RPGSS「学者は踊る〜NEXT GENERATION〜」 その2 人々は動きつづける、時は刻みつづく かっこいいと思うものは人それぞれだったりするわけで、俺の場合はおっさんだった。 出会いは樹海。 当時の俺は何もできない餓鬼の癖に自己主張がデカイ馬鹿。 その日も自分にはできない事はないと思って森の中に入って、案の定モンスターに襲われた。 恐怖にガタガタ震えるだけで何もできない無様な俺を助けてくれたのが、おっさん。 モンスターの攻撃を受け止めて笑いかけてくれた「大丈夫かね?」と、その時のおっさんの 笑顔は眩しかった。 助けてもらったのに気絶してそのあとの事は何もわからない、だけど顔だけは覚えている。 白衣みたいなロングコートにメガネにオールバックの白髪で学者みたいな格好。 俺はその姿を追いかけて気が付いたらウォンベリエで学生になり、きっと同じような道を歩いていれ ば会えると思っていたが、あっさりと見つかった。 師匠の机の上にあった写真にずいぶんと若いがおっさんが写っている。 おっさんの名前はハロウド=グドバイ、魔物生態辞典を作った男の一人。 俺の名前はガスト=グドバイ、ハロウド=グドバイを超える男の予定だ。 私が彼女と出会ったのは必然と言う人もいるがまったくの偶然だ。偶然を必然と私はした くない。だって、そうしたら私の運命は彼女のトラブルによってぐちゃぐちゃな道になって しまうから・・・・・。 だから、私は運命を信じない。 「疲れたよー、罷璃ちゃんオンブー、抱っこー」 「ええい、うざい!」 いつもどおり纏わりつくビギィをはたく。 自分から「フィールドワークしよう」とか言っておきながらいつもこれだ。育てた親の顔が 見てみたい。どういう風に育てたら、頭がキレて甘えん坊という訳の分らない人格破綻者 になれるんだ? 「本当にお二人って仲がいいんですね」 「ティナ・・・・・あんた自分に被害が無いから良さそうに見えるのよ」 ニコニコ笑顔でじゃれつくビギィと嫌がる私を見るこの子はティナ=グリーグス。 人間とベルガ族のハーフで、冒険者として世界を旅している。 つい3日ほど前に東国の冒険者ギルドでパーティを組んだばかりだが、大剣使いとして 確かな腕を持っていて、ベルガ族から受け継いだ力と人間特有の剣術の組み立て方が見事 だった。 そんなこんなで女三人でパーティを組んで、今をときめく大問題学者・ビギナーニ=ベンリ のフィールドワークを手伝う事になったのだが、何でか知らないが現地に到着して散索を 開始するがモンスターどころか虫の子一匹いやしない。 まあ、そんなこんなで今に至る。 骨折り損のくたびれ儲けな上に財布も軽いときたもんだ。 とりあえず東国との中継地点である村に向かってる最中なんだけれどビギィの奴がわがまま を言い始めた。 「つうかさ、あたしらが荷物持ってるんだから疲れないでしょうが・・・・」 「だって罷璃ちゃん肉体労働担当で、私が頭脳労働担当だもん」 「体力無さすぎなのよ」 「罷璃ちゃんのパワー馬鹿!」 と、いつものようにどうしようもない問答を繰り返すのだ。 「ねえねえ、罷璃ちゃんすごいの見つけちゃった」 あえてその言葉を無視する。 「すごいんだよ本当にすごいんだよ!」 目をつぶって無視、無視! 「すごいですよ、罷璃さん!」 ティナ・・・・・あんたまで馬鹿なことに付き合わなくてもいいのよ・・・・ 「すごいっていうか・・・・・まずいよ、罷璃ちゃん!」 「急いで逃げましょう!」 ・・・・・・やばいの? 恐る恐る目を開けた私の目の前にそいつはいた。 双頭の翼竜 アジ・ダズ・ゲイズ 群れをなす危険生物ランキング7位 つうか何でこんな所にいるのよ、単体で! 「逃げるわよ!ビギィ、ティナ!」 と、声をかけるが誰も回りにいやがらない。 つうか100m以上先を二人で全力疾走してやがる。 「罷璃ちゃん、GO!」 「罷璃さん早く逃げてぇー!」 おいおい、先に逃げてるお前らが言えるセリフか! 「ドチクショー!結婚するまで死ねるかー!」 私の名前は、罷璃=ニードレスベンチ。由緒正しき地属性斧使いの家系に生まれた、 お嫁さんに憧れる乙女だ。 なんでだろうね?