言霊学園に正午の鐘が鳴り響く。 「では本日はこれまで。午後は各自自由な時間を過ごしなさい。以上解散」 教壇に立つ担任はそう言うと荷物を纏め去っていった。 ゆとり教育?何それ食べ物?な言霊学園は今なお土曜日は半ドンである。 ある生徒は遊びに出かけある生徒は部活で汗を流しある生徒奇特にも勉強をする。 基本的に何をしても自由なのだが生徒の行動は大体この3パターンに分けられていた。 もちろん僕らの魁子は2つ目のパターンである。 「さて、そんじゃ部活行くか・・・っとその前に昼飯食べないとなー。今日どうする?」 魁子は大きく伸びをすると2人の友人に話を振る。 「んー沈黙亭でいいんじゃない?まぁ今行ったらかなり混んでるだろうけど座れないほどじゃないだろうし」 沈黙亭とは言霊学園の学食の事で美味い、安い、お残ししたら手首外すで生徒に人気がある。 「私も沈黙亭でいいわ。久しぶりに暴走特急ラーメンが食べたいと思っていたところよ」 「じゃあ沈黙亭に決定!あたしは何食べようかなー」 3人の意思が1つになったその時奴はやって来た。 「かーーーーーいこーーーーーー!!」 叫びながらキックボードで廊下を激走する人間なんて変人揃いのこの学園とはいえ1人しかいなかった。 KMR隊長・猫神狐狗狸である。 「とうっ!」 教室の前までやって来た狐狗狸はキックボードを乗り捨てウルトラCで華麗に宙を舞うと見事に着地に失敗し尻を痛打しそ の場で転げ回った。 そしてその様子を冷ややかな目で見る3人。 「・・・じゃあ魁子、私たちは先に行ってるから」 「当然席は確保しておくから安心なさい」 これから何が起こるか察知した麻衣と零は速効で見捨てる態勢に入っていた。お約束というものをよく分かっている。 「いやいやいやいや!ちょっと待ってくださいよ麻衣さん零さん!」 「えー、だって狐狗狸が呼んでるのあんたの名前だし」 「という訳でお邪魔虫は気を利かせて退散するわ」 「いやいや邪魔じゃないから!零らしくないよ!?もっと自信を持たなきゃ!」 「そうだぞ零。不遜であるのはキミのキャラなのだから大事にするべきだ」 「そうそう狐狗狸の言う通り・・・って、復活してるし!?」 「フフフ、僕の回復力を侮ってもらっては困るよ魁子」 セーラー服の埃を払いながら得意気に言う狐狗狸。 「さて、では行こうか魁子。人類の明日のために」 「待てい」 魁子はいきなり腕を掴んで歩き出そうとする狐狗狸の後頭部をはたいた。 「何をする。痛いじゃないか」 「何をするってそりゃあたしのセリフでしょーが。あたしはこれから昼飯食べて部活行くんだよ。お前に付き合ってる暇はない んだよ」 「ふむ、部活か・・・魁子、たしかキミの部の後輩くんは桜貝友萌といったね」 「そうだけどそれが何?」 「安心したまえ。彼女にはすでにキミが休むという旨は伝えてあるから今日1日キミはフリーダムだ」 「何てことしてくれてんだよ・・・」 「そういう訳だから僕に協力してくれるね?いやいや言わなくても答えは分かっているよ。なにせ僕と魁子は黄金聖衣よりも 硬い絆で結ばれているのだからね」 「嫌だよ」 「そう言ってくれると思っていたよ・・・って何だって!?嫌と言ったか嫌と!!ハッ!信じられないセリフだよ!!」 「信じられないのはお前の言動だろ」 「ええいしゃらくさい!こうなったら力づくで連れて行ってくれる!喰らえ猫神式ライトニングボルト!」 狐狗狸は懐からスタンガンを取り出すと何時もの様に魁子に襲い掛かったが・・・。 「何だこんなもん」 「あぁ!僕のチェルノブイリMK-2が!?」 魁子にあっさりと奪われてしまった。 「なんてね」 と思いきや狐狗狸はベロンと舌を出し別の手に持っていた小さなリモコンのスイッチを押す。 すると魁子に奪われたチェルノブイリMK-2のボディが激しくスパークした。 「あばばばばばばばばば!!」 当然魁子は感電し見事な骨格を周囲に晒すと意識を失いぶっ倒れた。 「フッ、先の先を読むのは戦いの定石だよ」 勝ち誇った狐狗狸はどこからか台車を取り出し魁子を運ぶべくその身体に手をかける。 「アウチッ!」 すると次の瞬間魁子はバネの様に跳ね起き狐狗狸を頭突きで吹っ飛ばした。 「う・・・ん」 「あ、生きてた。思ったより復活早かったわね」 「きっと毎回喰らっている内に耐性がついたんじゃないかしら。魁子の事だしそれくらいあっても不思議じゃないわ」 「あの・・・」 「まぁいいわ。狐狗狸、MMRごっこもいいけど先に昼食にしない?