異世界SDロボSS 『闇騎士、故地に立つ』  父と共に流浪の旅を続ける少年がいた。  旅の中で剣術や簡単な読み書きを教えられると共に、彼の一族の因縁を叩き込まれて育つ。  その因縁とは、彼らの祖先はとある国の王の不義の子で、父王との死闘の末に殺されたというものである。  いつの日か故地「スリギィランド」に舞い戻り、真なる王の血統として君臨するのが一族の悲願と教えられてきた。  病に倒れた父の死を乗り越えた少年はやがて逞しい青年へと成長し、「闇黒連合」の客将としてメキメキと頭角を現していた。  青年の名は「ジェラード=モードレッド」といった……。  ある日、ジェラードは闇黒連合の一角「暗黒帝国」の宰相「ゲゾブ=ベゼグ」の執務室に呼び出されていた。  ゲゾブは相変わらずの恐ろしげな無表情で事務的にジェラードへの任務を伝える。 「本日より貴公をスリギィランド侵攻部隊長に任命する」  これまでの戦功と占領地統治の手腕、そして王家との血縁による現地民の慰撫を鑑みての抜擢という。  とうとうこの日が来た、我が一族の悲願を果たす日々が始まるのだとジェラードは内心ほくそえんだ。  しかし、生理的にいけ好かないあの宰相は魔王と畏怖される皇帝「レヴィア=スペリオル」の勅命などと言っていたが、  自分もお茶会で顔を合わせた事のある、あのおっとりした女が魔王とは到底思えない。  大方奴ら取り巻きどもの都合のいい旗印に利用されているのだろう(※ジェラードの思い込みである)。  だが、俺の…一族の悲願を果たす為には、悪いがその片棒を担がせてもらう。  そんな事を考えつつもジェラードは連合より与えられた愛機「闇王騎カリブルヌス」に搭乗し、  一路因縁の地スリギィランドへ向かって飛び立ったのである。  闇のように黒い機体でひたすらに闇夜を駆け、夜が明ける頃にはスリギィランドの島影がうっすらと視界に入ってきた。   「スリギィランドよ! 俺は帰ってきたぁーっ!!」  どこかで聞いたような台詞を叫び、すっかりご満悦なジェラード。  ところが、腹の方はご機嫌斜めな音を立てた。 「むぅ…出発してから飲まず食わずだったからな……。 東方のことわざに『腹が減っては戦はできぬ』ともある。 まずは、腹ごしらえをしてから駐屯地のあるエリンランドへ向かうか」    ジェラードはカリブルヌスを伝家の邪剣「エビルカリバー」の中に戻し、食事の為にある都市へと立ち寄った。  その都市の名はロンドム。スリギィランドの王都である。  不敵にも…いや、何も考えていないジェラードは敵地の真っ只中に堂々と入ったのである。  一年近く前のロンドム防衛戦で被害を受けたものの、だいぶ復興の進んだロンドムの市場は活気に満ち溢れていた。  そこを闇騎士の悪そうな鎧を纏ったまま歩くジェラードは変な意味で目立っていた。  市場に買い物に来た主婦達がヒソヒソ話すのも意に介さず、ジェラードは一人ごちる。 「ほう、先の攻撃での被害が大きいとは聞いていたが、わずか一年足らずでここまで復興するとはな。 行き交う人々の表情も明るい…よほど治安がいいのだろう。 できる事ならば、俺がこの国を手に入れた暁には無血入城を果たしたいものだが……」  ドンッ!!  品のいい初老の紳士がジェラードにぶつかる。 「おお、これは失礼しましたな旅のお方」 「あ、いえ、こちらこそよそ見をしていました。 …さすがは紳士の国、近頃は人にぶつかっても謝らん者が多いからな」  立ち去る紳士を感心しつつ見送った後、  ジェラードは適当な屋台を見つけ、名物のフィッシュ&チップスを頬張っていた。 「ふむ…この国の料理はまずいと聞いていたが、案外イケるものだな。 おばちゃん、あと五人前ほどお土産に包んでくれないか」 「それはいいけどさ、あんたお金持ってんのかい?」 「フッ、愚問だなおばちゃん。出稼ぎの前払いをちゃんと……あれ?  え? えっ!? ちょっと待って……」  ジェラードの色黒な肌が格闘ゲームの変な色変えキャラのようにみるみる青ざめていく。  どうやら、先ほどの紳士はスリだったらしい。  たまらず涙目&挙動不審になるジェラードにおばちゃんがガキ大将の母ちゃんみたいな声で凄む。 「ちょっとあんた! 食い逃げとはいい度胸じゃないの!! 警察にカツ丼でも食いに行くかい!!?」 「い、いやおばちゃん…それは騎士の名誉にかけて断じて違う!! それに、この国にカツ丼があるってのは、いくらギャグでも不自然……(ズシンッ!!)ぶわぁっ!!?」  おばちゃんの強烈なヒップアタックに押し潰され、情けない声をあげるジェラード。 「重い…ししょー重い……」 「待ってください!」  そこに凛とした美しさの声が響く。  声の方を向くと、ジェラードの好みに直球ストライク(死語)な少女が立っている。  長く美しい金髪に凛然とした光に満ちた蒼い瞳、抜けるような白い肌がたまらなく眩しかった。 