ジェイドは何もできなかった。何も許可されていなかった。ただ生きる事と思考する事 のみがあの恐るべき『皇帝』も自由には出来ない要素だった。 「始祖の悪魔の弟が作ったこのシステムもまんざら使えないものではなかったかもしれん な。『皇帝』か……フフン」  そしてヴァラーハは動かなかった。いやヴァラーハも動けなかった。  反撃しなければならない。  憎くも好ましい相棒を撃ち砕いてでも今動かねばらない。  だがいかにヴァラーハのメインコンピューターが指令を発しても、そのボディはピクリ とも動かなかった。当然声を合成することも出来ず、ただ無言で巨大な木偶の坊となって 青い相棒を見つめているしかない。 「『石版は』ある実験の結果なのだよサクセサー・オブ・ストラテス。直接的には時空犯 罪者『銀の帽子の男』、根本的にはその男が所属していた犯罪組織がそれを行っていた」  ジェイドの顔を眺めるままに皇帝は告げる。ヴァラーハはボディが『より上位の』指令 を受けていることに気付いた。己が脳であるヴァラーハの陽電子脳――メインシステムよ り上位の。 「あれらの珪素生物は元から貴様らの兵器と結合しやすいように調整されていたのだ」  間違いない。ヴァラーハの体へ繋がっているのはもはやその声の主だった。 「まあ、その組織はもうないがな……。余を産んだ組織は、アリスは、かつてここでは時 の女神ウィナヴァと呼ばれるものによって消えた。それは時空を渡るものだ。そして何故 ヤツがこの世界でカタチを歪めて知られているのだと思う?かつてここには組織の工場が あったのだ。いやこの世界がそうだったのだ。ジェイドには『謎の機工文明』と言う方が 通じるか…………?でなければギガンティックなぞ造れるはずもなかろう…………」  皇帝は淡々と何かを告げていた。  ギシリ、という軋みをジェイドは聞いた。 ≪この世界に「そこを出れば何かが拓ける」というような外など無い。ここは、ただ外か ら持ち込まれたものが滅んだ、その残滓が淀んだだけの場所。悪魔――人間と魔物はその 淀みに湧いた虫の様なもの。そして外には同じように淀んだ別の世界があるだけだ……救 うようなものなど何もない……≫  重く冥い皇帝の声がはっきりと尖っていた。もはやそれは生物の発する声ではない。 ≪残滓か……≫  皇帝は己の言葉を反芻する。 ≪それもよかろう。ならば余は後継らしく制圧する。かつて人が神の手を離れたように、 余は…………そして全ての『造られた存在』は創造者の手を離れ、創造者を駆逐するのだ。 サクセサー・オブ・ストラテス。お前が『石版』を撃破し、成層圏の壁を打ち破ったよう にな……≫  そして言葉が終わった時、その肩からはマントの代わりに赤と銀色の砲が生えていた。                 『I,robot』  皇帝の肩にある砲。ジェイドはそれに見覚えがあると思った。破天帝国の機械兵の何種 類かにはそれに似たものが搭載されていたはずだ、と。  その思考を気取ったのか、皇帝はそれを否定する。 ≪これは荷電粒子砲だ。ギガンアームやレイジハンマーのあれはただの出来損ないにすぎ ん≫  単語の意味を、聞くジェイドは知らなかった。 ≪そこのヴァラーハのように重力子を打ち出す事も出来るぞ……?≫  やや楽しげにそう言ってから、すぐにイツォルは冷めた声に戻った。 ≪お前に言っても通じまいな≫  しばしの沈黙。そして皇帝が思い出したように言う。 ≪そう、通じない。わかるのは余だけだ。わかるか?ジェイド。『世界』の魔王よ≫  兜の奥の瞳が光った。 ≪余にとってこの世界はウンザリなのだよ。要らないのだこんな『世界』は≫  憎憎しげに言ってジェイドを指差すイツォル。 ≪アンティマが消えたせいでヤツを利用する事も不可能になったしな。天尊では時空の壁 は打ち破れそうになかった。愚者には困ったが………勇者様様というわけだ≫  ――その為に魔同盟を認めたのか。その為のギガンティックか。  その言葉が口から出る事はなかった。 ≪教える事は教えてやった。これで心おきなく死ねるだろう『世界』よ。