RPG 極東・ホツマSS     - 放覩真事象記 -   初め、空は虚で満ち溢れ、ただ、頭師亞気(としあき)と呼ばれる神が存在しておられた。   頭師亞気は、ある時、一つの世界をお創りになられた。   頭師亞気は、その世界を在碑時(あるひじ。在る時の碑(しるし))とお呼びになった。   頭師亞気はまず、その世界を天と地にお分けになられた。   次に、地を陸、海、にお分けになった。   次に、陸、海を支配する神々をお生みになった。   そして、陸の最東端の支配者には、双子の兄弟の神をお生みになられた。   双子の兄は、真面目で、頭師亞気に忠実であったので東真(あずま。東の真(真実、理。正しき事))と呼ばれた。   双子の弟は、怠け者で、不逞な行いをしていたので放魔(ほつま。魔(邪である事)を放つ))と呼ばれた。   頭師亞気は、放魔の行いに怒り、双子の弟をお罰しになられた。   まず、双子が支配していた陸から近い海に大きな奈落をお作りになられた。   そして、放魔の四肢を切り落とし、奈落へ放り投げられた。   次に、胴を切り落とし、奈落へ放り投げられた。   最後に、頭を奈落へ放り投げられた。   心優しくあられた東真は、それをを見ていられなくなり、放魔の頭が奈落へ落ちぬ様、左手を高く掲げお支えになった。   その東真の慈愛に満ちた左手こそが現在、天岩戸回廊と呼ばれるものである。   放魔は、真より見放された者として、放覩真(ほつま)と呼ばれ、島となった。   放覩真の鼻は山尖(やまと)と呼ばれ、島で最も高い山となった。   放覩真は、右目から父(頭師亞気)にみ放された事への怒りと憎しみの涙を流した。   同時に、左目からは兄(東真)への優しさに対して、愛情、憧憬の涙を流した。   右目からは朱由八ム比売(すやむひめ。鬼の女性神)が成った。   朱由八ム比売の後に、鬼が生まれた。   そして、放覩真の右目は山となり、鬼瞳孔(きどうく)と呼ばれた。   左目からは葦彦人得命(あしひことえのみこと。人の男性神)が成った。   葦彦人得命の後に、人が生まれた。   そして放覩真の左目は人瞳孔(とどうく)と呼ばれた。   そして放覩真の口は、大きな谷となり、父への恨みを呪詛を吐き出し、島を穢した。   放覩真の口は妖成穴欺都(よなりあぎつ)と呼ばれた。   谷から吐き出された呪詛のために、放覩真の地は人が住めなかった。   それを見た朱由八ム比売は、葦彦人得命に「放覩真の穢れを落とし、人の住める大地にしましょう」   葦彦人得命は肯かれ、朱由八ム比売と交わった。   そして生まれたのは癒治司成世波値(いやしつかさなるよはね。癒しの神)。   朱由八ム比売は、癒治司成世波値に命じ、大地の穢れを落とさせた。   大地の穢れは落ち、人は放覩真の地に住む事ができるようになった。   次に、朱由八ム比売は、葦彦人得命に、「放覩真の理を造り、島を鬼と人に支配させましょう」と言われた。   葦彦人得命は肯かれ、朱由八ム比売と交わった。   そして、十二の神をお生みになった。   最初に、平天炉(へてろ。日の神)をお生みになった。   次に、野高富(やこふ。高原の神)と埜鴻腑(やこふ。山の神)お生みになった。   次に、与羽根(よはね。風の神)をお生みになった。   次に、闇照(あんてる。月の神)をお生みになった。   次に、火理保(ひりほ。火の神)をお生みになった。   次に、菜多拿(なたな。豊作の神)をお生みになった。   次に、魔胎(またい。魔の神)をお生みになった。   次に、土益(とます。土の神)をお生みになった。   次に、糺囲(ただい。水の神)をお生みになった。   次に、四門(しもん。四季の神)をお生みになった。   最後に、揄堕(ゆだ。穢れの神)をお生みになった。   楡堕は水蛭子(ひるこ。不具児の事)であったので、葦彦人得命は奈落へ投げ捨てた。   朱由八ム比売は、「理を築くには十二の神が必要です」と言われた。   葦彦人得命は肯かれ、朱由八ム比売と交わった。   そして、麻躰按(まてあ。癒しの神)をお生みになった。   朱由八ム比売は揄堕を除いた十二神を見て、良しとされた。   葦彦人得命は、朱由八ム比売に「事象を司る者と安寧を司る者を成し、この大地を見守らせましょう」と言われた。   三度目、朱由八ム比売と、葦彦人得命は交わり、神を成された。   そして、龍蝦(りゅか。龍の神。事象龍と同義)と娑憂流(さうる。守護の神)をお生みになられた。   