ジーザス=ツヴァルトの冒険2「新方向宣言救世主」 様々な仲間と出会い、様々な別れがあった すれ違う顔は皆違い、数々の驚きとドラマがあった ある者は別れ際に捨て台詞を吐き、ある者は私の持ち金全部持っていかれ ある者は私を見下し、それでも…ある者は小さな幸せを与えてくれた 私は忘れない…全てが、清く喜びに満ちた日々であったことを… 私の隣にいるまっくろけっけのももっち…私を付け回す可憐な少女… 今居るのはそれだけ…しかも、パーティに入っているのかどうかもわからない… それでも、少女に花を渡せば、彼女はにこりと微笑んでくれる…そんな気はした。実行はしていない… もう冒険してどれほど経つだろうか、時が流れるのは早いものだ ふふ…生きることに一生懸命だから仕方がない…盗まれる事すら神の試練とすら思っている そんな、ひどく寂れたこの業界で培ってきた教訓… 今、私が一番言いたいことは 「私とは、なんという空気なのか!!」 という事である 前回も皇国の面々にも久々に会えた事で、私の居場所を経ての存在の認知ができたであろう だがしかし!それだけでは足りない!何かが足りない! それは…それこそは何よりも『個性』が足りない、もとい、『"方向性がない"』のだ! 私は元騎士を勤める男…少々箱入りが過ぎていたのかもしれない… それどころか、私が冒険者になった動機は曖昧で、冒険者としての決心も雀の涙ほどもなかったのだった 「おおおぉぉぉぉおおぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉおぉおぉおぉぉぉぉぉぉぉおお…」 「……」 くろももっち…くろっちが無表情にも私の頬を伝う涙をその小さな手の甲で拭ってくれた ああ、そうだ、私はこの瞬間何か脳の裏に電流のようなものが走った 小さな幸せ…それこそが何よりも私を今まで持続させてきた冒険の糧だったのだ 「くろっち君…!!」 (びくっ!) 激情に走っていたのだろう…私は嬉しくなり、思わず魔物の少女の体を抱き寄せながら 「ありがとうくろっち君…君は私の事を思ってくれるのか!ありがとう!」 しなやかな彼女の体は全て私の体が覆うように密着していた そして荒い鼻息と汗に満ちた大興奮の様を…今思えば、当時の私は…変態だ!! くろっち君はびくびくっっと体を跳ね上がらせたかと思うと突然、彼女の体は宙を舞った 当然私も彼女の体にしがみ付いているのだから、天空へ天空へと空高く舞い上がる 次の瞬間、ぐりんと私の体が回転したかと思うと、そのまま高い空へと放り出された 「わああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 どどんっ! …………… 「くろっち君…君は…私についていてくれる…限り…幸せに…しあわ…しわ……しわ…おぶつっ!」 私は絶頂に達した その後くろっち君が私の元へ寄ってきて、泣きそうになりながら私を揺さぶっていたような気がしたが もうどうでもよかった…もうなんでもいい…おやすみなさい… ………………… ………………………………… ………………………………………………≪起きなさい≫ 誰ですか? ≪あなたはまだ終わるときではありません…≫ どういうことですか? ≪ビックな行いをするのです、そしてビックな出会い…さすれば、あなたの道は開きます≫ あなたは一体…? ≪わたし、私は…あなたの…シャカエル…で…≫ でっかい東方仏が、天使の翼を纏った姿が一瞬見えた気がしたが やがて私の視界はフェードアウトしていき、全ての意識が途絶えた …………………はっ 周りを見渡すと、冷たい鉄張りの建物の中… そうか、私は気を失っていてしまったようだ… 「気がつきましたか?」 私は、重い上体を起こし声のするほうへと向いた。そこに立っているのは ちょっと奇抜な学生風の女性…そういえば、この部屋…独特の臭いがつんとしてくる…これは 「私はリザナ=ドーマ、私はこの学園の生徒です」 そういうと、私に暖かい紅茶の入ったカップを渡してきた 私はご好意に感謝しつつもそのカップをありがたく受け取る 「お兄さんは、道路の真ん中で倒れている所をちょうど馬車で移動していた私たちが見つけたんですよ」 その女の子はくるりと可愛らしい三つの目で私に微笑んでくれた…小さな幸せだ 「私はジーザス=ツヴァルト、この度は本当にありがとうございました。感謝します」 私は徐に彼女の両手を握った、これは騎士としての義理作法である 「え…そ、そんなぁ、いいんですよ…それより…具合は大丈夫ですか?」 