「あらグロリアちゃん、いつものならこいつをとっちめてから作ったげるから、もう少し待っとくれ!」  グロリアと呼ばれた少女は、どうやらここの常連らしい。 「おばさん、彼は食い逃げをするような人じゃないわ。眼に『誇り』があるもの……」 「…っ!」    一文無しな異国の者など、食い逃げ犯どころか人間扱いすらされないこのご時世でこんな言葉を吐く人間がいるとは。  ジェラードは改めてグロリアの姿をまじまじと見つめる。  服装こそ質素な街娘のそれであったが、物腰には嫌味のない気品が漂っていた。  きっと彼女は地元の名士の娘か何かなのだろう。  …などといった事を考えていると、彼女の後ろからこの国独特のヘルメットを被った警官が走ってくるのが見えた。 「私がさっきお巡りさんを呼んだの。 ねぇあなた、見た所他の国の騎士みたいだけど、お巡りさんへ正直に事情を話せる?」  幼児に語りかけるようにしゃがんで目線を近づけ、真摯に語りかけてくる彼女の美しさに息を飲むジェラード。 「無論だ…騎士の『誇り』に賭けて誓おう!」  ジェラードはグロリアの問いにシリアスな顔で力強く答えるも、  おばちゃんのふとましいヒップの下では決まるものも決まらないのが悲しかった。  警官に事情を一通り説明し、代金も立て替えてもらった後、交番へ向かう前に改めて礼を言おうと声をかける。 「すまんな…あんたが助けてくれなければどうなっていたやら……。この恩は決して忘れん、達者でな! (グロリアか…いずれ俺がこの国の王となった暁には、是非とも王妃に迎えよう……)」 「『困っている人には迷わず手を差し伸べろ』と、両親に教えられたから当然よ。 この国で素敵な思い出をたくさん作ってね…さようなら! …おばさん、フィッシュ&チップスを三人前くださいな……」 「はいよ!」  細腕にできたてのフィッシュ&チップスの入った紙袋を抱えて立ち去るグロリアの後姿を見て、  常連客のおっちゃんがニヨニヨしながらおばちゃんに話しかける。 「ホント、グロリアちゃんはいい娘だねぇ…まるで女王様のようだぜ!」 「あっはっは! 冗談は顔だけにしときなよあんた! 女王様はこんな下町に来るほどヒマじゃないよ!」  グロリアは紙袋を少し離れた場所で待っていた連れらしき二人組に手渡す。  一人は髭を生やした体格のいい壮年男、もう一人はまだ10歳にも満たない神経質そうな子供であった。  やがて一行はにぎわう市場から離れ、人気の少ない路地裏に入っていった。  壮年男は待ちきれないとばかりに紙袋の中身を次々口に放り込んで満面の笑みで頬張る。   「もぐもぐ…うまいっ! 陛下に馳走していただく食い物は何であっても絶品ですな!」 「ランスロット殿、本来なら我々臣下がするような事を陛下にさせては……」 「よいのだシルヴァルヴァリ、こういう事は私にとっていい息抜きになる。 それに、以前より警官の現場到着時間が短縮されていた。これは喜ぶべき事だな。 だが、観光客狙いのスリが横行するのは由々しき問題。後でパトロール強化を命じよう」  先ほどとはうってかわった威厳ある口調となったグロリア。   それもそのはず、彼女こそがこのスリギィランドの若き女王「アゼイリア=グロリアーナ=スリギィランド」その人だったのである。  連れの二人はこの国を護る「円卓騎士団」に所属する「シルヴァルヴァリ=ベロ=ベル」と「ランスロット・バン」で、  今日は彼らが女王のお忍び兼抜き打ち視察の供を務めていたのであった。 「ところでシルヴァルヴァリ、例の猟奇殺人が起こったブラックチャペル地区はすぐ近くだったな」  ここ数ヶ月の間、ブラックチャペル地区を中心に労働者階級の青年が深夜に惨殺される事件が頻発していたのである。  目撃されたSDロボはいつしか「ザ・リッパー」と呼ばれ、王都の夜を恐怖に染めていた。  「えっ? 例の事件でしたら、明日にでも警察長官からの報告があるはずですが……」 「それはわかっている…が、現場の様子や近くの住民の声を事前にこの目で直接視たり聴いておきたいのだ」 「で、ですが…陛下の身にもしもの事があれば……」  渋るシルヴァルヴァリに対し、女王アゼイリアは微笑みながらこう言った。 「だからこそ、忍びの際は円卓騎士の誰かを同伴させているのではないか!」 「はっはっは! 陛下がそこまで我らを信頼なさっておられるのでしたら、それに全力でお応えせねばなりませんな!」 「ちょっと…! ランスロット殿の場合は単なる野次馬根性でしょ……」  シルヴァルヴァリの反論を遮るようにランスロットが陽気に声を張り上げる。 「さあさあ! そうと決まれば急ぎましょうぞ! 兵は神速を尊ぶとも言いますからな!!」  数日後…場所は変わり、ここはエリンランドのとある古城跡。  そこには暗黒連合軍が誇る空中機動要塞「ダークネス・フォートレス」が崩れた城壁を呑み込むかのように鎮座していた。  