■極東SS■ 『舞え、舞え、画龍』その伍 登場人物 頼片 蓬莱(ヨリヒラ ホウライ) ・三味線弾き ・ダメセクハラロリコン3Kオヤジ ・お父さん疑惑 http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/669.html 霜舟(ソウシュウ) ・墨絵描き ・いい女 ・非処女 http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/1440.html ----------------------------------------------------------- 夕暮れに紅く染まった牛喰町。 子連れのカラスがアホウアホウと声を響かすその真下 四十路のオヤジはアホウ面 「…ちょ、っと、待った。おとっつぁんってよう…お前ぇ…え?俺ぁ、誰のおとっつぁん?」 なんだか何を言いたいのだか良く解らないけれど、そりゃあとしあき諸兄だって 見ず知らずの子が『あなたの子です』とか言われたら、こうなるよ。 「この子のだよ。」 霜舟の顔を見つめていた蓬莱の視線が、その脇に寄り添っていた小さな女の子に移る。 と、女の子は霜舟の後ろに隠れてしまった。裾を握り締める様子が可愛らしい。 よしよし、と頭を撫でてやる霜舟。 なんだか親子のような愛情空間が形成されている。 とてつもなく嫌な予感がして、ごくりと唾を飲む蓬莱 「あのう…お霜さん、つかぬ事をお伺いしてぇんですがぁ…その娘さんのおっかあってぇのは  一体どちら様なんでしょうかねぇ…」 「あたし。」   *   *   *   *   * 吉蔵は疾走、且つ失踪した。 キラキラと涙を振りまき疾走した。 蹴破るようにして潜り戸を抜け、一直線に自分の故郷の村へと。 嗚呼、もう女なんて信じない! その後村に帰った吉蔵はしばらくして貞淑な妻を娶り 多くの子宝に恵まれ、幸せな一生を過ごしたそうである。 異性交遊には非常に厳しく、しかし優しい父だったと子供達は語った。 享年七十五歳。 余談。   *   *   *   *   * 長い静寂。 カラスの白い糞がぴちゃり、と蓬莱の禿げ上がった頭頂部を直撃した。 「((( ;゚Д゚)))アワワワワワ…」 ガタガタと震えだしたのは水を引っかぶった寒さからではあるまい。 今まで村のカカア達と事を成してしまって、自分に似た子が生まれてしまった事は あったけれども、それは自分の子だと確信が無いからまだ良かった。 しかし!しかし目の前にいる女の子は、確かに自分の娘であるらしいのだ! 恐ろしい!恐ろしいのは、自分が父になると言う事!繋ぎとめられる事だ! ひとつところに縛られるなど、たまったもんじゃあない! さてこういう時はどうするか? 「三十六計逃げるに…」 遁走しようとした蓬莱の体にぱぱぱっと墨が飛ぶ。 弾け散った墨が連なった円のような模様を形作ってゆく。 水のにじみまでも計算して蓬莱の体に描かれたのは鎖であった。 「ぐえっ!」 足を縺れさせて顔面を強打する蓬莱。ホツマに戻ってきてからすっ転ぶのは何回目だろう。 手までも縛られているもんだから鼻っ柱がひしゃげるほど見事に倒れてしまった。 鼻腔の奥から鉄の臭い。 「逃げようったって、そうはいかないよ。あの時と違ってあたしにゃあいくらでも  アンタを引き留める力があるんだからね。観念しな!」 「勘弁じで…。」 最悪の未来が頭に浮かぶ。 おんぼろ長屋でせんべい布団に寝転がるおれ。昨日の疲れがまだ抜けない。 酒も煙草も買う金が無い、ほとんどのは日々食いつなぐ為に消えてゆくからだ。 ぶくぶくと肥え太った霜舟、三人目の赤ん坊を抱きかかえながらおれにこういうのだ 「いつまで寝てんだいアンタ!さっさと仕事に行くんだよ!」 