お腹は空いているのに自然と力が漲ってくるよ・・・・・怒りでな! とりあえず全力疾走で、メガネドジっ娘風学者・ファンシー勘違いアクセサリー女戦士・ 痴女剣士を追いかける。 後ろからドシドシだのギャオオオオオオオだの聞こえるがあえて無視! 目の前に迫る駄目女どもに正義の鉄槌を下す! 「うぉお、気持ち悪いー」 頭の上で必死に俺の髪を掴んで振り落とされないようにしている相棒が何か騒いでやがりますよ? 根性が足りん! 「相棒、ちょっと我慢しろ!謝罪と賠償を要求したら存分にはいていいぞ」 「うぉ・・・・お前・・・俺は・・・・妖精なんだぞ、ダマスカスの晶妖精で萌えキャラだよ。んな 真似・・・・うぉおおお」 「男の癖に萌えとか何とかそんなことはどうでも良い!とにかくあいつらをとっちめる」 「もういいよ、食い損なった巨大蜘蛛なんてぇええー」 「お前は食ったけれど、俺は食ってないんだぞフラッシュハウンド」 ああ、三日ぶりの食事を台無しにされた怒りで更に加速しそう。 しかし、どうやって謝罪と賠償を要求しよう? ・・・・・・・やべえ、食い物関係しか思いうかばねえ・・・・・なんて発想が貧困なんだ! つうか、こいつらがアジ・ダズ・ゲイズを刺激しなければこんな事にはならなかったはず、 ああーもうなんだこのやりきれなさとせつなさは! とりあえず万感の怒りを込めて必殺の・・・・・ 「男女同権キーック!」 「え、なに?」 「後ろから襲撃者?」 「私を狙ってる?ええーい、罷璃ちゃんバリアー」 「フギョー、ビギィ・・・・・この女ー」 なんて奴だ・・・・・一番弱そうな女学者を狙った渾身の飛び蹴りを仲間の女戦士を盾に使って 防ぎやがった。普通、そんなことしねえぞ!なんて恐ろしい女だ・・・・。 「・・・・・・罷璃ちゃん、貴女の犠牲は無駄にしないわ・・・・この痛みを私は胸に刻んで生き続け る!」 「こんの・・・・馬鹿女!あたしはあんたの盾か!」 「おお、流石はニードレスベンチの血筋は伊達じゃないんですね、尊敬です」 「流石は罷璃ちゃん、私の期待通りの活躍ね」 「おいこら、あたしはあんたのガードで相棒よ・・・・・・テメェ、人間としてどんな育てられ 方したらそんな外道になれんのよ!」 「つうか、てめぇら俺を無視するな・・・・・三枚に捌くぞ」 大声を聞いてやっと俺に気がつく三人。コントがしてぇのか冒険者がしたいのかどっちなんだ? 「なにこのショタっ子?」 「あたしを蹴ったのはあんたね!」 「普通はそこから先にいくだろ・・・・」 「あのう、貴方はいったい誰なんですか?」 「そうそう、普通のリアクションはそうだよな。痴女みたいなかっこうしているが中々 まともじゃねェか」 「痴女・・・・・」 「うわあ〜女の子相手に容赦ないね、ショタッ子」 「ショタ言うな。俺はとっくに二十歳過ぎだ・・・・刺身にするぞメガネ」 「メガネってまんますぎよ〜」 なんかメガネと痴女がへこんでいるが無視。 さあて、一番話が通じそうな尻尾女に謝罪と賠償を要求するか。 あれ、なんか頭の上からうめき声というか、えづくのが聞こえる。 「おうぇ・・・やべえ・・・・・・やべえよ・・・・吐いちゃうの俺?萌えキャラなのに吐いちゃうの?」 「相棒、人の頭の上で不吉なこといわないでくれ。そこらの木陰で吐け!」 「そうさせてもらう・・・・うぷっ」 フラフラと木陰に飛んでいく相棒、なにやら隠した口からキラキラと何か垂らしてますよ。 これで萌えキャラとか言えるんだからすごいな、どこの世界の萌えキャラがゲロ吐くんだよ? これでもう邪魔は入らないだろう。 さて、どう取り立ててやろうか? 「あんた一体何なのよ!いきなり襲い掛かってきて!今がどういう状況だかわかっている の?」 「そんなことよりも今は、俺の食事を邪魔した事のほうが問題だ」 「食事?」 「そう、三日ぶりの食事にフラッシュハウンドを捕まえてバラしてたんだが、どっかの誰か さんがトカゲを怒らせちまったんで台無しになった。謝罪しろ、ついでに賠償も要求する」 「は?あんたマジで言ってるの?頭おかしいんじゃないの!」 「普通だったら俺もここまで言わないさ・・・・・三日ぶりの食事だったんだぞ!極限状態の中 でやっと見つけた生命線がいきなり消えたらどうなる?人間はみな絶望する!」 