人魔大戦後SS 「2度ある事は3度あるかも知れない」 心地よいまどろみと無音。まるで母の胎内にいるかのような感覚、これが安らぎなのだろう。 「目覚めよ、カイル=F=セイラム!今こそ目覚めの時!」 ・・・・・・ああ、どこで聞いた声がする。あえて無視。 「目覚めよカイル=F=セイラム、今こそ真の力を示すのだ!」 だから無視。無視、無視。 「さあ、閉じられた限界への道を切り開くのだ!聞いてる?」 聞かない、聞くものか! 「つうか、貴卿!絶対起きてるだろ!YOU聞きなYO!」 しつこいなクソ。 「YOU、これから重要な役割を任されるんだから起きてYO!」 起きたら絶対に面倒ごとに巻き込まれる。これ以上不幸になるのは嫌だ。 「仕方ない・・・これだけはしたくなかったんですが、「1年3組 カイル=F=セイラム  僕の 夢は聖騎士になる事と隣のネーナちゃんと結婚する事です!」」 「ぎゃああああああああ、なに人の黒歴史語ろうとしてるんですか!」 「ヤッフー、やっと目覚めたね。カイル卿、久しぶりにウェルカムだよ」 「君は6歳の頃から、きちんと人生設計していたのだね。感心、感心」 「うるさい!」 この妙にテンション高いロボな人は冥王、僕を一度蘇らせた人で、以前の姿とは違うが声に 聞き覚えがある。刃物みたいな角、右腕には杭打ち機、左腕にはハサミ、全体的に鋭い感じだ。 角に冥王って書いてなかったら解らなかったぞ。 「最初は誰か解らなかったですよ、角に冥王だけしか面影ないじゃないですか」 「ああ、これは私のワイフがたまには装甲を変えたほうが良いと言ってね」 ・・・・この人って妻帯者だったんだ。なんだろうこの酷い敗北感。 「HAHAHAHA、実はワイフは元オーガでね。これが本当の鬼嫁というものだよカイル卿」 「そんな自慢をする為に僕を起こしたんですか?」 「そんなに怒らないでくれたまえ。実はカイル卿、君さ復活しそうなんだよね」 「はい?」 「だから蘇りそうなんだよ」 蘇る? 僕は過去に一度死に、それをこの冥王によって復活し、人魔大戦で大切なものを守る為に死んだ。 思えば、自由に生きたつもりでも大いなる運命という渦に巻き込まれていたのかもしれない、だから 今回もその渦なのだろうか? 「うーん、カイル卿。思い悩んでいるようだね」 「人知及ばぬ貴方が僕を復活させるのは多少は理解できますが今回は違います」 「カイル卿、実はこの空間、今日は「パスタのバジル的な空間」ではなく「パンナコッタのマンゴー ソース的な空間」なのだよ」 「それはいったいどういう意味で?」 「気分しだいでどうとでもなるということだよ、ちなみにこれはワイフのアイデアなんだがね。さて、 そろそろお迎えが来たようだな」 神々しい光が降り注ぐ。 あれ?今回は普通だ。 「あ、あのう、冥王さん」 「何?私とワイフの馴れ初めを聞きたいのかね?」 「いえ、そうでなくて・・・僕は復活しても不幸なんですか?」 「まあね♪」 「嫌だ、やっぱり復活したくないィイイイ!」 「まあまあ、そう言わず逝け!」 ガシャンという音と共に足元に落とし穴が。 奈落へと落ちていく僕。いつもと同じ展開か・・・・。 「だから言っただろう「パンナコッタのラズベリーソース的な空間」と」 「マンゴーソースじゃないのかあああああああ〜」 「やっべ、間違えちった。テヘッ☆」 「覚えてろ!また真っ二つにしてやるからな〜!」 カイルの落ちた奈落の穴を覗き込む冥王。 その目は、まるで息子を心配するような父親のような目だった。 「カイル卿、全ての生にはね無駄な事は無いのだよ」 実験台の上には黒い鎧が置かれている。 装置を鎧に繋げ満足そうに少年は頷いた。 「今に見てろよ・・・復讐だ、復讐!」 「なあダチ公よお、他力本願の復讐ってのはすごい恥ずかしいもんだと思うんだがな」 「5人がかりだぞ!5人だぞ!俺が何をしたんだよ!」 「だから俺がそいつ等ボコボコにしたろ?素っ裸にして犬の真似させたし」 「素っ裸にして犬の真似させて商店街歩かせるぐらいじゃ駄目なんだって!」 充分再起不能なことをしておいてそれでも足りないという、そんな友人を少年は嘆息交じりで見る。 魔術研究所の倉庫に封印されていたとある聖騎士の鎧に魂を定着させて復活させようとしているのだ。 「人殺しはマズイんじゃないか?」 「人殺しなんかしないよ、肉体的に不自由になってもらうだけだ!四体満足ぐらいに!」 「充分まずいだろうが!」 「絶望した!俺の崇高な意志を理解してくれない親友に絶望した!もういい復活させてやるぅう!」 実験台を囲う装置から空間に呪文が展開される。 絡み合う文字が方陣を描き、鎧に刻み込まれていく。 『始点に在りし創世 その名を持って冥王に問う 全てを満たす器と記憶の器 意味を問うならば 答えは一つ 意志と意思と意味を持たせよ 虚ろ無き器』 鎧に刻まれた文字、方陣が明滅し漆黒の鎧に吸い込まれていく。 『我名はガレット=フラシュル 汝に意思を与えし者 我はこの世に汝という意味を刻む者 詠え生を 穿て死を ここは汝を阻むものは無い 舞踊れ』 渦巻くように光が収束、爆発し光が全てを満たした。 「成功だ、成功!起き上がれ闇騎士ゼファー=ローデス」 ゆっくりと鎧が起き上がる。 ガシャ、ガシャと体を鳴らし手足の動きを確認するようにゆっくり動かす。 そして・・・・ 「冥王〜!」 絶叫が部屋に響き渡る。 蘇らせたくせにびくつくガレットと面白そうに眺める少年。 そんな二人に気が付いて鎧は近づいてきた。 「ええと、呼び出したのは君達かな?」 「呼び出したのはこいつだけどな。俺はガスト、つうかさマジで闇騎士?」 「ば、馬鹿!お前、無く子も黙る闇騎士様だぞ。無礼な事言うなよ!」 「誰かと勘違いしてるのかな?僕はカイル=F=セイラムって言うんだけど」 カイルの名を聞いた瞬間二人はなんとも言えない表情を浮かべ落胆した。 状況を飲み込めないカイルを困惑させる。 「よりによってヘタレかよ!」 「くそう!俺の時間を返せ!」 「なんでそんなに罵倒されるのさ」 「だってなあ」 「あんたの残ってる記録ってヘタレしか記載されて無いぞ!」 「誰がそんな記録を?」 「ジュバ=リマインダスがそう書いてるぜ」 「ジュバさん・・・・あんたって人は・・・・」 やっぱりカイルは不幸なのであった。 その後、カイルはガストの剣の師となるが、それはまた別の御話。