「おかげですっかり治りました、何かお礼をして差し上げられればいいのですが…」 「ふっ、あいかわらず堅いお方だねぇ、おまけに情に厚い、なぁ旦那」 聞き覚えのある声だった、まさかと思い、私は丁度左のほうを向いた 「…!あなたは…ク、クラ」 「クラウド=ヘイズ。お久しぶりですね、旦那」 私と同じく…いや、正確に言えば彼は現皇国騎士団12軍団第10軍団『裂攻軍団』軍団長クラウド=ヘイズ… 彼がどうしてここに?いや、それよりもこんな偶然があって良いものなのか 「旦那、皇帝の誕生会に出たんですってねぇ…ははは、あんたが来るなら俺も出ておけばよかった」 「はは…私もあなたに参加して頂きたかったですよ。しかし、クラウドさん…あなたはどうしてここに…?」 「ああ、この通りなんですがね、勤めの最中少々怪我をしてしまいましてね…」 クラウドが着ている衣服を取るとにまばらに包帯が痛々しく巻かれていた 「こんなひどい怪我…どこで…」 「いや、なんと言いますか一概に戦場ですかね、しかし、旦那よりかはマシですがね。旦那はどこで?」 「私は…その…しかし、戦争…ですか…こんな国まで」 女の子に抱きついたら大怪我しただなんて恥ずかしいことは言えない…と同時に 戦争への不快感も募る、当然後者の思いは強かった 「魔物の軍隊と皇国軍がこの国の近くで戦争しているんですよね」 リザナが割って入ってきた、なるほど…どこもかしこも戦争、時代は悲しいものだ、と私は思った 「へ、ああ、そんなところかな」 む?妙に歯切れが悪いが、私もその気持ちはわかる 軍部の情報はなるべく流したくないのだろう、もし違った別の意味だとしても…わからないでもない、か 「んじゃ、そういう訳なんで俺はもう行くぜ」 「行ってしまわれるのですか?もう少しゆっくりなされたほうが」 「お嬢ちゃん、気遣いは嬉しいが、俺は軍人だ。世話になったな」 ばさっと衣類を羽織ると、彼の男は木漏れ日のような日差しを背に教室を後にした 残るのはほんの一瞬の静寂、呆然と立ち尽くすリザナに私は言葉をかけてやる 「あの人はそういう人なのですよ、あの人は信念を持った軍人、男なのです」 私は背に背負うものの決意というものを、彼の勇姿を称えるかのように語った 「か、かっこいい…え、何ですか?」 「聞いてませんね…いや、何でもないです…」 そして翌日 「あああーーーーーー!!!」 「あああーーーーーー!!!ふっ、またお会いましたね」 「す、すみません…誰でしたっけ…」 ずこっ、思いっきりこける私たちの周囲、顔は覚えているのだが…私は思わず冷や汗をかいた 「マルメ=カイオですよ、ほら、結構前に冒険を共にしたではありませんか」 「ああ、お久しぶりですね。ということはここは…」 「…やれやれ、今になって場所?とは。というのはどんだけヘタレてるんですか…」 メガネをあげて私を皮肉る、私は困った表情をしながら自分の非を恥じた 「学術都市ウォンベリエ…本当にお久しぶりです、マルメさん」 「久しぶりですねぇ、で、あなたに伝言です、皇国12軍団第9軍団「超獣軍団」軍団長ヴァヴァ・ロア…」 多少性格の丸くなったマルメと出会った私は、成長の可能性を感じてその伝言の通りに目的地へと向かった 学園の入り口に差し掛かった所、ふと振り返れば、黒の少女、くろっちがいる 「くろっち君、名前はありますか?」 「……」 相変わらず、口数の無い魔物だ、一瞬私の話を聞いてくれていないのかと思ってしまう 「これからも長い付き合いとなりそうです、私にどうか、あなたを呼ばせてください」 しかし、これも無反応。もしや、この間の事を怒っているのでは…私としたことが… そんな事を考えてへこんでいると、くろっちは突然止まり 「…決めて」 と見上げて言った、その顔は感情の無い面持ちだが、どこか、光のある顔だった 「分かりました…では、"レア"、どうですか?」 「…ん」 目の前にある冒険、それはかけがえのない経験の向こうにあるもの 私は今こそ冒険をする事を心に決めた ジーザス=ツヴァルトの冒険2「新方向宣言救世主」終わり キャスト 皇国 ジーザス=ツヴァルト クラウド=ヘイズ ヴァヴァ=ロア(ちょい) 学術都市ウォンベリエ リザナ=ドーマ メルメ=カイオ 魔物一覧 くろっち(レア) 楽屋裏 ヴァヴァ=ロア「ウガー!(バカな!俺様の出番がこれだけだとぉ!?)」 レア「…(ぽんぽんと肩を叩く)