RPG アゼリア=ラモラックSS     - 聖剣少女☆アゼリアと七つの魔石 - ―――――アゼリア18歳、魔法少女になる!?の章   カーン、カーン。   私――アゼリア=ラモラックの一日は、お兄ちゃんや、お父さんの鋼を打つ音で始まる。   重たい瞼をこすりながら、私は起きて寝巻きを着たまま鏡を眺め、制服に着替える。   カーメン人の特徴の一つ、褐色肌。そして腰まで伸びる銀髪。ちょっと突っ張った目。   毎日みる私の顔だ。   着替え終えると部屋を出て、お父さんの工房へ向かう。   お父さんとお兄ちゃんの工房は、家の裏庭にある。   家の裏口から出ると、強い日差しと、砂の匂いが、私を襲う。   私は思わず、手を目の前にかざしていた。   この町は、とても暑い。   この町は、土地の殆どが砂漠と鉱山だ。   あまり農作物が取れないので、隣町のエルドクリアから食べ物が入ってくる。   エルドクリアは緑が豊かで、とても空気のいい町だ。   将来、あそこに住む事ができたらいいなぁ、と私は思う。   私は家から出てお父さんの工房へ向かい、扉を開けた。   扉の外からでも響いていた、鋼を打つ音が、一気に大きくなる。   別に驚いたりはしない。毎日の事なので、なれていた。   工房の中では、お父さんが汗を流しながら、鋼にハンマーを打ち下ろしていた。   その背中に、出来るだけ大きな声をかける。 「おはようございます、お父さん!」 「うむ、おはよう」   お父さん――グラスト父さんは、鋼を打つ手を止める事無く、少し無愛想に返事をする。   無愛想、とは言っても温かみの篭った、ずしりと重い声。   ぶっきら棒な所があるけれど、本当はとても優しい人だ。   父さんは町一番の腕を持つ鍛冶師で、魔石磨きの名人としても有名だ。   私は詳しいことはわからないけれど、魔石は磨くと力が増す...らしい。   だから、鍛冶と魔石磨きと...父さんはいつも忙しそうだ。   挨拶を終えると、母屋に戻る。   そしてキッチンに顔を出すと、朝食の準備をしている母さんと姉さんに挨拶。 「お母さん、姉さん、おはよう!」 『おはよう、アゼリア』   同時に母さんと姉さんが返す。   姉さん――エレナ姉さんは、とても優しくて、誰からも好かれている。   私の最も憧れる女性。   いつかは、私も姉さんみたいになりたいな、と思う。   母さん――メアリー母さんは、心配性で、いつも、皆の事や時事...   近所のお店に強盗が入ったといった事から増税、減税の噂、明日の天気までをあれこれ心配している。   重要な事ではあるけれども、ちょっと気にしすぎだと、私は思う。   私の炭鉱通いも、汚い、危険だ、と出かける度に難色を示す。毎度の事だから、慣れっこだけど。   挨拶を終えると、朝食の準備を手伝う。   ...手伝う、とは言っても、私はガサツで...料理とかはできないから、  皿をテーブルの上に並べる事くらいしかできない。   料理も覚えたいな、といつも思う。   けども、バイト――炭鉱通いもやめたくない。   おじさん達と働くのは、楽しいから。   それに、持って帰った鉱石はお父さんやお兄ちゃんが使うし、二人の役にも立てる。   鉱石は、買うと安くはない。   だから私の採ってくる鉱石が、家族の為になってるというだけでも、嬉しかった。   朝食を食卓の上に並べ終えると、私は弟や妹達の部屋に向けて叫んだ。 「ごはんできたよー!」 『はーい!』   元気よく弟達の声が返ってくる。     弟や妹たちがばたばた、と騒ぎながら、テーブルについた。私も、料理を並べ終えてから椅子に座った。   座ってもなお、食器をかちゃかちゃと、鳴らしていた。みんな今日も元気そうで、私は安心した。 「...おはよう」 『おはよーおとうさん!』   少し遅れて、お父さんが体中の汗をタオルで拭きながら顔を出す。   そして、のし、のし、とおおきな体をゆらして、椅子にどか、と座った。   椅子はぎし、悲鳴をあげる。   おとうさんの体は大きいから、椅子が小さすぎて壊れてしまいはしないか、といつも不安になる。   お父さんが座ると、軽く料理の後片付けを済ませた母さんと姉さんが、テーブルにつく。   それでも、ひとつだけ、まだ椅子が空いている。   私の大好きな、お兄ちゃんの座る場所だ。 『いただきまーす!』   お兄ちゃんが椅子に座るのを待つでもなく、食事が始まる。   おにいちゃんは若くして鍛冶の才能を持ち、もうすぐ宮廷鍛冶師になるであろうといわれる天才鍛冶師だ。   父さんはどちらかというと経験、理論による職人肌で、おにいちゃんはただ一つの閃きによって剣を打つ天才肌。   だからたまに妙な剣を作って「こんなもんが売り物になるか」父さんにこき下ろされている。   で、天才肌の兄は職人である父のように規則正しく生活し、日々のリズムで剣を作らない。   閃きがあれば黙々と何日も工房に篭り、気が向かなければひたすら寝ていたりする。   だから家族との生活時間帯が大きく違った。   