■RPGSS■                 大魔王達の饗宴(上)  抜ける様に青い空には、見事な入道雲がかかっている。  白や赤の石造りの様でもあり土で出来てる様にも見える四角い建物からは時折タマネギの様な屋根が見え、 道沿いに植わった椰子の木はかすかに吹く風に葉を揺らしている。  敢えて石畳を敷かず土のままの目抜き通りは城門からまっすぐに伸びており、溢れんばかりの人で賑わう屋 台や店舗の向こうには、この国を統治する者が住む宮殿の一際大きなタマネギ屋根たちが見えた。  此処は南国。芸術と娯楽と学問の都。  その城門前の広場にて、 「あつい!」    腕を組んで仁王立ちになり、力いっぱい叫ぶ少女の声が通りを割らんばかりの勢いで響いた。  頭に篭を乗せた奥さんも、天秤棒を担いだ売り子も、ターバンに見事な羽を飾った衛兵も、賑やかに音楽を 奏で軽業を披露する辻芸人達も、授業に専心していた青空私塾の教師と生徒も。  皆の視線が一挙に集まった先には、何とも珍妙な集団がいた。  とりあえず周囲がなんだなんだと騒ぐ前に、先程通りを割った少女が、仁王立ちのまま再び声を上げる。  紫色の髪が人目を引く、ぷにっという擬音が似合いそうな愛らしい少女だが、今その顔は不機嫌さと不快さ で歪められていた。 「あついあついあついあついあついあついあついったらあ〜つ〜い〜!! 何なのよ、この暑さは!」 「そりゃ此処は南国だしねえ」 「暑いに決まっとろうが、小娘」  ダダをこねる様にわめく少女。地面に寝っ転がって手足をバタバタさせていないのは、単に砂塗れになるの が嫌だからだろう。  そんな少女に応えた声の主たちは、どちらも美しかった。二人を見た女性のみならず、男性も子供も息を呑 むほどに。  一人は正に神の手による芸術だった。身体を構成する全ての部品とラインが黄金比とも言うべき完璧な整列 を為し、白い肌と波を打った豊かに輝く金髪と、紅緑の妖眼は本物の黄金や宝石など霞むような輝きを誇って いる。  もう一人は、先の青年と比べると多少幼さが目立つ顔立ちをしていた。顔の線にもやや丸みがあり、くるり とした大きく輝く鳶色の目もサラサラだがあまり整えられていない灰色の髪も、完璧にはならない隙を窺わせ る。しかしそれは決して劣る要素とはなってはおらず、逆にもう一人が持ちえぬ愛嬌と親しみ易さを打ち出し ていた。  人々は二つの芸術に一瞬見惚れ、次の数瞬、様々な顔で凍りついた。  二人の格好は鏡に映した様に全く同じだった。いや、それは良い。  それは良いのだが。  大きな麦わら帽子、これは特に問題ない。  手にした虫取り網もまあ良いだろう。  肩からかけた虫かごも、この際眼を瞑ろう。  しかし、上は白い木綿のノースリーブシャツ一枚、下は半ズボン――腿の所までだ――そして素足に薄いサ ンダル、そんな服装と組み合わさると、これはもう。  虫取り少年だった。と言うかむしろ、カッペだった。まごう事なきド田舎のカッペ達が其処にいた。しかも その格好をしているのはいがぐり坊主頭の少年ではなくイイ歳こいた大人で、更に着飾ってポーズでもキメて 立ってたらそれだけで世の女性連中が卒倒するような、そんな美形たちである。  凍りつくしかなかった。  そんな周りの思いは歯牙にもかけず、二人はマイペースに会話を続ける。 「ところでアドちん。まだ意見を変える気にはならないのかな?」 「アドちん言うな、バルきち。何度言われようとも俺様の意見は変わらん。王たる者ならばモルカーナ密林で 狙う虫は唯一つ、ダスティン=ゴールドだ」 「そんな成金趣味丸出しな浅い思考で、虫取り道を語って欲しくないなあ。モルカーナのダスティンを捕まえ る? 馬鹿言っちゃいけない」  余談だが、モルカーナ密林地帯はこの国に存在する秘境である。多様かつ珍重な生物群が織り成す独自の生 態系は、学術的な宝庫であると同時に、生存という面では極めて厳しい危険地域だ。  