ちなみに、スリギィランド侵攻部隊に配備されたこの艦は「コンクエストスリギィ」の名を与えられている。  警官に怪しまれつつも偽造パスポートと「俺はコスプレマニアだ!!」の一点張りで難を逃れたジェラードを出迎えたのは  前任者の戦死後、しばらくの間隊長代理を務めていた暗黒の国のエースパイロット「トロリス・キューベルシュタイン」と  彼の部下として最近配属された「ピリス=アイリス」であった。  両名ともスリギィランド侵攻部隊の中核を担う実力者である。  形式どおりの挨拶と現在の戦況を聞いた後、ジェラードは二人と共に様々な職務に追われていた。  昼食後、ジェラードがトロリスにふと質問する。 「トロリス、そろそろ俺も現場の指揮を執ってみたいのだが……」 「なるほど、この国での初の実戦というわけですね。 今日の午後から、NI社と協力してスコトラッドでのヌッシー捕獲作戦を行う予定です。 ピリス一人で十分かと思っていましたが、私と行きましょうか?」 「凶暴な竜退治か…面白い! これを故地における俺の初陣としよう!!」  根が真面目な者同士、割と馬の合うトロリスはジェラードの提案を快諾した。  もっとも、トロリスがジェラードの実力をこの目で見たかったというのもあるが……。  数十分後、カリブルヌスとトロリス専用「デーモンナイト」  ピリス専用「スカイーグル」の三機がスコトラッド北部のヌス湖に到着していた。  この巨大な湖には古代の首長竜から進化したヌッシーという生き物が生息しており、  週末には穏やかな性格のヌッシーを見物に来る観光客でにぎわっていた。  ところが、しばらく前からヌッシー達は凶暴化して誰彼構わず威嚇するようになり、  湖周辺の国立公園はすっかり寂れてしまっていた。  三人を出迎えたのは丸眼鏡に出っ歯、低身長の冴えない風貌の  「NOV Industry(通称NI社)」営業マン「サラリマン・山田」である。   「山田さん! こないだは予備機の準備してくれてありがとです♪ わちし好みのいい調整ぶりです!」 「ピリス、おまえが無茶して専用機を壊すから山田氏に迷惑を……うんたらかんたら……」 「ああんっ! 旦那様ったらわちしが心配なんですぅ……」 「ちーがーうー!!!」  夫婦漫才の如き様相を呈す二人をよそに、山田の顔を見たジェラードが首を傾げる。 「…おまえ、妖怪漫画に親戚が出ていないか?」 「え? あいにくそういう縁は……」 「はぁはぁ……ジェラード隊長、別にいいじゃないですかそんな事は……それより山田氏、今回の作戦の概要を」 「おお、そうでしたね………」 「お待ちなさいっ!!!」  「「「「!!!?」」」」  ジェラード達の前に三機の魔導機が姿を現した。  たまたま現地の視察に訪れていたスコトラッド女王「メアリ=スチュワード」の操る真紅の騎士「ブラッドローズ」。  彼女の護衛に就いていた少年騎士「ウィリー=ウォレス」の大いなる剣「ブレイブレード」。  メアリの従者「パーニー=ブラウニー」の蜂メイド型の機体「バニバニビ」である。 「ヌッシーを凶暴化させたのはあなた方ですわね……? 落とし前はキッチリつけさせてもらいますわよ!!!」 「陛下の言うとおり!! てめぇら全員叩き斬る!!!」 「黒・赤・スミレ色(バイオレット)…同じ色ばかりでセンスないですねぇ…プッ」 「あ゛!? 何か言ったか蜂の子!!?」  パーニーの言葉が自分への侮蔑&嘲笑と解釈したメアリは顔中血管ピキピキになり、粗暴な口調で凄む。 「あ、いや…陛下にじゃないですってば!!」 「ゴチャゴチャ言うな!! 売られた喧嘩は買うのが俺の主義…行くぞぉっ!!!」 「待ってくださいジェラード隊長…くそっ! せっかちな人だ……」 「旦那様〜♪ わちしも一緒に戦うですぅ〜っ!!」  それから数十分後のスリギィランド王城。アゼイリアは政務を一段落させた後のアフタヌーンティーを愉しんでいた。  先ほどまで妙な男を直々に尋問して妙な気分になっていたせいか、いつもよりこのひと時が心地よい。  妙な男…「ヒース」と名乗る青年はスリギィランドにおける禁書を偶然拾い、鼻血ブーしていた所を逮捕され彼女の前に引き出された。  禁書にはアゼイリア本人(公式には断固否定しているが)のあられもない姿の写真が収録されており、  その存在が発覚した時には彼女自ら女性のみで構成された精鋭を率い、パパラッチのアジトを壊滅させた。  ちなみに、スリギィランド国籍の者が故意にこの写真集を所持していた場合、懲役30年の実刑という厳罰が待っているのだが、  幸いヒースは先述のように禁書を手にしたのは偶然であり、  記憶を取り戻す為の旅を続けているという事情を切々と語った事から、アゼイリアは国外追放という比較的軽い処分で許した。  しかし、女王である以上に年頃の娘が見ず知らずの男に肌を見られるのはあまりいい気分ではない。  