父も最初は「健全な体にこそ健全な魂が宿り、健全な魂こそ良き剣を打つのだ」と諭したけれど、  「無理なものは無理だ」とお兄ちゃんはおにいちゃんで頑として聞き入れなかった。   とうさんは言っても仕方がないと諦め、何も言わなくなった。   今では、おにいちゃんはおにいちゃんのやり方がある、と認めているみたいだ。   何十年も鋼を打ち、鍛冶師として有能な父ですら、認めざるをえない才能があるのだと思う。   今日も、お兄ちゃんとご飯が食べられないのかな、と思うと少し寂しかった。   そう思った時だった。 「おはよう、愛しいエレナとエレナ以外ッ!」   お兄ちゃんがリビングに入ってきて、お姉ちゃんと、その他に挨拶をした。   元気そうな声を聞けてうれしくなった反面、「以外」とひとくくりで呼ばれた事に対して気持ちを落した。   お兄ちゃんは姉さんと姉弟でありながら、それ以上の感情を抱いている。   ...おにいちゃん本人としては、周りに気づかれてないつもりらしいんだけど。   私も妹でありながら、おにいちゃんを兄妹として以上に好きだ。それは昔からの事で、理由はよくわからない。 『おはよう、ヨセフ兄ちゃん!』   弟たちは特に気にもせず、元気よく挨拶を返した。   その元気すぎる挨拶に、まるで壁に迫られたかのようにおにいちゃんは圧倒されてたじろいだ。 「ぐ、その他たち。相変わらず無駄に元気だな」   おねえちゃんが、その他じゃないでしょ、おはよう、と言って苦笑した。それに続いて、  お母さんもお父さんも、挨拶を返す。 「おはよう、お兄ちゃん...」 「うむ、エレナではないアゼリア、おはよう」   とても傷つく言い方ではあったけれど、少なくとも、今日は名前を呼んでもらえた。   それだけでも、ちょっと嬉しい。   おにいちゃんは空いた最後の椅子に座ると、がつがつと、朝食を食べ始めた。   メニューが何であるかなんていうのは、全く気にしてないみたいだった。   ただ、おなかにいれてる、といった風な感じ。   でも、突然スプーンを止めると、少し慎重に食べ始めた。何だろう? 「おお…わかる、わかるぞ…これを作ったのはエレナだな?」   そういって、じっくりと味わい始めた。今まで機械的に口に押し込んでいたのは、かあさんの料理で、  今美味しそうに食べているのは、おねえちゃんが作ったものだ。   心底羨ましかった。私もやっぱり料理ができるようになりたい。   私も、作ったものをあんな風に幸せそうな顔で食べてもらいたかった。   そんな事を考えていると、どん、どん、と扉の叩く音が聞こえた。    「おっはよーございます!グリレですー!」   綺麗で、よく通る声が、扉の向こうから聞こえた。   幼馴染の、グリレの声だった。 「空いてるよー、入ってきて!」   扉の向こうにも聞こえるように、おおきめの声で、返す。   はーい、と返事をすると、グリレは扉をあけて入ってきた。   男の子だけども、少し身長は低めで、私と同じくらい。   綺麗な銀髪を長く伸ばしていて、綺麗な金色の目。   愛嬌のある顔立ちで、「かわいい」という表現がよく似合う。ちょっと女の子みたいだった。   諸事情でカーメン町に暮らしているから、カーメンに住む人とは違い、  白い透き通るような肌の色をしている。   グリレはこんにちは、と挨拶をして家の中に入ってきた。   彼は私の一番の親友でもあり、毎朝一緒に学校へいく。   いつもなら私が起こしに行くんだけど。何か用事でもあるのかな? 『グリレにーちゃんおはよう!!』 「あはは、おはようみんなー。グラストさん、ちょっとお仕事お願いしたいんですけど、いいですか?」 「魔石磨きか?構わん」   父さんは、食事を口に運びながら答える。 「はい、そうなんです。ちょっとくぐもってきちゃって...どれくらいで終りそうですか?」 「お前とは隣家同士の付き合いもあるし、子供らの面倒もよく見てくれてる。他の磨きの仕事もあるが、先に回す。  お前たちが学校を終えて帰ってくる頃には終らせられるが...学校では使わないのか?」 「うわー!いつもありがとうございます!そうですね、学校から帰る頃には終ってるなら、今もう妖精の姿になって  今日は登校します。妖精の姿だと魔石は必要ないので。帰ってから個人研究したかったので、ほんと助かります!」   魔力を体内から放出させる、というのは一般人には困難な事だ。かなりの魔術師でないと難しいらしい。   魔石は魔力を増幅させる効果と、魔力を体外へと放出させる効果があるので、普通の魔術師は魔石を使って魔法を使う。   他にも魔石には仕掛けがあるらしいけれど、魔法を使えない私にはよくわからない。   妖精というのは、元々魔力を根源として生まれてきた生き物であるという事と、自然と語らい、魔力を分けてもらって、  魔法を使う。だから魔石が必要ないらしい。   グリレは妖精魔法を研究する(そういった自然から力を借りて魔法を使う方法を研究して、魔石がなくても魔法を使いやすく  できないかを調べているらしい)、妖精魔法科に所属している。研究員兼学生、といった立場だ。ちょっとかっこいい。   