間違っても、虫取り少年スタイルで挑める場所ではない。  それはともかく。  金髪の男の声は低く美麗で、灰色の髪の青年は柔らかくどこか幼い響きを持っていた。  力強く言い切るアドちんに対し、バルきちは――このあだ名だけでも色々と台無しだ――やれやれといった 風に首を振って、明らかに侮蔑を含んだ溜め息を返す。 「確かにダスティン=ゴールドは、稀少種中の希少種だよ? 黄金色も鮮やかに、その甲殻は如何なる武器も 魔法も通さない。『密林の黄金』って言われるのも伊達じゃないさ」 「そうだろう、そうだろう」 「でもね? だからこそ、ダスティンを狙うなんてのは俗物のやる事さ」 「ほう?」 「ああ、有名なものを狙うのがいけないなんて通ぶったネジくれオタクみたいな事は言わないよ? ダスティ ンの歴史を知らない訳じゃない君じゃないだろう」 「かつてその希少性と美しさと性能の為に乱獲された奴等は、その数を激減させた。今でも密猟は後を絶たず、 その存在を守る為、今日魔族側は元より、国境付近とは言え魔族国家圏に住む蟲であるにも関わらず、人類側 も共同で保護法を制定している」 「分かってるじゃないか。なら、なんだって……」 「それでも採りたいものは採りたいわ! 法律なんぞ知った事か! 俺様は魔王だぞ! 法を破るは当然の義 務、欲しいものは力づくで奪う! 俺様に捕まるようなら、ダスティンなぞ所詮そこまでの奴等だという事よ!」 「この分からずや! どうしても意見を曲げないんなら、霜舟の『乱れ千羽』、見せてやんないからな!」 「ぐはっ!? き、貴様、俺様が霜舟ファンだと知っての狼藉か!? 『乱れ千羽』は霜舟最初期にして不世 出の大作、あれを貴様が手に入れたと知って、俺様がどんな思いで貴様に頭を下げたと……」 「知ってるから言ってるんだよ!」 「くぅ、ならば、氷柱花草人どもの叡智の傑作、リムネーゼルの47年物は貴様にはやらん!」 「なっ!? あ、あの氷晶苺ワイン幻の傑作が見つかったって言うのか!? 噂の中だけのものだと思ってた のに!」 「くっくっく、驚くのも無理は無い。発見は全くの偶然だったからな。  ウチの北部地域の一部のみに伝わる、氷柱花草の一族から伝授された結晶果実酒の秘奥の数々、その最高傑 作がこの程、北リヴェン伯爵領にある掘っ立て小屋の地下から発掘されたのだよ。  どうだ? 自他共に認めるソムリエールの貴様には溜まらん話だろう」 「うん」 「でも、やんない」 「なにーっ!」 「貴様が『乱れ千羽』を開帳するなら考えても良いぞ」 「イヤだ!」 「なにぃ!?」 「でもリムネーゼルはよこせ!」 「あ゛あァ!? 貴様ナメとるのか!?」 「お゛おォ!? そっちこそ!」   「やれやれ。まったく……そんな珍妙な格好をして往来のど真ん中で喚きあうな、恥ずかしい」 「「お前に言われたくない」」  遂にはメンチの切り合いになった二人のやり取りを呆れた様に眺める、怜悧な容貌を持つ男のため息に、互 いを威嚇中だったカッペ二人は全く同時にぐりんと振り向いた。  その先にいたのは、二人とさほど歳の変わらなさそうな三人目の男。  眉目秀麗なのはカッペ二人と変わらないが、それは他の二人と違う、冷たく硬質な鉱物の輝きだった。  鋼の光沢を持った銀の髪と、紅玉の様な真紅の瞳、引き締まったしなやかな彫刻の様な体躯のいずれもが物 質としては柔らかいのに硬く在り、それ故に他の二人には無い宝石の光沢の如き美がある。  その美形ぶりは先の二人にも劣らず…………その台無しぶりも、二人と良い勝負だった。  腕を組み、足を軽く交差させて椰子の木に寄りかかる。日陰にてこの上なくクールに佇む彼は、縞々の水着 を着ていた。  爺さんが良く着ているイメージなタイツっぽいあれである。  微妙だ。  いっそブーメランビキニとかなら、ネタとして大笑いも出来たかもしれないのに。  ちなみに日光避けに羽織った茶灰色のマントと見えたものは、よく見るとバスタオルだった。  