色々と複雑な気持ちを抱きつつもティーカップに再び唇をつけようとした所に、スコトラッドから救援を求める知らせが入った。 「スコトラッド北部のヌス湖? あそこに急行できる者は……今の所、あの二人と私だけのようだな……」    …こうして、現時点で王都に待機している円卓騎士+αが大広間へと召集された。  すでに登場したシルヴァルヴァリ、ランスロットとその子息「ガラハド・バン」に  赤髪の女性騎士「エルザ・パーシヴァル」と幼い容姿の魔術師「マリン=アンブロジウス」である。  ドレスから鎧に着替えたアゼイリアが威厳に満ちた口調で彼らに命を下す。 「…ここ数ヶ月間、動きを止めていた闇黒連合の機体がスコトラッド北部のヌス湖に現れたという。 たまたま現地に視察に来ていたスコトラッド女王メアリ殿と供の数名が交戦中との事だ。 マリンとエルザは私と共に現地に急行せよ! 残りの者にはロンドム防衛を命ずる!!」  数分後、ロンドム市民の多くが王城から飛び立つ三機の魔導機(一般人はロボットとも呼称)を目撃する事となる。  両肩の隼の翼で雄々しく飛翔する灰色と黒がベースの機体「ペリノイア」はエルザの乗機である。  次に青いローブを纏った老人のような姿をしたマリンの乗機「フィンカイラ」は全身を魔力で覆い高速で飛ぶ。  そして、金色の鎧や翼からのまばゆい光と共に天翔ける騎士型魔導機の名は「聖王騎キャリヴァーン」。  まさに女王アゼイリアの剣となって邪なる者を斬り裂く聖剣の化身である。 「おっ、ありゃあ女王様のロボットだぜ!」 「ヒャッハー!! 女王様がお留守の間、ロンドムは俺達が守りますぜー!!!」  パンクファッションをしたゴロツキの一団が歓声を上げつつ彼女達を送り出す。  リーダー格の「ジョー・キリング」は、先のロンドム防衛戦において愛機「モヒカーン」で大暴れして以来、  すっかりいい気になって自警団長気取りなのであった……。  ロンドムを飛び立ってから間もなく、アゼイリア一行の目前にヌス湖が見えてきた。 「この辺でメアリ達が交戦していると聞いたが……」 「陛下! メアリ女王達ならあそこに!」  エルザの声でキャリヴァーンの視線からその方角を見たアゼイリアは、苦戦を強いられるメアリ一行を見つけた。 「ち、ちくしょう……!!!」 「見上げた勇気と根性だ小僧…このトロリス・キューベルシュタインに本気を出させた事は評価してやろう!!」  トロリス専用デーモンナイトの猛攻によって防戦一方のブレイブレード。 「キャハハハッ!! 蜂さん待て〜っ♪」 「きゃーっ! きゃーっ!! 蜂が蜂の巣にされたらシャレになんないわよぉ〜っ!!!」  ピリス専用スカイーグルのバルカン砲から逃げるしかないバニバニビ。 「…あっ、アゼイリアお姉様〜っ!!」 「こ、こら! 戦闘中だぞ!?」  アゼイリア一行の姿を見た途端、カリブルヌスとの戦闘そっちのけで猫まっしぐらのように駆け寄るブラッドローズ。 「ああ〜ん! メアリ超怖かったで……ぶわあっ!!?」  キャリヴァーンにあっさりスルーされ、ブラッドローズはヘッドスライディングの体勢で地面に突っ込んだ。  内部のメアリもその勢いでしこたま鼻っ柱を強打して鼻血をダラダラ垂らしながらも惚気る。 「今日のお姉様ったらイジワルなんだから……☆」  闇黒連合の侵略に対し、長年わだかまりのあったスリギィランドとスコトラッドが連合軍を結成したのはつい最近であるが、  当初メアリはアゼイリアへの対抗心から独断専行を繰り返し、戦場で危機を招くばかりか両軍の間にも微妙な空気が流れていた。  これに対し、アゼイリアとマリン主従はメアリを夜通しで説得……したのだが、その方法がよいこには言えないものだったらしい。 「……陛下、メアリ女王はちょっと調教が激しすぎましたかねぇ………」 「ちょ、調教? どういう意味なんだいマリン……」 「しっ!(あまり寝所絡みでの話はするなマリン!) い、いや何でもない……」  エルザにあらぬ誤解を抱かれぬようマリンを制した後、  アゼイリアとキャリヴァーンはジェラード一行をキッと睨みつけた。 「我はスリギィランド女王、アゼイリア=グロリアーナ=スリギィランド!! いざ、聖王騎キャリヴァーンと共に邪なる者どもを討ち果たさんっ!!!」 「待っていたぞ女王アゼイリア!! そして聖王騎キャリヴァーンよ!!  我が名は……ジェラード=モードレッド。 スリギィランド王家への怨念を晴らすべく舞い戻った闇騎士、ジェラード=モードレッドだ!!!」 「!!? モードレッド……だと?」 「エルザさんエルザさん、モードレッドって何ですか?」 「あたしも詳しくは知らないが、陛下の祖先アーザー王の不義の子って話は聞いた事があるね……」 「ふっふっふ……その通りだ。 我が祖先は武運つたなくアーザー王に討たれたが、その前に子を宿した妻を国外に脱出させていた……。 