■極東SS■ 『舞え、舞え、画龍』その参 登場人物 頼片 蓬莱(ヨリヒラ ホウライ) ・三味線弾き ・ダメセクハラオヤジ http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/669.html 霜舟(ソウシュウ) ・墨絵描き ・いい女 http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/1440.html ----------------------------------------------------------- 「おい霜の字、いくらなんでもそりゃあ、やりすぎなんじゃあねぇかい?」 股間を押さえたまま蹲っている蓬莱を、更に二度三度と蹴りつける霜舟を見て たまらず捕方が声をかける。 観衆達は今まで見た事の無い霜舟の狼藉振りに呆気に取られている。 子供達は「やさしいおねえさん」の豹変振りに大泣きし 男達は「いい体のお嬢」の凶暴ぶりに、金玉が縮み上がる思い… …どんな女も、鬼のような顔を持っているものだ。 芸を披露していた時よりもむしろ、取り巻きは増えている。             ごすっ 側頭部にいいのが入った蓬莱は、もうぐうの音もあげる事ができず 失神した。死体の如くごろりと横たわる蓬莱…。 「…こりゃあ、やべぇんじゃねぇのか?」 「息はしてらぁね。いいから放っといとくれよ。」 と、吐き捨てると、霜舟は白目を剥いている蓬莱の片手を引っつかみ 脱力した中年親父の体をずるずると引き摺って「高間座」に向けて歩いてゆく。 その足取りはとてもとても力強く、捕方もそこで追うのを止めてしまった。 「高間座」は帝都の中でも一番に大きな芝居小屋である。 我々の世界で言うならば「電通四季劇場」だとか「新国立劇場」だとか… そんな大劇場を想像していただければよろしい。 放覩(ほつま)中から選りすぐりの役者が集まり、人情話から時代物 ドタバタ喜劇まで、約一ヶ月単位のペースで演目が変わる。 余談。 様々な魔法が人々の生活に馴染んでいるこの世界ではあるが とはいえそれを娯楽に使おうというものはそれほどいない。 特にこの極東の地にあっては、天の神たる「放覩真」の口が父への呪詛を吐き出し島を穢した という国作りの昔話にあるように「呪(まじない)」を元とした魔法が中心である。 「呪」は、大陸の魔術のように体系化されてはおらず、一般の人々に扱えるような、理解できるような 代物ではない。 さてこれを芸術の分野に当てはめて考えてみよう。 大陸魔術においては外見複製や遠見の術は、ある程度の素養と教育があれば 誰にでも(といっても「素養のある人間ならば」だが)可能な事である。 となれば近い将来「芸術の複製」(美術品の模造、芝居や音楽をどこでも閲覧可能…など) が行われるようになってもおかしくは無い。 複製「された」芸術作品においては、その作品の持つ「神聖性」は限りなく貶められ… そして「人を集める力」が薄れていく事となる。 大陸に関しては芝居小屋が消え失せるその日はさして遠くないのである。 しかしこの極東放覩は地形の性質上、外界との交流がとても少ない場所である。 であるからして「高間座」はこれからしばらく先まで、「神聖性」を失うことなく 人を惹きつける場所でありつづけるだろう。 余談終わり。 という訳で、放覩じゅうから選りすぐりの役者が集まる、のであれば 当然、放覩じゅうからたくさんの観客が押し寄せる、訳だ。 そのたくさんの観客達の中には当然、「高間原」で宿を取りたくないと思うものも いる。(なにせ治安はよくても喧しい街であるので…あと、いかがわしい宿がほとんどなので。) そんな彼らのために設けられているのが座付きの駕籠屋である。 