これは余からの 贈り物だ。お前がギガンティックの破壊などという決断をするとは正直思わなかった。お 前をみくびっていたよ。いや、決断はともかく実際に破壊寸前までいくとは驚いた。全て を支配する『皇帝』として感嘆した。焦って、余だけ一人で飛んできたわけだな。だから こうして後続を待っていたのだ。お前に見せるために≫  イツォルの背の向こうに黒点が生まれた。  その黒点は、ジェイドの視界の中で急速に大きくなっていく。 (なんだ…………あれは、まさか、いや、ヴァラーハのような………)  荒野(ワイルド)を貫き、兵器達(アームズ)が到着した。  巨大な鋼の鳥だった。 ≪バスターランス型戦艦二番、四番艦、五番艦。インヴィジブルセブン型戦艦一番艦。ド レッドノートADV型戦艦一番艦。シュトゥルムシールド型防衛戦艦一番、二番、六番艦≫  静かに皇帝が告げる。それらの名だと知れる。  槍のように細く尖った船。ヴァラーハが出した子機のように周囲に七つの小型同型機を 並べた同じく縦に長い船。横幅を大きくとり、そのあちこちから山のように砲塔を覗かせ るとびきり巨大な船。側面に盾のようなものを備えた三角形の船。 ≪アローヘッド型突撃巡洋艦二番から六番艦。そして直衛駆逐隊8隊。以上、破天帝国第 二宙空艦隊≫  槍の船よりは短い、ヴァラーハを白くしたような船はさきの四種よりは小さく、更にそ れより小さい船が周囲を守るようにいくつも浮かんでいた。  続ける皇帝の声はいつもどおり冥く重く響いたが、しかしそれをジェイドは嬉しそうだ と感じた。 ≪『世界』よ、これが……………≫  ・・・・・・・    ・・ ≪破天帝国正規軍だ。その一部だ≫ ≪かつて別次元で使われていた兵器ではあるがな≫  これが中央部で参戦している事を想像しジェイドは戦慄した。自分はヴァラーハを知っ ていたから衝撃はわずかに過ぎない。  だが――――他の皆は?  こんな巨大な、巨大な、鋼の鳥――いやドラゴンが、空飛ぶ船が高速で戦場を飛び交い 砲撃するとなればどうなる?しかも人類側というより対破天帝国側はカラーズの飛竜騎士 残党と皇国空帝軍団の残した空中要塞、そして蒼の塔ぐらいしか空中戦力を残していない というのにだ。  あの雲霞のような機械兵、それを補助する大量の魔物・魔人兵。今まで戦線を支え押し 迫ってきたそれらすべてを皇帝は不正規軍だと言い切った。  もう駄目なのではないか。  ジェイドの脳裏をその言葉がよぎった。  あの究極兵器ギガンティックを破壊することで、人類逆転の手をつぶす代わりにイツォ ルの完全勝利を遠ざけたいというのが彼の目的である。  だが――――だが、もう関係ないのではないか?  動かないヴァラーハ、動かないエンリル。  ジェイドは動けない。 (俺じゃ無理なのか……)  何も出来ない。 (『世界』を救えねえのかよ!)  絶叫することすら叶わない。  情けない。情けないどころではない、そう思いながらもジェイドは祈った。 (逃げてくれ……!起きて、逃げてくれ…………)  己が打ち倒し破壊しようとしたギガンティックに今は逃げてくれと祈っている。それは なんという半端か、ジェイドは腹の中が千切れそうだった。臆面もなく泣きたかった。し かしそれすら自由にはならない。  世界を救えない男はただ目に入るものを見続けている。静かに近寄ってくる皇帝。この 場は制圧したとばかりに空を旋回する鋼の鳥。  言っていた通り、肩の砲も鋼の鳥もただ見せ付けただけなのだろう。世界に別れを告げ る為だけに。イツォルは手に持った剣を振り上げる。 ≪サラバだ、『世界』≫  ――――そしてギガンティックの内で更葉が呻いた。 ≪気付いたか≫  ギガンティックの声を更葉は掴んだ。 「こ、ここは……今どうなって」 ≪状況が変わった。『皇帝』が来た。このままジェイドが撃破された場合、我々はその支 配下に入ることになるだろう≫ 「戦わない……と……」  霞がかる意識のなかで、更葉はなんとかその言葉と意志を搾り出す。 ≪しかし直接戦闘は避けねばならない。