「絶望って大袈裟な・・・・」 「希望っていうのは絶望の裏返しなんだ。食べ物を見つけた瞬間、それが土に返るのが どんな気分か分かるか?大恋愛の末に結婚した嫁が非処女だったときの絶望。恋人を 寝取られる絶望。テストの欄が一つ違っていて零点の絶望。絶望、絶望、絶望、絶望。 お前にはあるか絶望?無いよなあ、おしゃれなんだかチャームポイントだか分からない ようなコンセント尻尾つけて「萌える女です、私」って気取ってるような、恋人なしの要 らない子に絶望なんてわからねぇよな・・・・・・ケッ!」 「うわ、すんごいむかつくんだけど、あんた」 「むかついてるのはこっちだファンシー勘違い女、あれですか不思議ちゃんか!?不思議 ちゃん気取って実は負け組み女ですか?」 「このガキ・・・・ぶっ殺す!」 腰に挿したオールのような剣を接続し構える。 記憶に正しければ、オールブレードと呼ばれるツインブレードの一種で重さを駆使して 使う斧に似た性質がある。 なるほど、斧使いか・・・・・あれ?今さらさらだけど、どっかで、見た事あるなこいつ。 「死ねよやああああああああ!」 絶叫と一緒にブレードを大上段から振り落とす、オールブレードの重さと筋力、重力の力で 加速。 横に避けるも、叩きつけられた地面から砕けた破片が舞い上がり俺に襲い掛かる。 くそ、剣と斧の利点を持っているってのは本当らしいな。 オールブレードは、逆三角形の形状をして普通の剣と違い剣先の面積が広く柄に近くなる ほど狭い、重量配分が斧に近いのと斧ほど長くなく片手で扱えるというのが利点、簡単に 言うと斧並みの威力で剣のように早いのだ。 飛んでくる破片を両腕でガードするが、間髪入れずにブレードが横薙ぎに迫りくる。 やべえ、この女マジで俺を殺る気だ・・・・しかたないか。 ガキィン! 金属と金属がぶつかる音が響く。 刃を俺は靴の裏側で受け止める。 靴にはいたる所に鉄板を埋め込んだ安全靴使用になっていて、例え巨人が乗っても潰れない ぐらいに強化してある。 受け止めた左足を踏み込んで刃を足場に右飛びまわし蹴りを女の首に放つ。 「なぬう?」 あほな声をあげながら状態をそらしよける。 おいおい、そこんとこ当たっておくもんだろうよ。人が紳士的に行動してるんだから。 俺が素手で他人を制圧する時は相手を気遣ってである、気遣う必要性が無い奴は腰に挿した 二本の刀「究極」と「至高」でぶった切ってきた。 流石に紳士な俺も手加減しながら戦うのはチト辛いこういう時は仲間に止めてもらうのが ベスト! 「おい!痴女とメガネ!こいつを止めろ、俺は争う気は無い!」 シーンと静かに何の返事も返ってこない。 あれ、二人ともいない。 しかもなんか、俺の視線の先には脱兎のごとく駆ける暴力女が見えますよ?あれ、あいつ なんで戦うのやめて逃げてるんだ? つんつん 誰かが肩を叩く。 うぜぇな誰だよ? つんつん うぜぇ・・・・・。 つんつん プチッ 「うぜんだよてめぇ・・・・・ごめんなさい」 肩をつんつん突ついてたのはアジ・ダズ・ゲイズ。そらあ、逃げ出すのも無理ない。 つうか、一言かけろよあのくそ女ども! ギャオオオオオオオオアァァオオオオオオオ 大音量の遠吠えが辺り一帯を振るわせる。 なんでこんなにこのトカゲやる気満々なんだよ。 何とかして逃げないと、空腹時じゃなけりゃ廃棄物にしてやるのに、くそ、やっぱりあの女 どものせいだ! どうするどうする・・・・・・・・! 「あ、あんな所に巨乳ドラゴンが!」 明後日の方を指差す。 うわあ、馬鹿だ。俺ってすんごい馬鹿だ! しかし、それ以上の馬鹿がいた。 ギャオ? アジ・ダズ・ゲイズが俺の指したほうを見る。 ちゃ、チャンス? 「うぉおおおおおおおおお」 後ろを振り向かずに全力疾走。 なんかしらんが軽い。頭の上がすごく軽い。 頭の上・・・・? なんか忘れてるような気がするがとにかく逃げる。 ギャオオオ 怒りの咆哮が聞こえるがとにかく走る。 ちくしょう、俺が何したっていうんだよ! 「ふう、やっと全部気持ち悪いのが治まった・・・・・死ぬかと思ったぜ相棒」 酔いが治ったロアージュが出てくると誰もいなかった。 「相棒の馬鹿〜〜〜!」 ただただ、叫ぶ事しか出来なかった。 続く・・・・