皇国軍の日常 悶絶変  どうも、皆さんこんばんわ。アリス=キャンシャサです。皇国で図書館の司書をやってます。 ええ、割と暇なお仕事です。でも楽しいですよ、本に囲まれた生活というのも。暇を潰せるも のがここにはいっぱいありますから。  ところで私、千里眼なんです。ええ、いろいろ見えちゃうんです。だから普段は呪文の掘ら れた包帯でセーブしてるんですが、今回ある人からの依頼でちょっと皇国軍の日常をあなたが たにお見せしたいと思います。あ、依頼主については聞かないでください。私にも守秘義務が ありますので。ただ、そうですね、そんなに悪い人ではありませんよ。ええ、多分。  それでは張り切っていってみましょう。まずは第一軍「空帝」からですね。団長はリスって 言うと怒るリスのテトラ・V・V・グランさんですね。そして副長が有翼人のゼッツ=アール ガラさん、通訳のゼッツさんですね。優秀な部下を持てるってすごいですよね、うらやましい です。  さて、彼らは普段は皇都の外を哨戒していますね。空を飛べるからもってこいです。あれ、 でもおかしいですな。今彼らは外の丘でなにやら集合していますね。しかもなんか、団長さん 怒ってますよ。悪口言われたんでしょうかね? 少しクローズアップしてみましょう。 「キキー!キー!キーキキーキーキャーーーー!」  ああこれはすごい、すごい怒ってます。副長さんの肩の上でおもいっきりジタバタ地団駄踏 んでます。おっと、今度は副長さんの髪の毛引っ張ったと思ったら、ほっぺたつねってますよ。 これは痛そうですね。 「いっひゃいはれがおれはまの……うまくはへへらいほへはなしへふはははい、わはひょう」 「キッ……」  あ、グランちゃんションボリしてます。少し反省しているみたいですね。かわいいですね〜。 「えー気を取り直しまして……」  コホンと一呼吸置いて仕切りなおし、ですね。しかしこの副長さんも苦労と生傷が耐えませ んね。ほら、よく見ると頬に引っ掻き傷がいっぱいですよ。え、見えない?それは失礼しまし た。 「隊長が大事に大事に大事ーに、それこそ去年の秋から大事にしていた――」  部下の皆さん、すごい静かに見守ってますね。ちなみにガーゴイルとかグリフォン、ホーク マンとか、有翼形の種族の方が多いみたいですね。ドラゴンとかは、あんまりいないみたいで すね。あ、副長さんが大きく息を吸いました。 「誰が隊長の大事の取っていたクルミを食ったのか、正直に答えなさい!」  これには呆気にとられたのか、部下の皆さんずっこけてますね。実は私もこけました。椅子 の上から盛大に。おかげでおしりがとても痛いです。しかし、やはりリスというべきか、それ ともしょせんリスというべきか、大いに悩みますね。嘘です、私なら後者を選びます。 「キキキキキキーーー!」  あーまた副長さんのほっぺた引っ掻いてますよ。ホント大人気ないですね〜この団長さんは。 「素直に申し出るなら水に流してやる。だが黙っているようなら、俺も容赦しないぞ。貴様ら まとめてあのクソッタレな攻速のドラゴン共の餌にしてやるから覚悟しやがれ……とのことだ。 さあ、素直に白状しろ。それと我が将、痛いです。自重してください」 「キーキーキーキキキキーーーーー!」 「アダダダダダダダだ!我が将!落ち着いてください!」  あーあーあー、ついに噛み付き始めましたよ。まるでハンカチに噛み付くおばさんみたいで すよ。みっともない。兵士の皆さん置いてけぼりですよ。これはひどい。  ところでやはり空帝の皆さん、やっぱり職種がかぶるから攻速の皆さんとは仲が悪いんでし ょうか。片や有翼種、片や竜種。考えてみれば縄張り争いするような関係ですよね。では、次 は第二軍団「攻速」に行ってみましょう。