妖精魔法科では、妖精の魔法を使うにはやはり妖精になって魔法を使うのが一番なんだそうで、、  妖精に変身して魔法を使う事が多い。だからグリレは学校にいる時は大抵妖精の格好をしている。 「そうか。なら、そこの棚にある箱にいれといてくれ」 「はーい」   グリレはそう言うと、ポケットから手のひらに収まるくらいのサイズの真っ赤な魔石を取り出した。   その宝石は宝石みたいに、綺麗に透き通っていた。   グリレは目を閉じて集中すると、呪文を唱えた。すると、魔石が一度きらっ、と瞬いてから、部屋を光で包んだ。   その光がグリレを覆うと、グリレはたちまち小さくなって、魔石くらいの大きさになった。   重そうに両手で魔石をかかえ、グリレは妖精の姿になっていた。   なぜか、女の子の妖精に。前にワケを聞いたら、「妖精といったらこの姿しか思い浮かばない」と言っていた。   グリレにとって、妖精=女の子の妖精なのだろう。   グリレはよいしょ、と呻きながら棚の上の箱をあけて、魔石を放り込んだ。 「俺の魔石を合わせて七つ...結構、溜まってますね。いいんですか?俺なんかを優先しちゃって...」 「いい。気にするな」 「ありがとうございます!」   グリレはそういうと、ちっちゃな体を折って、ぺこりと頭を下げた。まるでお人形さんがお辞儀をしたみたいで、  とってもかわいらしかった。 『グリレにーちゃんかわいいー!』 「ははは、それはどうも。アゼリア、まだ〜?」   どうにも妖精の姿で視線を浴びているのが恥ずかしいらしく、グリレはもじもじしながら私を急かす。   いつも私を待たせてるのに、現金なんだから。 「ちょっと待ってて、すぐ終るから」   私は返すと朝食を口にかき込んで、立ち上がった。    「カバン、とってくるから。ちょっと待っててね」   言うと同時に、私は部屋へと戻り、教科書なんかを入れたカバンを手にとって、リビングに戻ると、  弟たちの騒ぐ声と、小さな悲鳴が聞こえた。 「ぐぇ〜助けて〜」   グリレは弟や妹たちにもみくちゃにされ、呻いていた。   なんというか、あと数分放っておいたら圧死しちゃいそうな感じだった。 「こら、グリレおにいちゃん、痛がってるでしょう!また遊んでもらいなさい」   私はあわてて弟達の間に入り、ひょいとグリレを摘み上げた。   手のひらに乗ったグリレは、塩でしめた青菜のようにぐったりとしていた。   危なかった...。もうちょっとで小さな命が奪われるところだった。 『はーい』 「それじゃあ、学校いってきます」 『いってらっしゃーい!』 「いってらっしゃい、気をつけてね」   挨拶を終えると、わたしは家の表に止めている自転車にまたがって自転車のかごにカバンをほうりこんだ。   学校までは少し距離があるので、自転車で通っている。   グリレはこの姿なので、もちろん自転車なんてこげない。   私はグリレを前のかごにのせようとすると、ぱっと手からとびたった。 「ひゃっ!?ぐ、グリレなにしてるの??」   グリレは私の胸元とびつき、制服の中にもぐりこみ始めた。   くすぐったい。 「妖精は胸元に入って顔を出すのが基本だよ?」   グリレの声は、妙に泳いでいた。 「...何か変な事考えてない?」 「のんのん!酷いよアゼリア、俺が君のおっぱいの谷間でそこはかとなく感触を楽しも…  はい、そうですよね、カゴにでも座ってます」   グリレは私の顔を見ながら顔を凍りつかせ、素直にカゴに乗り移った。   どうも、気づかないうちにものすごい表情をしていたらしかった。   グリレはちょっとスケベな所がある。夜中お風呂に入っていると普通に一緒に入ろうとしたり、  視線に気づくと覗いていたり。   いつも「うっかり」だとか「間違えた」とか、言い訳をする。   でも、みつかると急にしおらしくなるグリレをきつく叱る事も躊躇ってしまう。   ...その所為もあってか、グリレはやめようとしない。いつかきっちり怒らないといけないと思う。   グリレをカゴに乗せると、私はペダルを踏みしめて、自転車を進め始めた。   自慢ではないけど、私は自転車をこぐのは早い。   単純に毎日鉱山で働いているから、体力があるだけなのだけれど。   凄い速度で流れる景色を眺めながら、街中をかけてゆく。   二十分ほどして、カーメン町を出ると巨大な建築物が幾つも見えてくる。   全ての学問を統べる街にして学校、学術都市区ウォンベリエ。   このウォンベリエを中心に、たくさんの町がある。カーメン町もそのひとつ。   周囲の町の子供たちはみんな、ウォンベリエに通う。   全ての学ぶものを学ぶ事ができる。   グリレは妖精魔法を専攻している。   わたしは、グリレが妖精魔法を知る為に妖精になるのと同じように、鍛冶師の娘だから剣について知る為、  剣術科を専攻している。実の所、将来鍛冶師になろうと思っているわけではないけれど、  少しでも父さんやお兄ちゃんの役に立てれば...と思う。   私の夢は、お姉ちゃんみたいになって、お嫁さんになることだ。   でも、私みたいなガサツな女の子をお嫁にもらってくれる人はいないだろう。   はぁ、と私は深い溜息をついた。 