううう!!」  頭一つ大きいゲイルが殴りかかるのと、グスタボが戦槌を振り下ろすのは、ほぼ同時で あった。 「ゲイルはイライザと合流できたようだな」 「ここでオレたちの出番か! 燃えるぜ!」  城壁の外、大きな人型の穴の前に、人影が二つあった。蛇腹になった剣とガンと組み合 わせた剣を持つ逆毛の男と、鎧を着た小さな獣人だ。『裂攻』の軍団長クラウド=ヘイズ と、『超獣』の軍団長ヴァヴァ・ロアである。 「俺が先にマジシャンを使ってヤツらをボッコボコにしてから、お前さんが突撃だ。いい な?」 「ちょっとまてい! 俺が突撃してからお前が側面から攻撃だろうが! 話が違うぞ!」  クラウドの言葉に怒りながらヴァヴァが反論する。やれやれといった感じでクラウドは 肩を竦めた。 「普通こういうのは遠距離攻撃からやるもんだろうが。で、それを使えるのはここじゃう ちの軍だけ。お前さんの軍はそれが終わるまで待機。当たり前の話じゃないか」 「いんや! イライザに一番槍を渡したのだ! もう我慢できん! オレはいくぞ!」 「あ、おい待て!」  穴に向かってヴァヴァ以下獣人たちが怒涛の勢いでなだれ込んでいく。それをクラウド は止めることができなかった。あとに残ったのは、攻撃準備を完了した彼の兵士と、彼だ けである。 「まったく……しょうがない、作戦に変更があったことをハインラインに伝えてくれ。こ ちらはこのまま前進しつつ、『超獣』を援護する。その際市街にもかなりの損害を与える とも付け加えてくれ」 「ハッ!」  伝令を放ち、今一度穴に振り返るクラウド。その先では、幻豚騎士団と戦闘を開始した ヴァヴァの姿があった。小さな体の数十倍はある巨大な戦斧を軽々と振り回し、何人も薙 ぎ倒している姿だ。 「ここまでは今まで通り、だが……」 「いかがしました、クラウド将軍」 「いや、なんでもない」  兵士の質問に首を横に振りながら答える。そして一度、東の空を見た。だがその視線も すぐ敵に向け直す。 「裂攻軍団突撃開始! ここで俺達の汚名を返上する!」 「イエスサー!」  魔族であるクラウドは、今回の戦で今まで以上に他から不審の目で見られていた。だが 皇帝だけは彼と今まで通り、信頼できる軍団長として会話した。その恩に、彼は報いよう と決めていた。 「魔法部隊は側面の敵を狙え! 工兵部隊は攻城兵器と共に城門を破壊しろ! 残りは俺 に続けぇー!」 「イエスサー!」  闇哭軍団は少数である。だがそれには理由がある。彼らは軍団と名がついているがその 数は30名弱である。それは彼らの設立目的が要人の暗殺や破壊工作にあるからだ。そし て彼らは今、ボレリアに潜入していた。 「……その話、本当か」 「はい、間違いないかと」  ボレリアに続く街道、そこの旅宿で彼は部下から報告を聞いていた。漆黒の鎧に身を包 んだ『闇哭』軍団長ゼファー=ローデスである。 「ボレリア王の突然の死去、そして後継者たちによる突然の内乱……」 「ここ以外にも、王国連合各地で混乱状態が続々と発生しています」 「アルダマスの行動にしては奇妙だな……」  ボレリアとリバランスが共闘して皇国軍と戦っている情報は、既に彼の耳にも入ってい る。だからこそ彼はこの状況に違和感を感じていた。 「ここは王国連合を煽動し、全軍をリバランス方面に集中させるほうが道理のはずだ。だ があえて王国連合内でも離間の計を働く」 「……大将」  彼の傍らに立つ大男が小さく呟くように声を上げた。ゼファーはその男に顔を向けた。 「どうしたマグナ」 「推測ですから聞き流してもらって構いません」 「……構わん、言え」  マグナと呼ばれた大男は、一度深呼吸してから言葉を紡いだ。 「ボレリアとリバランスの突然の共闘、そして王国連合での混乱。これはある一つの目的 のために行われているのではないかと思います」 「……お前にしては饒舌だな。で、その目的とは?」 「それは……」  マグナがその理由を言おうとしたその瞬間だった。 「た、大変です団長!」  彼の言葉を遮って、息も絶え絶えに兵士が一人やってくる。眉間に皺を寄せながら彼は 声をかける。 「……何事だ」 「超ド級陸上艦を確認! こちらに向かっています!」 「なんだと!」  マグナが大声で叫んだ。動くはずがないと思っていた敵が動いたのだ。驚くのも無理は ない。  が、ゼファーは眉間に皺を寄せたまま、いつもの調子で喋りはじめる。 「敵は決まった……いくぞ」 「大将、まさか」 「そのまさかだ」  立ち上がり、ビリビリと雷気のほどばしる剣を掴み、ゼファーは命令を下した。 「その敵の首を狩る」 「……解せんな」 「ええ、解せないわ」  皇国首都で待機していた『賢聖』軍団長ミサヨ=J=オロチェルと、『刀魂』軍団長キ ルツが、報告を聞いて発した意見は同じものだった。彼らは今、王宮の中庭のベンチに腰 掛けていた。 「ここで奴らが動く理由がわからん」 「そうね。彼らが動けばあの者達も動く。そしてあの者達は奴らにとっては天敵」 「つまり、天敵が動かない、もしくは動けない状況にあるのでは……」  彼女らが話しているところに、一人の有翼人がやってくる。その肩には、翼の生えたリ スがちょこんと乗っていた。 