皇国の日常2 地獄変  どうも皆さん、お久しぶりです。アリス・キンシャサです。え、知らない? 失礼な人です ね、こんなきれいなお姉さんを知らないなんて。お姉さんって歳じゃない? これは失礼しま した。  さてさて、またこうして皆様に皇国の内情をお知らせするお仕事をしているわけなんですけ ど、こんなことして誰が得するんでしょうね? 私はお金もらえて得しますけど。こんなこと 勘ぐってもいいことありませんね、さっさとお仕事しちゃいましょう。  まず今回一人目は第四軍団「死鋼」、団長はブラックバーン=アーム。というかこの人だけ なんですけどね。すごいですよねこの人、小アルカナとはいえあの魔同盟の一人を従えてるん ですから。ザーフリドでしたっけ、あの鎧。ところでなんで剣のアルカナなのに鎧な んでしょうね、不思議ですよね〜。え、そんなことない?  さて、わたしが千里眼なのは皆さん知ってるかと思うんですが、それでも私が探せる場所は 限定されます。それは『見える範囲で』ということです。いってる意味がよくわからないとい う人のために説明しますとですね、皆さんも窓のない部屋の中を、外から見ることができない でしょう? 私もそこは同じなんですよ。魔法の結界にせよ物理的に閉じ込めたにせよ、見ら れる隙間がないものは見られないんです。  なにが言いたいかっていうとですね……見つからないんです。ええ、ごめんなさい。これば っかりはどうしようもないんです。私だって人間なんです。無理なものは無理なんです。  あれ、また手紙が落ちてる。やっぱり防犯用に何か動物飼おうかしら。というわけでお便り 募集中です。えーさてさて手紙の中身はっと…… 「これ以上は命がないと思え BB」  ……イヤー私も有名になったものですねぇ。こんなファンレターをいただけるだなんて、ハ ハハハハ。こんなので手を引く私と思ったら大間違いですよ。次こそ絶対見つけちゃる、覚え てやがれ。っと、少し地が出てしまいました、申し訳ありません。  では気を取り直して追いかけてみましょう。今なら結界の外ですからね、間違いなく見つけ られるはずですよ。ええそうですともそうに決まってますそうに違いないです!  お、いましたいましたよ! あんなところにいました! ななななんと皇都の外、今は使わ れていない王城です。確かあれは、今から十代くらい前の皇帝が使っていたお城ですね。確か にあそこなら、隠れ家としてはうってつけですね。あれ、そういえばあのお城、最近幽霊騒ぎ で立ち入り禁止だったような……ははぁんなるほどなるほど、そういうことでしたか。これは いいネタになりそうで―― 「これ以上はと、伝えたはずだぞ」  あれれ、おかしいな。なんか頭に声が響きますよ。いけませんね空耳でしょうか? 「とぼけるのはやめろ」  うわ、マジですか。空耳じゃありません、なんと私はあのブラックバーン将軍と念で会話し ていますよ。私そんな技能ありましたっけ? 「引き伸ばしても無駄だ。即刻引かねば、こちらも用意はできているぞ」  ちっ、バレてちゃしょうがありませんね。わかりました、今回はこちらの負けです。先方に もそう伝えておきます。 「そうしろ。ああ、それとだな」  なんですか、もう私は降参って言ったじゃないですか。それともなんですか、やっぱりお前 を殺すって言うことですか。 「幽霊騒ぎに私は関わっていないし、ここは私の寝床ではない。それだけだ」  え、それってどういうことですか。ってもう交信切れちゃったし! ふざけんじゃねぇこの こんちくしょう! ……オホホ、これは失礼しました。  えーと次は……うえ、第五軍団「悪壊」ですね。団長はゲイル=アンバーサナー、巨人さん です。私この人大嫌いなんですよ、お酒臭いし、ガサツだし、うるさいし、なによりこの前、 転んで図書館半壊させたんですよ! もう信じられない、と思いましたよ。なんでこんなおバ カな将軍がいるのかと、我が目を疑いましたよ。おかげで古かった図書館を改築できたのはよ かったですけど、それを差し引いてもこりゃないわって感じです。  彼ら悪壊の巨人の皆さん――といっても小さい人もいますが――は酒場に入り浸ってます。 ちなみに普通の酒場じゃありません、彼ら巨人族の皆さんのために、特別に郊外に造られた酒 場なんです。というのもですね、この団長さんがですね…… 「ウォーイ!もっと酒もってこぉーーーい!」  アルコール中毒、略してアル中なんですよ。なんか知らないんですけど、その大きい図体と 違ってすさまじくナイーブな方でして、お酒がないと戦うことも人前に出ることもできないん です。よくこんな人が将軍になれましたね、いやホント。でもこの人、片目が水晶の義眼だか ら、たぶんそのときに何かあったんでしょうね。想像の範疇は超えませんが。 「さすがに飲みすぎだど……」 「そうですよー。