「おおー、もう着くね。俺が一緒に行くより早いなー...。  いつも妖精のままで登校しよっかなぁ」   カゴのそこにちょこんと座っているグリレが言った。 「だめ。学校の行きと帰りくらい運動しなきゃ。グリレはあまり運動しないでしょう?  ちゃんと運動しないと体によくないよ?」 「はぁ〜い」   グリレがつまらなさそうに言った。グリレは運動があまり好きじゃないらしい。   学者肌なんだろう。でもやっぱり、運動はしないと年を取ってからが大変だ。   学校の教授たちは背骨が曲がっているし、よく腰痛が、と嘆いている。   そうなってからだと遅い。   自転車を駐輪場に置くと、グリレが飛びたつ。私はカバンをカゴから取り出した。   ふと、気づく。グリレはカバンを持ってきてない。 「そうえいばグリレ...教科書は?というより、他の授業もその姿で受けるの?」 「あはは、研究室におきっぱなしだからね。教科書は。  それにこの姿だと女子がみんなかわいいって言ってくれてもみくちゃに...ってアゼリア待ってよー!」   私は話の途中で呆れて、後者に向かって歩き始めた。   男の子はみんな、グリレみたいにスケベなんだろうか。やだな。 「冗談だよ、冗談。俺はアゼリアにもみくちゃにされたいぐぇっ」   私は腹が立って、それから恥ずかしくなってばしん、とカバンをたたきつけた。   グリレは地面にたたきつけられて潰れた様なうめき声をあげた。   スケベなグリレなんて知らない。   私は怒って校舎に向かって歩いていく。   でも、いつまでたっても後を追ってこないグリレが心配になって、結局戻って介抱する事になった。 「...今日の剣術の授業は終わりだ。いつも言っているが、授業外の日々の鍛錬も怠るな。  剣術の授業は所詮、型を教えているだけに過ぎん。  剣と己が一体となった時こそ、剣術は本当の力を発揮する。では、解散」   運動場。太陽がきらきらとまぶしく輝き、みんなを照らす。   剣を振るっていた私、そしてクラスメートは皆あせだくだった。   剣術指南の夜丘 九兵衛(ヤオカ キュウベエ)先生が授業の終わりを告げると、皆、  手をひざについてぜぇぜぇと呼吸をした。   夜丘先生は、極東、という遠い国からきた人だ。   剣術、ではなくてカタナという片刃の剣を使う剣術、真影流の師範らしいのだけれど、  それをロングソードでも扱えるように改良した真影流・双刃を授業で教えている。   寡黙で渋い壮年の男性だ。   少し怖いけれど、私は結構好きだ。   授業を受けていると、剣術というものを愛しているのがひしひしと伝わってくる。   ...私はどうにも剣術が向いていないらしくて、よく叱られているんだけども。   剣術も、向いてないのかな。授業を受けるのは好きだけれど、終ると少し溜息が出る。   夜丘先生が立ち去ると、、更衣室へと向かって歩き始める。 「アゼリア、なかなか上達したじゃあないか」   背中から声をかけられて、私は振り返った。   そこに立っているのは、同級生の女子イザベラ・ジョルジェット・ルドワイヤン。   長くてカールした綺麗な金髪に、いつでも何かをたくらんでそうな瞳。   身長は女子でも高いほうの私より高くて、少し筋肉質気味の私と違って、  すらっと引き締まった体をしている。剣術がかなり得意で、いつも評価はS。   カーメンの隣町エルドクリアの町長の護衛騎士を代々勤めるルドワイヤン家の長女で、  教養・勉強・剣術において特に教わる事もないほどに教養がある。   だから立ち姿も格好よく、女子から人気がある。   逆に彼女自身が好きでないらしいのも相まって、男子からは恐れられているらしい。   ちょっと傲慢だけど、ほんとはとっても優しいのに...。   剣の扱いが上手な彼女にほめられると、ちょっとうれしい。 「ありがとう、イズ」   イズ、というのは彼女の愛称。彼女の幼馴染がそう呼んでいるから、私もそう呼ぶようになった。 「ちょっと、力任せになりすぎな部分もあるがな。  バイトをしているだろう?それも、肉体労働の。  それがいかん。剣を扱うというのに必要のない筋肉がつきすぎている。  必要のない筋肉が邪魔をして、型通りに腕を動かせん。  そんなに家が貧しいなら、私が都合してやるぞ?」 「ううん、ありがとう。うちは確かにお金はないけど、お金が重要な訳じゃないの。  私が苦労して得たお金で、家族の暮らしが少しでも楽になる事が大切だから。  それに、確かに大変ではあるんだけれど、楽しいから、大丈夫」   お金がないと生活できないし、お金は大切だ。   だけど、お金があればいいという事でもない。   どうやってそのお金を得たのか、どんな思いで働いているかが大切なんだ、と私は思う。 「む、そうか...お前がそう思うなら、そうなのだろう」   ちょっと、つまらなさそうにイズは言った。   せっかく私を思いやって言ってくれたのに、気分を悪くさせちゃったかな... 「あ、イズ。他に何か...剣術について、アドバイス、ない?  イズが教えてくれることを心がけて授業を受けてると、先生がたまにほめてくれる。  