SDロボSS 『それはほんの始まり』        いつからの事だろう    俺は旦那と一緒にいて、それが普通だと思っていた 「ふっ、たぁっ!!」 いつもの朝の準備運動の剣の素振りも終わり、これから朝食の準備だ 汗も流したいし、今日の朝は川で魚でも取ってこよう 「旦那、今日の朝飯は魚でいいかな?」 「かまわんよ」 俺たちが住んでいるのはディオールって国の国境の側の森の中…らしい と言うのも、俺が物心付いた頃にはここに住んでいて昔の事は良くわからない 旦那の言う事には、俺は昔は別の国に居たらしいけど 俺は今の旦那と一緒の生活に満足してるから森の外の事なんて知ろうともしなかった この日までは… 「さてと、今日の獲物はっと…」 じっと水面を見つめる、狙いうは一瞬        ピチャン 「そこっ!!」 俺は手に握った小石を飛び跳ねた魚の頭めがけて投げつける 見事に頭を小石で狙い打たれた魚は、そのまま水面に浮かんで動かなくなる 「よしっ、まずは一匹!!」 この調子で6匹ほどの魚を捕らえる、こんなもので良いか 俺は服を脱いで川に入り、水面に浮かぶ魚を取りにいった 時間もまだあるし、ついでに水浴びをして汗を流す ふと、遠くで大きなものが動くような音が聞こえる 「何だ?この音…旦那のワルドーザーの音じゃないよな…」 音が近づいてくる 俺は川から上がり脱いだ服をつかんで木の裏に身を隠す 「たいちょー、本当にこんな辺鄙な所に伝説の機聖と魔導機があるんすか〜」 「NIからの情報らしいから、多分間違いないだろう、そういう情報には目ざといからなあそこは」 やがて川の反対側の森から数体の巨大な鋼鉄の巨人、魔導機が姿を現した 「まぁ、別働隊も大量に用意して探してるんだ、そうかからずとも見つかるだろうよ」 「しかし伝説の魔導機…さぞかし強力な機体なんだろうなぁ」 「NIの目的は機聖本人のようだがな、せっかくだし魔導機は俺らでいただくってのも有りか」 伝説の魔導機?機聖? 旦那の事なのか? しかも、そのために結構な量の魔導機が投入されているのか? 「…通信だ、機聖を見つけたらしい  一気にポイントまで飛ぶぞ」 「りょーかい」 魔導機たちは一斉に飛び上がりまっすぐに一箇所に向けて飛んでいく あの方角は…俺たちの家がある方向!? やっぱりあいつらの言ってた機聖ってのは旦那の事か!! 俺は急いで服を着ると森の中を一直線に駆けていく −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「なんじゃぬしら、ワシの元に剣の教えを学びに来た…わけではなさそうじゃな」 「あんたが、機聖のアル=シュヴァート=ターマンか、探したよ」 「こんな所に来ても何も無いぞ、居るのはこの老いぼれだけじゃ」 「その老いぼれに用があるのさ、俺たちの依頼主はな」 「ついでにアンタの使っていた魔導機、アレもいただこうかと思ってね」 魔導機…ヤツの事か だがヤツは既に… 「ふむ、あの魔導機がおぬしらの目的か、だが、奴の様なじゃじゃ馬、おぬしらには到底扱えんよ」 「扱えなくてもNI辺りに差し出しゃすげぇ機体を作ってくれるだろう、もっと強い機体をなぁ」 「自ら強くなる事もせずただ力のみを求めるか…ちょいとお仕置きが必要かのう」 「フン、老いぼれジジィに何が出来る」 「少なくとも、強き機体に乗れば強くなれると思ってるような若造の鼻を明かすことくらいはできるぞい」 言うが早いか、召喚陣を形成し機体を呼び出す しかし出てきた機体は― 「はぁ?ワルドーザーなんかで俺たちの相手をするってのか?」 「俺たちの機体はNIの最新鋭機だぞ、ジジィが舐めくさりやがって」 「機体性能の優劣だけが強さではない、それを教えてやろうぞ」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 轟音が響いてる、稽古場の近くからだ 旦那が負けることなんか無いとは思うけど、アレだけの数を相手にするのは流石に無理がある 稽古場の近くの、岩肌が露出した広場に出ると、そこではワルドーザーの2回りは大きいであろう機体を相手に旦那が戦っていた 「くそっ、こいつ化け物か、なんでワルドーザーなんかでここまで苦戦するんだ」 「流石は機聖と言った所か…だが」   ミシミシッ     バキィ!! ワルドーザーの膝のシャフトが折れる 「そんな機体じゃコレだけの数を相手に長時間は持たないよなぁ」 「むぅ」 長年こまごまと整備していたとはいえ、流石に現行の機体相手では機体の劣化具合から長時間の戦闘はできなかった 相手はそこまで見越した上でこの連中を送り込んできている 「しかし、だからといってそう簡単には主らには降らんぞ」 「旦那っ!!」 その場に居たものがいっせいに声のした方向に向く 「ナヘル…」 「何だお前、女っぽい声をしているが…」 「俺は旦那の伴侶だよ!」 