前回のあらすじ 欝展開終了 石一つないコンクリート道、今日に限ってはテレビで和平式でも見てるのか 人が極端に少ない、不幸中の幸いとはこの事か 人にぶつかる心配をせず、走り続ける事が出来る もう夜で暗く頼りの明かりは、街灯と月明かりだけになってた。 「ウェンディ・・・」 走っても走っても、目の前の闇ににウェンディはいない 目を凝らしても、神経を研ぎ澄ましても、ウェンディの姿も気配もない。 もう暗黒帝国を・・・冷たい汗が流れてくる だが立ち止まっても始まらない、もしかしたら間に合うかもしれない。 不思議と疲れを感じない体を走らせ、僕は暗黒帝国の郊外まで向かっていた はずだった、人が何故か多くなっていく、それに伴い 街灯の数も増えていく、まさかと思い足を止める 「まさか・・・クソッなんでだ・・・」 闇黒帝国の郊外へ向かっていたはずだった、だがどこで道を間違えたか 市場に出ていた、夜の闇で道を間違えたか、不安に負けたか それともウェンディに会いたくて、冷静さを失ってしまったか 「間に合うのかこれで・・・」 まるでこの夜のように、心に暗い影が差し掛かった これが本当の絶望なんだろうな、だが分かってる 立ち止まった所で、何も始まらない! 「市場からして、郊外へ行くには突っ切れば・・・ダメだ人が多い、だが・・・」 市場近くには、人気のない路地裏がありそこなら、全力で飛ばせば20分で郊外にいける 雲に隠れあまり役に立たない、月明かりを頼りに僕は路地裏へと入る 完全に暗くないが、目が慣れるまで何度か、壁にぶつかりかけ前に進む 時間がどれだけ過ぎたか、どれだけ進んだかも分からない そんな闇の中、遠くに違和感を感じる、人の気配? こんな時間に僕以外の人間が、こんな真っ暗な場所にいるなんて だがそれは確信に変わった、耳を澄ますと聞こえる、悲しく綺麗な声 「はぁ・・はぁ・・・・ウェン・・・ディ?」 神は信じてない、だが入るとしたら神よ、本当にありがとう。 僕しかいないと思ったこの場所に、雲が晴れて月明かりが薄く照らす 風のような緑色の髪、かすかに聞こえる泣き声は、酷く綺麗で あの後に着替える事も忘れて走ったんだろう ディオールのドレスのまま、誰もいない路地裏でウェンディが泣いてた 「ヴェータ・・・?」 旅行鞄に腰掛けてたのか、立つ時にガタっと音がした 何でここにいると言いたげに、ハンカチをしまって 平気なように振舞おうとしてた、月明かりが消えてしまう前に見えたが 潤んだ瞳と涙の跡がちゃんと見えた 「えっと・・見送り?こんな所まで・・・そんな分けないよね、それともハンカチ?大丈夫、部屋に置いて来たよ。」 闇の中のせいで、はっきりと姿が見えない だが嫌なくらい震えた声ははっきり聞こえた 「違うんだ、僕は謝りに来た。」 「そんな今更いいよ気にしてないから。」 震えてる声で無理やり、笑おうと無理をして可笑しな声になってる ウェンディが許してくれるか分からない、けど けどここで本当の事を言わないと、絶対に僕とウェンディは、心に深い傷が残し続ける 「言わせてくれウェンディ、君に消えないほど深い傷をつけてしまった・・・本当にすまなかった!」 姉さま以外、こんなに深く頭を下げたのは初めてか しばらく口を閉じたままのウェンディが口を開く前に 僕の口が先に僕の本当の気持ちを伝えた。 「こんな事言っても、信じてもらえないけど・・・好きだ!」 「え・・・・っ?」 呆気に取られるウェンディに、僕は言葉を続けた 「君の事が好きだった、けど僕はそれが認めたくなかったんだ・・・姉さまが好きだったから、こんなのおかしいって 僕の下らない意地で、君を酷く苦しめた・・・ごめん、けどウェンディが誰より愛おしいのは本当なんだ!」 