この前もハインラインさんとイライザさんに怒られたじゃないですか」 「うるへぇーーー! おめぇら俺の言うことが聞けねぇのくぁーーーー!!」  あれはトロールのエオルグさんと、サイクロプスのリディアちゃんですね。この二人も苦労 してますよね。エオルグさんはともかく、リディアちゃんは胃に穴開いてそうですね。しかし ここまで荒れてる団長さんも珍しいですね。え? 普段からこうじゃないのかって。そんなこ とだったら今頃内部抗争起きてますって。 「で、団長。いったいなにがあったんです? またお給料量減らされたんですか?」 「おで、それはぢがうどおもう」 「おめぇらに俺のなにがわかるってんだぁ〜〜〜」  うわ、泣きながらうずくまりましたよ。すごく、カッコ悪いです。でもここまで打ちひしが れてるのは、はじめてかもしめませんね。というより、毎度こうだとやってられないと思いま すよ、さすがに。 「リリちゃんが男と話してたんだよぉーーーーー!!」 「……だで?」 「団長が夢中の花屋の女の子。あんなののどこがいいんだか……」  そういえば聞いたことがあります。この団長さん、確か中央通の花屋の娘にご執心らしいで す。ちなみに結構かわいい娘でしたよ。なんで知ってるかって? 私だってお花くらい買いま すよ、当たり前じゃないですか。 「うおおおおおおおお!! リリちゃんに男ができてたなんてぇーーーーーー!!」 「話してただけよくそこまで想像できるものね、ホント」 「リリっで、うまいのが?」 「おろろろろーーーーん! 俺の繊細な心を誰か理解してくれ〜〜!」  上も上なら下も下ってことでしょうか。これ以上男の涙とか見たくないのでこの辺で切り上 げましょう。それでは離脱。  なんでしょうか。正直な感想をいっていいですか? まともな人、一人もいませんね。一部 人じゃないですけど。しかし困りましたね。次は第六軍団「瞬閃」、あえて言います、あえて 言いますよ?  ……どこの独立愚連隊だよ! では早速いってみましょう! 百聞は一見にしかず!  はいやってきました皇国南部の大草原! 彼らの駐屯地――というか遊び場?――がここで す! 彼らの構成人員のほとんどは団長のロロとかいう箱被った全裸娘がぶったおして連れて きたモンスターばかりです! どこが軍だよ! ただのボス猿とその部下じゃないですか!  ……まあ、なんか意味があるんでしょうね、ええ。お上の考えることは市井の人間にはわか りませんよ。 「う〜〜……」  寝てますね、全裸娘が魔物に囲まれて。魔物が主力の軍は超獣もありますが、あれは明確に 獣、獣人型ばかりで構成されていますが、ここはなんというかごった煮の闇鍋です。なんでも ありです。ジェラートグミとかすごい戦力にならなそうなのもいますからねぇ。とはいえ、皇 帝お抱えの道化師が連れてきた変な戦力だから無碍にもできないんだと思いますよ。相手の顔 を立てつつ監視しているんでしょうね、やはり。 「……う〜?」  あれ、起き上がりましたね。お昼寝は終わりなのでしょうか? って、なんでしょう。すご いこっち見てるんですけど。 「う〜〜〜〜〜……」  ちょっと、勘弁してくださいよ。まさか本当に見えてるんですか? 「……うぅ」  また寝ました。たぶん勘違いですね。ええ、見えてるなんてありえない話ですよ。おとぎ話 じゃあるまいし、そんなことが現実に―― 「……うっ!」  うわ、また起きた! やっぱこっち見てる! マジですかマジなのですか!? 「う〜〜〜〜〜!!」  ……あさっての方向に走り去っていきました。なんだったんでしょうねいったい。いえ、別 に驚いてなんかいませんよ、ええ、当たり前じゃないですか、常識的に考えてあんなの驚くほ どじゃないですよ。だから驚いていませんってば! 「……ヴオ〜〜〜〜〜!」  って、ほかの魔物も全裸箱娘を追いかけていきましたね。ボスについていくだけ従順でいい ですね、ええ。ちなみに褒めてません。 「……あれ、団長は?」  なんか男の子が一人置き去りになっていますが、たぶん無害です。名前はシャクト=ノート でしたっけか。唯一の人間の部下ですね。  すごい疲れたのでここでカットします。別にやる気がないとかじゃないですからね、勘違い しないでくださいよ。  あー、というわけで今回は第四軍から第六軍までとなりましたわけで、今度は第七軍から第 九軍までとなります。しかし楽な仕事でいいですね〜、千里眼の疲労を差し引いたとしても楽 チンで懐ホクホクでウハウハですよ。  あ、また手紙だ。またあのバケツ兜でしょうか。いやですね〜私のファンなんでしょうか? 「パスティムはうれしくなると、ついヤッちゃうんだ☆」  なんですかこれ? ってボハァ! 手紙が爆発した! うわ、これコショウだ! 目が、目 がしみるぅーーーー!  そ、それでは皆さんまた今度ウゲホッゲホッ!! 目が痛いぃいいいいい!! あとがき かぼちゃパンツっていいよね。 あと、軍団名はビフォアゼロの表記に準拠してます。