一人の場合には人間の駕籠かきが、複数の場合には鬼の駕籠かきが その俊足を用いて目的地まで連れて行ってくれるのだ。 ただし意外と料金は高い。 霜舟はそれを使おうというのだ。 先程貰った見物代を使って二人乗りの駕籠(「剛力駕籠」などと呼ばれる)を借りる。 結局見物代はほとんど吹き飛んでしまったが…。 その怒りからか蓬莱を駕籠に蹴りいれると「むぅん…。」と情けない親父声が漏れる。 蓬莱を足蹴にする様子は駕籠かき人足の鬼達を怖がらせるには充分だった。 「牛喰横山の『神号屋敷』まで行っとくれな。」 「へい!」 鬼達の心持の違いなのか、今日はえらく進みが速い。 揺れる駕籠の中で蓬莱は座らない首をガクガクと揺らしながら、呆けた顔で涎を垂らしている。 …嗚呼、五年前に戻って、あたしを叱ってやりたい… 己の愚行を思い出し、頭を抱える霜舟であった。 --------------------------------------------------------------------------- --------------------------------------------------------------------------- …さてさて 男と女の仲などというものは、何時の時代、何処の世界にあっても予想の付かぬ ものである、というのは賢明なるとしあき諸兄ならご承知の事と思う。 もちろんこの極東の地、放覩の隅野川のほとり、浮草村においても例外ではない。 …例外ではないのである。 さて『その壱」に記した蓬莱の略歴をお読みいただければ解るとおり このダメオヤジは約三十年間世界各地を放浪してきた、筋金入りのフリーダムオヤジである。 (ちなみに数え年で四十二、満年齢で言えば四十。) その間、度々ふらっと極東に戻ってきてはまた二日と経たぬ内にどこかへ旅立っていったのだ。 その「ふらっと戻ってきた」期間を総合すると約一年半。 その一年半の期間の内、やたら長く浮草村に滞在していた時期があった。 約二ヶ月。 五年前の事。 霜舟、当時十六歳。ダメオヤジ、当時三十五歳。 約三年の間を空けて浮草村に戻ってきた蓬莱を村中の皆が歓迎した。 親友の為吉、杖を突きながらやってきたのは平蔵翁、カカアに小突かれている吉佐 真昼間だと言うのにに酩酊状態の留造のとっつぁん。そしてかけてきたお沙世を追い抜いて 真っ先に蓬莱に飛びついてきたのは、お霜…後の霜舟である。 今や人前で股間を掻き毟ろうとも平気の平左な蓬莱であるが、この辺りまでは まだ小奇麗な格好をしていたし、世界中を又にかけるうちに身に付いた… ワイルドな、と言えばよいだろうか…雰囲気が、男前オーラを醸し出していたのだ。 しかも音楽を交えて語る蓬莱の冒険譚は、村の者達に大人気であった。 ろくな娯楽も無く(※芸の修行は、決して娯楽にはならぬ)毎日の生活に追われる 浮草村の人々にとっては、蓬莱の話は外界へ夢を馳せる夢心地のひと時だった。 さて、そんなカッコよくて面白い「又兄ぃ」(おじ、とは呼ばせない)は村の女達にも色んな意味で大人気であった。 なにせほとんどは餓鬼か老人か所帯持ちであるし、身奇麗な格好をしている男なんぞ一人もいやしねぇ のが浮草村なのだ。 泊り込んだ先の家のカカァに夜這いをかけられたのも一度や二度ではない。 …さてここで問題だが、夜這いをかけられて、蓬莱はどうしたでしょう? …据え膳は食ってしまうのである。 …浮草の村の子達には似た顔の者が何人かいるらしい。余談。 -------------------------------------------------------------------------------- さて、村の衆の前での語り聞かせを終えた夜。 浴びるほどに酒を飲んで皆が酔いつぶれたのを見計らって、一人隅野の河原へ出かける蓬莱。 