全て言えた、心臓が不安と恥ずかしさと、嬉しさ全てが混ざりあいドクドク言ってる 「ヴェー・・・タ?」 ウェンディは僕を許してくれないかもしれない 許されなくても文句を言う資格はない この思いが届かなくても、僕は出来る事はした 「私・・・・」 雲が晴れ再度、ウェンディは月に照らされ、潤んだ瞳から涙が零れた 傷口を開いてしまったのか、頭の中は迷路に迷い込んだように混乱する  如何すればウェンディの涙を止めれる? 「すまない、また泣かせてしまった・・・」 「本当に・・・本当に嫌いかと思った、けど・・・けど嘘だったんだね・・・よかった・・・」 声が震えてるけど、安心した声だ、苦しくて泣いてるんじゃない 僕が胸を撫で下ろすが、まだ続きがあった 「けどね・・・ヴェータ、ヴェータが好きでも私・・・私じゃダメなの。」 「・・・そうか・・・」 自業自得だ、あんな酷い事言って好きだなんて、虫が良すぎる 僕はウェンディに、最後の別れを言おうとしたが 「私も・・・ヴェータの事が好きだよ・・・」 我が耳を疑って、ウェンディのほうを振り返った ウェンディの涙は止まってなく、ツーッと頬を伝い落ちていく 「本当か?けどなんで・・・なぜダメなんだ?」 「・・・ヒースに振られてから、ヴェータが優しくしてくれて、それで好きかもってね・・・こんな理由じゃダメだって。」 これじゃあ、これじゃあ僕と同じだ・・・僕よりたちが悪い 自分一人抱え込んでウェンディだけが、さっきまでの僕のように苦しみ続ける それを考えた瞬間、体と心が望む事が、完全に一致して 「ヴェータ!?」 ウェンディを抱きしめていた、まるでディオールの時の様だ 唯一違うのが、僕に何の迷いもない事か 「それでもいい!ウェンディ好きだ、愛してる・・・一緒にいてくれ!」 恥ずかしさなんてなかった、なのに心臓はドクドクと、狂ったように動いて ウェンディを放さないよう、壊れないか心配になるくらい強く、抱きしめてた 「一緒にいたい・・・けどダメなの!私の理由じゃ不純すぎるよ!」 「だったら僕の事を好きにさせる、今のウェンディの悩みを笑い飛ばすぐらいに。」 それからウェンディは何も言わなくなった、ただ 僕を抱き返して、そしてゆっくりと顔を上げた 「私、本当にヴェータが好きになっちゃうよ?いいの?」 「いいに決まってるだろ?愛してるウェンディ。」 「ヴェータ・・・私も、私も愛してるからね!」 ウェンディは頬を赤らめながら、それでいて幸せそうに 僕へ微笑んでくれた、こんなに幸せを感じた事、今までない 僕らは月明かりの下、お互いを確かめ合うよう、ギュッと抱き合った。 「帰ろうウェンディ。」 「うん・・・けど、帰ったら顔洗わせてね?」 子供っぽくウェンディが笑うと、今までのウェンディを思い出し、少し笑ってしまう これが本当のウェンディなんだ。 「ねぇヴェータ、その・・・恋人同士になったんだよね?」 「あぁ、僕らはもう恋人だ。」 「それじゃあさ・・・手繋いでくれる?」 タイミング悪く月が隠れたが、ウェンディの顔がほんのりと赤くなってるのは ちゃんと見えた、さくらんぼみたいに真っ赤で そのくせさくらんぼみたいに可愛い、断る理由なんて、どこにもない。 「あぁ、けど帰るまで放さないからな?」 「うん!」 旅行鞄を片手に、ウェンディの手を片手に取り 僕らは城へと帰っていく、帰り道に人はいなく街灯と月と、星に見られながら 柔らかく手を繋ぎあい、肌が触れ合うくらい、お互いの距離を縮め このまま立ち止まってたい、そう思えるくらいゆっくり、僕らは歩き始めた。 本編に続く