■RPG SS■聖王様、怒る!! 「忌々しい…ッ!なんと不甲斐ない連中であろうか!」 「どうしたんですか?ロイランスさん…」 「放って置けいつものことだ」 そう言い放って魔審官フォルサキューズは紅茶をすする。 ティーセットの向こう側に見えるのは異世界のガクセイフクとやらを身に纏った少年。 そして更にその向こうには純白の羽と黒い短髪、そして捻じ曲がった角…天を突くようにそれらを逆立てた男。 いや、まさに彼は今『怒髪天を突く』という状態なのである。 ただ、彼がそうなること自体は珍しくもなんとも無いので、フォルサキューズは無視を決め込んでいた。 「考えても見たまえ諸君!」 羽と角を生やした男、聖王ロイランスはフォルサキューズと少年…異邦神コウ=ツシ=ギコウトの方に向き直ると、 芝居がかった大げさな動きで二人に指を「ビシィッ!」と言う効果音が聞こえるほどに突きつけた。 「我らは日々、王としての責務を全うすべく、己の信ずる正義に邁進しているというのに…。」 「いや、それお前だけだから。」 「フォルサキューズさんっ!」 フォルサキューズの無粋な一言を無視してロイランスは再び二人に背を向ける。 そして次はまっすぐ上、天を指差した。 指の先には魔力で作り出した遠隔視の魔法陣が浮かんでいる。 「見よ!アンジエラは人間などに2度もわざわざ殺され、エルミューダと魔同盟の面汚しアドルファスは極東をうろちょろするばかり!!」 「ああ、極東旅行か…いいね。」 「いいですねー。フォルサキューズさん、奥さんと行ってきたらどうです?」 「ふん、それもいいやも知れんな。」 「いいかね!諸君!!やつらには魔王としての自覚が足りんのだ!」 一人熱弁を振るうロイランスを横目にコウとフォルサキューズは世間話をしている。 振り返り様にそれに気づいたロイランスはずかずかとフォルサキューズに近づき… ティーセットの乗っていたテーブルを素手で一刀両断した。 「『審判』魔審官フォルサキューズ!!」 「わざわざ役職からフルに呼ぶな。」 「貴様も貴様だ!仕事をサボって女といちゃいちゃいちゃいちゃ…そんなだから『正義』たる私の仕事が増えるのだ!!」 「サボってなどいるか。彼女といるために、俺はちゃんと仕事はこなしているぞ?」 「腹が減ったときにつまみ食いする程度の仕事しかせん癖に、減らず口を叩くな!!」 「ハハハ!仕事になど精を出してたら、彼女と一緒の時間が減ってしまうではないか。」 「貴様この場でDA・N・ZA・Iしてやろうか!?」 「おーやだやだ…女と縁が無い朴念仁の嫉妬なんて見苦しいぜ。」 「ま…まぁまぁ…お二人とも落ち着いて…。」 顔と顔が触れ合いそうな距離でガンの飛ばし合いをする二人をコウがなだめに入った。 「えーと、つまりロイランスさんの言いたい事っていうのは…?」 「ふむ、簡単に言うとだ…『我々は出番が無い!』ということだ。」 「わざわざ強調しなくてもわかっとるっつーに。」 再びけんか腰になる二人をコウがなだめること数分。 「つまり、もっと我々も行動せねばならんということだ。」 「行動…ですか。それって、やっぱり侵略とかそういうことなんですか?」 「一人突っ走ったケンカ馬鹿がいるじゃないか。目の前に。」 「フン。いじけ引きこもりは黙っておれ。」 「え、えーとですねっ!その、我々魔同盟も小アルカナまでほぼ出尽くしましたし…戦力的にはもう十分かなーとか…。」 「その通りだコウ=ツシ=ギコウト。」 ロイランスはまたしても、効果音が鳴りそうなほどまっすぐに勢い良くコウを指差す。 行動が一々大げさなんだよなぁこの人…とコウは心の中で思った。 「行動が一々大げさなんだよ。」 