■ 亜人傭兵団奮闘記 その九 ■ 『ゲッコー市にて その六』 ■登場人物■ ・パーティー 「ジャック・ガントレット」  人間 男 … 団長 拳闘士 「ドッグ・リーガン」  コボルド 男 … 副長 盲目 剣士 「ゴルドス」  ミノタウロス 男 … 副長 無口 ガチムチ 重戦士 「リゲイ・ダイマス」  リザードマン 男 … お調子者 剣士 「白頭のカーター」  人間 男 … 手練れ おっさん 魔法剣士 「尾長のエピリッタ」  リザードマン 女 … しっかり者 怪力 重戦士 「アルヴァ『ロストフェイス』ミラー」  人間 男 … 唖 魔法使い 研究者 今回出ない 「ファイ」  コボルド 男 … いい子 最年少 わぁい レンジャー 「ニコラ・トッポ・ビアンコ」  ラットマン 女 … 子供っぽい シーフ 「ロスマン」 人間? 男 … 案内役 --------------------------------------------------------------------------------------------- ■交戦■ 「やめろてめぇら!俺たちは敵じゃねぇ!」 リゲイの呼びかけも空しく、返ってくるのは息を漏らすようなリザードマン独特の うなり声だけだった。 木から木へ飛び移る襲撃者達の姿は目で追うのがやっとで、うなり声はまるで 一行を包むようだった。 「無駄よ!あいつらは言葉が通じないって知ってるで…しょっ!」 襲撃者の爪を斧の横腹で受けたエピリッタが答える。 なんとか一撃を加えようとするも、襲撃者はその尋常でない跳躍力でもって すぐに木の上へ逃げてしまう。これでは埒が明かない。 「ミラー殿、『語りかけ』は…」 馬車の外に飛び出したカーターの問いかけにミラーが首を横に振る。 『先程から何度も試してはいるのですが…素早く動く相手の位置が把握し切れませんので…』 「『語りかけ』ってぇのはなんなんです!?早く何とかしてくだせぇよぉ!」 馬車の中で蹲って震えている案内役のロスマンが叫ぶ。 先程までの余裕ぶりがまるで嘘のようだ。 「あー…なんというか…こっちの話だよ!オッサンは気にすんな!」 「ジャック君、ぐずぐずしている場合ではないぞ。」 「ええ、敵さんに余裕があるうちに仕留めないと…。」 ジャックとカーターが心配しているのは味方の消耗ではない、むしろ襲撃者の消耗である。 もし彼らが今の戦力で倒すのは無理だと判断して撤退してしまえば、今度はより多くの 敵を引き連れてくるかもしれない。 もし万が一、二十匹だとか三十匹を連れてこられてしまえば下手をすれば死人が出てしまうかもしれないし それこそ生け捕りなど到底無理だろう。 やるなら今しかない。 「よし…ゴルドス!エピリッタ!木を狙え!  リーガン!カーターさん!リゲイ!カバーを!」 「「 応 ! 」」 ゴルドスとエピリッタはその槌と斧で襲撃者達が飛び移っていた木を思いっきりぶっ叩いた。 元々城壁をも打ち崩すという彼らの渾身の一撃である、そこそこ幹周りもあるその木は 根元からすくわれるように吹っ飛んだ。 ヤパルラの森に目も覚めるような轟音が響き渡る。 飛び立つ鳥達の様子ははまるで天変地異が起きたときのようだった。 竜車につながれた訓練されたハヤテも興奮した様子で鼻を鳴らす。 「ギィイッ!?」 バランスを崩して落下してくる襲撃者の一人の足をリゲイの長い舌が捕らえる。 「ふぁのんらよ!ふぁんな!(頼んだよ、旦那!)」 そのまま襲撃者を空中からカーターに向かって思い切り放り投げる。 「はあっ!」 体勢を整える事もままならない襲撃者の腹に剣の柄がめり込む。 ごぼっ、とうめきをあげて襲撃者は地面に崩れ落ちた。 足場が崩れて動揺したもう一匹はほかの木に飛び移る事がままならず やむなくジャックに向けて躍りかかった、が、速度を失ったその動きを ジャックは充分見切ることができた。 爪の一撃を左腕のガントレットで外に受け流すと、そのまま相手の胸に右手をやり 思い切り背中から地面に叩きつける。 「…ッ!」 