その末裔が俺達モードレッド家というわけだ。 親父が死んだ事で、生き残りは俺一人となってしまったがな」 「復讐に目が曇り、闇黒連合に魂を売ったのか……同族としてあえて言おう……恥 を 知 れ !!!」 「やかましいっ!! どちらがこの国の真なる王か、ここで決着をつけてくれる!!!」 「あの…お姉様に黒い人、ここは私の地元スコトラッドなんですけど〜……」  シリアスな会話の中、真っ当なツッコミをしても浮かざるを得ないメアリ15歳であった。 「トロリスにピリス、ヌッシー退治は後回しだ。おまえ達は残り二人を相手してやれ。 わかっているとは思うが……俺と女王の勝負に手出しした場合は容赦なく斬り捨てるぞ!!!」 「「了解!!」」 「こいつは面白くなってきたねぇ……相手にとって不足はないよ!!」 「さてと、久々に攻撃魔法をぶっ放すとしますか〜♪」  ヌス湖上空で三手に別れて対峙する三人と三機。   「我が一族の長きにわたる恨みの剣……とくと味わうがいいっ!!!」 「この国の平和と希望を守護する聖剣よ!! 私に力をっ!!!」  勝負はカリブルヌスとキャリヴァーンの突進から始まった。   「ぐぬぉぉぉぉーっ!!!」 「たぁぁぁぁーーっ!!!」  ガッキィィィィィッ!!!!!  両者の裂帛の気合いと共に、真っ向からぶつかりあう邪剣と聖剣。  しばらく鍔迫り合いが続いていたが、パワーや体格で劣るキャリヴァーンが少しずつ押され始める。 「どうした聖王騎!!! まさかこれで終わりではあるま……いっ!!?」  ガクンッ!!   「勝利は……押すだけでは決して得られないっ!!!」  キャリヴァーンは空中戦の利を活かし、素早く後退する事によってカリブルヌスの体勢を崩し危機を脱した。  すかさず金色の翼が最大に展開され、一瞬で聖なる輝きが満ちていく。 「受けよ!! ブリリアンスフェザーッ!!!」  ババババババーッ!!!!  キャリヴァーンの翼から無数の光の羽根が舞い散り、やがてそれらは光の矢となってカリブルヌスに襲いかかる。   「おのれっ!!」  ヴンッ!!! 「何っ!?」  カリブルヌスは周囲に禍々しい色のバリアーを発生させ、ブリリアンスフェザーを全て防ぎきった。 「……ふ、ふふふ……ははは……はぁーっはっはっはっはっはっ!!  面白い!! 面白いぞ女王アゼイリア!!! この俺とここまで戦えたのは、ぶっちゃけた話おまえが最初だ!!!」 「……私も戦いでこれほどの昂ぶりを覚えたのは初めてだ………。 女王として、そして…一人の騎士として!! 全身全霊をこの聖剣に籠めるっ!!!」  キャリヴァーンの持つエクスカリバーがより一層の光に包まれ、  対するカリブルヌスのエビルカリバーも同じように更なる闇に包まれる。 「ホーリネス…キャリバァーッ!!!!!」 「ダークネスキャリバァーッ!!!!!」  光と闇の騎士は互いに必殺剣を繰り出し、再び相手に向かって突進するのであった。  一方、遥か下方でその激闘を眺めるしかないメアリ一行……。  メアリは何もできない状況に、ハンカチを噛み千切るぐらい苛立っていた。 「キィーッ!! イライラしますわっ!!! パーニー、ちょっと行ってあの黒いのをブチのめしてらっしゃい!!!」   「無茶言わないでくださいっ!! 私、まだ死にたくないです!!!」 「ここでお姉様を助ければ、好感度大幅アップのチャンスですのよ!!? うまくいけば……」  ここでメアリの妄想が展開される。 「ありがとう、メアリが助けてくれなければどうなっていた事か………」 「アゼイリアお姉様……私はあなたを愛していますから、へのヘのカッパですわ……」 「私もメアリを愛しているわ……メアリ……んっ……」 「んっ……お姉様……」  百合と薔薇の咲き乱れる中で接吻を交わす自分とアゼイリアを思い浮かべ、  先ほどの鼻血で詰めたティッシュは再び噴出した鼻血で勢いよく飛び出す始末であった……。  完全に脳内で彼岸に到達した主の様子に、パーニーとウィリー(彼は若干事情が異なるが)はドン引きしている。 「…そうと決まれば……」  シュルルッ! 「え?」  ブラッドローズの武装である真紅の鞭ブラッディウィップがブレイブレードの胴体に巻きつく。 「へ、陛下!? まさかっ!!?」  ウィリーの問いにニヤリと凄絶な笑みを浮かべるメアリ。 「その『まさか』ですわ!!! 私とお姉様の為、喜んで死んでらっしゃい!!!!」 「ひぃーっ!! 陛下、やめて!! お願い!!!」  ブン…ブン…ブン…ズギャルルルルッ!!!!!! 「おんどりゃあ────────────っ!!!!!!!!!!」  ブンッ!!! ヒュウウウ────……  ウィリーの哀願も空しく、ブラッドローズは凄まじく回転してブレイブレードを砲丸投げの要領で振り回し、  渾身の叫びと共に容赦なくブン投げたのであった……。 