フォルサキューズさん言っちゃったぁ…コウはうなだれて両手で顔を覆った。 「ともかく!魔同盟はNEET集団などという汚名は返上せねばならん!」 「NEETって…他の人たちはどうしてるんです?」 「ああ、それは少し興味があるな。」 「任せろ。既にNEET代表その一に仕事をくれてやったわ。サボったら断罪刃の刑だと言っておいた。」 「恐喝じゃねぇか。それでも『正義』か?」 「お・れ・が・正・義・だ!!!」 「言い切りやがった…。」 「フフ…ちょうど来たようだぞ?そこの派手な綺羅星がな。」 ロイランスが空を指差すと、ちょうどキラキラとした光が落ちてくるところであった。 光が地上にまで到達するとその輝きは膨れ上がり、弾け、その後にはローブ姿の魔族が一人立っていた。 「クハハハハ…いよぅ!お前ら。久しぶりじゃねェか。元気してたか?」 「『星』…。」 「NEETその一って、ヴァニティスタさんのことだったのか…。」 「まーなんだ、ちょっと俺様も興味があったから乗ってやったゼ。」 ヴァニティスタは懐から書類を取り出し、まじないをかけて書類の内容を空間に投影する。 そこに書かれているのは魔同盟大アルカナの日常であるらしい。 「ま、俺様の独断と偏見で書かれてるからヨ。事実とは若干異なります…ってこと。」 「普段、皆さんが何してるのか、良く知りませんからね。」 「さて、どれどれ…。」 00 『愚者 / 無考慮な優者』 : 魔王フィリア=ペド 自領土の内政に力を入れる。要するに超〜平和。 「………。」 「…ま、まぁフィリアさんらしいですよね…」 「『愚者』を数に入れるのがそもそもの間違いだ。」 01 『魔術師 / 躍る混沌』 : 魔王ルシャナーナ ほぼ毎日のように舞踏会と音楽会を開催。騒音がクソうるせー。 「あー…ルシャナーナさん音楽とか好きですからね。」 「だが、具体的に何をしているわけでもない。趣味に生きるNEETだな。いつか断罪せねば…。」 02 『女教皇 / 偽りの楽園』 : 魔王アンジエラ 辺境国ヒンメルを占領。現在占領政策の真っ最中。人間の暗殺者に2度殺される。 「詳しくは別SSを参照のこと…と。」 「フォルサキューズさん、誰に向かって話してるんです?」 「気にするな。」 03 『女帝 / 傾国驚天』 : 魔王ユリエータ 04 『皇帝 / 破天冥王』 : 魔王イツォル ユリエータの求婚の大攻勢をイツォルが凌ぐ形。ストーカーって怖ェ〜な! 「あの二人上手くいくんでしょうか?」 「クハハハハ…実際に手を組んだら強いはずだが…ナ!」 「イツォルのプライドの高さからして、折れることはあるまいよ。」 05 『法王 / 離間の老賢者』 : 魔王アルダマス 辺境国の王族との交渉継続中。まだしばらく動かねーな、こりゃ。 「美女連環の計…でしたっけ?三国志にのってたかな?」 「サンゴクシ?何だそれは。」 「この狸ジジイがさっさと動かんから王国連合が崩れんのだ!」 06 『恋人 / 悲愛成就』 : 魔王エト・エーノ 各地を放浪中。時折アルダマスや俺(ヴァニティスタ)の手伝いに姿を現す。 「お子様だからな。」 「気分屋ですよね。」 「元気そうっちゃあ元気そうだったゼ?普段からうるさいクソガキだけどヨ。」 07 『戦車 / 不敗将軍』 : 黒雲星羅轟天尊 異世界(羅道界)での戦闘中。ケンカ馬鹿は年中ケンカ中…てカ!? 「攻めるならとっとと人間でも打ち滅ぼせばいいものを!!」 「いや、一応向こうの世界の王様ですし…。」 08 『力 / 黒い聖母』 : 魔王クレメンス 各地を放浪中。また、新たな愛でも探しに行ってんじゃねーノ? 「ク、クレメンスさんか〜…。苦手だなぁ…。」 