理は成し終えたが、大地に人は増えなかった。   放覩真の右目から生まれた鬼は男だけで、放覩真の左目から生まれた人は女だけであった。   鬼の男は人の女を食い、人の女は鬼の男を恐れて隠れたので、人が減った。   それを見た朱由八ム比売は、「私は鬼の男と子を成し、最初の鬼の女を生みましょう」と言った。   葦彦人得命は、「私は人の女と子を成し、最初の男を産ませましょう」と言った。   葦彦人得命は、人の女と交わり、その女は最初の人の男を産んだ。   葦彦人得命は、その男子を和久種田力(わくすのたりき)と名づけた。   そして、人は地に増え、西の大地を埋め尽くした。   朱由八ム比売は、多くの神を生んだため、子を産み落とす力を残していなかった。   十と二つの月が経っても鬼の子は生まれる気配はなかった。   しかし十と三つの月がたった頃、鬼の女子は朱由八ム比売の腹を突き破り、生まれた。   その為に、朱由八ム比売は神去った(死んだ)。   葦彦人得命は、鬼の女子に、「お前は私の愛しい朱由八ム比売を殺した。お前を殺してやりたいが、朱由八ム比売の忘れ形見。殺せぬ。だからお前は、この地に居らぬ者とする」と言われた。   それ故、鬼の女子は、隠児(おに)と呼ばれた。   そして、鬼は地に増え、東の地を埋め尽くした。   葦彦人得命は、朱由八ム比売の死を悲しみ、お嘆きになり続けたので、地の様子を長い間お見になられなかった。   その間にも鬼と人は増え続け、放覩真の地から溢れた。   そして、鬼は人を、人は鬼を放覩真の地から減らそうと考えた。   そこで、初めて鬼と人との戦が起こった。   葦彦人得命がお嘆きになっていた間に起こったので、「涙間之戦(るいかんのいくさ)」と呼ばれた。   放覩真は、東真への愛情よりも頭師亞気への憎しみが強く人より鬼のほうが強い力を持っていた。   鬼は人の力を圧倒し、人が住んでいた西の土地を鬼が埋め尽くした。   人は地の下に隠れ住んだ。   人が地の表からいなくなった時、葦彦人得命はお嘆きからお目覚めになった。   そして、鬼が地を埋め尽くしているのをつぶさに見、お怒りになられた。   まず、葦彦人得命は、人の女と交わられ、女の中に力強い聖を放たれた。   そして、強い力を持つ女子が生まれた。   葦彦人得命は女子に、「お前は地を司り、天の如く在るべし」と言われた。   女子はそのようにあり、名は地司天如在(ちしてんにょざい)となった。   葦彦人得命は、「地司天如在よ。お前は私の聖により強き力を持ったが、それだけでは、多くの鬼の前では命を失う事となるだろう」と言い、鎧をお与えになった。   それは白く輝く鎧で、邪享成聖(よつらじょうしょう)という名だった。   地司天如在が産まれて十と六年経ち、再び人は鬼と戦を起こす事を決した。   白銀の鎧を着、強き力を持った地司天如在はすさまじい力を見せ、みるみるうちに鬼の数を減らした。   しかし、地の半分の鬼を殺したとき、地司天如在の剣は砕け散った。   それを見た、鬼の中で唯一、人を殺める事がなかった鬼は、鬼を殺す刀を打ち、地司天如在に奉げた。   その刀は、刀身が朱色で鬼薙(おになぎ)という名だった。   刀身には鬼薙時訪安寧成(鬼薙ぎし時、平和が訪れる)と刻まれていた。   その刀を奉げた鬼は、名を尖角(せんかく)と言った。   地司天如在はその刀を受け取り、鬼をさらに東へ追い詰めた。   鬼は、放覩真の各地に隠れ、姿を現さなくなった。   その為、この戦は「鬼隠戦(おにかくしのいくさ)」と呼ばれた。   葦彦人得命は地司天如在に「お前は天孫と名乗り、放覩真の地と人を統治せよ」と言われた。   こうして地司天如在は初めの天孫となり、人の世を治めた。   地司天如在は葦彦人得命に「尖角の力あってこそ放覩真の地を平定する事ができました。彼に恵みをお与えください」と言った。   そこで葦彦人得命は尖角に「お前は鬼でありながら人を助けた。それを称えて耀映大聖(ようえいたいせい)と呼ぼう。そして鬼を抑える為の力を授けよう」と言われた。   尖角は永遠の命と巨大な力を得た。   戦が終り放覩真に平和が訪れたが、鬼がまた増え始めた。   鬼は力が強く、死んでからも奈落から放覩真の地まで這い上がり、憎しみを以て人を殺した。   そこで葦彦人得命は奈落へ身を投げ、奈落の門を硬く閉ざした。   葦彦人得命は閻王と名乗り、奈落へ落ちたものが地に這い出さぬように見張った。   こうして神による地の創造は終わり、今の世となった。