「ギニャーッ!!! お母ちゃ─────ん!!!!」  ところが、ブレイブレードは遥か天空の彼方…ではなく、横方向にすっ飛んでいった。 「ちっ、さすがは闇黒連合ですわね!!」 「陛下…それ、闇黒連合関係ないと思います……」  ……ヒュウウウ────BAGOOOOOOON!!!!!  哀れなブレイブレードとウィリーは向こう岸にあるトーカー城という、今は誰も住まない廃墟に激突して止まった。  大きな衝撃で古びた城壁は崩れ、比較的マシな場所にも大きな亀裂が入る。 「ぷぷぷ……ギャグキャラじゃなかったら死んでたぜ……お?」  近くに小さな電磁檻が転がっていた。  その中にはあどけない瞳の動物の子供が入れられている。 「キュー…」 「こりゃヌッシーの子供じゃねぇか!  …ったく、どこのどいつだ。こんなひどい事しやがったのはよ……」  ウィリーはブレイブレードの大きな指で電磁檻をこじ開け、子ヌッシーを外に出してやった。 「さあ、俺が母ちゃんのとこへ連れてってやるからな!」 「キュー!」 「こらーっ!!」 「!?」  そこには営業機として支給されている中古スカイーグルに乗ったサラリマン・山田がいた。  山田の目的はNI社の新型マナスレイヴに封入する魂を得る為にヌッシーを捕獲する事で、  子ヌッシーをエサにヌッシーの群れをジェラード達に一網打尽にしてもらう算段だった。  最近のヌッシー達の凶暴化は子ヌッシーを巡っての争いに端を発していたのである。 「そいつを連れて行かれたら、私はまた部長に怒られるんだ……。 おとなしく子ヌッシーを返せ!! でないと…撃つぞ、本当に撃っちゃうぞ!!?」 「うるせー!! 銃が怖くて騎士がやってられるかってんだ!!! …悪りぃなチビ、俺が戦ってる間に逃げてくれ……行くぜぇーっ!!!」 「く、くそーっ!! 営業社員の弾薬代は基本自腹なんだぞぉ!!?」  銃声や怒号の響く中、子ヌッシーは小さなヒレで不器用ながらも必死に湖面に向かい始めた。 「野郎っ! 脇役のくせにいい動きしやがるじゃねぇかよ!!」 「営業歴10年! 扱う商品の使い方は熟知してるんだ!! 働くお父さん舐めんなコンチクショー!! ついでに部長のバカヤロー!!!」  再びヌス湖上空、アゼイリア達から離れた場所で対峙するトロリスとマリンは……。 「知ってます? 『魔法は剣よりも強し』ってことわざを……」 「『ペンは剣よりも強し』の間違いではないのか?」 「はい! たった今、私がテキトーに考えましたから♪」  ドッパァッ!!!  次の瞬間、湖面の水が巨大な柱となって噴出した。  その数も一つや二つではない、しかも膨大な魔力で一本一本が岩石をも砕く水圧の槍と化している。  それらが猛り狂う龍の如き様相でトロリス専用デーモンナイトに襲いかかる。  しかし、トロリスも闇黒連合きってのエース。  常人離れした反応速度で水柱を避け、フィンカイラに一太刀浴びせた…が!  チュドォーン!!!  「ぐっ!!」  なんと、それは魔力を実体化させた偽物…しかも衝撃を加えられる事で爆発する厄介な代物であった。  気がつけばそれら分身はあちこちに浮遊しており、しかもそれぞれが高位の攻撃魔法の詠唱に入っていた。  僅かな時間でこれほど膨大な魔力を行使できる術者は闇黒連合の間でも限られている。  スリギィランド一の魔術師…相手にとって不足はない。  「スカーレットデビル」と畏怖されるトロリスは、今から始まる激戦への期待で笑みを浮かべた。  ウィリーと山田が戦う場所に比較的近い湖面では、ピリスとエルザが死闘を繰り広げていた。  ペリノイアのパルチザンを用いた猛烈な連続攻撃を紙一重でかわすピリス専用スカイーグル。 「…っと! わちしとここまでやるなんて、さすがは『円卓騎士団』の一員ですね!」 「褒めても何にもでないよお嬢ちゃん!」 「む〜…わちしはこれでもれっきとしたハタチです!!!」 「ハイハイ、わかったわかった……『お嬢ちゃん』!」  ぷつん! 「わちし……キレちゃいました……」  ピリスの声が一転して凄みのある声色に変わり、ピリス専用スカイーグルの脚部からスミレ色のビームクローが現れた。  次の瞬間、ペリノイアの右翼が斬り裂かれる。 「何っ!? 速い……」 「『バイオレットデビル』の恐ろしさ、たっぷり刻んであげますよ……」   「くそっ!!」  エルザもこれぐらいで怯むわけはなく、さらにペリノイアを加速させて斬りかかる。  ところが、渾身の連撃はビームクローによって次々と弾かれる。  多少出力は上がっているものの、予備機のスカイーグルで円卓騎士団の精鋭と渡り合うピリスは恐るべき実力者であった。  次第に劣勢となるペリノイア……ついにはピリス専用スカイーグルに背を向け、陸地に向かって一目散に逃げ出した。 「…ちっ! 散々人を挑発しといて逃げる気ですか!? 