養護教諭、またの名を保健室の先生。 それは漫画やアニメの場合若くて美人なお姉さんで若くなくても飛天御剣流習ってんじゃない のかってくらい若々しい美人さんなのが通例である。 だが現実は厳しくそれらの条件をクリアした保健室の先生というのはアミバ、もといトキよりも少な いと言われている。 言われているのだがなんと言霊学園にはそのトキよりも少ないとされる若くて美人な保健室の先 生が勤めているのだ。 まるでギャルゲーの様に都合の良い話だがそこは変人揃いの言霊学園、当然保健室の先生も 普通とはかけ離れた変人だった。 放課後の部室棟のその一室、截拳道同好会の部室では魁子と友萌がいつもの様にトレーニン グで汗を流していた。 入部してまだ一ヶ月にも満たない友萌は基礎的なウェイトトレーニングを、部長の魁子は左手を 後ろに回して右腕1本で腕立て伏せをやっている。 2人とも、特に魁子はびっしょりと汗をかいており腕立てをするその下の床には滴り落ちた汗で小 さな水溜りが出来ているほどだった。 「98・・・99・・・100!はぁー終わったー疲れたー」 ノルマである100回をやり遂げた友萌は鉄アレイを傍らに置いて大の字に横たわった。 「59・・・・・・60・・・・・・61・・・・・・」 一方魁子は未だノルマの途中で全身をプルプルさせながらも必死に腕立て伏せを続けている。 「会長頑張れー!あと39回ですよー!」 友萌は身を起こすと魁子へと声援を送った。 「おう、すぐ終わらせてやるよ・・・62・・・・・・63・・・・・・64」 後輩に情けない姿は見せられないとばかりに余裕をかます魁子だったがそれがいけなかった。 65回目の腕立て伏せをしようと全身に力を込めたその瞬間自らの汗で作った水溜りで手を滑ら せドベシャと潰れてしまったのだ。 「ぐえっ!」 「・・・会長!大丈夫ですか!?」 「あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと汗で手が滑っただけだから・・・っ痛っ!?」 「会長!?どうしました!どこか怪我したんですか!?どこが痛いんです!!?」 「あー倒れる時にちょっと手首捻ったみたい・・・いつつ」 「たっ!大変です!すぐ保健室に行かないと!いや、それよりも救急車呼びましょう!ちょっと待 っててください!」 友萌はまるで自分の事のように、いや、それ以上に慌てふためいた。 「い、いや、さすがにそれは大袈裟だって。手首捻ったっていっても保健室で湿布でも貼ってもら えばすぐ治る程度だと思うしさ」 このままだと救急車を呼ぶどころか自分をおぶって病院まで行きそうな勢いだと思った魁子は若 干引きながら後輩をなだめた。 「で、ですが!」 「いいから。とにかくあたしはこれから保健室行ってくるから友萌は10分休憩した後いつも通り学 園の周りをランニングしてそれが終わったらあたし待たないでそのままあがっていいからさ。あ、ち なみにこれは会長命令だから厳守ね」 「う゛ー・・・分かりました」 「うん、それじゃ行ってくるからサボるなよ」 そう言い残すと不満気な友萌を残して魁子は保健室へと旅立った。 それにしてもあの後輩はどうしていつも自分に対してああなのだろう。 たぶんそれはそういう性格で自分だから特別という訳でなく誰に対してもああなのだろうけど。 魁子はそのように思っていたが実際は魁子だから特別でその理由も恋する少女的なものだった りする。 普段あれだけ同性から好意を寄せられていながら友萌のあからさまな好意に気付かない理由も 謎だがファン曰く魁子のそういうところがまた素敵らしい。なんのこっちゃ。 そうこうしているうちに保健室の近くまで来ていた魁子だがそこで最近新しい養護教諭が来たと いう話を思い出した。 ここ最近は幸い保健室のお世話になる事がなかったので未だ新しい養護教諭がどういう人物か 知らないが湿布を貰うだけなのであまり気にしてもいないが。 「すいませーん、失礼しまーす」 コンコンと2回ノックしてからガラリとドアを開ける。 そこにいたのは白い特攻服を着たレディースだった。 「よし!行け!そう!そのまま逃げ切れ!あっ!馬鹿手前!なっ!あっ!あーーーーー!!!」 レディースは養護教諭の物であるはずの椅子に腰掛け机の上に置いた携帯テレビを見ながら 必死に何かを叫んでいたが急に黙り込むとそのまま机に突っ伏して動かなくなった。 