足に履くのはビーチサンダルである。  明らかに浮いた格好を全く意に介さず、堂々と佇む彼の傍らには小さな影があった。  少女である。見た目としてはミントよりも幼く、幼女と形容した方が良いかもしれない。  ピンクのポンチョを羽織ってる……と見せて、これもまたバスタオルだった。と、なると、その下でどうい う格好をしているかは想像に難くない。 「あ……あの、旦那様……」 「どうした?」 「あの、その……この格好なのですが……」 「うん、似合っているよ。我が愛する妻。その姿は正に清純なる流水の乙女、セイレンどもの淫靡な歌声もそ の純粋な美の前には恥じ入って消え行くだろうとも」  寒いを通り越して正気を疑う様な台詞を、微笑みと共に吐く魔審官。どう見ても頭の可哀想な人か罰ゲーム なのだが、当人至って真面目である。 「あ、そ、そう言っていただけると嬉しいのですが……」 「……どうした?」 「あ、いえ、その、あの、やはり…………街中の、それも人目の多い場所でこの様な」 「なんと!?」  冷たい大理石に真紅の熱が灯る。  がばりと、人目も憚らず、妻と呼ぶ幼子の身体を抱き締めた。無遠慮な衆目の視線から庇うように。 「きゃっ!? だ、旦那様……苦し……」  驚く幼女の声を聞きながら、怒りの熱を灯した宝石を、周囲へと巡らせて叫ぶ。 「おお、妻よ! 誰だ、我が妻を辱めこの様に顔を曇らせた不届きものは!?」 「「お前だよ」」  カッペ二人が同時にツッコんだ。 「なにぃ!?」 「だから、お前だろうが。ここ来る途中に『このクロッチェンという都市は、服飾が盛んらしいな。ここなら 我が妻の美しさに耐え得る水着もあるだろう』とか言って、無理矢理寄り道したのは貴様で」 「実際着せてみたら、『おお、なんと美しい!』とか何とか言って舞い上がって自分用の水着も買って『ああ、 次はプールだ』とか公営プールにダッシュしようとしたのも君だね」 「そんで、そのままこんな人目のある街中を水着で歩かせる羞恥プレイやらかしたのも、あんた。納得した?」 「……な、なんと……!」  さり気にミントも加わっての解説に、彼は頭を抱え、 「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」  いきなり椰子の木に頭をぶつけ始めた。 「だ、旦那様!? 何を!?」 「止めないでくれ! 最愛の君を辱めた俺には、君の声を聞く資格すらない! せめてこの身に煉獄の苦しみ を課す事が、せめてもの償いに……」 「馬鹿な事をおっしゃらないでください!」  張り上げた妻の声。滅多に聞かない本気の怒り声に、銀髪の男はびくりと動きを止めた。 「かつて貴方が私の為に幾百万幾千万の業火の苦しみを味わった時、私がどんなに辛かったかお分かりですか?  繰り返しその身を灰にされながら、私に微笑んでいた貴方の顔を見ながら、いっそこの業火を身に受けた方 がどんなに楽かと、そう思った事をご存知ですか?  貴方は、また、私にそんな気持ちを味わせるおつもりなのですか?」  つぅっと。少女の頬を流れる、一筋の雫が流れ、南国の熱気に消えた。  否。  かつて男がその身に受けた、そして少女がその心を焼いた灼熱に比べれば、今この時の陽気など微風に劣る。 「もう……私を哀しませないでください」 「……すまない」 「ご自愛くださいね。貴方は、私の幸福の全てなんですから」 「……! 妻よっ!」 「旦那様っ!」  感極まったように、がばりと抱き合う二人。  ちなみに、彼の頭にはコブどころか傷一つ出来てはいない。一方、椰子の木は今正に幹の途中から折れかか っていた。と言うか、たった今、折れた。  ついでにその後ろでは、ミントが耳をほじりながら空を眺め、アドちんとバルきちが砂に描いた五目並べに 白熱していた。  感動的な場面なのかかもしれないが、見せ付けられる回数が既に3桁を突破しているとなれば、そりゃこう いう反応にもなる。  この世に変わらぬものは無い。