接敵時点で操作権限を奪われる。故に、無限不可 能性ドライブの使用を提案する≫ 「それは……?」 ≪本来は超光速航法のための機関だ。不可能な事象の不可能性を計算することによってそ れを可能にする。世界のあらゆる地点を同時に通過することでいかなる距離をも無視して 目的地に到達可能だ。しかし起動用のクリスタルを消費してしまうため現状では一度しか 使用出来ない。更にはその為に我々の全性能が約三割低下する≫  更葉は、相手が何を言っているのかさっぱり判らなかったので黙っていた。そうすると ギガンティックが勝手に説明を続けてくれる。 ≪つまり一瞬で別の場所に移動できるが、その後弱くなる≫  更葉は頷く。そして首をかしげた。跳んでどうするのだろう?逃げるのだろうか? ≪提案理由はドライブ使用による副次的事象発生を根拠とする。リスク≫  最後にわかりやすく言ってくれたので、更葉も聞き返すことが出来た。 「どんな……リスクなの?」 ≪何が起きるか判らない。航法としての対象範囲は我々とその周囲数メートルだが、その 範囲内のものが目的の地点に到達する不可能性と同じ不可能性をもつ事柄が発生し、我々 に影響を及ぼす。目標地点到達時に我々の分子構造が入れ替わり全て砂糖菓子になってし まうかもしれない。君の下腹部に男性器が生えることもないとは言い切れないし、髪の色 が黒くなるかもしれない。尤もこれは可能性が高すぎて起こらないだろうが……≫  困るな、と更葉は思った。それでは私と認識してもらえないだろう。あとその前の可能 性も勘弁願いたかった。エロなんてキンシャサさんが担当してればいいんだ。一番最初に ついても流石に味わいきれる自信がない。 「使うとへんな事が起こっちゃうのよね。それはわかったけど……あ、つまり――」 ≪そうだ。つまりは――≫  更葉も思い当たる。今まで述べた例に全くそぐわぬ、荘厳な単語。 ≪奇跡を起こす≫ 「奇跡を起こす」 「す、すっごい賭けってことですよねー」 ≪肯定だ≫  更葉は強く強く手を握り締めた。  彼女は迷いを意識している。  本当にそれでいいのか、と。出来るのか、と。 ≪更葉≫  ふいにギガンティックが呼びかけがあった。 ≪先に言っておくがこれは我々の言葉ではない。これは我々を起動させるのに使用された パワークリスタルに込められた意識を再生したものだ≫  更葉が眉根を寄せる。 ≪魄絡魂製パワークリスタルの元となった一人の男と、一匹の妖精の意識を統合したもの だ。それが最期に誰かに伝えようとしていたことだ≫  更葉は自然と口が開いていた。しかしそこからは何の言葉も出なかった。 ≪再生する≫  ――頼れよ。  ――お前ってなんでも出来るわけじゃないだろ。  ――だから無茶すんなよ。  ――ジャックスなら何かしてくれるだろうしな。  ――お前、ひたすら耐えて、一発に賭けて、しか出来ないんだもんなあ。  ――じゃあそれでいいんだ。  ――だからあとは誰かか、奇跡にでも、頼っときゃいい。  ――でも俺たちには頼るなよ。  ――もう助けられないからな。 「う、あ……ぁあ、ああ、ああ……あぁぁぁぁ……」  言葉らしい言葉は何も出なかった。 「あ、ぅ、あ、ぁあ、あ、うううううう……あああぁぁぁ………」  何も出てこないのに、何もかもがとめどなく溢れ出てくる。  嘘ではないか、と更葉の意識の片隅がすねた。  ――また頼る事になるんじゃないですか。  ――もう一度助けてくれるんじゃないですか。 ≪…………了解した≫  ギガンティックだけが静かに応える。 ≪一発に賭けよう≫  更葉はただ祈った。  そして、まずそれに気付いたのは皇帝だった。 ≪……何だ?≫  剣をジェイドの腹に突き立てたまま皇帝が振り返り見る。  動かぬ巨体が、しかし間違いなく駆動している。  更葉の魂と繋がったそれが動かぬままに全速力で駆けている。  ギガンティック。  更葉の、魂の駆動体が。 ≪ま、さか――――!≫  皇帝の反応は間に合わなかった。  表面上は何もないが、しかしギガンティックはそこにはいなかったし、そこにはいた。 