声をあげる事すら出来ずに襲撃者は失神した。 残る一人は未だ安全な樹上にいたが、仲間が一瞬のうちに倒された事に動揺して ほんの一瞬、動きが止まった。 その隙をリーガンは見逃さなかった。 「喰らいつけ!」 リーガンの持つ伸縮自在の魔剣「ドッグハウンド」が樹上の襲撃者を襲う。 「ドッグハウンド」はその切っ先を咢のごとき形に変え、襲撃者の腿に思い切り噛み付いた。 「シギャアアァアアアッ!!」 激痛にもがく襲撃者、だが「ドッグハウンド」の鋭い牙は骨まで食い込み 到底引き剥がす事など出来ない。 そのまま引きずり落とされた襲撃者をジャックが取り押さえる。 エピリッタとゴルドスが木を吹き飛ばしてから十秒もしないうちに襲撃者達は 完全に戦闘不能に陥った。 「リゲイ、エピリッタ、ゴルドス、カーターさん、その二匹を頼みます。リーガン、引き続き周囲の警戒を。  ミラーさん、出番です。」 ミラーは無言で馬車から降りる。 リゲイが馬車に縄を取りに戻ると、いきなりロスマンに腕を掴まれた。 「な、何だよオッサン気持ち悪ぃな。もう全部終わったぜ、ビビんなくても大丈夫だ。」 「ねぇ旦那、あの薄気味悪ぃ魔法使いの旦那は一体これから何をしようってんで?」 「ん?ああ、尋問だよ。」 「尋問って、あのヤパルラどもは旦那達とは違って古代語しか喋れねぇんでしょう!?」 「へへん、まぁあんたはしらねぇだろうがミラーさんはすげぇ学者さんでな、古代語を喋る事が出来るんだよ。  だからさ、奴らから目的だとかを聞き出してやろうって目論見だ。」 自信満々にリゲイが答える。ロスマンは目を見開いたまま、酷く狼狽した顔つきだ。 「…そんな……そんな事があるはずは無い!神代言語は今や我々始祖の血統をもつ者しか  口に出来ぬはずだ!それをあのような下賤の者が!」 「…は?いや、ちょっと落ち着けよオッサ…」 「そんなバカな…ヤパルラが消え失せたと思えば…今度は人間までもが…。」 「は?消え失せた?ちょっと待て、アンタ一体なにを…」 「 イ テ ェ エ エ エ エ エ エ ! 」 背後で聞きなれない叫び声が響く。   *  *  *  *  * ■隠されてきた事実■ 「イッテエエエエエ!ナンダオマエラ!ココハドコダ!チクショウ!ハナセ!」 先程「ドッグハウンド」に足を噛み裂かれたリザードマンが叫んでいる。 「神代言語しか喋れない」はずのヤパルラが …共通語で叫んでいる。 「こら!落ち着け!殺そうってんじゃないんだ!  …一体どういうことだ…これは…?」 『どうも先程の衝撃で洗脳が解けたようですね。』 「洗脳?…ってまさか。」 『ええ、魔眼、でしょう。』 あの秘書官の瞳を思い出して、ジャックは身震いした。 「ウウウウ…ハナシテクレヨォ…イテェヨォ・・・」 「…頼む、質問に答えてくれ。お前達はヤパルラ氏族の者じゃないのか?」 「チゲェヨォ…オレタチャ、タダノボウケンシャナンダヨォ…」 「俺『達』ってあの二人の事か。」 「ソウダ…ナンポウニ、イコウトシテ、ゲッコーシニツイタンダ、ソシタラ、アノオンナニアッテ…」 「『あの女』!?まさかそいつは黒髪の…」 「ソウダ!アノオンナノ、メヲミタラ、ナンダカキモチヨクナッテキ…  …グエッ!」 組み伏せていたリザードマンが急に痙攣し始めた。 失神していた二人も同様にガクガクと体を震わせている。 「おい、どうした!大丈夫か!ミラーさん、カーターさん!何か回復の術式を彼らに…」 『いえ…これは…!皆さん!離れてください!』 反射的にジャックが飛び退く。 とその瞬間、倒れ付していた三人が跳ね上がるようにして立ち上がった。 「ア゙……ガ…タ…タスケ…」 立ち上がったリザードマンの口から、ボトリ、と何か黒いものが落ちた。 その黒いものはもぞもぞと地面を這い回る。 目を凝らして見つめると、それは5mmほどの小さな蜘蛛だった。 「「 ! ? 」」 次の瞬間 立ち上がったリザードマンたちの 口から、耳孔から 鼻から、目から 数え切れない量の蜘蛛が飛び出てきた! 