「彼女の好みなんだろう。もてて良いじゃないか色男。」 「カンベンして下さいよ〜、フォルサキューズさん…」 09 『隠者 / 総てを識る者』 : 大賢邪ベルティウス 隠居中。一日の大半は読書。たまに世間話の相手もするゼ? 「まァ、一方的に俺が喋るんだけどナ!」 「聞き上手というか…どんなことでも知りたがりますからね。」 「知識を蓄えることが奴の存在意義だからな。戦争の役にも立つ。」 10 『運命の輪 / 諦念の傍観』 : 魔王ディオソンブラス 各地を放浪中?たまに忽然と姿を消すことがある。 「こいつも異世界移動能力持ってんじゃねーノ?」 「あまり話をしたことも無いですね…。」 「俺もほとんど話したことは無いな。」 12 『吊るされた男 / 苦悶の反逆者』 : 魔王ウェイスト 自領土にて静観。やっぱ逆さ釣り。コウモリかテメーはよォ!! 「NEET候補のトップだ。いい加減あの縄を細切れに刻んでやろうか…。」 「友よ…。まさかこんなところでNEET扱いをされているとは夢にも思うまい。」 13 『死神 / 非道の再生者』 : 黒骸王アグニデス 常時、不死者を製造中。クセーんだよコイツ。 「腐ってるから当たり前なんだがナ!!」 「正直あまり近寄りたくないです…」 「コウにここまで言われる魔王は他にはいない。」 15 『悪魔 / 逆理の暴君』 : 狂王アドルファス 極東へ温泉旅行中。天岩戸回廊を抜けたようだゼ? 「アドルファスとエルミューダも別SSを参照…と。」 「温泉旅行!しかも配下まで引き連れて!!不真面目にもほどがある!」 「ロイランスさん落ち着いてー!」 16 『塔 / 穢れし十字架』 : 魔王クインヴァンヌ 自城にて待機。踏み込んだら金ダライとか落ちてくるんじゃネーの!? 「罠を張って待つタイプですからね…。」 「忍耐強いというかなんと言うか…。」 「トラップコンボを考えるのは面白いんだけどナ!!」 18 『月 / 海魔胎宮』 : 怪魔エルミューダ 極東にてアドルファスと交戦。敗北し、一時撤退。 「アドルファスさんを極東へ行かせたくない…らしいですね。」 「何故か知らネェけど、一緒に食った魔物生態学者まで助けたそうだゼ?」 「クッ!魔物生態学者などというクズ中のクズを助けるなどと…!!」 19 『太陽 / 燃え立つ影』 : 魔王アンティマ 各地を放浪中?『運命の輪』と同じくたまに姿を消すことがある。 「こいつも何を考えているかわからん。」 「そもそも何が目的なのかもわかんねーナ。」 「何かたくらんでるんでしょうねぇ…魔王だし。」 21 『世界 / 交渉人』 : ジェイド=T・I・S・A=ルーベル 会社運営中。まー真面目に働いてんじゃネーの? 「本当に魔王なのか疑問になっちゃいますけどね。」 「平和に生きてるからねぇ。」 「働いているだけマシといえるか…。」 全てが終わり、書類と魔法陣が閉じられる。 魔法陣が圧縮され、形を捻りながら、ヴァニティスタの懐へ消えた。 ロイランスは腕を組み、目を伏せたままで言った。 「どうだ、諸君?王の名を関するにふさわしくない連中が少なからずいたことだろう…。  私としてもこのような現状を放置することは私の正義に反する!!  やる気も無い、能力すら小アルカナに劣るような大アルカナはもはや魔王にあらず!  さっさとその座を退くべきであるとここに宣言する!  さぁ、どう思うかね?諸君。私の正義は微塵たりとも間違ってはいないだろう!?」 ロイランスが目を見開き、両の手を大きく振り上げて演説するが、 そのロイランスの前には切断されたテーブルとティーセットの残骸だけが空しく並んで、 誰一人そこに残ってはいなかった。