その場に居た者たちは一瞬あっけに取られ、笑い出した 「伴侶…フッ、こんな老いぼれジジィでも女くらいは若い方が良いってのか」 「伝説の機聖が助平なこった、趣味も悪いがな」 「旦那をバカにするなぁ!!」 飛び上がったナヘルは近くに居た魔導機めがけて剣を抜く 「ナヘルッ!?」 「たぁぁっ!!」 ナヘルの斬撃は、そのまま魔導機の腕を切り落とした 「なっ!?こいつ」 「旦那との練習の成果、見せてやる」 再度魔導機に向けて剣を構える しかし 「女、舐めるなよ」 魔導機から銃弾が放たれる ナヘルはたやすくその銃弾を避けるが、徐々に崖の方へと追い詰められる 「くっ」 突如、ナヘルの足元の岩盤が崩れる 魔導機の銃弾の衝撃で亀裂が入ったのだろうか 「うわぁあああぁぁぁぁ……」 「フン、俺たちを舐めるからそうなるんだ、ジジィ、お前もこうならないうちにとっとと捕まって魔導機のありかを吐きな」 しかし、ナヘルが穴に落ちたにもかかわらずアルは平然としている 「無駄じゃよ、奴は既に次に自らを駆る者を決めておる」 「…こうなったらその機体をぶっ壊してからだ、死ぬんじゃねぇぞクソジジィ!!」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 穴に落ちたナヘルは、それでも擦り傷程度で済んでいた 結構な深さがあり、しかも穴が途中で捩れていたんだろう、上を向いても光が見えない 「旦那、大丈夫かな…」 だんだん目が暗闇に慣れ、ふと自分が居る場所が広い空洞になってる事に気が付く そしてさっきから誰かに見られているような気がしていたナヘルは辺りを見回すと、空洞の奥の方に何かがあるのが見えた 近づいてみると、そこには翠の瞳を持つ魔導機が座り込んでいた 「…?」 誰かに呼ばれた気がする しかし辺りを見回しても誰も居ない 居るのは目の前の魔導機だけだ 「あんたが呼んでるのか?」 魔導機は答えず、しかしその腕をナヘルへと差し出す 「乗れってのか」 魔導機は答えない 「…そうだな、あんたの力借りるよ、旦那を助けるために」 ナヘルはその魔導機へと乗り込んだ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ちっ、ジジィがてこずらせやがって」 「まさかこんなジジィに用意した部隊の半分をやられるとは」 アルのワルドーザーは大量の敵を相手にし、かつアルの限界を超えた操作に耐え切れず沈黙した そのままコックピットから魔導機に掴まれてしまった 「くっ、ワシも年を取り過ぎたか…」 「まぁコレで俺達の受けた依頼は完遂したが、ついでだ、ジジィ、魔導機のありかはどこだ」 「主らに奴は操れんよ、それに奴は今、自らの操主を招き入れた」       ヒュゴッ!! その言葉と共に先ほど開いた穴から影が飛び上がる その影は魔導機の部隊を跳び越し広場の端に降り立った 「目覚めたか、レーヴァン…」 「あれが伝説の魔導機…」 ゆらりと魔導機、レーヴァンが体を傾け、剣に手をかける 「旦那を放せぇーっ!!」 「さっきの女か!?」 すさまじい剣幕と共にレーヴァンが魔導機達に突っ込む 止めようと群がる魔導機たちは次の瞬間派手に吹き飛ばされた 「旦那を放せ、このやろー!!」 ナヘルの怒りが機体を通して他の魔導機を振るわせる 「コレが、伝説の魔導機の力…」 「アレはレーヴァンだけの力ではない、ナヘル自身の力じゃよ…」 部隊長はアルを掲げる 「女、それ以上抵抗すると、このジジィを握りつぶすぞ」 「なっ!?」 レーヴァンは動きを止める 「オイお前ら、このまま本部まで戻るぞ」 「良いんですか隊長?あの魔導機の捕獲は?」 「いい加減戦力不足だ、こうなった以上本来の任務を最優先する」 そう言うと魔導機たちが撤退を始める 「旦那…」 「今は堪えろナヘル、そしてレーヴァンと共に旅立て、世界を知るんだ」 「黙っていろ、ジジィ」 「旦那ぁ!!」 そうして魔導機たちはアルを連れて森の向こうへと消えていった −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌日、旅支度を済ませて長年住んだ家を出る アルを助け出すために そしてアルの言ったように、世界を知るために レーヴァンと共に 「昨日の今日で急だが、よろしく頼むぜ相棒」 レーヴァンは動かない、しかしナヘルにはレーヴァンが答えてくれたようにも感じた (必ず助け出すからね、旦那…) 「まずはディオールの首都に行ってみるか、何をするにも情報が足りないからな」 そう言ってレーヴァンと共に首都を目指す それからの旅はナヘルの想像を超えて大きくなっていく しかしその事にナヘルはまだ気が付かない ナヘルの旅は始まったばかりなのだから 続かない