団長はジェレミー=C=ハインライン、いわゆる色 男ってやつですね。奥さんはいますが子供がいないんですよね。セックスレス、もしくは不能 なんでしょうか。でもこんないい男が不能ってことはたぶんないですよ。むしろガハハとか言 いながら強制和姦とかさせそうな感じですよね。あー私も一度でいいから、こういういい男の 人に抱かれてみたいですよ。そういうものじゃないですか、女っていう種族は。  っと、話が逸れてしまいましたね。それでは攻速の皆さんに、ちゅうも〜く。 「まあまあいいじゃないか、減るものでもなし」 「ああ、いけません将軍様。私は一介のドラゴン調教師。あなたのような身分の人とそのよう なことは……」  さっそくやってますよこの色男は。竜舎の隅でかわいこちゃんといちゃいちゃしてますよ。 ちなみにほかの兵士の皆さんは外で兵士の世話してますね。ここに今いるのは、団長さんと調 教師の女の子、あとは残ってるドラゴンたちくらいですね。うらやましいなんてこれっぽっち も思ってませんよ、ええ。 「よいではないか、見ているのはドラゴンたちばかり。むしろ見せ付けてやろうじゃないか。 彼らもそろそろそういう時期だろうし、ここはひとつ先達が見本を見せても悪くはないだろう よ」 「ああ、いけません将軍様。いくらなんでもそれは刺激が強すぎます。それに、できれば飼葉 の上ではなく、ベッドの中で……」 「ははは、その気になったようだね。ではさっそく皇国有数の名門ホテルにスイートの予約を せねばな。それと、君に似合うドレスも探してあげよう。なに、私の見立てたドレスを着たお 嬢様方は皆、一流のレディーに大変身さ。もちろん、私が隅々まで手ほどきをしたからだがね」  あ、今この人、フフンとか鼻を鳴らして笑いましたよ。なんてイケメンでしょう。そそられ ますわぁ、いろいろと。 「さあ、善は急げだ。部下達は適当に訓練させていればよいだろう。なぁに、私より優秀な副 官がいるからな。私は上で適当に威張り散らしていればいいだけなのだよ。軍を動かすのは楽 でいいな、ハハ――」  調教師の人の肩を抱いて裏口から出て行こうとしたところで、なんかドアから足が生えてき て、ジェレミーさんの顔面ぶっ飛ばしましたよ。正確にはドアを蹴破ったんですけどね、その 人が。ええ、皆さんお察しのとおり、副官さんですよ。この人もすごいおっぱいですよね。う らやましいなんてこれっぽっちも思ってませんよ、ええ。 「ぐは、は、鼻が、私の美しい鼻が!」 「じゃかましいわ万年発情男。少しはその元気を義母さんに分けてあげなよ」 「ぐぬぬ、誰かと思えば私がわざわざ中央部に追っ払っておいたクラースナと書いて養女と呼 ぶ、ではないか。紳士の嗜みを邪魔するのは少々思慮に欠けてると思うが、どうだろうかお嬢 さん」 「は、はぁ」  なんなんでしょうねこの人たち。どっちもどっちですね。調教師さんはどう答えていいかわ からないって感じでしどろもどろしてますね。と、そんなこんなしてる間に、ドアをバキバキ とへし折って副官さんが入ってきましたよ。なんというか、かなり野蛮ですね。 「ガタガタうるさいよ。いいかげんそのチンコを切り取ってソテーにでもして犬に食わしてや ろうか? それともそのチンコ蹴っ飛ばして股座を陥没させてやろうか? それがいやなら、 さっさとチンコしまって仕事に戻れ」 「チンコチンコうるさいぞ、はしたない。そんなに欲求不満なのか。大体お前がいるせいで私 の一物がちゃんと機能しないんだよ。私の子供が増えれば皇国はあと百年戦えるぞ。大局を見 るべきだよクラースナ。君は思慮が足りない」 「そういうおめぇは節操がないんだよこのチンコ野郎!」 