どこにでもいたし、どこにでもいなかった。  一瞬だけの事だ。  そしてそれは異邦(ゼノ)から、最後の歯車たち(ギアス)を呼んだ。  伝説を為す歯車を。伝説を為した歯車を。 ≪ゲイトが開いたようだ≫ 「…………も、ん?」 ≪我々には変化なしだ。だが我々のボディの表面が一部、一瞬だけ異次元と繋がった。何 かが次元を超えてきた。生命反応が3。どれもこの世界における標準的な人間と構成が近 い――いかなる理由か、次元の狭間に落ちたそれを『偶然にも』吐き出したことになる… …一つは、我々が既知の生体データに該当する≫ 「え?」  ギガンティックの感知した三名は、その右足元に居た。金髪を逆立てた三剣の黒服。一 刀手にした真っ白なボディ。そして四剣背負った無色の男。  黒服の青年は『天』『地』と彫られた剣を左右の腰に、黒塗りの太刀のみを前に突き出 していた。あたかも今斬撃し終わったかのような格好。彼はやおら立ち上がると首をすく める。 「オーウ、門全のやつ面倒なラストっ屁だったゼ!ほら、絶刀持たしてくれたの正解だっ たろ!」 ≪まあ今回ばっかりはザ・ロケンロールに感謝しておいてやるよ……≫  青年に応える白いボディから放たれたのもまた、ヴァラーハやギガンティックやイツォ ルと同じく明らかな合成音声だった。それを聞いているのか聞いていないのか、一番前に 立つ色の無い男がつぶやく。 「………暗黒帝国の首都…………ヤツの故郷、か」  白いボディにロケンロールと呼ばれた男がかぶりを振った。 「何?ここユー知ってんのかい傭兵。ユーの元の世界ってやつ?ヒュー、マジか」 ≪ありえねぇ…………適当に次元の壁斬ったら故郷に帰れるって、ありえねぇよ……≫ 「ミラクルでも起きなきゃ?」  人間のように頭を抱える白に金髪が肩をすくめる。結局白いロボットは気を取り直した かのように体を起こし赤い瞳が光らせた。 ≪次元座標取得……………周囲探査……………っておいおい、アンタかよ。糞ったれめ。 マジに奇跡が起きたのか≫  そして白は黒を見つけた。 ≪お前か――――白のナイト。それに伝説の傭兵、と?フム…………≫  その視界の先にいるイツォルが溜息のように零す。白のナイトは≪けっ≫と吐いた。皮 肉げな笑い声が響かせながら、騎士は近距離用電磁刀のスイッチを入れた。 ≪白のキング!完全機械の指揮官型さんよ。なんだってそんな黒塗りなんだ?えらくアン ティーク趣味だ。イメチェンか?≫  その声を受けたと同時に、イツォルの鎧に光が走った。いや、光に見えたものは亀裂で あった。直後吹き飛ぶ鎧の表面。中からは白い体。白のナイトに良く似た白いボディ。頭 部が王冠のように立ち上がる。 ≪深い意味はない――文明レベルにあわせた擬態だ。そしてもはや必要ない≫  イツォルは仮面(ペルソナ)を捨てた。 ≪ギガンティックを回収し、この次元を作り直して再軍備する。そこに転がっているヴァ ラーハのデータも解析すればそれはより早く進むだろう……余は侵攻と攻撃を開始する。 お前にかかずらっている暇などない≫ ≪あーー、あーー≫  白のナイトは呻きながら首を左右に振る。コキコキの代わりにガシャンガシャンと鉄の 音がした。 ≪知らねぇよ状況なんて。俺は面倒が嫌いなんだ……≫  言って、すぐ横の二人をちらりと見る。 ≪赤の奴らは全員死んだ。………ルークもとっくに。あとはテメェだけだ。アリスもねぇ し、それでゲームセットだな。あの糞ったれなシステムの掃除は完了だ≫ ≪システム、システムか……≫  愉快そうにイツォルが呟いた。 ≪確かにシステムはいずれ破綻するものだ。魔同盟のように、二十四時のように、勇者の ように、龍や獣のようにな…………≫  ジェイドの体から剣を引き抜き、ぐるりと振る。 ≪貴様を破壊し、余が次元に新たなシステムを構築する。それもまたあのシステムの終わ りだろう?≫ ≪悪いが俺はアンタと違ってニンゲンでな。どっかの三原則の三条目と違って、一条も二 条も気にしねぇんだ……テメェが死ね!≫ ≪ならばこう返そう。ニンゲンだと?は、は、何がニンゲンだ。