RPG SS 神々の黄泉 第一話「冒険は突然に」 ――運命を変える資格はどのような人間にも持ち合わせている物だ 「ホントにそうなのかね……?」 私――罷璃=ニードレスベンチ――は手に取った本を読んでそう呟いた。 もしそうなら私が地属性で生まれてくる運命も、そしてこんな役に立たない蠍の尻尾がついてこない運命もあるはずだ。 だが実際はどうだ? 私は大嫌いな地属性に生まれ、こんな(地属性以外では)役に立たない尻尾が生えている。 「……」 悪いのは誰か分かっている ええ、分かっていますとも! 全てはご先祖さま――更葉=ニードレスベンチ――のせいでこんな運命を背負わされれたのだ 全く持ってやっていられない、本当ならこの目であって一発ぶん殴っておきたい。 だが――死した者に意味のない怒りをぶつけても仕方ない。 それよりも、だ 今現在の状況を打開する策を講じるのが先である。 「……グスン」 空になった財布を見て思わず私は涙目になる。 ……言っておくが私は金遣いは荒い方では無い、むしろ倹約をしてる方である。 では誰がこんな事をしてるかというと―― 「罷璃さ〜ん、ただいま〜」 この女、変態スライム使いの学者、ビギナーニ=ベンリもといビギィのせいである。 「ビギィ……もしかして又変な物を買ってきたの?」 私はおそるおそる聞いてみる。 「変な物じゃないですよ〜、ほら」 そんな彼女の手から出たのは……プルプルとした瑞々しい流体生物、私が最も嫌いとしている生物 人、それをスライムという 「……ッ!! そんな物を買ってくるな!」 私は身震いしつつも答える。 「え〜、駄目なんですか」 「駄目なもんは駄目だ、ってをい! 近づけるな、頼むから近づけるな!」 ああ、思えばこれも又一つの不幸だな…… 私はこの女の専属エスコートをしている。 こう見えても彼女は魔物生態研究所で情報収集兼探索班をしているやつだ、それなりに給料は持ってると思った。 ……実際、給料は持っていたようん でもね、私の誤算は彼女がそれ以上の浪費家だったと言う事、ただ一つである。 ええ、生活必需品はほとんど買わないで自分の趣味の物に――スライムに 「大体そんな金何処にあったのよ!? ……まさか」 借金とかしてるのか!? この女なら本気でやりかねん、いや絶対にやる! 「それなら心配ないよ〜、前金でもらったお金で買ったから」 前金!? ……借金するよかましね。 「そう、前金で皇国金貨50枚、依頼成功した暁には金貨200枚だそうです」 「で、どんな依頼なのよ?」 前金受け取った以上ドタキャンする訳にもいかない、全く厄介な事してくれるわ。 「え〜と、只の荷物運びですよ?」 ん? この子にしてはまともな依頼を受けてるな? 「簡単そうね? で、どこからどこまでよ」 「え〜と、ロンドニアからヴァルデギア帝国だそうです〜」 ヴァルデギア帝国……はぁ、なんでそこなのよ! 私はあそこが嫌いだ、大嫌いだ。 第一にあそこは重武装、重装甲が基本だ。 なので嫌でもご先祖様を思い出させてくれる。 第二に――これが最も重要な事だが――なぜかあそこは地属性の人間が多いことだ。 正に地獄、少なくとも私にとっては。 しかし、このまま指加えて待ってもいつかは借金地獄に合うだけだ。 だったら今よりもマシな状況になるためには行動あるのみである。 「しかし、ロンドニアからヴァルデギア帝国か……となると船を使って……」 その時私はある事を思い出した。 ここ最近暴れ回ってる海賊団『鮫』のことを。 海賊団『鮫』……ああそうか、通りで報酬がバカ高い訳ね。 「……? どうしたんですか〜?」 海賊団『鮫』……ロンドニアの近海を根城にしている海賊団のことである。 その海賊団はともかく強い、はっきり言って下手な海軍の軍隊よりも。 確かうわさ話によると、かの海賊団を沈めるためロンドニア海軍が動いたんだが…… ……結果はさんざん、ボロボロになって返り討ちにあったらしい。 「……はぁ」 ため息をついた、これでもかと言うほど疲れ切った。 もしかしたら借金地獄の方がましかもしれん。 ただ、しかし断る事は……このバカのせいで無理である。 「ともかく、行動あるのみね……」 私は諦めたようにその言葉をはいた。 ――この時私は知らなかった、まさか私があんな事件に巻き込まれるなんて。