「待て! たとえ養女とはいえ立場は副官なのだから、せめて呼ぶときは後ろに将軍をつけな ければいかんぞ! そうでなくては周りに示しがつかん!」 「うるせぇばか! このデカマラ将軍! 神記の坊主どもに頼んで不能にするか煩悩捨てさせ んぞ!?」  熱くなってますね二人とも。調教師さん完全に蚊帳の外ですよ。という、チンコとかマーラ とかミジャグジとかうるさいですよ。え、後半違う?  えーさて、このまま見ててもチンコマンコうるさそうなのでこの辺にしときますか。このま まじゃお股がジュンッときちゃう、わけありませんが精神衛生上よろしくないですし。しかし 千里眼をここまで続けるとさすがに疲れちゃいますね。次の第三軍団「神記」でおしまいにし ましょうか。もっと見たいと思うなら、これで終わりにして私を休ませてください。  彼らの団長はエレム=P=エルンドラード 、なんかよくわかんない子です。浮世離れしすぎ というか、きれいすぎるというか、なんというかおとぎ話の登場人物みたいなんですよね。お まけに彼女と副官っぽい立ち位置のスフィア=シーデルジルト以外は女の人がいないんですよ。 部下はぜーんぶ、まるっぱげのお坊さんばっかり。こらそこ、チンコ出して変な妄想しない。 でもあの人たち、みんな俺参上って感じのトンガリコーンなフードかぶってるんで本当に禿か どうかはわかんないですけどね。だからそこ、チンコしまえ、寝れ。おっと、これは失礼。そ れじゃあ、彼らのいる寺院に、千里眼でズームイン。  はい、寺院です。お坊さんと混じってエレムさんがお祈りしてますね。正直に言います。む さいです、むさくるしいです、おまけに魔力圧力が強いので千里眼続けるのが辛いです。 「団長、ちょっとお話が」  お祈りしてるエレムさんにスフィアさんが声をかけました。でもエレムさんは何かぶつぶつ 言いながらお祈り続けてます。でもスフィアさん、特に意に介さずそのまま話し続けます。し かしこの人、すごい不健康そうな顔してますね。目の下にクマなんか作っちゃってるし、頬な んかこけてるし、生気がぜんぜん感じられませんね。 「市民から苦情がきてますよ。雰囲気が怖くて寺院に参拝できないそうです」 「……わかりました。ではこれから隠し芸大会を行います」 「ええええええええええ!」  ああ、お坊さんたち総立ちです。なんというトンガリコーンの群れ、壮観ですね。で、そん なこんなでエレムさんが振り返りました。 「髪の御遺志です」 「なぜ神じゃないんですか神童様!?」 「というか遺志ってなんですかエレム様! 不吉すぎますよ!」 「うろたえるなお前たち! 我らが神童は、我々の緊張をほぐそうとしてダジャレを仰ったの だ! その御心に感謝せよ!」  堂内から一斉に喝采と拍手が溢れかえりました。なんなんですかこれは。悪い夢ですか? 「さすが我らが神童! なんという慈しみ! 感服いたしました!」 「……泣いてもいいですか?」 「どうぞ」  ちょっとスフィアさんなに言ってるんですか。とか言ってる間にエレムさんも泣き出してる し、それを見てお坊さんたち大慌てであたふたし始めちゃいましたよ。 「なんということだ! 神童様が泣いておられる!」 「なぜなのですかエレム様! 我々にどんな落ち度があったというのですか!?」 「うろたえるなお前たち! 我らが神童はただ喜ぶばかりの我らの姿を見て泣いておられるの だ! 深く自省せよ!」  今度はお坊さんたちも一斉に泣き始めちゃいましたよ。あれですか、これが狂信者ってやつ ですか。 「……今度はどうしましょう」 「笑ってはどうでしょう。ところで嘘泣きだったのですか」 「いえ、それなりに本気で泣いてました」 「そうですか。理由は聞きません」 「ありがとう」  そういってエレムさんが満面の笑みを浮かべました。今度はお坊さんたちも大喜び。