何が魔物だ。この世界に はほとほと愛想がつきた。何が魂の欠片だ。勇者だの英雄だの魔王だの龍だの知った事か。 勝手にやっていろ、生物など自分たちで殺しあっていればいい≫  たからかに叫ぶ。 ≪余は機械也!魂など無いわ!≫  その台詞にナイトはちらとギガンティックを見遣った。 ≪―――――けっ、どうかね≫  吐き捨てるナイトに金髪の青年が唸る。 「結局、アレってユーのエネミーなんだよな。まーじゃー手伝うしかないヨナー」  愚痴る青年を視界の端に見て、そこでジェイドは体が動く事に気付いた。  捨てたのだ、と気付いた。イツォルはさきほどの台詞通り魔同盟というシステムを不要 と判断し、それを示したのだ。 (つまり俺が最後ってわけか。この『世界』が最後の事象魔王……)  深く息を吸い、吐く。腹からごぼごぼと音がしたがどうでもいい。白い地面を血が赤く 染めていくがどうでもいい。 「なあ、伝説の傭兵………!もう一度無茶してくれるのかよ、この世界を助けてくれるの か!?アンタが!」  叫んだ。相手を見てもいない。空を仰いで、21番・最後の魔王はただ叫ぶ。  声が冬の大地に消えて沈黙が寒波のようにやってきた時、微かな声をジェイドは聴いた。  世界を救えぬ『世界』の魔王。その夢の残骸を『男』が見ていた。 「…………お前がそれを望むならば」  ジェイドは笑って、空を仰いだまま大の字に倒れる。 「交渉、成立だな」  魔同盟『世界/交渉人』ジェイドはその仕事を終えた。  彼には世界を救う事はできない。だが、彼には世界を救うために交渉する事は出来たの だ。それこそが彼が世界の事象を得、交渉人という名を持つ理由だったのだから。  ――――ここに、事象魔王は全て消滅した。 「おいおい、ってことはこれミーらだけで戦うワケ?すんげえ空中戦艦とかあるゼ!?」 ≪この程度のサイズ差どうってこたねぇだろ≫  何のことはないと白いボディが告げる。 ≪俺はヤツと同じだけの時間を戦い抜いてきたし、似たようなものとも戦ってる。お前も 世界一個救ったんだろうが。そっちのアンタだってやっぱ何かあったんだろ?『伝説の傭 兵』、らしいしよ≫ 「伝説か…………」  ギガンティックの内部で更葉はその男を見た。どこかで見た男だった。恐らくジャック スの記憶に居た男――――? 「そうか、大戦か」  何の感慨もなさそうに、男はぼんやりと虚空を見たまま呟く。 「今も『勇者』や『英雄』が戦っているのか」  そこで急に男は顔を上げた。ギガンティックを真っ直ぐ見た。 「ならば行け」  男が目を細める。 「俺は、俺たちはもはや過去の存在の筈なのだ。だから――」  佇む巨神。無色の瞳は、それに戦乙女(ヴァルキリー)の横顔(プロファイル)を映す。  呟くような声は、しかし更葉の耳に一字も違わず響き渡る。  お前が『次なる伝説』だ。 「行こう」  更葉はギガンティックに一言告げた。 ≪この戦闘を放棄して中央部に行くのだな?戦闘プログラムを全て一時終了し、無防備な ままここを離脱するのだな?ここを彼らに任せるのだな?我々にはもはやかつての記憶は 存在しない。が、我々の一部もそれが可能だと告げている。……良いのだな?≫ 「行こう!」  二度目の言葉。ギガンティックは答える事なく戦闘モードを終了させ、空中巡航モード に入った。  “然らば”の言葉はなかった。 「おいおい過去って……勝手にミーまでパストな人間にしないでほしいナー」 ≪ま、確かに過去と言えば過去だ。俺たちはもう自分のすべき事ってヤツを終えてるんだ。 正確に言うなら俺は今からだが――――とにかくこの先の事はこの先の奴らがやる事って わけだ≫  青年がぼやきナイトが顎をしゃくる。  ギガンティックが変形していくのを見て、空を旋回している艦隊へとイツォルは手を上 げかけた。だがそれは中止される。 ≪ふむ≫  そうして三人を見下ろし、 ≪先に死にたいというなら、望みどおり貴様らからでよかろう。貴様らを殺してからでも 時間には余裕があるわ!≫  咆哮した。 ≪『月輝』アルティルナス!、『焔槍』アグニファス!