だからあなたのアドバイス、とっても助かってるの」   私が言うと、イズは機嫌を直したらしく、目端と口を吊り上げて、奇妙な笑みを浮かべた。 「うむ、そうだな。もっと肩と...」   そういって私の肩に手を伸ばして撫でると、すすす、と手を下げて腰にまわした。 「腰の力をリラックスさせてだな...ここら辺の筋肉とかな?」   イズの手が私の腰周りを撫で回す。   うう、なんだか非常にヤな感じが...。   そう思った次の瞬間、手が離れた。 「いたッ!おい、サラ・デギュジス、何をする! 手をつねるな!」   サラ・デギュジス。   イズの幼馴染で、槍術専攻。彼女もエルドクリアの名門騎士家の長女。   クールで無口、いつも口元にスカーフをまいている。   彼女のクラスも、丁度授業が終ったところらしかった。 「...イズ、セクハラもほどほどにしておけ...」 「誰がセクハラなどしているというのだ!私はアゼリアにアドバイスをしている。  なぁ、アゼリア?」   心外だ、といった顔でイズが私を見る。   イズは男子嫌いというより、女子好きらしい。彼女がそんな考えを持っていると知った時は、少し驚いた。   ...そう考えると、これはセクハラのような気もするけれど...彼女は友達だ。そんな勘繰りをするなんて、  友人として失礼な事。...多分。私は首をたてに振った。 「う、うん。イズに色々教えてもらってたところなの。  でも、気を使ってくれてありがとう、サラ」 「ほうら、言ったとおりではないか、サラ!」   イズが勝ち誇ると、サラはスカーフの向こうで、溜息をついた。 「...アゼリアがそういうのなら、いいがな」   サラもイズと同じくスポーツ万能、成績優秀で教養があり、立ち振る舞いが綺麗だ。   そして、優しい。勿論、彼女も人気がある。   私自信、憧れる所が沢山ある。 「イザベラ様、わたしの太刀筋、どうでしたかっ!?」 「ちょっとあなた、私が先にご意見を頂くのよ!」 「イザベラ様、それよりわたくしの....」 「サラ様、今日も素晴らしかったです。どのようにすればあのような流れ星のような突きが放てるのですか?」   女子が彼女らを中心に、わらわらと集まり始めた。   彼女らが上流騎士家であるという事から、同級生も上級生も、様をつけて呼ぶ人が多い。   それ自体は割りと珍しい事じゃない。高官や名門の家出の子は他にも沢山いる。   でも、私は彼女らを名前で呼んでいる。   彼女らは、自分たちを様づけで呼ぶ相手には、上流騎士家の長女としての立ち居振る舞いをする。   皆にもてはやされ、堂々とした態度で話す彼女は格好良かったけれど、すこし哀しそうな目をしていた。   彼女の"友人"は少ない。サラと、もう一人、彼女らの幼馴染のマリー。   武術においても勉学においても優れている彼女らが、来る必要もあまりない学校へとわざわざ来たのは、  寂しかったからじゃないかな、と私は思った。友達がもっと欲しかったんだろう。普通の女の子みたいに、  振舞いたかったのだろう。   でも、学校へ来ても扱いはある意味同じ。上流階級騎士家の長女として、扱われる。   だから、彼女は、哀しい目をしていた。   私は、哀しい目をしている彼女と友達になりたい、と思った。   彼女は、私が敬称をつけずに呼ぶと、一瞬驚き、口元を綻ばせた。   その日から、私と彼女は友達になった。階級も生まれも関係ない。   正直な事をいうと、私は少し不安だった。   私は鍛冶師の娘だ。鍛冶師というのはあまり位の高い職業じゃない。   権威を持つのは宮廷鍛冶師くらいなものだろう。   そんな私を、彼女は相手にするだろうか。立場としては、天と地ほどの差がある。   でも、彼女は私を受け入れてくれた。   それが素直に嬉しかった。   実際、幼い頃からおじさんたちと一緒に鉱山で働いていた私も、友達が少なかった。   というより、友達と呼べるのは、家が近所だったグリレだけだ。   学校に通い、初めてできた友人が、私とは180度違う彼女たちだった、  というのは自分でもすこし面白いとおもう。   きゃあきゃあという騒がしい女子たちに囲まれ、イズもサラも身動きが取れなくなっていた。   こうなってしまうと、長い。私にはどうしようもできないので...一人、更衣室へと歩き始めた。 「アゼリア、帰ろー」   授業を一通り終え、駐輪場へ行くと、かごの中でちょこんと三角すわりをしているグリレがいた。   グリレの方が少し早く授業が終ったらしい。   私は頷いて自転車に乗り込み、帰路についた。 「えぇっえええええーーーーっ!?」   グリレの声が、リビングに鳴り響いた。   食卓に、お父さんとおにいちゃんが座っていて、二人の前で、グリレは頭をりょうてで抑えて叫んでいた。 「すまん...私の不注意だった...」   お父さんは、ほんとうにすまなさそうに、机に額をすりつけた。   お兄ちゃんは、何事もないように、詰まらなさそうな顔をして小指を鼻の中につっこんでいた。   それに気づいたお父さんは、お兄ちゃんの頭をわし、と乱暴に掴んで机に叩きつけた。 「いてぇっ!!