「・・・・・・あのーすいません」 一瞬声をかけるのを躊躇ったが勇気を出して話しかけてみた。 「・・・あぁ〜?何だコラ手前、何か用か?」 顔を上げ椅子ごと振り返ったレディースは機嫌とガラの悪い態度で反応を示した。 「いや、あの湿布貰いにきたんですけど・・・保健室の先生どこにいるか知りません?」 「保健室の先生ぃ?手前の目の前にいるじゃねぇかよ」 「あぁ、やっぱそうなんだ・・・」 予想した通りというか何というかやはりこのレディースが新しい養護教諭で間違いないようだ。 「あぁ?んだ手前その反応は。あたしが保健室の先生に見えねぇってのかあぁ!?」 「いやだって特攻服着てるし・・・ってそれ白衣!?」 「ん?おうよ、特注品で高かったんだぜ」 そう言うとレディースは立ち上がり物騒な四字熟語が多数刺繍された特攻服の様な白衣を自慢 げに見せびらかした。 ここで改めてレディースの姿を確認する。 髪は日本人ではありえないブロンドの長髪、目付きは悪く口には禁煙パイポを咥えているがよく 見るとかなり整った顔立ちをしている。 そして最大の特徴でもある特攻服仕様の白衣、立ち上がってみるとよく分かるが背もかなり高い ようで170cmある魁子が見上げる形になっていた。 「そういや自己紹介がまだだったな。養護教諭の戸所勝美だ。で、手前な何者よ?」 「あ、2年の一本槍魁子です。截拳道同好会の会長やってます」 「ふーん。で、魁子、今日はどこを怪我したんだ?お姉さんに教えてみ」 「あ、はい。部活中にちょっと手首捻っちゃいまして湿布貰いたいんですけど」 「ふーん手首ね。じゃあとりあえずそこ座れよ」 「え?いや、湿布だけ貰えればいいんですけど」 「いいから座れってんだよ。蹴り殺すぞ小娘」 看護婦(現看護師)の事を白衣の天使と呼ぶ事があるが戸所の場合は白衣の悪魔という言葉が ピッタリだった。 「どれどれ・・・あーこりゃ捻挫だな捻挫」 メンチをきられて椅子に座った魁子の腕をグリグリと弄り回すと戸所はそう言った。 「ったく最近のガキは気合が足んねーからすぐ怪我すんだよ・・・魁子、オメーも結構いい身体し てっけど身体ばっか鍛えたって気合が伴ってねーとこうなんだよ。分かったかコラ?まーあたしが 気合の入った湿布張ってやりゃあすぐ治るだろうけどよ」 「はぁ、そうっすか・・・」 今までにないタイプの登場人物に圧倒され気味の魁子はそう返すのが精一杯だった。 (どうしてうちの学園はこんな変人ばっかいるんだ?たまにはまともな人材を集めろよ) 魁子に貼った湿布に仕上げとばかりにマジックでぶっとく『根性』と書いている戸所を見ながらそ う思わずにいられない魁子であった。 「うっしパーペキ!これで明日にはもう治ってるぜ。なんてったってあたしの湿布は気合がちげー からよ」 そう言った時の戸所の顔は妙に男前だった。 そして翌日。 「う〜〜ん、あー眠い・・・」 寮の自室で目覚めた魁子は寝巻き代わりのTシャツと短パンを脱いでスポーツタイプの下着姿に なるといつもの様に日課の柔軟体操を始めた。 「オイッチニ、オイッチニ・・・」 身体が解れてくると同時にじょじょに意識も覚醒してくる。 体操を終え身体と頭が完全に目を覚ましたところで右腕にあるはずの違和感がないという違和感 に気がついた。 「・・・全然痛くないし!?気合凄ぇ!本当に治っちゃったよ!!」 その日魁子は普通に通学し普通に部活にも出たという。 凄いね、人体。 ◆あとがき◆ 今回登場した美人養護教諭、戸所勝美(とどころ かつみ)は設定のないキャラです。 よく漫画とかで気合で怪我とかを治してるのでそういうキャラを出そうと思ったのが始まりでした。 そして気合といったらヤンキー、ヤンキーといったら特攻服、そして特攻服と白衣ってデザイン似てるよねって事で外見は決まりました。 その内ちゃんとした設定も出すかもしれません。 あと友萌のキャラがどんどん壊れていきます。 これはこれで書くの楽しいんだけど最終的にどうなるのかちょっと怖いです。 あと今回の話は5月の頭くらいの時期を舞台にしてます。 読みきり形式なので話がどんどん未来に向かってるって訳じゃあないのです。 だから夏の後に春の話書いたりも平気で出来ます。 まぁどうでもいい事なので今回はこの辺で幕引きです。 また機会があればSSを書きます。 読んでくれたとしあき、ありがとうございました。