見損ないました……なぶり殺しにしてやります!!!」  追いつかない程度のスピードでエルザ達を追いつつ、威力を弱めたバルカン砲でじわじわいたぶるピリス。 「ぐううっ……!!!」  被弾しつつも飛び続けるペリノイアであったが、ついに背中の尾羽が撃ち抜かれ、バランスを崩して地面に激突した。  ズザザザザァーッ!!!  しかし、それでもペリノイアは両脚で立ち、ふらつきながらもある方向へ走り続ける。  これにはキレていたピリスも疑問を抱いた。 「一体どういうつもりです? 恐怖で逃げるような人間なら、地面にキスした時点で諦めてるはずなのに……」  エルザがペリノイアを走らせる先には、先ほどブレイブレードが激突した事で不安定になった廃墟があった。  城壁の一部は形を保っているものの、今にも崩れそうな状況で、その下には……子ヌッシーがいた。 「キュー…キュー……」  山田と交戦していたウィリーがその状況に気づく。 「危ねぇっ!! あのままじゃ子ヌッシーが崩れる城壁に潰されちまう!!!」 「な、何だってー!!? それじゃあ私も困るじゃないか!!!」  一時休戦し、それぞれの思惑を抱きつつも子ヌッシーを助けに向かう二人であったが、  ここに来てブレイブレードが膝をついた。  先の激突のダメージに加え、山田との戦いでついにガタが来たのである。 「くそっ……何だってこんな時に……おっさん!! てめぇが何とかしやがれ!!!」 「おまえが翼を斬ったおかげで飛べないんだってば!!! スカイーグルは構造上走れないし……」  ガラガラガラッ!!! グワシャアッ!!!  ついに城壁は崩れ落ち、哀れにも子ヌッシーは生き埋めとなってしまった。  それと時を同じくし、湖面から咆哮と共に巨大生物ヌッシーが何頭も姿を現す。。  ザバァッ!! グオオオオオオーッ!!!!! 「あれは……ヌッシー!!?」 「おお、あれがヌッシーなのか!!?」  ヌッシーの群れは子ヌッシーのいる陸地に向かって一斉に泳ぎ始めた。  その様子は離れた場所で戦っているアゼイリアとジェラードにも見える。 「何やらただ事ではない様子……なんか怪獣映画みたいじゃね!? 年に一度の誕生日には親父が映画館に連れて行ってくれたなぁ……。 女王アゼイリアよ、ここは一時休戦しないか?」  子供のようにわくわくするジェラードに呆れつつも、先のエルザの不審な行動に疑問を抱いていたアゼイリアもそれに同意した。  その提案はトロリス達にも通信で伝えられ、一同は崩落した遺跡へと向かう。  到着した一同が目にしたのは、巻き上がる砂塵が治まった後に残る瓦礫の山である。  その一部が隆起し、瓦礫を跳ね上げて立ち上がったのは傷だらけになったペリノイアであった。  両腕には心配そうに鳴く子ヌッシーが無傷で抱えられている。 「怖かったろ……もう大丈夫だよ………」 「エルザ!!? そうか……その子を守ろうとして………」 「申し訳ありません陛下……敵に背を向けてしまいました……」 「いや……誰であっても……仮に私がおまえと同じ立場であっても、同じ行動をしていたはずだ。何も恥じる事はない!!」  女王の言葉を受け、エルザは照れくさそうに頭をかいた。  彼女は子ヌッシーを水際に置くと、ピリスに向き直って身構える。 「さあ、待たせたねお嬢ちゃん……続きやろうぜ……飛べなくても、あたしのパルチザンと心はまだまだやれる………」 「冗談じゃないですよ……ボロボロのあんたを倒したら、わちしはただの卑怯者じゃないですか……。 今日の勝負はあんたの勝ちって事にしといてやるです………」 「フッ…いい家来を持ったな女王アゼイリアよ! 今回はその者の『誇り』に敬意を表して退却させてもらおう!! だが忘れるな!! いつか必ずおまえ達王家の連中を跪かせ、俺がこの国の真なる王となろうぞ!!!」  言いたい事を勝手に言って飛び去るカリブルヌス。  それにアゼイリアも凛とした声で叫び返す。 「望む所だ闇騎士ジェラード!! 私も女王として…騎士としておまえの挑戦に逃げも隠れもしないっ!!!」 「わちし達も……」 「隊長がああ言う以上、退却するしかないようだな」  トロリスとピリスの機体も山田のスカイーグルを引っ掴んで飛び去っていった。  遠方には近隣から集まった軍勢を引き連れたメアリのブラッドローズが走ってくるのが見える。  夕日に染まるヌス湖には子供が帰ってきた事へのヌッシー達の嬉しげな声が響き、戦いの終わりを告げていた。    闇黒連合の面々はエリンランドへ向けて夕焼けの中を飛び続けていた。  ジェラードがおもむろに口を開く。 「山田とやら、悪いがヌス湖の件はなかった事にしてもらえんか? 嫌と言うならころ…」 「…わかってます、ヌッシーは利用価値のないただの動物だと報告しましょう。 私がいつもどおり部長に怒られれば済む話ですよ。 