何しやがるクソ親父!!」 「根源はお前だろうが!!グリレに謝れっ!!  それだけじゃない、俺は客になんといって謝ればいい!!」   お父さんは、めったな事じゃ怒らないんだけど...今回ばかりは、顔を真っ赤にして怒っていた。      まず、話の発端は私たちが登校した後、お父さんが魔石磨きを開始しようとした所から始まる。   お父さんが磨きを開始しようとした時は既にリビングには誰もいなくて、キッチンでお母さんとお姉ちゃんが朝食の後片付けと  昼食の準備をしていた。   でも、無かった。   魔石箱が。グリレが朝、魔石を入れた箱が。   お父さんは散々探し回った。半日、お母さんもお姉ちゃんも一緒になって、ひたすら家中を探し続けたらしい。   職人の仕事と依頼主の関係は、当然ながら信頼関係で成り立っている。   魔石は貴重なもので、売れば高い。無くなったとなれば――当然、売り払ったと思うのが筋だ。   必死に探して、探して――ふと、今の今まで探していなかったある場所から見つかった。   お兄ちゃんの工房だった。お父さんが入ると、工房には誰もいなかった。   お兄ちゃんは魔石磨きはしない。どうしてそんな所にあるのか、と疑問に思いながらお父さんが魔石箱を開けると――   無かった。入っているはずの、七つの魔石が――。   お父さんは当然ながら、お兄ちゃんを探した。   そういえば、午後からは店番をしておけ、と言っていたのを父さんは思い出して、店のへいくと、お兄ちゃんが店番をしていた。   魔石をどこへやったのか、と聞くとお兄ちゃんは知らない、と答えた。   そんなはずはない、とおにいちゃんの部屋から魔石箱がみつかった事を伝え、箱の外見を説明すると、お兄ちゃんは、ぽん、と手を打った。 「あぁ、あれ。ただの宝石かと思ってた。丁度ビビっときて気分よく打ってたのにいい装飾がなくてさ。  丁度良かったから剣の装飾に使ったぜ、あれ」   お父さんは悪びれもせずのうのうと答えたおにいちゃんの頭にハンマーを叩き込みかけたけれど、ぐっと抑えたという。   で、その剣はどこへやった、と父さんは聞いた。 「 売れたぜ? 」   お兄ちゃんはそう言って、じゃらじゃらと鳴る金袋をさも誇らしげに掲げた。   お父さんのハンマーは振り下ろされた。   運よく...お兄ちゃんの耳元すれすれ、背後の棚にハンマーはめり込んだだけで済んだ。   そしてこっぴどくお兄ちゃんが怒鳴られている所へ、私とグリレは帰宅した。   グリレは話を聞いて、飛び上がった。   あの、父さんに預けた魔石がないと元の姿に戻れないという。   他の魔石だとどうしてだめなの、と尋ねると、 「変身魔法にもレベルがあるんだ。  レベル1だとイメージと似た姿。  レベル2だとイメージ通りの姿。  レベル3だとイメージした姿と、その姿の生き物の持つ能力を得る。  とはいっても勿論、本人が持つ魔力以上の事はできないんだけど。  で、レベル3の変身魔法はけっこう高度な術なんだ。  魔石は魔法の効果を強化する力がある。  でも俺が持ってる魔石はあまり高価なものじゃなくて...それほど強化できないんだ。  その代わり、その魔石と契約して、その魔石で、さらに、その呪文しか使わない、という縛りを作る事によって、  高度な魔法を使う事ができる。とはいっても不完全なものなんだけど...。  だから、変身...もとの姿に変身するには、あの魔石じゃなきゃだめなんだよ...。  本来は魔法がかかってるだけなら解呪するだけでいいんだけど、自分自身の技量のなさと、  魔力の足りない部分をカバーするために、ややっこしい魔式を組んで、妖精の姿になる、というより  妖精そのものになってる。実際、そのほうが研究に便利だしね。  かといって、変身魔法を他者にかけるのも、高度な技術でね...失敗するとどんな姿になっちゃうかわかんないんだ...。  だから他の人には任せらんない...。  ううーっ、このままじゃあ俺は結婚もできないよーっ!」   という事らしかった。グリレは突っ伏してなき始めた。   確かに、結婚できないのはとっても、辛いかも...。 「最近ようやく生活も安定し始め、お前が宮廷鍛冶師になるかもしれん、ってんで安堵しとったが...。  これが知れれば俺は間違いなく廃業、例え俺が罪をすべて負った所で、盗人の息子なんぞを  宮廷鍛冶師には呼んではくださらんだろう...。俺たちは多い子供たちを抱えて路頭に迷う羽目になるのか...?」   お父さんは怒りすぎて、遂には情けなくなり、泣き出しそうな程だった。   お兄ちゃんはそれでようやく、罪悪感が芽生えたらしく、椅子から立ち上がった。   同時に鼻血がぼだぼだ、と零れおちて、机の上を汚した。(さっき机で鼻を強く打ったらしい 「わったわーった!俺がなんとかする!とりあえず親父、魔石の事は、客に黙っとけ。  忙しいとか言ってごまかすなりなんなりして、日にちを稼げ。その間に見つけてくる。  よしグリレ、工房へこい」 「え、俺が??」 「お前の事だろうが!!」   なぜかおにいちゃんはキレた。 「俺が悪いみたいに言わないでよ!!