『大事なお話があります。 放課後教室棟の屋上まで1人で来てください。 必ず1人で来てください。待ってます。』 その様な内容の手紙が今朝魁子の下駄箱の中に入っていた。 魁子の下駄箱には手紙が入っている事が多い。 その大半は同性からのラブレターで、極稀に決闘状の様な物も入っている。ちなみに異性から のラブレターはこれまで一通も入っていた事はない。 この手紙もやはり同性からのラブレターだった。名前は書いてなかったが少女特有の丸文字で 書かれているしそう判断して間違いないだろう。 この様な手紙は大体週1のペースで貰っている魁子だが当然全てお断りしている。 同性にモテる魁子だがそういう趣味は持ち合わせていないのだ。 という訳で申し訳ないが丁重にお断りさせていただく為手紙の主が待つ教室棟の屋上を目指し 歩いていた。部活に行く前なのでまだブレザー姿である。 (麻衣達は茶化すけど毎回毎回断るのだって辛いんだぞまったく・・・なんであたしはこうも同性に 好かれるのかね) そんな事を考えながら歩いているとあっという間に屋上のドアの前までたどり着いた。 「さて、今回は泣かれなきゃいいけど・・・」 そう呟き魁子がゆっくりとドアを開けると・・・ 「ヒャッハー!水だ水だ!!」 「汚物は洗浄だぁ〜!」 そこには指先1つでダウンしそうな連中がキャッキャと水遊びしている嫌な光景が広がっていた。 「・・・・・・」 魁子はゆっくりとドアを閉めた。 「・・・あれ、場所間違えたかな?それとも暑さの所為で幻覚でも見ちゃったかな、ははは」 引きつった笑みを浮かべながら手紙を確認するが場所は間違っていなかった。 「あぁ、じゃあやっぱり今の光景は幻覚だったんだな。さて、さっさとお断りして部活で汗を流すと するか」 魁子は自分に言い聞かせるようにしながら再びドアを開けた。 「ヒャッハー!ここはパラダイスだぜぇ!」 「てめぇ!それは俺の水鉄砲だって言ってんだろうが!殺すぞコラ!」 やっぱりそこには嫌な光景が広がっていた。当然手紙の主と思しき少女の姿はない。 「・・・さて、部活に行くか」 何かを諦めた表情で魁子が再度ドアを閉めようとしたその時水遊びしてる男達が魁子の存在に 気がついた。 「お?やっと来やがったか。ヘヘヘ、随分と待たせやがって」 「待たせやがって?って事はもしかしてこの手紙を出したのって」 「もちろん俺達よ!まんまと誘き出されやがって馬鹿な女だぜ!」 つまりこの手紙は魁子を誘き出す為に世紀末クラブの連中が書いた物らしい。 可愛らしい丸文字で手紙を書くイカつい男の姿を想像すると胸焼けがしてきそうだ。 「で、何が目的だよ。まぁ大体予想はつくけどさ」 「てめぇ昨日俺達をボコボコにしたのを忘れやがったのか!?目的なんざリベンジに決まってん だろうが!」 「あぁ、そういえば昨日ランニング中にカツアゲしてる馬鹿がいたからお仕置きしてやったっけか。 何だあれお前らだったんだ。世紀末クラブの奴らってみんな同じ様な格好してるから分からな かったよ。で、リベンジね。前歯がないと食事しにくいだろうに物好きな奴らだなぁ」 何か物騒な事を言いながらシャドーを始めた魁子を見て男達は露骨に慌てた。 「ま、待て!今日てめぇの相手をするのは俺達じゃねぇ!俺達ゃ昨日てめぇにやられた怪我がま だ治ってねぇんだからな!歩くのだってやっとなんだぞ!」 さっきまで滅茶苦茶楽しそうに水遊びしていたのはどこのどいつだとツッコミたい魁子だったが相 手にするのも面倒なので我慢した。 「分かったよ。で、あたしの相手は誰だよ」 「へへへ、まぁちょっと待ってな・・・派亜戸先輩!お願いします!」 男が叫ぶと水道脇にある子供用ビニールプールを埋め尽くしていた巨大な球体がのっそりと動き 始めた。よく見るとその球体には手足と頭が生えていた。 「ふわぁ〜あ、ようやく俺の出番か。どっこいしょっと」 球体──派亜戸と呼ばれた男は巨体を揺らしながらこちらへとやって来た。 「先週新たに世紀末クラブに加わった派亜戸先輩だ!てめぇの相手はこの派亜戸先輩がして くださる!感謝しながら死にやがれ!」 派亜戸という巨漢の男に魁子は心当たりがあった。 「派亜戸って・・・確か相撲部の3年生じゃなかったっけ?」 「それは先週までの話だ!派亜戸先輩は最近大相撲観戦に嵌っている帝王様が相撲部を見学 している時にスカウトして世紀末クラブに加わったのよ!」 「てゆーかお前らのボス大相撲観戦に嵌ってるのかよ・・・」 「さぁ派亜戸先輩!