五十を越えたおれは、痛む腰をさすりながら布団から這い出る。 『舞姫』にはもう半年も触れちゃあいない。 そして俺はそう先の長く無い人生を、あくせく働く事に費やすのだ… 「うう、なんだか泣けてくるじゃあねぇか…」 「知った事かよ!あんたが出て行った時にあたしがどれだけ泣いたと思ってんだい!  なぁんも言わずにさ、ふっといなくなっちまって…それきり便りもよこさないで…  待ってたのにさあ…」 どうしても待ちきれずに村を飛び出した霜舟。帝都に行けば会えるかも、と考えたは良いものの しばらくすると急に体がだるくなってきたし、月のものも来ない。 まさかと思ったときにはもう遅かった。霜舟は子を孕んでいたのである。 わずかな路銀で飛び出してきたから戻る事もできない、頼る当ても無い。 いくら治安のいい帝都とはいえ、一人野宿する若い娘に優しい場所では無い。 しかし霜舟が幸運だったのは夜鼠達に拾ってもらった事であった。 鬼の暴漢達に襲われそうになっていた霜舟を助け、家に迎え入れてくれた。 程なく霜舟は無事に麗を産み、更に華楽に稽古をつけてもらい、絵師見習いとして この屋敷に暮らしていたのだ。 霜舟の眼からぽろぽろと涙がこぼれる。 「待ってたのに…待ってたのに…馬鹿ぁっ!」 「ごはぁっ!」 小気味良いステップを利かせた虎蹴(洋名:タイガーショット)が蓬莱のみぞおちに突き刺さる。 まさに踏んだり蹴ったりだ。 石畳にうち捨てられた蚯蚓の如く悶絶する蓬莱を足元に、霜舟はたちすくんで涙している。 蓬莱はいろんな意味で涙を流している。 そこへ駆け寄る麗。 「おとうさま、おかあさま、なかないで。」 堰を切ったように涙が溢れ出てくる霜舟。美しい顔をぐちゃぐちゃにして蓬莱に抱きついた。 「うわあああああぁん!会いたかったよぉ!」 「うわあああああぁん!誰か助けてぇええ!」 「なかないで、なかないでよう。」 三人の(全く別種の)泣き声が屋敷中に響いた。 ここに家族は再会を果たしたのだ。 …全然感動的ではないが。 「やかましいぞてめぇら!なにをギャースカ騒いでやがんでぃ!」 「あっ、ししょお…。」 颯爽と現れた銀髪の親爺が麗を抱き上げ こんこんっ、と夫婦(?)の頭を煙管で叩いた。 どこからどう見ても侠客の親分とか盗賊の頭が似合いそうないかつい顔つき。 そして雷鳴のような一喝。どちらかといえばこの親爺のほうがやかましいのだが。 「全く、ご近所さんの迷惑も考えろってんでんだ!なぁ〜麗〜☆」 鬼のような形相が一瞬にして溶ける。そりゃあもうでれっでれに。 別段嫌がるでもなく受け入れている麗も幼子ながら大したものだ。 「何だこのオヤジ…。いや、この際誰でもいい!助けてくりゃあしませんか!」 ダメオヤジにオヤジと言われちゃあおしまいである。 また鬼の形相に豹変する親爺。 「ンだとぉ…帝都一、二を争う男前を拝んで、言うに事欠いて『オヤジ』だぁ〜?  手前ぇ、どこの誰に口きいてんのかわかってんのかトーヘンボク!  ええ!?俺様こそが、天上天下に描けぬものは無しと言われた孤高の絵師!  その名も!  ……?オイお霜!誰だこの胡乱なヤツぁ」 少なくとも五十は越えているであろう、渋い皺を刻んだ男は「清周斎 華楽」 天孫の肖像画も描いたことがあるといわれる高名な絵描きであった。 〜続く〜 ----------------------------------------------------------- 蟷螂髑髏の皆さんは、帝都まとめに描かれているよりも かなり年寄りになっていると考えてください。 『清周斎 華楽』 http://www3.pf-x.net/~tei-to/wiki/index.php?%A4%BD%A4%CE%C2%BE%C5%A8%C0%AD%C1%C8%BF%A5#zf36c309