■PGSSS■       ホワイトデーの贈り物  室内はいつの間にか闇色に染まっていた。  時計を見やると午後11時56分。もう深夜なんだから、当たり前と言えば当たり前だった。  外から僅かに聞こえて来る自動車の駆動音が、却って室内の静けさを強調する。  元々詰めてる人数の割りに無駄にだだっ広い部屋に、しかも今はたった2人。 「…………どうしたもんかなぁ〜」  机に突っ伏してスヤスヤと惰眠を貪る相棒を眺めて、鈴木新太は盛大にため息をついた。  3月14日。本日はホワイトデーだった。  一ヶ月前にチョコをもらった身としては、まあ一応お返しをしなくてはいけなかったのだろうが。  とりあえず、作って来たクッキーを渡そうかと思ってたのだが。  朝、通りすがりにあちこちで聞こえた囁き声。  3倍返しが当然だの、ショボい物ばかりだの、甲斐性が無いだの、そんな言葉ばかりが耳に入って、しかもその 話題に出てくる贈り物というのがブランド物のアレやコレやだのどっかのプレミアチケットだのばかりで。  だからどうだという訳でもない。自分のは媚びたい訳でもなく単なる社交辞令だと分かってはいたのだが、何と はなしにその気が起きずに、課内の女性の誰にも渡さずじまいになってしまった。  そも社交辞令程度なのに、手作りってのは重いんじゃないかとか、男が菓子作りってのも何かなとか、他の男性 陣もノーアクションだったのに自分一人配って歩くのもピエロだよねとか、大体たった今針が12時回ってホワイ トデー終わっちゃったし、という事で、この包みたちは持ち帰って自分の食料に決定と結論が出たところで、よう やく隣の相棒が目を覚ました。 「ん〜、おはよう、にゅー太くん。もう朝?」 「ジャスト真夜中過ぎですよ」 「お腹空いた〜。そのクッキーちょうだい」 「はいはい、どう……!?」  さらりと言われた流れで普通に取り出した包みを手渡したところで、ようやく気づいた。 「なんで、知ってるんですか?」 「ん〜、にゅー太くんなら持ってると思った」  それだけ言って、クッキーをパクリ。 「えへへ、おいし」 「ホワイトデーは終わっちゃってますけどね」 「え? 良いじゃん別に。贈り物はいつだって嬉しいもん。  女の子にとってはね、渡したいと思った時でバレンタインデーで貰った時がホワイトデーなのだよ、にゅー太くん」  好きな人相手なら尚更、と言った相棒の横顔を何となく直視できなくて、新太は顔を背けた。  真っ暗だから多分自分の顔が何色か、バレないだろうとは思っていたけど。 終わり