■極東SS■ 『舞え、舞え、画龍』その肆 登場人物 頼片 蓬莱(ヨリヒラ ホウライ) ・三味線弾き ・ダメセクハラロリコンオヤジ http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/669.html 霜舟(ソウシュウ) ・墨絵描き ・いい女 ・非処女 http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/1440.html ----------------------------------------------------------- さてさて我らがダメオヤジと霜舟を乗せた剛力駕籠は、高間原と外界を繋ぐ唯一の 橋「高間大橋」を越えて東へと進みつつある。 ちなみに遂に契ってしまった過去の二人がどうなったかと言うと そりゃあもう二ヶ月の間、盛りのついた犬のように交わいまくり… 深夜の井戸端から河原から藪の中、挙句の果てには妹のお沙世が寝息を立てている傍で… ってな感じではあったが、二ヶ月もすると浮草の性分か、蓬莱は また誰にも告げずにこっそりと村を抜け出し、短い蜜月は終りを告げたのでありました、まる ちなみにその年齢差は犯罪とかクズとか羨ましいとか、主に筆者から非難轟々な蓬莱ではあるが 極東は、十三から嫁ぐ事ができてしかも二十歳になると「ちょっと行き遅れたかなー」ぐらいの 感覚であるため、別段おかしな恋愛では(恋愛と呼べるのか?)ない。 契った女を捨てて出て行くというのは、まぁ言語道断ではあるけれど。 とはいえ、帝都に出て行くことが一人前の証ってな風潮のある 浮草の村ではありがちな話ではある。 というわけで、十九歳と言う歳の差を越えたラブは秋が終わりを告げる前に立ち消えになったのだが… 事はそう簡単に終わらなかった。 ---------------------------------------------------------- ちなみにこの高間大橋、大橋と言うだけあってそれはそれは巨大なものである。 なにせ高間原に集う遊びたい盛りの老若男女全てが、必ずこの橋を通らなければ 中に入れないのだから、その交通量も半端ではない。 横幅はお江戸日本橋のおよそ三倍、二十四メートル。長さは四十八メートル、こちらは お江戸日本橋よりも少し短いが。 どちらも十二の倍数、ホツマを作った偉い神様達の数が十二云々、という一応の事ゲン担ぎであるらしい。 しかし何よりも信じがたいのはこの橋の渡り初めをしたのが、かの天孫と「終 鼈甲」と言う事である。 それがどれほど信じがたいのか解りやすく言えば… 某陛下と某国女王が六本木ヒルズ(表参道ヒルズ、とかでもよい)の起工式に立ち会った …ぐらいのものである。 そこは前代弾右衛門の抜け目無いところで、まだ高間原が更地だった頃にこの橋を作ったので 渡っている本人達も、集まった観衆達も、この橋がどのような役割を担う事になるかなど 知る由も無かったのである…! 兎も角、異文化交流に熱心な終鼈甲はこの歓待をとても喜び それ故に未だ天孫と終鼈甲の交流は続いていると言う事である。 式の最中はそれはそれは大騒ぎだった、橋の両端を屈強な妖の戦士達と 衛宮一族(現東国騎士団の空角はまだ生まれてもいない)と直属の巫女達が守り 一般の観衆達からは一目たりとも二人の姿を見ることが出来なかったらしい。 しかしそれでもホツマの超重要人物、しかも片方は現人神と崇められる人物 を一目見ようと集まった人の数は凄まじく… 出来たばかりの堀はどこからともなく集まってきた舟で埋め尽くされ、橋の両端は黒山の人だかりであった。 ちなみに、この時終鼈甲の旗印をモチーフにした、砂糖を溶かしただけの簡単な飴が土産物として 飛ぶように売れた。故にそのような飴をホツマでは「鼈甲飴」と呼ぶようになったらしい。 余談。 ------------------------------------------------------------- 霜舟とダメオヤジを載せた駕籠が向かう「牛喰町」なる場所は、元は時の権力者が 同業種の職人達を集めた、職人町であった。 刀工・細工師・家具屋・反物屋から乾物屋まで様々な問屋の集まったこの町は 実は同時に役者や絵師、戯作者も集まる町なのである。 (芸事に通じるものも「職人」として扱われた。) そういった芸事で名を成した者達は、問屋の集まる大通りから少し離れた 場所に屋敷を構えている。 下男下女の代わりに身の回りの世話をするのはその道で食っていこうとする者達。 丁稚に近いと言えば近いが、例えば手代になったり、とランクアップがあるわけではないので 普通の商家よりも厳しい面はある。 こういった屋敷は、例えば役者なら屋号で「中村屋敷」などと呼ばれるが 絵師や戯作者の場合は一番有名な作品が通称に用いられる。 二人の向かう『神号屋敷』も然り。 主である戯作者「夜鼠」の代表作、架空の都市「帝都」を舞台にした時代物 『神号の計』に由来したものである。 『神号の計』はそれはそれは凄まじい売れ行きで、あまりに売れすぎて版元が過労死しただとか 版画職人が逃げ出しただとか、貸本屋が群がる客に潰されたといった噂がまことしやかに囁かれた 極東住人必携の書である。 元は大陸の出身だったという夜鼠の描き出す「帝都」は、極東ではまだ珍しい魔導機関や 恐らく庶民の眼に触れる事は無いであろう大陸の「魔法」をエッセンスとして取り入れつつも 義理人情、勧善懲悪といった極東に語り継がれる物語たちの骨子を残したものである。 