それは、例え魔であろうとも例外ではない。愛と、無垢なる哀しみと、悠久 とも言える刻の流れが、彼を変えた。  かつては煉獄の神炎に焼かれながら堕ちた、純粋なる輝きに魅せられし天使。今は魔審官と書いてロリコン と読む、バカップルの片割れたる似非クール。  それが魔同盟大アルカナの20・『審判』ことフォルサキューズである。 「相変わらずの馬鹿ップルぶりだな? つーか何だ、只の馬鹿だな、うむ」 「何なのそのカッコ、その言動。そのよくもまあ、そんな恥ずかしげもなく堂々とバカをやれるよね。感心す るよ」 「もうちょっと人目を気にしなさいよね、このバカ、このバカ、このぶゎ〜〜〜か」 「お前らに言われたくない」  こんな連中のこんなシーンを目の当たりにしながら、一行の残りの一人、べるごは途方に暮れていた。  勿論べるごというのは、本名ではない。新米のぺーぺーのシタッパー魔王、Lv.5なので略して「べるご」 である。  「魔王」とは言っても、Lv.5の数値が示す様に、彼女自身の格は下の下である。ポテンシャルを秘めて いると言えば聞こえは良いが、開花しないなら無いのと同じである。生まれのみで魔王と名乗る、名乗れる、 それだけの存在だ。それを自覚している彼女にとって、大魔王とも言えるこの先達達はまごう事なき尊敬と憧 憬とそして劣等感の対象だった。「魔王である」というその一点の繋がりで、最底辺の自分とも隔てなく後輩 として付き合ってくれる事に喜びと申し訳なさを一抹の悔しさを感じる。  そんな彼女ではあるが、この事態はちょっとフォローしきれなかった。  今、ここに揃っているのは間違いなく世界の焦点たちばかりである。  古(いにしえ)を受け継ぐもの、古く貴き大魔が血脈の正統にして正当なる後継・ミント。   魔同盟が一柱であり、狂王とまで呼ばれる酔狂さと特異な力で畏れられる『契約の悪魔』・アドルファス。  己が国を賭けての勝負を好む、狂王と同列の酔狂としても知られる強く雄々しき西の英傑・バルディル=バルト=バルバロス。  愚かしくも透明な愛故に堕ち、魔同盟が『審判』と魔を裁く『魔審官』の位を賜った、業火の堕天使・フォルサキューズ。  彼らと、これから合流する予定の面子ががその気になれば、皇国だろうが王国連合であろうが破天であろう が24時であろうが例え勇者パーティであろうが、殲滅するのに一刻もかからない、というのは流石にべるごの 欲目だろうが、実際戦い方次第では、今からそれら――勇者以外――を打破する事は、決して絵空事とは笑え ない。  だが、しかして。  実際に目の前にいるのは、どこからどう見ても、阿呆と変態と色情狂ばかりであった。  もしもであるが、今ここに勇者がいたとしたら、システムの虜囚にして権化たる彼の存在意義を揺るがす事 さえ可能だったかもしれない。 ――俺、こんなん斬る為に呼吸してんの?  そんな感じで。  周囲が波のように引いていく気配と、実際に引いていく後ずさりの音と、合わされないようにされた目と、 しかして突き刺さるようなカワイそうな人を見る視線と。  そういった諸々に圧されながらも倒れまいと踏ん張っていたべるごの膝は、 「ママー! あの人たち何してるのー?」 「しっ! 見ちゃいけません!」 無邪気に問う子供の手を引っ張り、そそくさと足早に立ち去る母親を見るに至って崩れた。  その場にしゃがみ込んで両手で顔を覆う。  涙が溢れそうに、心が折れそうになるのを必死で堪えながら、必死に己を鼓舞した。  (がんばれ! がんばるんです、あたし! くじけちゃダメ! あたしがしっかりしないでどうするんですか!?  『魔王』の威厳は今、あたしの肩にかかっているんです!)  もう手遅れじゃないかな、と何処かから誰かが呟いた様な気がしたが――それは、自分の心の奥からだった かもしれないが――それは全精神力を懸けて黙殺した。  そんな彼女の肩をポンと叩く手が。  