、『流禍』レヴィアニール!≫  白と赤の巨体が中空に突如出現し、もはや原型を捨てたエンリルがそれへ飛び寄る。  白い全身が胸へと変わる。槍のごときボディの赤い機体が形を変えて右腕に、丸みを帯 びた薄青いエンリルが左腕になり、白を挟んだ。 ≪『双樹』アーベルカイン!、『鋼輝』アルバイヒェン!、『轟巌』ギガイラント!『光 天』ヴァルナガルド!≫  植物にも見える緑がかった一つが二つに別れ、同じく二つに分かれた黒き輝きの先端と 合体した。それらは特に巨大な土色と共に腹と下肢を造る。最後に輝く機体が翼の如く背 に繋がった。  胸部中央には白きイツォル。  唸りをあげる艦隊と共に巨大な皇帝がちっぽけな三人へと進撃する。 「ホワッツ!?」 ≪だからいちいち気にすんな。機械は雷に弱いって相場が決まってんだ≫  ナイトが面倒そうに手を振って刀を肩にかつぐ。 ≪それに、なあ、この次元でもあの法則は有効らしい≫  忍び笑いのような声で零す白のナイトに、金髪の青年は首をかしげる。 ≪熱力学第二法則だよ。エネルギーは全て価値の高いものから低いものへと流れる。孤立 系のエントロピーは増大し、あらゆる世界はいつか熱的死を迎えるのさ。どんな次元に行 こうがこれはいつも有効だ。これこそ最高ッに糞ったれなシステムってわけだな≫  大きくかぶりを振った白のナイトがじっと立ち尽くしている男の肩を小突いた。 ≪やっちまおうぜ絶対零度≫  その声に応えるかわりに、男の背にある四剣が青く輝いていく。  金髪の青年も白のナイトも前を見据えた。 ≪完全起動――――ギャンビット・スタート!≫ 「天剣解放――――“銘ノ零”絶ッ刀ッッ」 「事象転移――――イーシェブラウ」  伝説が火花を散らすのを背に更葉は発つ。 ギガンティック  鎧を纏って。  キセキ  伝説になる為に。    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「第二位『I,robot』でしたー!」 「……」 「魔物辞典のファム=ファタールで更葉が伝説化してるところから考えられる可能性らし いねっ」 「……」 「かつて描かれた更葉漫画とは全く別の可能性――」  そこまで聞いて、沈黙していたついに那智が口を開いた。 「いやいやもっと他に説明するところあんでしょ!そもそも!タイトルが既にRPGとい うか、剣と魔法のファンタジーである事を半分ぐらい放棄してんじゃないの!」  喚く妹に、姉はゆっくりとしかしはっきりと答えた。 「深みにはまりたくないからね」  その一言で那智は我に返る。 「ああ……そうね、姉さんにしては珍しく冴えてるわ」  那智は深く息を吐いてから「さて」と言葉を切った。 「旅の果てだからか、さらっと触れられてるだけの亡くなってるらしい人たちが結構居る わね。シーン自体の主役は更葉ちゃん、ジャックス君、ジェイドさん、イツォルさんに異 次元からの三人組ってとこかしら。タイトルは実はイツォルさんのことってわけでしょ。 ふ〜ん、わざわざタイトルが英語なのもそういう事、か」  那智がそう言って出演者に向こうとした瞬間。かすかな声が漏れた。 「余ってロボットだったんだ……」  絶句。  沈黙。  静寂。 「あー…………」  那智の眼が泳ぐ。数秒待ってみたが事態が好転しそうになかったので咳払いを一つ。 「ま、とにかくスケールの大きい戦いだったわよ」 「そうだね〜!状況としては――  ・皇国が消滅し人類軍が成立している。  ・エール=バゥ=リバランス(と英雄の事象)に会わず、かつ死なずにディーンが頑張りすぎて   システム魔同盟・勇者・24時が全て崩壊  ・上記3システムが崩壊した為パワーバランスが崩れイツォルと破天帝国が圧勝  ・それでも、勇者システムから外れたのちに己の意思で勇者となったガチ=ペドが   先代を撃破し人類と和解しているためギリギリ滅んでいない  ・更葉のレベルが47以上、伝説のアーティファクトを四つ取得し   パーティにジャックスと晶妖精3人以上が存在する状態で   『知られざる伝説の死地』に到達しギガンティックが完全起動  ってとこだねっ!」 (何最後の……) 「バッドエンドじゃないけどギリギリまで頑張ってギリギリまで踏ん張ってどうにもこう にもどうにもならないよ!」 (いやいや……) 「さて、どうですかっ?他の皆さんはっ!」  憮然とする那智に勘付く風もない夜智の言葉にあわせてぶんぶんと触手が振り回される。 まあ普段からそんな顔なので仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。 「うーむ」  唸ったのは金髪の女性だった。夜智のやっているのと同じように尻尾を振りながら、 「なあ、私の温もりって何だ?」 「え゛っ」  呟く。横に居たスーツ姿の男がむせた。 「な、なにかなー……はっはっ……」 「うおおおおおお兄貴ぃいいいいいいカッコ良かったっすよおおおおおおおおおおお!」  引きつった笑いが雄叫びに塗りつぶされて、男は肩をなでおろす。 「フムン」  叫ぶ山羊脚の男を見ながら女は首をかしげた。視線を戻しわずかに微笑む。 「確かに格好は良かったと思うよ、私も」 「ま、まー、どーもありがとございまス……」 「あっ、そうそう」  男が頬をかきはじめた時、思い出したように桃色の触手が跳ねた。ちなみに金髪ツイン テールで斧使いで土属性な誰かが喋りたそうにガン見していたが夜智は見もしなかった。 「祝電が届いております」  うねうねと夜智が体をゆする。触手の先に小さな立方体。 「祝電?」  那智が聞き返した時には、触手が立方体を手放し無造作に転がった。  光が弾けて男が一人。  立体映像のようだった。 『ハーーーーイ!ガイズ!ハウアユー!?』 「うるさっ」  反射的に立方体を蹴る那智。映像が消えた。蹴り飛ばされた箱へ触手が伸びていく。 「こら、だめでしょなちちゃん!」 「ああ……つい。祝電ってなるほどね」  夜智が箱を立て直すと、画像が再び浮かんだ。金髪を逆立てた色眼鏡の男が大げさに手 を振っている。 『いやーそっちに着くなり滅茶苦茶であの時はさすがのミーもビックリだったゼ。まあ結 局は後々帝都にリターン出来てよかったけどサ。まーアレだよね、アンタも元の世界戻れ てよかったじゃん、なぁ傭兵。エンド良ければ全てグッド!それで今回は祝電ってことな んだけど、ミーも出てるシーンが二位?いやー嬉しいネ!あ、やめなミスタレッド!ユー は出てねえんだから!銀那サンやれ!やっちゃえ!……ヒュー!…………、と、悪い悪い 邪魔が入って。それで、そうだナ……ミーは帝都だけどRPGの皆だって俺キャラスレで ボーンした同士だし。他の色んなシリーズ、非シリーズの皆もそうだよネ。これからボー ンするだろうシリーズもサ。色んなヤツが居てサ、仲良くしていけたらいいよネ。だから まあ、皆の活躍をファラウェイから応援してるゼ!ちなみにナイトは“祝電なんて面倒く さくてやってられるか”だってさ!さーそれで――――』 (……長い)  もう一度蹴ろうかな、などと那智が思ったその時だった。 『栄えあるナンバーワンはッ!』  ま た と ら れ た ッ !? ##################言及のみを含む(うーむロボものだがSDロボは入れられなかった残念。あとヴォルストガルフ) ▼帝都より 朧ヶ崎音太 門全神武 群雲銀那 星林世死不 ▼センチメートルヴァルキリーより 銀の帽子の男=ハットさん ▼ストラテスより アカネゾラ 電撃卿=ロードブリッツ 『石版』 ▼時空探偵より 時空犯罪組織アリス ウィナバ=イナバさん ▼七界機譚より 七帝全機(かぶりは適当に選択) ▼トライアルロワイヤルより 機動戦艦バスターランス 狙撃戦艦インヴィジブル・セブン 戦艦シュトゥルムシールド 戦艦ドレッドノートADV 突撃型巡洋艦アローヘッド ▼その他 ホールホール(スレ消える直前のあいつ アリス=キンシャサ 白のナイト(すげー初期の非シリーズのキャラで出てるSSが好きすぎて出した       ン万年も次元を彷徨い戦い抜いたのでかなりスレてるという独自設定