中身を食い尽くされたリザードマンの死骸がどう、と倒れ付す。 皆、咄嗟に飛び退くが蜘蛛達は這い寄ってくる。 「いやああっ!なんなのよこれえっ!」 いくら踏み潰しても、地面を真っ黒に染めた蜘蛛達は一向に数を減らす様子が無い。 「う、おおおおっ!」 反応が遅れたゴルドスは無数の蜘蛛にたかられている。 「いかん!ゴルドス君、少し我慢してくれよ!」 カーターが聖火の法術でゴルドスごと蜘蛛を焼く。 「む…むぅう!あ、ありがとうございます!」 多少コゲたようだが、幸か不幸かゴルドスは黒毛なのでコゲ跡も目立たない。 『皆さん!跳んでください!』 その言葉に皆一斉にあらん限りの力で跳ぶ。 と同時にミラーの火炎魔法がなめるようにして地面を焼き尽くした。   *  *  *  *  * ■豹変■ 体にしがみついていた数匹を叩き潰して、ようやく蜘蛛の大群は治まった。 もはや逃げる意思すら持つことのできなかったリザードマン三人の死体が音を立てて燃えている。 「哀れな事だ…このような形で命を終えるとは…」 カーターが胸の前で手を組んで追悼の意を表する。 「ちくしょう!結局疑いを晴らすどころか、命を助ける事すらできなかった!ちくしょう…」 「こうなると…直接市長達に詰め寄るしかないな…」 「でも向こうが知らぬ存ぜぬで通してきたら、反論のしようがないですよね…?  証言者もいなくなってしまった訳だし…。」 『直接対面する事が出来れば、私が魔眼を抑える事が出来るかもしれませんが…』 「…ん?この臭い…まずい、竜車が燃えそうなんじゃないか?」 リーガンの鼻は車輪の木が焦げる臭いを嗅いだ。 車輪のあたりで燻っている蜘蛛の死骸が燃え移る前に移動させなければ。 ハヤテ自体は先程リゲイが機転を利かせて逃がしてある。 竜車の元に走るゴルドス。 「…むぅ!?」 「どうしたゴルドス?」 「…ロスマン殿が…消えた!」 「何!?」 『私ならここだ。』 ロスマンはまるで魔術でも使っているかのように宙に浮いている。 ここに来るまでに見せた笑顔はひとかけらも無い。 憎しみのこもった視線を一行に向けている。 『まさか…まさか貴様らごときに我々が遅れをとる事になるとはな…  主の企みを台無しにし…そして何よりも私の名誉を貶めた責任…  貴様らの命如きでは償っても償いきれぬぞ…』 「…オイ、あんた一体何もんだ?さっきから妙な事口走りやがって!」 『貴様らに名乗る必要は無い。ここで消えてもらうからな。』 ロスマンの額の刺青が紫色の光を放つ。 と、刺青の模様は怪しく動き出し、紛れも無く生きた眼としてジャックたち一行を睨む。 首もとの二つの瘤はメリメリと音を立て、中から新たな頭部が顔を出す。 その新たな首は八つの眼、一対の大顎を持った、人とも蜘蛛ともつかぬ異形であった。 幾重にも重ねられたマントを突き破って、八本の巨大な蜘蛛の足が現れる。 それはそれぞれ三本に枝分かれし…まるで絵に見る極東の神の様な 無数の腕を形成した。 二十四の眼を紅く滾らせ 三つの口を殺意に歪ませ 二十四の腕を怒りに震わせながら 『聖杯の7』パンダルペイモンは咆哮した 『『『さぁ!もう貴様等は終わりだ!!』』』 『『『絶望の内に死ね!!』』』 『『『苦痛の果てに死ね!!』』』 『『『私の腕に貫かれて!!』』』 『『『私の炎に焦がされて!!』』』 『『『わが子供達に臓物を食い荒らされて!!』』』 『『『私の名誉のために!!』』』 『『『主の名誉のために!!』』』 『『『 偉 大 な る 魔 同 盟 の た め に ! ! 』』』 ─続く─ --------------------------------------------------------------------------------------- パンダルペイモン 参考:http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/907.html これも絵化されてませんが、勝手に使っちゃいました。 設定あきごめんなさい。