『亜人傭兵団奮闘記』 その一「奇妙な依頼」 登場人物 「リゲイ・ダイマス」 リザードマン 男 … お調子者 「尾長のエピリッタ」 リザードマン 女 … しっかり者 「ジャック・ガントレット」 人間 男 … 団長 「ファイ」 コボルド 男 … 最年少 わぁい 「ドッグ・リーガン」 コボルド 男 … 副長 盲目 「クァル・ブーリー」 蛙人 女 … 爬虫類恐怖症 設定未投下オリキャラ 「ゴルドス」 ミノタウロス 男 … 無口 ガチムチ ------------------------------------------------------------------------ 「ちょっとリゲイ!会議に遅れ…うわっ」 「んあー?おうエピりん。なんか用か?」 皿に盛られた揚げゴキブリをつまんでいたリゲイは間抜けな返事を返した。 「約束の時間を守る」という概念の存在しないこの怠け者を呼び出すのはいつも エピリッタの役目である。 リゲイが彼女に引きずられる姿は最早名物で、「お似合いの夫婦だ」などと噂もされている。 彼女に殺されるだろうから直接言う者はいないが。 「なーにが『エピりん』よ!ほら行くわよ穀潰し!」 エピリッタはリゲイの首根っこを引っつかんで食堂から引きずり出した。 幾分殺意がこもっているようにも見える。 「いてぇ!いてぇっつーの!わーった!わーったから離せって!」 「タイチョウ、ノコリ、オレタチクウ!」 「タイチョウ!カイギ、イケ!」 リゲイの部下達は分け前が増えたと大喜びである。 「あっ!てめえら!残しておかなかったら承知しねえからなあああぁ…」 ---------------------------------------------------------- 「お、意外と早かったな」 会議室の扉を開けたエピリッタに声をかけたのは団長のジャック・ガントレット。 その右隣には元皇国「超獣軍団」のミノタウロス、副長のゴルドス。 左には盲目のコボルドで歴戦の傭兵、副長リーガン。 その他に部隊長であるコボルドのファイ、蛙獣人のクァル。 本来であれば他にも数人の部隊長がいるが、今日は出払っているようだ。 もう慣れた事なので皆は苦笑いをしているが、エピリッタは深々と頭を下げる。 「すいません…このバカがですね…。」 「…さっきからリゲイの呼吸音が聞こえないんだが…?」リーガンが耳をひくつかせる。 「そろそろ離してあげた方が…」 「あっ、忘れてた。」 「ぶあっはぁ!ぜぇぜぇ…こんのクソアマ!殺す気か!」 「あーら、ごめんあそばせ。なるべく優しく掴んだつもりだったけど、お気に召さなかったかしら?」 「んだこの暴力女!ブス!ヅラ!」 「…ヅラじゃないわよ!ウィッグ!」 「ははん、言い方変えただけで結局ヅラだろ?暴力女が何色気出してんだ、ブーーース!」 「ずいぶん言ってくれるじゃないこの間抜け面…痛い目にあいたいのかしら?」 「ああ?やんのかコラ?」 団長や副長達には最早見飽きた光景なのだが、まだ入団して日の浅いファイやクァルは大慌てである。 「ちょっと!二人とも落ち着いてください!」 「その…喧嘩は…いケません!!」 リザードマン恐怖症のクァルも目は伏せているが勇気を振り絞って止めている。 が、その言葉などまったく耳に入らないかのように二人はにらみ合いをやめない。 「ゴルドス、そろそろ、な。」 「…む。」 ゴルドスは力を加減しつつ部屋の壁を打ち叩いた。 ドゴッ、と大きな音を立てて部屋が揺れる。 その衝撃で二人は我に帰ったようだ。 「気が済んだら会議始めるぞー。」 「「すいません…」」 「さて、今回はまず依頼についてだ。ゲッコー市から一件。」 亜人騎士団にくる依頼の形式は様々で、団全体に対する要請もあれば数人単位での要請もある。 また特徴として、『種族』つまり亜人関係のトラブルの依頼が多い。 皇国は他国に比べれば、亜人を「魔物」としてではなく人間と同じ「人」として扱う意識が強い。 その為、構成員のほとんどが亜人である亜人騎士団は戦闘だけでなく人と亜人の交渉役としても期待されている。 ただそういった依頼は元皇国正規軍のジャックを通じて政府筋から来ることが多く、ある意味「半」公式の組織とも言える。 「ゲッコー市というと少し遠いな。大森林を迂回せねばならんから…最低三日はかかるぞ」 「エウロワ森林道が使えるなら楽だったんですけどね。」 「使える「なら」ってーのは?」 「あんた知らないの?あそこ封鎖されてんのよ今。」 エウロワ森林道とは皇国南部に位置する「エウロワ大森林」を縦断する街道である。 広大な大森林を一日で通り抜けられる上に、全体がエウロワの管理下にあるため 野盗や魔物などの危険も無く、皇国南方へ行く際の主要道路であった。 が、近年になってエウロワの病状がさらに悪化。それを受けてこれ以上外界の者を森に入れては ならないと彼の一族に判断され封鎖されてしまったのである。 「へー。んでも『慈雨の大老』なんざ俺の三回目の脱皮の時にはすでにヤバイって いわれてたような気がすんだけどね。」 「さらに予断を許さないって事なんだろうな。ここ三十年は外遊も無いという話だし。」 