営業成績なんかより、ずっと大事なものを思い出させてもらったような気がします……」  そう言った山田の顔はどこか晴れやかだった。   「ピリス、今日はおまえを少し見直したぞ」  トロリスから思わぬねぎらいの言葉をかけられたピリスは思い切り舞い上がる。 「旦那様!? それ本当ですか!!? わちしと結婚してくれるんですねー!!!」 「だ、誰もそんな事言って…うわ!! 空中で抱きつくな!! バランスがー!!!」  数時間後、アゼイリア一行はメアリ一行と共にヌス湖の近くにある某貴族の城に宿泊する事となっていた。  傷ついたペリノイアの修繕には、地元の技師を総動員してマリン特製回復魔法の呪符を併用しても一晩かかるのと、  スコトラッドの女王メアリの強い要望を無下に断るのも外交上よくないというアゼイリアの判断であった。  城では晩餐会が開かれ、鎧からドレスに戻ったアゼイリアと魔術師のローブのままなマリンは穏やかなひと時を楽しんでいた。 「陛下…マリン……」 「?」 「…冗談抜きでどちら様ですかぁ?」  突然自分達に声をかけてきた若き貴婦人にキョトンとするアゼイリアとマリン。  その反応に対し、貴婦人は困ったように頬を赤らめて頭をぽりぽりとかく。  いつも本国で見慣れたクセに二人はあっと声を上げる。 「…エルザなのか?」 「エ、エルザさんですかぁ!!?」 「あはは…やっぱ、普段が普段だからね……」  そう、令嬢の正体はパーニーによって無理矢理ドレス姿に着替えさせられたエルザであった。  ボサボサの赤い長髪も綺麗に梳かされ結い上げられており、普段の彼女とはまったく印象を異にしていた。 「お約束とは言え、なかなかいい感じですよ〜? その美貌なら、ガラハドさんもイ・チ・コ・ロじゃないですか♪ よっ、この男殺し!」 「バ、バカ! あたしとあいつはそんなんじゃ……」 「おっ、ツンデレ発言!!?」 「qあwせdrftgyふじこlp!!!!」 「ふふ…本当によく似合っている……。 ガラハドの事はともかく、今度の舞踏会でその姿を見せて皆を驚かせてやるといい。 おまえや私が黙っていても、今夜の話はマリンが言いふらしてしまうだろうしな……」  さらに赤くなり、しどろもどろになるエルザと、それを新しいオモチャを与えられた子供のようにからかうマリン。  やれやれといった様子で、アゼイリアは窓から夜空に視線を移し、あの闇騎士の事を思い出していた。  ちょうど空には半月が輝いており、光と闇の宿命の下に生まれた同族の悲しき戦いを象徴しているかのようである。 「(あの男……以前にも会ったような気がする……互いの身体に流れる王家の血がそう感じさせたの? 我が王家の祖アーザー王の不義の子モードレッドの伝説か……いずれにせよ、いつか決着をつけなければならないわね………)」  一層激しさを増すであろうこれからの戦いに決意を新たにするものの、  あの闇騎士が市場でおばちゃんに〆られていた男だとは、まったく気づいていないアゼイリアであった……。 「お姉様〜っ♪ どうなさったの〜?」  ベロンベロンに酔っ払ったメアリが声をかけてくる。  彼女の後方には飲み比べで負けたのか、ぶっ倒れてパーニーに介抱されるウィリーの姿が見える。  両親から惜しみない愛情を受けて育ったとは言え、兄弟姉妹のいないアゼイリアにとって、  この一歳下のふたいとこは世話の焼ける妹的存在でもあった。  アゼイリアはすっかり千鳥足のメアリを優しく抱きとめ、耳元でそっと囁く。 「メアリ、今夜は久しぶりに一緒に寝ようか……」  その頃、エリンランドの闇黒連合駐屯地のダークネス・フォートレスでは……。 「…よし、こんなとこかな?」  夕食後、自室に篭っていたジェラードはつい今しがた完成した作品をご満悦な表情で眺めていた。  そこにトロリスが報告をすべくドアをノックする。 「おう、入れ」 「失礼します」 「…とりあえずこいつを見てくれ。どう思う?」  ジェラードがトロリスに見せたのは、ちょっと絵が上手い小学校低学年レベルの似顔絵だった。 「これはな、俺がロンドムの市場で困った時に助けてくれたグロリアという街娘だ」 「(うわぁ…どう反応すりゃいいんだよ……) は、はぁ…そうなんですか……ん? この子、女王に似てませんか?」 「繊細すぎる…金髪碧眼ツリ目など、ありふれた特徴ではないか。 俺は決めたんだ!! 必ずこの国の王になってグロリアをお嫁さんにするんだってな!!!」 「そ、それより、報告を……」 「子供は母親似の女の子がいいと思うんだが、おまえはどうだ?」 「だ、だから報告……聞いちゃいねぇーっ!!!」  ジェラードはその後もアゼイリアと戦いを繰り広げるが、グロリアとアゼイリアが同一人物と知るにはもう少し時間がかかる。  知ったら知ったで、また違う意味で部下達を振り回すが……それもまたもう少し先のお話………。                           ─終?─