RPG SS 神々の黄泉 第四話「海賊VS海賊(後)」 「全員、白兵戦の準備ニャ! 船が接触したと同時に仕掛けるニャ!!」 全く……この猫無茶な事をしやがる。 まさかあんな重武装した船にしかも周りには大群がいる中単独で特攻を仕掛ける……ある意味では狂気の沙汰共とれない行動。 普通だったら誰だってしない、私だってしないわ。 だって考えてもらいたい、もし近づくまで撃たれるような事があればどうなる? 他の船に邪魔されたらどうなる? 失敗すれば確実に海の藻屑、いやいろんな意味で鮫の餌になる可能性が高い。 とてもそんな事するような度胸と技量は残念ながら私には存在しない。 だけどこの猫は違う、彼女は一つも迷わずきっかり黒い船に『突撃』をした。 奇跡的に相手側からの砲撃は一切無かった。 よくよく考えて見れば分かる事だ、ここまで大群だと自分の撃った弾で味方の船を攻撃してしまう可能性がある。 なんせ、敵は一体、味方は沢山だ、誤射の危険性はかなり高い。 砲撃で自爆するのだったら素直に白兵戦を挑んでいた方が被害が少ない。 バァン! そうこうしてる内に私達の乗っている船があの黒い船にぶつかる。 「今ニャ!」 号令と共に甲板にあがっていた猫人達が一斉に鍵縄を投げる。 カチャン いくつかの鍵縄は黒い船の側面に引っかかる。 それらの鍵縄を軸に数名の猫人達が黒い船へと潜入する。 ほどなくして黒い船の甲板から縄ばしごがおろされる。 「ここからが本番ニャ……」 こう言うのも仕方ない事だと思うわ。 こちらが白兵戦を仕掛けることが出来た、すなわちそれは相手が白兵戦を望んでいる事。 「どうするニャ? ここに残るニャ?」 ソテーはそう言い背中からブン!と巨大な魚の骨を――多分得物のつもりだろう――振り下ろし、攻撃の態勢に入る。 「冗談を言わないで、ここまで乗りかかった船よ? 簡単には降りないわ」 私も鞘に収めていたオールブレードを構える。 「では、行くニャ!」 タン! ソテーは素早い身のこなしで素早く縄ばしごの元まで行き一気に上る。 私もソテーの後を追い、縄ばしごを上った。 甲板の上は混沌だった。 様々な種類の猫人がいた、人間がいた。 それらが一様に剣を持ち、槍を持ち、斧を持ち 戦っていた、敵と 彼らの発する雄叫び、悲鳴がさながら一つの交響曲を奏でていた。 戦いという名の、戦場という名の交響曲を。 「大丈夫?」 私はその混沌の中で舞っていた、剣を持って。 「そちらこそ大丈夫かニャ?」 ソテーの方も魚の骨で数多くの敵を吹き飛ばしていた、 「大丈夫よ……それよりもどうする? このままだと数の上では圧倒的に不利よ」 実際その通りである。 私達の兵の数は私を含めてまあ100人入れば良い方であるが相手はそんな私達の軍の約十倍の1000人。 いくら猫人が人間よりも身体能力が高いと言ってもこの数が相手だとさすがにきつい。 「……大丈夫ニャ、策はあるニャ」 この猫もその事は了承済みであろう、彼女は戦いつつも誰かを捜しているかの様にキョロキョロとしている。 (誰探してるんだろう?) そう私が疑問に思った瞬間 ドン! 甲板に轟音が響き渡る。 「その策ってやつ、俺も聞きたいな?」 そこにいたのは銀髪の男だった。 派手な服装に少し短めのズボン。 左目はもうつぶれているのか眼帯がかけられており、威圧感を出すのに一役買っている。 男の右手には剣が握られていた――巨大な。 その長さは2メートルをゆうに超え、刃渡りは私のかわいらしい頭がすぽり入るくらいの大きさである。 「あんた、誰よ?」 「俺か? 俺の名はイルカ」 ――この海賊団『鮫』の船長だ。 私はその言葉を聞き震えだす。 その震えは恐怖でもあったが、歓喜でもあった。 なぜなら、こういった大部隊の場合、頭が倒れれば自然と自滅するものである。 そんな頭がここにいるのだ、願ってもない展開である。 「……冥土のみやげに……あれ?」 私がイルカに近づこうとした瞬間 前方を魚の骨が立ちふさがる。 「お前の相手は僕……海賊団『シーキャット』の船長ソテー・グリルニャ!」 そして代わりにソテーが名乗りを上げる。 「面白れえ……一騎打ちってか? 良いだろう、その根性買ってやらあ!」 ブン! うなりをあげて剣がソテーに向けて振り下ろされる。 カン! それをソテーは魚の骨でガードする。 「こちらも一騎打ちを受け入れて嬉しいニャ」 心なしかソテーの声は嬉しがっていた。 おそらく、策がうまくいったのもあるだろうが本当のところ純粋に楽しいのだろう 自分が本気で戦える相手に出会えて。 「……手加減するなよ?」 イルカの方はと言うと……こちらも嬉しがっていた。 ……つまりは似たもの同士ね。 「もちろんニャ!」 「ならいざ尋常に……」 「……勝負」 「ニャ!」「だ!」 ――そのころ 「……」 船内では別の戦いが発生していた。 「……!?」 船が激しく揺れるたび、ビギィは胃の中の物をはき出す。 「うう……早く来てください」 もうコレで10回以上ははいてる事になる。 ガタン! ガタン! また船が激しい揺れに襲われる。 「……?」 その時、荷物の一つが揺れによって床に落ちる。 落ちた衝撃で中に入っていた物が顔を見せる。 それは綺麗な、綺麗な紅い宝石だった。 (……アレって、まさか……) 彼女の疑問をよそに船は揺れ続ける。 ……当分の間、ビギィの胃は荒れ続ける事となるこの海の揺れと同じぐらい。 ―― 戦いは数時間続いたわ。 でも、私達にとってはそんなの関係ないほどその戦いは白熱していた。 「やるじゃねえか? ……敵として出会った事が悔しいぜ」 イルカが腰の回転を聞かせ剣でソテーに斬りかかる 「こちらもニャ、仲間として出会いたかったニャ」 対するソテーは身軽にバク転をしてその攻撃を避ける。 そのまま回転の勢いを殺さずにソテーはイルカの又したに向けて豪快な回転切りを仕掛けた。 「全くだ、まあだけどな……」 カキン! 冷静に下段からの攻撃をイルカは剣を下に向けてガードした。 いや、だだガードしただけではない。 骨と骨の間に剣を挟ませて、彼はソテーをこちらに向けて引っ張る。 「同じ海賊どうしだ、仲間になるよりも……」 当然、空中で身動きがとれないソテーは慣性の法則でイルカ側に引っ張られる事になる。 「こうして、戦ってる方が俺たちにとっては自然だぜ!」 その瞬間をイルカは見逃すはずもなく、受け身がまともにとれないソテーのお腹に向けて強烈な蹴りをかませる。 ……筈だった 「確かにニャ、それはその通りニャ!」 だがソテーは猫人特有の身軽さで、あろう事か蹴ったはずの足に着地していた。 「まだ続けるか?」「もちろん、あんたが降参するま僕は諦めるつもりはサラサラ無いニャ!」 最早私達にこの戦いを止める権利は無かった、少なくとも今は。 ……だがそれは私の思い違いとなる事をこの後知る事となる。 ―― 「……」 『おい、おい……そんなむっつり顔しないでください、面倒な任務ですが空飛べるのは貴方しかいないんですよ?』 「でもさぁ……私としては思いっきり暴れたいのよ」 『駄目です……貴方は私達にとって機密事項なんですよ? 他国に情報漏れたらどうするのですが?』 「情報漏れなきゃ良いんでしょ? じゃあ良い方法あるわ」 『ほほう? してその策は?』 「簡単よ」 ――全員消し炭にすれば良いのよ 突然、隕石のような火の玉が甲板に落ちてきた。 「……!?」 その事で二人の戦いは一時中断される。 モクモクと煙が上がる中、中心地から一人の少女が顔を見せる。 その少女は紅かった 髪の毛、瞳の色、服装、全てが燃えるような紅であった。 少女の背中には竜の翼が生えており、その容姿から私はいつかビギィに見せてもらった魔物図鑑の火吹き竜――サラマンダー――をつい連想してしまう。 「誰だ!? せっかく良いところだったんだぞ! 邪魔するんじゃなねえよ!」 少女は手をイルカの方に向けて、開いてみせる。 突然 ボォォォォ!! 業火がイルカを襲った。 「あっち! 何しやがる!」 イルカは寸前のところで剣を盾にしてその攻撃を避ける。 「ごめん、ごめん……間違ったちゃった」 そう言うと今度は床に両手を置き少女は力を込める。 ボォォォォ!! 今度は業火が船を襲った。 意志のない船にとってそれは避けられず、あっという間に炎は船全体を包み込んだ。 「燃やすならこっちよね?」 少女は心底嬉しそうな顔をしてその地獄を楽しんでいた。 私は彼女のこの行動に恐怖を覚えた。 今すぐにでも逃げたい、どこか遠くへ。 しかし、残念ながら私に船を操作する技能なんてそもそも持ち合わせていない。 今の私に出来る事は只ソテーを無事見つけ出し、ここから逃げる、只それだけであった。 「何処へ行くの? 貴方は私の獲物よ?」 ……ごめんそれも無理です。 少女は私の顔面に向けて、掌を開いて見せる。 私は一瞬ビギィの事を思い出す……なんでこの女なのよ。 …… あれ? いつまでたっても炎が来ない。 「……!? ちょ、これから良いところ……ああ、確かにその通りね」 ……もしかして助かった? 「今日のところは見逃してあげる……でも覚えておいて、私はまあまだ名前は名乗らないけど」 ――『事象龍に最も近い龍』ってことをね そう彼女はいって再び上空に飛び立った ……あれ、ただの負け惜しみだいよね。 「戻るニャ! もうこの船は沈むニャ!」 程なくして、ソテーは脱出するように私に指示を出す。 それに気づき私はすぐさまソテーののっている船へと走り出した。 こうして、私達はヴァルデギア帝国に向けて航海を続ける事になった。 ――背後で燃えさかる船を尻目にしつつ。