なんと いうか、みんなのアイドルですね、エレムさん。 「おお! 神童様が笑われた! まさに女神の如き笑みだ!」 「さすがはエレム様だ! その笑みならばあの西国の魔女も平伏せざるを得ないだろう!」 「うろたえるなお前たち! 我らが神童の笑みはすなわち福音の笑み! さあ、我々も続いて 高らかと笑うのだ!」 うわ、今度は大声で皆さん笑い始めましたよ。誰か助けて〜、もういや〜。 「……怒っていいですか?」 「どうぞお好きなように」 「ありがとう。スフィアさんは優しくて好きです」 「そうですか、ありがとうございます」 ぷくーっとほっぺた膨らませてエレムさんが怒りました。ころころ表情が変わって面白いです ね、なんていうわけないでしょう。この二人なんなんですか。おかしいですよまったく。開い た口がふさがりません。  で、お坊さんたちはというと、皆さん大慌てです。まるで統制を崩されたアリの群れみたい です。ところで私、アリって大嫌いです。パンツの中に入っておしり噛まれたんです。あの時 は痛かった。だから私のパンツはクマさんじゃないですってば。 「ああ! 神童様がお怒りになられている! なんということだ! 我らに天罰が下るという のか!?」 「なぜですかエレム様! 我々にいかな罪があるというのですか!? 神の名に誓って我らは 潔癖でございます!」 「うろたえるなお前たち! 我らが神童はこの皇国を脅かす、蛮族の異教徒どもにお怒りにな られているのだ! 今こそ我らの威光を示すときが来た! 皆の者続けー!」  堰の崩れた濁流のように皆さん一斉に走り出しちゃいました。ホント、おめでたい人たちで すね。頭が痛くなってきました。そんなこんなで、残ったのはエレムさんとスフィアさんの二 人だけとなってしまいました。さて、取り残された二人はどうするんでしょうね。 「……散歩に行きましょうか」 「そうですね」 「近くに、おいしいケーキのお店ができたんです。一緒にお茶にしませんか?」 「では、お言葉に甘えて」  ここだけ微笑ましいですね、ホント。頭の中お花畑なんじゃないですか、この二人。もうい やだ、ついていけない。私の理解の範疇を超えています。やってられません。帰ります。  ふぅ、今回はこんなところですね。さすがにここまで千里眼を使ったのは久しぶりです。お かげで目が痛いです。頭も痛いですが。まったく、こんな仕事請けるんじゃなかった。でもこ うしないとお家賃払えないし、背に腹は変えられませんよね。でもいやだなぁ、こんなノリが あと9個も残ってると思うと、すごくやりきれないです。  ん、なんか手紙が落ちてありますね。おかしいな、気配はしなかったのに。えーとなになに。 「軍団調査が終わったら、次は皇帝や周りの重臣、できたら秘匿された巫女姫も探ってくれ。 その分、報酬は弾むぜ。もちろんやるやらないは自由、予定は未定ってやつだ。判断は任せる。 まあ、お前ならやってくれると信じてるぜ」  いやぁ、そんなおだてても何も出ませんよ。まったく子供じゃあるまいし。こんな言葉ひと つでやる気を出すなんて愚の骨頂ですね。あはははははは……こらそこ、私は喜んでなんてい ませんよ。ええこれっぽっちも、欠片も、雀の涙ほどもです。当たり前じゃないですか。  さて、それじゃ報酬のために、もう少しがんばりますか。ん、まだ続きがありますね。 「PS.カッとなってやった、反省している。だが俺は謝らない。むしろウェルカムです」  急にいらんことしゃべりはじめた? 急や。  それじゃ皆さん、また機会があったらそのときはよろしくお願いします。  アリス=キンシャサでした。 ホントのあとがき 個人的にはクマさんパンツより水玉パンツのほうが好きです。 スジはもっと好きです。