「くたばりかけのクセに三十年以上も持つのか…エルフ様ってのは長生きでいーねぇ。」 「苦しみがそれだけ長く続くと思うとゾッとしません?」 「それにあんたが長生きしてもロクな事無いと思うし。」、とエピリッタ。 「少なくとも借金は返してから死んでくれよ。」、とリーガン。 「団を挙げて手厚く葬ってやるからな。」、とジャック 「おやつのゴキブリを僕に勧めるのはやめてください。」、とファイ。 「…あの…反応ガ面白いカらって、いつも睨まないでクださい。」、とクァル。 「わーった!わーったよ!俺が悪かった!すいませんでした!」 ゴホン、とゴルドス副長が大きく咳払いをした。 「…すまん。えー、依頼内容なんだが『最近になってリザードマンが人を襲うようになって  困っています、退治してください』ということらしい」 小声で罵り合っていたリゲイとエピリッタの動きが止まった。 「『退治』…ですか…?」 「…皇国領内とは思えん依頼だな。」 「この依頼、直接俺達宛に届いたものじゃあない。」 「どういうコとです?」 「政府筋か?」 「うむ、元々冒険者ギルドに来てたものを、ある方が俺達に回してきたってことだ。」 「ある方とは…?」 「ゴルドスには懐かしい名前だろうな。ほれ。」 隊長は一枚の手紙をテーブルに放った。そこには荒々しい字でこう記されていた。   う ら か ゙ ぁ る  ち ゅ  う い し ろ    きみ た ち にまか せ る  p S ・  こ ゙ る と ゙ す  げん き か          たま に は  てが  みでも よ こせ こうこく ちょうち ゙ ゅう  く ゙ んた ゙ん     く ゙ んた ゙ んちょう             う ゙ ぁ う ゙ ぁ   ろ あ 「う…う…ぅうううううおおおおおおおっ!!!!兄貴ぃいいいいい!!!!」 ゴルドス副長は手紙を握りしめて泣き出し始めた。 旧知の仲である隊長以外からすれば、無口な副長が号泣するなどあまりに意外な姿である。 副長の姿と皇国軍団長からの手紙に呆気に取られている皆に隊長は続ける。 「ファイとクァルは知らないかもしれんが、『種族』が関わる依頼はどんな小さなものでも皇国政府が把握してるんだよ。  この件、奇妙なのは市長は何故中央に報告する前に、非公式にギルドに依頼をしたのかって事だ。」 「何かの罠である、と?だったら放っておけば…。」 「多分、そうもいかないわよ。」 エピリッタが口を挟む。 「えーと…なんで?エピりん、俺にもわかるように説明してくんね?」 「『エピりん』はやめなさいってば、バカ!  まず…あそこには皇国正規軍の連隊が常駐しているの。しかも指令権限は市長にある。」 「リザードマンの一団くらい捻り潰すのは簡単だろうな…だがそれをしない。」、とリーガン 「何故なんですカ?」 「約定があるからだ。」 「あのあたりに住むリザードマンというと『ヤパルラ族』…。そうか、『五大氏族』ですね。」 『五大氏族』とは神代の大戦で人間に組して同属とさえ戦い、神罰による滅亡の難を逃れた リザードマン達の事である。ヒューダイン族のように人間文化に溶け込んだ者もいるが そのほとんどは一定の土地を縄張りとして、人間達と相互不可侵の約定を結んでいる。 「ゲッコーの市長は、表向きは隠してはいるが筋金入りのの種族差別主義者だ。更に南方からの移民の  受け入れのために市外の再開発計画も持ち上げている。」 「…土地を得るために邪魔だから殺すってのかよ…!」 「そう、つまり市長は冒険者達を正当な開戦のきっかけに使おうとしているのかもしれないのよ。  今のうちに私達が依頼を受けた形にすれば向こうも再依頼はできないでしょ?」 「俺ぁ無実の罪で殺された同族を嫌っていうほど見てきた…。俺達が行けば  それを止められるかもしれねぇのか…。あんな思い、もう誰にもさせたかねー…。」 昔のリゲイだったら「人間どもは信用できねぇ。」を加えていただろうな。 とジャックは一人、彼の成長に感動していた。 「さて、まぁ聞くまでも無いと思うが…」 満場一致の頷きである。 「よし、決まりだ。野郎共!怪しげな依頼の裏を暴いてやろうじゃないか!」 「「おう!」」 「うおおおおおうぅ!兄貴ぃいい!!」 「ゴルドス〜?」 --------------------------------------------------------------- クァルが恐る恐る挙手した。 「あの…今回、私、居残りでもよろしいでしょうカ…」 「ですよねー。」 --------------------------------------------------------------- 「あのー…」 「なんだ?」 「なにも大人数で出向かなくても、リゲイさんなりエピリッタさんなりが直接  ヤパルラ族に真相を聞きにいけばいのでは…?」 「いや、それができれば苦労はしねぇよ。」 「というと、できない理由が?」 「おお。奴等全く通じねぇんだよ。」 「…通じない?何がです?」 「いやだから、言葉が。」 「…えっ?」 to be continued…