この憎ったらしい男女を自慢のテッポウでぶっ飛ばしてやって下さい!」 「ぐふふふ、任せときな。お米券5千円分の働きはキッチリとしてやるぜ」 そう言うと派亜戸は大きく振りかぶって張り手をくり出してきた。 風が唸るほど強烈な張り手だが魁子にとっては止まって見えるほど遅い攻撃に過ぎない。 張り手を掻い潜り、大きな腹に強烈な裏拳を叩き込む。 相手が前に出た勢いも利用している為その一撃で決着が着いたと魁子は思った。 しかしすぐに違和感を感じて派亜戸から素早く距離を取る。 すると一瞬前まで魁子がいた場所を張り手が通り過ぎていった。 「チッ、外したか。すばしっこい野郎だぜ」 「お、お前あたしのパンチが効いてないのか!?」 「あ〜んパンチだぁ?ひょっとして今のは攻撃だったのか?悪い悪い、ハエが止まったのかと思 ったぜ」 「・・・っ!なんだと!もう1回言ってみろ!!」 「うるせぇなぁ。面倒だから早く終わらせてもらうぞ」 ブン、と派亜戸の張り手が魁子に迫る。 荒い攻撃ゆえ避けるのは容易いが体重差を考えると一発まともに貰えばそれで終わってしまうだ ろう。 その事が分かっている故魁子は慎重に動きながら張り手を掻い潜り様々な箇所にパンチを浴び せて行く。 だがやはりどれも効果が薄い様で派亜戸の巨体はビクともしない。 (Don't think.FEEL.Don't think.FEEL.) それでも魁子は冷静だった。 心の中でブルース・リーの言葉を呟きながら確実にパンチを当てていく。しかし効果が薄い。 と、その時足元の水で足を滑らせたのか派亜戸がよろめき前のめりになる。 (ここだっ!) その瞬間を見逃さず魁子は指先を揃えて派亜戸の目を狙い、眼球に触れる直前で素早く腕を 引き戻す。 これはビルジーと呼ばれる截拳道のテクニックで蹴りに繋げるフェイントとして多用される。 「うおっ!?」 だがそんな事を知らない派亜戸は間抜けにもビルジーが終わった後に目を狙われた事に気付 いて慌てて両腕で顔を覆った。 そして顔を覆うという事は同時に視界も遮られるという事である。 派亜戸が顔を覆った時には魁子はすでに蹴りのモーションに入っていたが視覚を失った派亜戸 は当然気がつかない。 「ゥゥゥゥウォアチョオォォォォォォァァァァァァッッ!!!」 ズドムッ!! 全体重を乗せ、全力を傾けた魁子渾身の回し蹴りが派亜戸の分厚い脂肪の壁を貫き派亜戸の 意識を一瞬で奪う。 「ひ・・・で・・・ぶぅ!!」 太っ腹に膝まで埋まった足を魁子が引き抜くと派亜戸は断末魔を上げながらその巨体を屋上の コンクリートに投げ出した。 「フオォォォォォ・・・・」 「て、鉄壁の防御を誇る派亜戸先輩がやられた?そ、そんな馬鹿な・・・」 「ひ、ヒィィィィ、お助けぇ!」 「あっ!お、置いてかないでくれぇ!」 派亜戸が倒れると残された連中は情けない声を上げながら猛ダッシュで屋上から逃げ出してい った。 「歩くのもやっとなんじゃなかったのかよ・・・さて」 そんな連中に呆れながら魁子は倒れた派亜戸を一瞥すると自分も屋上を後にした。 翌日魁子は麻衣と零から昨日の手紙の事を聞かれていた。 「ねぇねぇ昨日の手紙をくれたのはどんな娘だった?」 「んー、しいて言うならぽっちゃり系・・・かなぁ」 「あら、それは新しいタイプね。それでやっぱり断ったのね。いつもの様に」 「前にラブレター出した娘は付き合ってくれなきゃ死ぬとか言い出したそうだけど今回はどうだっ た?」 「まぁちょっと実力行使されたけどちゃんとお断り出来たよ。あ、そうそう2人とも知ってるか?漫画 やアニメの中だけかと思ってたけどデブって本当に打撃が効かないんだぞ。まぁ最後は回し蹴り でKOしたけどね!」 「KOしちゃ駄目だろ!?」 「まぁまぁその方が魁子らしくっていいじゃないの」 「それもそうね」 「納得すんな!」 ◆あとがき◆ 色々とゴメンなさい。 読んでくれた人はこれはこういうSSだと思ってくれればありがたいです。 そして言うまでもありませんが派亜戸先輩の元ネタはハート様です。 最初は金的攻撃で倒す予定だったんですけど色々あって変更になりました。 あと登場人物紹介は小規模まとめのアドレスを載せる事で省略する事に成功しました。 その内アミバとかジャギ様とかも出てくるかもしれませんがそこはやっぱりそういうSSだと思って許して下さい。 それにしても毎度オチが弱いなぁ。 ゆーあーしょっく。