ヨセフさんが悪いんだろーっ!って...言うだけ言ってほってかないで!」   お兄ちゃんはグリレの抗議を無視して、ずかずかとリビングを出て行った。   グリレもその後を追う。私もお兄ちゃんがなにをグリレにさせようとしているのかが気になってその後を追った。   工房につくと、お兄ちゃんは手に青白く輝く宝石を持って立っていた。   力強い、不思議な輝きだった。 「ヨセフさん...それは?」 「以前に拾ったもんでな。貴重なもんだから取っておこうと思ってたんだが...」 「お兄ちゃん、その宝石は何なの?」 「聖石だ。魔石をはるかに凌ぐ力をもつ。こいつを使えば自由に変身する事が可能となるだろう。  魔力不足を大いに補っても有り余る。  だが、残念ながらこいつも完全なモノじゃない。  肉体に負荷がかかる。だから常時変身しておくってわけにもいかない。  グリレ、お前がこいつを使って変身し、魔石の埋め込まれた剣...魔剣を回収するんだッ!!」 「えぇえええーーっ!?」   私も、驚いた。いや、誰でも驚くと思う。 「だからっ!! どうして俺がやんなくちゃいけないんだよ! ヨセフさんがやればいいじゃないか!」 「お前は学生なんだからどうせヒマなんだろ?  俺は鋼を打たなきゃならんからな。忙しいんだよ」 「うっうー! 俺はヒマなんかじゃないよ! 研究、研究の毎日で忙しいよ! そんな事してるヒマなんてない!」 「いいのか?俺が剣を打つのをやめればウチの家計に響く。  最近はウチのうるさいチビ助どもも学校に行き始めたしな、学費がかなり圧迫してる。  すると、どうなるかわかるか?  お前の大好きなアゼリアは優しい子だからな。  自分の食費を削るか、学校をやめるか...そして、もっと働こうとすうるだろうよ。  それでも一向に構わんというなら俺が探してこよう」   お兄ちゃんに優しい子といわれたのはうれしかったし、実際そうなったとしたらそうするだろう。   でも、グリレがやらなきゃいけない、というのも納得がいかない。 「私が探すよ」 「えっ!?いや、アゼリアはバイトもあるのに、それこそそんな時間ないでしょ?」 「バイトは、休むよ。おじさん達に会えないのも寂しいし、食卓からはメニューが一品くらい減るかもしれないけれど...。  お父さんが廃業になったり、お兄ちゃんが宮廷鍛冶師の道を閉ざされるより、ずっといい。  それに、魔剣がみつかるまでの間だから。  それと...グリレは悪くないのに責任を取らされるなんてちょっと私は納得がいかないよ。  お兄ちゃんができないなら、妹の私が責任を取る」   家族のために、とりえもない私に出来る事。私にしかできない事。   それがあるなら、私はやりたい。みんなのために。そしてなにより、わたしの為に。 「うむ、アゼリア。よくぞ言った。俺の責任はお前がとれ」   ...今に始まった事じゃないけど、お兄ちゃん...   ほんのちょっぴりでいいので自分が悪かったって自覚を持って下さい...。 「ううー、アゼリアはいつだって俺の女神だよーっ!俺も研究はそんなに早急に結果を出す必要はないから、  協力するよ。この姿だし、魔法もつかえるから役に立つと思う」 「女神だなんて、よしてよ...もう。そんなんじゃないよ、私は。  うん、グリレが手伝ってくれるなら、すぐに見つかりそうだね。ありがとう」 「いいんだよ!ある意味、俺が手伝って貰ってるようなものだし...」 「うむ。俺の妹が手伝うといっているんだ、しっかりとやれよ」 「だからなんでヨセフさんは責任ゼロみたいな態度なんだよ!!  全部あんたが悪いんでしょ!!」 「まったく、妖精ってのはぴいぴいとうるせぇな。  ついでにグリレ、もう一仕事手伝って貰おう」 「う...なんですか」 「剣を打て。聖石を埋め込む器にな。  なんせどこに侵入する事になるかわからん。武器は必要だろう?」 「それこそヨセフさんの専門じゃないか...どうして俺が?」 「その剣は、誰かに見られる事になるだろう。  剣というのはな、打ち手の癖なんかが出るんだ。  もし俺が造ったとすると...見る人が見れば、俺が打った剣とわかる。  なんせ、俺の剣を買っていった客だ、目は利くだろうと思われる。  当然の事ながら、俺が打った剣でそんな事が起こってると知れると...まぁ、あまり良い噂はたたないな。  町の警護をしている騎士らが俺の家に、どんな客が買ったか、なんかを聞きにくるだろう。  そうなると...何かの拍子に魔石の紛失が露見するかもな」 「...う...それは確かにそうかもしんない。  でも、俺、この身体だし、剣なんて打った事ないよ?」 「安心しろ。そこはこの俺が教えてやる。  それに魔法が使えるなら物体を動かすくらいなんて事ないだろう?  妖精が打った剣を持つ勇者や英雄の話も多いしな。  それに...」   お兄ちゃんが、意味ありげに、含み笑いをしてグリレを見た。   グリレは、その笑みにいい印象がないらしく、たじろいだ。 「それに...?」 「お前の打っ勃たてたナニ(剣)を、アゼリアが握るんだぞ?」 「おれやる、やるよ!!ヒョウ!ヤる気出てきた!」 「...