振り向いて見上げると、杖をついて立ってるのが不思議なほどプルプル震えた爺がいた。  べるごが何か言う前に、「分かってる、分かってるとも」という風に首を振り。  彼女の両手を取って何かを握らせる。  目を落とすと、それは何枚かの銀貨だった。 「その歳で〜、たいへんじゃ〜の〜。少ないが〜足しにぃ、しとくれぇ〜」  そう言い残して立ち去る爺を見てか、引いた人の群れの中からも何枚かの貨幣がべるごの足元辺りを目掛け て飛んでくる。  聞けば「がんばれよー」とか「気を落とすなよー」とか、そういう声も一緒にちらほら飛んできた。  その瞬間、べるごの目から大粒の涙が溢れたのを見て、人々は彼女が感極まったものだと思った事だろう。  実際、感極まっていた。何が極まっていたのかは、人々の想像と180℃真逆だろうけれど。  何が一番キツかったって、意志とは関係なく小銭をかき集め、愛想笑いと一緒に四方八方にぺこぺこ頭を下 げるまでに極まった己の商人スキルだ。  魔王Lv5.頑張ってます。でも、多分あと一押しで、心折れます。  だって女の子だもん。 「こらー! そこのキミ! 降りて来なさーい! 街路樹の実を採るのは禁止されてるんだ!」 「うっせー! ミントは喉乾いてんのよ! こんなにあるんだからケチケチすんじゃねー!」 「そういう問題じゃないんだって! 椰子のジュースが飲みたければ露店で買い……痛っ、こら、貴様っ、蹴 るな!実を投げるな!」  暑さのあまり――そういう事にしといてあげたい――どこぞの珍獣の様な物言いと行動を始めたミントと、 彼女を止めようとする衛兵のやり取りが聞こえてきた。  一押し完了まで、あと数秒。果たして、救いの手は無いものか。  あった。  突如、どこからか、歌が聞こえてきた。  それを聞きとがめ、べるごは顔を上げて辺りを見回す。  何なのか。さっぱり分からないが、市民達には馴染みのあるものらしい。それまでとは違う畏れを以って、 自分達から下がっていった。  と、突如として旋風が巻き起こり、自分の目の前に、忽然と六人の少年少女が出現した。  全員が同じ顔を持ち、同じ様な黒服を着ていて、パッと見全く区別が付かない。  その為なのか、それぞれの頬にはTからYまでの番号が割り振られていた。  彼らは、べるごを、いやべるご達の方を向くと、全く同じ動作でうやうやしく一礼した。 「魔」「王様方」「ですね」「「「お迎えにあがりました」」」  なんとも奇妙な連携だった。男の三つ子は一人一人が文の途中でぶつ切りにし、女の三つ子は全員で一斉に 言葉を吐く。  特に打ち合わせる様子もタイミングを計る事もなく、ごく自然に、会話を歌う様にして、彼らは話している。 「我々は」「六吼と」「申します」「「「以後よしなに」」」  そう言って、いや歌って、彼らは通りの先にある、宮殿を指し示した。 「では」「参り」「ましょう」「「「ルシャナーナ様がお待ちかねです」」」 《続く》  ぽつねんと。  彼らから少し離れるようにして、一人の少年がいた。  普段は黒い制服に身を包む彼だが、今は原色豊かなアロハシャツ(特注)と膝丈までのハーフパンツを着て、 遮光眼鏡を額にかけている。  彼は、明らかに暑さによるものとは違う脂汗を一筋流しながら、傍らに控える、首を小脇に抱える女性に呟 いた。  ちなみにこのデュラハンと思しき女性、この暑い中でも普段どおりにかっちりしたメイドの衣装を着込んで いる。 「……結局、最後の最後まで会話に咬めなかった…………」 「全く情けない。あのLv.5小娘にまでおし負けるとは、そんな事では魔王の名が泣きますよコウ様。大体 ですね、コウ様は魔王としての覇気が足りないのです。もっと自覚を持って決然と臨まねば今のように蚊帳の 外に置いてきぼりになるばっかりで、実力を持っていても展開的にかませ犬にしかならなくなってしまいます よ? 私にはコウ様を立派な魔王とする義務があるのですからもう少ししっかりしていただきませんとああそ う言えばこの前も」