あたしらこれから沈黙亭行くんだけど」 「あの・・・」 「食事は大勢で食べた方が美味しいもの。貴女もどうかしら?」 「ふぅむそうだなぁ。たしかに原が監督では巨人は勝てぬと言うし僕もご一緒しよう」 「あの・・・すいません!」 「何よさっきから。別に狐狗狸が一緒でもいいじゃない」 「そういえば魁子、貴女いつの間にすいませんなんて言葉を覚えたの?」 「・・・魁子って私の事ですか?」 「は?何寝ぼけた事言ってんのよ。ギャグ?」 「いえ、別にギャグではないんですけど・・・」 「ふぅむ、これはもしや・・・ちょっと立ち上がってくれるかね」 どうも様子がおかしい魁子を見て何かを思ったのか狐狗狸は魁子を立たせると精一杯背伸びをしてその目を覗き込んだ。 「あの・・・何なんでしょうか] 「うむ、これはどうやら間違いないな」 「間違いないっていうのはどういう事かしら」 「うむ、結論から言うと魁子は記憶喪失になっている」 「な、なんだってーーー!?ってあんたもやりなさいよ零」 「プライドが許さないわ」 友人が記憶喪失だというのに結構余裕な麻衣と零だった。 場所は変わって現在4人はKMRの部室にいた。 魁子がこんな状態では学食に行くのは無理という事で購買で適当に食料を買いそれで昼食を済ませる事にしたのだ。 ちなみに零だけデザート代わりか冷凍ミカンも購入していた。 「で、どーするのよこれから」 クリームパンを頬張りながら麻衣が口を開いた。 当事者である魁子はその隣で小さくなってサンドイッチを齧っている。 「どーするもこーするもそんなの魁子の記憶を取り戻すしかないだろう」 カロリーメイトを銜えた狐狗狸はさも当然という風に答える。 「まぁそれしかないでしょうね。漫画とかでもこういう時はそうするのがお決まりだし」 「具体的な方法とかは考えてあるのかしら」 上手く開けられなかったらしく2つに割れたおにぎりを合体させながら零が質問を投げかける。 「うむ、当然の質問だ。そしてそれに対する答えは当然イエスだよ零。KMR隊長である僕が無策である訳がないだろう」 「で、その策とやらはどういうもんなのよ」 「力の限りぶん殴──アウチッ!?何をするだ麻衣!グレイの催眠電波でも受信したのか!?」 「電波受信してんのはあんたでしょーが。つーか何?力いっぱいぶん殴るってそんなん許可出来る訳ないでしょーが!」 「いやしかしこういう時はショック療法が一番とばっちゃが言ってたから」 「何がばっちゃだ!とにかく却下!」 「まぁまぁ麻衣、お茶でも飲んで少し落ち着きなさいな」 零はペットボトルを手渡しながら麻衣をなだめた。 「あぁ、あんがと零」 「でもショック療法というのもアリだと思うわよ。まぁあまり乱暴なのは私としても感心しないけれども。そこで私の案を試してみ たいと思うのだけれどまずこの冷凍みかんを」 「却ーーーー下っ!!」 「人の話を遮るなんて失礼よ麻衣」 「てゆーかオチ読めたから!てゆーかその為に購買で冷凍みかん買ってたんかい!いらん伏線張らんでいいから!」 ぜーはーぜーはーと肩で息を切りながら一生懸命ツッコミを入れる麻衣。 本来ツッコミ役である魁子が記憶喪失なのでその分のしわ寄せが麻衣の方へと来ているため無駄に疲れるのだ。 とその時クスクスという笑い声が聞こえた。 笑い声の主は魁子だった。 目を丸くした3人は一斉に魁子の方を見る。 「ご、ごめんなさい。みなさんのやり取りが漫才みたいでおかしくって・・・」 口元を押さえクスクスと可愛らしく笑う魁子の姿はどう見てもごく普通の少女だった。 これはいよいよ一大事である。 「うーむこれはいよいよヤバイかもしれんね。助っ人を呼ぼう」 「助っ人?」 「うむ。魁子をよく知る人物だ」 狐狗狸は携帯を操作すると謎の助っ人とやらにメールを送った。 「姐さーーーーーーーん!!記憶喪失ってマジですかYO!」 メールを送った次の瞬間もの凄い勢いで扉が開け放たれた。 「おお、流石早いな。待っていたよ」 「いや早すぎじゃね!?てゆーか助っ人ってこいつ!?」 「そうだ」 狐狗狸の呼んだ助っ人とは魁子の舎弟こと九逆六だった。 「くぅ!記憶喪失とはおいたわしや姐さんッッ!必ずやこの俺が元の元気な姐さんに戻してさしあげますYO!」 登場していきなりかなりのウザさを発揮する六を見て麻衣は引き零は無視し狐狗狸は腕組みをしながら頷き肝心の魁子は 怯えきっていた。 「・・・ん?どうしたんスか姐さん?」 「ひっ!」 六が近づくと魁子は隣にいた麻衣の服を掴みその後ろへと隠れてしまった。 「・・・ツンデレ?」 「んな訳あるかーー!!」 