なにか、下品な話をしてない?」 「してないぞ」 「してない、してない」 「......」   ...なんとなく、腑に落ちない。   という事で、グリレはおにいちゃんに教わりながら、剣を打ち始めた。      かーん、かーん。   即席でおにいちゃんが造った小さな小さなハンマーで、グリレは鋼を打ち始めた。   グリレは妖精だからか、一滴も汗をかいてはいなかった。   けれど、橙の光を放つ鋼を打つ彼は、とても暑そうだった。   ふと、自分が熱心にその姿を見入っている事に気づく。   妖精の姿だけれど、案外様になってるな、と思った。   そして、その姿を見ている自分の胸が、ときめいているのを感じていた。   それから数時間後...グリレの渾身の作品が出来上がった。 「ひぃ...長時間魔法を使いっぱなしっていうのは、結構疲れるよ...」   グリレが打ち出したそれは、少し歪だったけれど、黄金の鍔と白くてきれいな刃をもつ、美しい長剣だった。   刃には、くぼみが七つあった。   妖精のグリレが打ったからか、今までにみたこともない虹色の輝きを放っていた。 「初めてにしてはなかなかの出来だ。俺のお陰だなチビ助」 「誰がチビ助だ!!」 「すごい、きれい...」   私は思わず感嘆をもらして、見とれていた。    「よし、じゃあ聖石をはめ込め」 「う、うん」   グリレはおにいちゃんからきらきらと光る聖石を受け取ると、鍔の中心にとりつけた。。   グリレの打った剣は、いっそう輝きを増した。    「そういえば剣の名はなんていうの?」 「んー...ラモラック、かな」 「私の...姓?」 「うん。好きなんだ、きれいな響きだろ、ラモラックってさ。  それに丁度ななつの穴があいてるだろ?  アゼリアたち姉弟も、ちょうど七人だし」 「聖剣...ラモラック」   私は、グリレの打った剣の名を呼んで、握った。 「まぁ、お前にしてはなかなかセンスのあるネーミングだ。さて、変身してみろアゼリア」 「変身?? どうやって?」   私は当然の疑問を、お兄ちゃんにぶつけた。 「専用の呪文をインプットする。何か適当にいっとけ」 「ほんとうにヨセフさんはてきとうな事をいうよね」 「俺にとってはどうでもいい事だからな」 「......」   グリレはあきれて閉口した。   それにしても、呪文、呪文か...   私は思考をめぐらせた。 「我が名はアゼリア、砂に仕えるものなり――」 「おい、アゼリア。もしかしてながったらしいのを考えたんじゃないだろうな」   私が唱え始めると、お兄ちゃんがすぐに止めた。   図星だった。でもそれの何がいけないのかよくわからなかった。 「呪文って、そういうものじゃないの??」 「極端にいえば、単語だけでもいい。あ、とか、い、とかでも可能だぞ」 「わかった...考え直してみるね」   私は数分頭を悩ませた。自慢じゃないけど、私はあまり頭がよくない。センスもなかった。   ようやく頭にわかりやすい言葉が閃いた。   剣を天井にかかげて、私は叫んだ。 「チェーンジ・セイントッ!!」   叫んだ瞬間に剣がまばゆく瞬き、部屋全体を照らした。   そして、私の身体を、不思議な感覚がかけめぐり、宙に浮くのを感じた。    「お、おおおーーっ!!」   突然グリレが私の身体を直視して、興奮したよう叫んだ。   私は自分の身体をみて、気がついた。   着ていた筈の制服は瞬きと共に消え去っていた。 「みないでーっ!!」   あまりにも恥ずかしくて、私は叫んだ。でも、どうする事もできなかった。   みるみるうちに、光が私の裸体を包み、隠していったので、私はほっとした。   私を包んだ光は、変化してゆき、後頭部にはおおきなリボン、身体は上がセーラー服で、  下はフリフリのスカートになった。   変身が終わるとようやく、私の足は地にゆっくりと着いた。 「ふ、ふぉおお...」 「むっ...!」   二人が私の変身した姿を見て、唸った。   ちょっと恥ずかしい。 「...どうかな?」   私は照れながら、二人に尋ねた。 「あぁ、アゼリア...ねがわくば、ぼくの性剣もにぎっ――ぐぇっ!!」 「グリレのばかっ!!よくわからないけど、へんなこといわないでっ!!」   私は思わずグリレを殴っていた。グリレは壁にうちつけられて鼻血をたらしながらも、  幸せそうな顔をしていた。   ...もう、グリレったら、知らない! 「クソッ...こうならば、エレナに変身させればよかっ、ちょ、ちょっと待てアゼリ――うごはぁッ!」   私は思わずおにいちゃんも殴りとばしていた。お兄ちゃんは地面に倒れて目を回した。   お兄ちゃんはお姉ちゃんのことばっかりで私の事なんてちっとも気にしてくれない。    「二人とも、もう、知らないんだからっ!!」   伸びた二人に、私は叫んでいた。その叫び声はとってもむなしく、工房内に響いた。   この星にはさまざまな世界があって、輝いています。   そんな素晴らしい、いろんな世界が交じり合う、いろんな素敵な出会いの物語。   聖剣少女アゼリアと七つの魔石、始まります―― ──────────next stone