酔い覚ましの意味もあろう、が、それよりも彼は毎日の稽古を欠かしたことが無いのだ。 ここらへんの直向さが女に好かれる要因かも知れんなぁ… と、そこへ後をつけたらしいお霜がやってきた。 料理やら酒の準備に追われていた女衆であったが、向こうは向こうで飲んでいたらしい。 お霜は十五から酒を飲んではいるが、元々強いほうではないし、今日の宴の雰囲気に呑まれて 少々飲みすぎたらしい。足元が覚束ない。 「おめぇ、飲んだな?あんま深酒するもんじゃねぇぞ。体に障る。」 「いいじゃないのさぁ、又兄ぃだっていつも底なしで飲んでるのにぃ。  留造のとっつぁんも言ってたよ『飲めるヤツの方が人生得する』ってさ。」 ふらつく足で蓬莱の右隣にどかっと座る。 「そりゃあおめぇ男に限った話よ。酒で底なしのヤツぁあっちも底なしだっていうからなぁ?」 「いやだ、もう、又兄ぃは口を開くと助平な事ばっかり!」 あはは、と笑い声が夜の河原に響く。 穏やかな隅野の流れ、澄み切った水は三つ子月の明かりを揺らめかせる。 秋の始まり、りぃりぃと鳴く虫達の声、程よく涼しい風… 「ねぇ又兄ぃ、一曲弾いて。」 「なにがいい?」 「う〜ん…男と女の、唄がいいかな。」 急にニヤニヤし始める蓬莱。 「おお?なんだ、惚れた男でも出来たか?為の所の春蔵か?それとも徳次郎か?  繁蔵…は、ちと鼻が低すぎるか…」 「…いいから。」 これはおかしい。普段なら下世話な冗談に顔を真っ赤にして怒るお霜なのに… これはもしかすると、もしかするのか!?じゅるり。 …と思いつつも、蓬莱は残された最後の理性で自らを押し留める。 『女は二十歳を過ぎてから』これが彼のポリシーであり、性癖なのだ。 まぁとしあき諸兄と筆者からすれば死ねよクソが、という感じではあるが。 「おお。じゃあ…。」 座り直すふりをして、少しお霜から離れる蓬莱。 しかし おいつかれてしまった ! お霜の体は十六とは思えぬほどに早熟であり、それでいて少し幼さの残った顔は もう男の心を捉えて離さないのである。 事実、村に戻ってきていの一番に抱きつかれた時、なんとも言えぬ女の香りを 発するようになったお霜の体に、女日照りだった蓬莱の情欲は刺激されてしまったのだ。 しかし、彼は堪えた!なんせ自分は浮草の身! 行きずりの女以外は相手にしちゃあならんのだ! 偉い!偉いぞ蓬莱! 「極東の 隅野のほとりの隅の隅 世にも艶やき 花の咲きける」 「お代は聞いてのお帰り…。」 「蓬莱ノ四十八番『蓬蕾節』」 ぺん…ぺん…と、悲しげだが力強いメロディ。 思い人と二度と会うことなく終わった天女の唄。 さぁっとふいた秋風が蓬莱の昂ぶった気持ちを抑えてくれた。 これで過ちを犯す事もあるまいと思ったら大間違い! 今度はお霜の「体を預ける」攻撃だ! よくあるだろう!公共交通機関とかで隣の彼氏に女の子がやってるヤツ! または酔っ払った女の子が隣の不幸な男にかますヤツ! これをくらった男は75%の確率で気持ちが揺れ動いてしまうのだ! さて我らが蓬莱はどうなったか。 演奏の手が止まる。酒で火照ったお霜の体、熱い吐息。 眼を瞑って、いつも以上に艶っぽい。 とどめはふわりと広がる髪の香りだ。 愛用の三味線『舞姫』を放り出して、熱い抱擁。 もうこうなれば中年に差し掛かる男の情欲は止まらない。 手馴れた手つきで胸元をはだけさせてやると、酒に火照って真白な肌が桃色に 変わっている。うっすらと滲む汗は、お霜の早熟な肉体を、よりみずみずしく見せた。 まるで薄絹を扱うように繊細に乳房を愛撫してやる。 「あ…恥ずかしいよう、又兄ぃ…」 その口を塞ぐようにして、熱い接p    ※  以  下  省  略  ※ …ついには我を忘れて嬌声を発し、蓬莱の首へ腕を巻きつけ 汗を滲ませながら激しく動き始めた。 〜続く〜