麻衣が竹光を一閃すると六は腹を押さえてもんどりかえった。 「何するんスか麻衣さん!?」 「何するじゃないわよこの馬鹿ドレッド!見なさい魁子が怖がってるじゃないの!シッシッ!」 「そうツンケンするなよ麻衣。六も悪気があった訳じゃないだろう。・・・だがこのショック療法も駄目だったか」 「え?猫神さん今ショック療法とか言いましたかYO?」 「キミの幻聴だろう。あぁ、ご苦労だったね。もう帰ってくれていいよ」 「俺の扱い酷くないっスか!?せめてもう少しくらいチャンスくださいYO!」 「あーハイハイ1回だけね。終わったらさっさと帰ってね」 麻衣は仕方なしに魁子から離れ狐狗狸の隣へと移った。 「よっしゃあ!お任せあれだYO!」 チャンスを貰った馬鹿は意気揚々と魁子の側へとやって来る。 すると当然魁子は怖がって縮こまるのだが六は慌てず静かにサングラスを外した。 サングラスの下の目は切れ長で意外にもちょっとだけ格好良かった。 「姐さん・・・いいですか。実は姐さんと俺は恋人同士なんですYO。だから失った記憶もきっと俺が取り戻してあげますYO」 魁子の記憶がないのをいい事にこの野郎よりにもよってフカシこき始めやがった。 「くぉんの・・・ちょ、放しなさいよ」 見かねた麻衣が抜刀しかけたがそれを何故か狐狗狸が制した。 「いや、待ちたまえ。もう少し様子を見てみよう。僕の勘では何かが起きる気がするのだ」 馬鹿はなおも甘いセリフを吐き続けている。キモい事この上ないが本人はノリノリである。 「姐さん、俺はあの日の約束は一日たりとも忘れた事ありませんYO」 思い出の捏造に拍車がかかったところでついに馬鹿が魁子の手を握った。 「姐さん・・・いや、魁子・・・」 「・・・き」 「愛してるZE魁子・・・」 「・・・き」 「・・・ん?どうかしたかYO、魁子?」 「気色悪いんじゃこのアホォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ姐さん元に戻ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」 「誰と誰が恋人だ!何があの日の約束だ!!何人の名前呼び捨てにしてんだコラ!!!」 「ヒィィィィィ!!あ、あれは姐さんの記憶を取り戻すためであってですNE!?」 「うっさい馬鹿!!フウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・ゥアチャアァァァァァァァァァァァ!!!!!!」 「ギャアァァァァァァァァ!!!!!!」 いつぞやの再現を見ていた麻衣と狐狗狸は静かに語りだした。 「たしかに何かが起きたわね」 「うむ、僕の言った通りだろう。記憶喪失とはいってもそれは記憶の引き出しの開け方を忘れただけであって記憶自体は残っ ているのだ。ならばその引き出しを無理矢理開けてしまえばいいだけの話さ」 「というかあんたこのために九逆を呼んだの?酷いわね」 「まぁそう言うな。おかげで魁子の記憶は戻ったしそれに彼をご覧。魁子に殴られてちょっと嬉しそうに見えないかね」 「そう言われるとそんな気もするけどさ。そもそも魁子が記憶喪失になったのってあんたが原因よね」 「む?ハハハ、細かい事はいいではないか。おっとそろそろ終わりそうだな。では僕は魁子に殴られる前に失礼するとしよう。 アデュー」 そう言い残すと狐狗狸はそそくさとどこかへ去っていった。 きっとまたよく分からない電波を受信したのだろう。 さらば、猫神狐狗狸! 負けるな、猫神狐狗狸! 頑張れ僕らの猫神狐狗狸!! キミの行く道は果てしなく遠く険しいが決して挫けてはいけない! 人類の明日はキミにかかっている!! ◆あとがき◆ 記憶喪失ネタを書いてみました。 記憶を失った魁子は普段とは180度違って大人しくてお淑やかなので六の好みのタイプとちょうど一致しますね。 前書いた分にたしか六の好みの事書いてあるのでこれも伏線と言い張れば伏線になると思います。 さて、では本作の解説を。 後半六が出た辺りから零が出なくなってますがこれは仕様です。 五月蝿いのが来たなーって無視してその辺にあった本読んでる内に夢中になって喋らなくなっただけです。 零の性格は自信家ですがそれはポーズみたいなもんで本当の性格は熱しやすく冷めやすい茶碗蒸し少女なんです。 だから今回も途中で飽きて話に絡まなくなっただけで何もおかしい事はありません。 六は出すたびに酷い目にあってるけど軽くMなので問題ありません。 以上、萌えよ小龍でした。