また個々のキャラクター造詣が非常に魅力的で、特に物語中盤から登場する 「護影隊」の者達は、錦絵が出てしまうほどの超人気である。しかもそれが事実売れている。 役者なら兎も角、架空の人物までブロマイドにして売ってしまおうと言うのだから 商売と言うのは面白いものだ。 ちなみに現在も夜鼠はスピンアウト作品『護ル影』を執筆中である。 余談。 ------------------------------------------------------------- さて霜舟もこの屋敷に住み込みで修行をする者の一人である。 戯作者の下についた所で、絵の何を学べるのかと思うとしあきも多かろうが 実はこの神号屋敷の主は一人ではないのだ。 夜鼠の妻で、鹿山流本曲を受け継ぐ高名な尺八演奏家、「響(ひびき)」。 そして浮草の村を飛び出してきた霜舟に絵を教え込んだ、天孫の肖像画を描いた事もあるといわれる これまた高名な絵師「清周斎 華楽」 夜鼠を含めた三人の主とその門弟達が同居しているのだ。 三人が三人ともかなりの高収入に思えるだろうが、例え超有名作家であろうと リーマンより少し多い程度の収入しかもらえないのが極東で一般的なシステムである。 故に夜鼠の給料だと三人分が暮らしていける程度である。 普通の半分ほどしか取らない響の稽古代と、半年に一回くらい金持ち相手に華楽がふんだくる代金はその半分くらいが 雑務をこなしてくれる分そりゃあもうしっかりと飯を食う、住み込みの門弟達の胃袋に費やされている。 …というわけで屋敷とはいっても、巨大な大名屋敷のようなものではない。 未だ街中に残るような、武家屋敷とかを想像していただければよろしい。 駕籠から蓬莱を引き摺り出す霜舟。無造作に地面に転がす。 駕籠の揺れが金玉に響いたのか、若干苦しそうな顔つきをしている。 しかし仰向けに転がされながらも無意識の内に薄目を開け、着物から見える霜舟の生足を拝もうと… している所を二度、しっかりと踏みつけられた。 鬼の駕籠かきは風の如く消え去っていた。 「ただいま帰りましたー。」 門の前で霜舟が叫ぶと潜り戸から下男が一人。 「あ、姐さんお帰りな…」 下男の視線は死体の如く転がされている薄汚い風貌の男に注がれた。 「えっと・・・こいつぁ物盗りかなんかですかい?」 「あたしの客人だよ、取り敢えず井戸まで運んどいてくんな。」 「突き落とすので?」 「馬鹿、眼覚ましてやるんだよ。あたしゃ師匠達に事情説明してくるから、頼んだよ。」 とは言われたものの下男の吉蔵も大弱りである。 客人と言っているのだから丁重に扱うべきなんだろうけれども、どう見てもこの男が まともな人間とは思えない… もさもさのみすぼらしい髪に髭、人足よりも垢染みた服。 さらに彼を弱らせたのは、背中に括り付けられた三味線が、どう頑張っても離れない事だ。 紐で括り付けられてはいるのだが、紐を解いても何故だかこのみすぼらしいオヤジから離れない。 なんだか気持ち悪くなって、吉蔵は放っておく事にした。 「(いやあ、でも怒ってる姐さんも綺麗だなぁ…)」 今年で十八になる吉蔵は芸事の門弟ではなく、雑用の為に雇われている。 屋敷全体が働き場所なので、むしろ他の住み込みの者達よりも、屋敷の住人達を 知っていると言える。 勤め初めて二年、今まで会ったどんな門弟達よりも霜舟姐さんは才能があるし なによりも「(綺麗…)」だと吉蔵は感じている。 四十を越えた響様は円熟した美しさがあるけれども、霜舟姐さんは輝かんばかりの美しさと 瑞々しさがあるのだ。 そこへ霜舟が麗を連れて現れた。麗は子の無かった夜鼠夫婦が貰い受けた養女で どこか遠い村の出身だと聞いたことがある。 あまり外で遊ばない子で、一日中華楽の絵を眺めていたり、響の演奏を聴いていたり。 さらに口数少なくあまり話さないが、一度だけ唄を謡っているのを聞いたことがある。 一体何故麗を連れてきたのだ?と思うと同時に霜舟は井戸の水桶を引っつかみ 蓬莱に水をぶっ掛けた。 「ちょっと姐さん!三味線が!」 全く耳に入れず 「ほらさっさとおきゃあがれ、このすっとこどっこい!何時までも間抜け面晒してんじゃないよ!」 転がっている客人よりもびっくりしているのは吉蔵である。 「…ん、んあー……おお!?なんだここは、あの世か!?」 「寝惚けてんじゃあないよべらぼうめ!」 大量に水をぶっ掛けられたと言うのに、背の三味線は汚れ一つついていない。 一体あの男は何者だと言うのだろうか? 「吉蔵、ちょおっと外しといてくんな。」 「はぁ…。」 と言われたものの、あの男が何者なのかは興味津々の吉蔵である。 こっそりと壁の陰に隠れて様子を見る。            ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「ほら、麗。あんたの お と っ つ ぁ ん だよ。」 「「 へ っ ! ? 」」 間抜けな声が重なった。 〜続く〜 ------------------------------------------------------------- ゲスト 『蟷螂髑髏』の皆さん http://www3.pf-x.net/~tei-to/wiki/index.php?%A4%BD%A4%CE%C2%BE%C5%A8%C0%AD%C1%C8%BF%A5#a154adaf