「と、我が将がおっしゃっております」  肩のリスがキキッと鳴いた。このリスこそ第一軍『空帝』の軍団長テトラ・V・V・グ ランである。そして有翼人は同じく空帝の軍団長補佐ゼッツ=アールガラだ。彼は人の言 葉を話せないテトラの通訳であると同時に、彼の右腕でもある。 「それこそ拙いな。あいつらが早々動けなくなることはないだろう」 「だが、俺の背中の毛がざわついてやがる。こいつぁ悪いことが起こる証拠だ……と、我 が将がおっしゃっております」 「仮定の話ばかりね、建設的じゃないわ……エレム、あなたはどう思う?」  振り返り、近くの芝生に腰掛けていた白髪の少女に声をかける。そこにはもう一人、赤 い立方体を被った赤いワンピースの少女も一緒にいた。 「うーうー」 「ロロ、あなたに聞いてないわ。どうせご飯食べたいとか言うのでしょ?」 「う〜〜〜〜」  ロロと言われた。両手を何度も縦に振って必死に否定する仕草をする。その手をエレム が手を添えて止めた。 「早く誰が飴のおじちゃんを助けに行くか決めようよ……と言ってます。私もそこから考 えるべきだと思います」 「ハインラインもひどい言われようね。でも、確かにその通りだわ」 「将軍! 大変です!」  伝令が慌しく彼らの元にやってくる。皆の視線が集中すると同時に、伝令は叫んだ。 「南国と砂漠に大規模な軍勢を確認! ほとんどが魔物で構成されています」 「……三方同時。つまり本格的な侵攻か」 「いえ、侵攻じゃないわ」  キルツの言葉をミサヨが否定する。そして彼女はこう言い直した。 「相手の目的は殲滅。下手をしたら草の根一つ残らない、史上稀に見るほどのね」 「……大戦、ですか」  エレムの口に出した言葉は、数百年の時を経て再び起こった戦争の始まりを意味してい た。 「裂攻と悪壊で敵の進撃を食い止めろ。怒轟がリバランス国王の首を抑えるまでだ。その 間に超獣と私の軍でボレリアの横腹を突く。副官、闇哭からの報告は?」 「敵陸上艦を三隻発見したと言ってから連絡が途絶えているよ。全滅はしてないだろうけ ど、象の足を蟻で止めるのは不可能だろうね」  リバランスの城壁から少し離れた平原、そこに皇国の本営が置かれ、『攻速』のハイン ラインは指揮を取っていた。 「来た、見た、勝ったという具合にはいかなかったようだ。それにしても予想外だよ。ま さかこのタイミングで彼らが動くとは」 「勇者が動いたって話もないし、こりゃ本格的にヤバイかもな」  そうこう言っている内に、城壁を破って芋虫型のド級陸上戦艦が城壁を突き破る。反対 側にいたハインライン達からも見えるほどそれは巨大だった。 「あの位置はまずいな。ちょうどゲイルがいる位置だ」 「退かせるか?」 「いや、あのままあそこで一働きしてもらう。だが一隻だけか。ゼファーはいい仕事をす るな」  ニヤニヤと笑うハインラインだが、その目は笑っていないのを副官は見た。彼の心中は 怒りで煮えたぎっているが、それをあえて押さえつけていると、彼女は感じ取る。 「……撤退も視野に入れなきゃね、こりゃ」 「ああ、その通りだ。まったく、東国は何をやっているんだ。王国連合もだ。とてもとて も忌々しいな」  敵戦艦から、カマキリが巨大化したような姿の兵士がゾロゾロと出てくる。  彼らに魂はない。命令だけを遂行し、そのためだけに特化された個体。 「魔同盟、破天帝国、イツォル! この怒りは忘れん! 決してだ!」  激昂したハインラインの怒りの叫びが木霊する。  今ここに、人魔による世界大戦の火蓋が、切って落とされた。 ________________________________________ 「はいはい、やっちーだよ〜」 「姉さん、似合ってないわよ」 「が〜ん、お姉ちゃんショックだわ……」 「勝手に受けてなさい。さて、解説だけれども、これは要するに大戦の最初も最初です」 「皇国が兵士を出したところを、いきなり魔同盟がガツーンと横槍を入れたのがきっかけ なのね」 「正確には皇国をいぶりだしたって考えるべきね。なんだかんだで一番強いし」 「つよーい人から倒すのはへいほーのじょうどーってヒゲのおじさんが言ってた」 「罠にはまるから生兵法はやめなさい。とにかく、こうしていきなりの大劣勢から人は戦 うわけよ」 「大変ね〜……ところで那智ちゃん」 「なに?」 「皇国って12個も軍団があるのに、出てきてるの11個だけよ。あのバケツ兜かぶった おじさんは?」 「バケツ兜って……・あ、姉さん。後ろ」 「え!?」 「あっはははははは、嘘よ嘘」 「も〜那智ちゃん! お姉ちゃん本気でおこ……」 「……? どうしたの姉さん?」 「な、那智ちゃん……後ろ」 「なによ、あたしを驚かそうっての? 姉さんがそんなことしても似合わな……」 「…………」 『……………………』 「…………」 『………………第4位『落日の彼方に向けて』…………次からは、ベスト3……」 「わわ! 喋った! この人喋った!」 「そそそそうじゃないでしょ! ここここら! あたしたちの仕事を取るな!」 「あ、那智ちゃんが怖がってる」 「当たり前よ! 姉さんには一生わかんないわよ! この鈍感イソギンチャク!」 「あーん! その言い方やめてよー!」