言霊学園にテストの季節がやってきた。 妙な我慢比べだったり根性試しとかでなく普通のテストである。 奇人変人の養殖場と呼ばれる言霊学園も一応高校なのでやる事はやっていた。 と見せかけて当然普通じゃない事もやるのが言霊学園である。 なんと驚くべき事に言霊学園ではテスト前に生徒が答案用紙を盗んでもいい事になっているのだ。 といっても学園側は何もしないという訳はなく答案用紙は教師棟の隣にそびえ立つ「白い巨塔」の最上階に保管されさらに腕利 きの教師が番人として答案用紙を守っているのだ。 この制度は守護者(ガーディアン)制度と呼ばれテストに自信のない生徒を救済するために設けられた制度である。 だが当然ペナルティも存在し番人に敗北した生徒は全教科のテストの点数を半分にされてしまうのだ。 まさにハイリスクハイリターンである。 それでも毎回テストの時期になると百人以上の挑戦者が現れるのだから驚きである。もはや風物詩と言ってもいいだろう。 と、いう訳で 「さぁいざ行かん白い巨塔!目指すお宝はそこにある!!」 「夜中なのにテンション高いなぁ・・・」 猫神狐狗狸と一本槍魁子はそこにいた。時刻はすでに0時を回っている。 「そりゃテンションも上がろうともさ!なにせついさっき金曜ロードショーでカリオストロの城を見たばかりだからね!!」 そう叫ぶ近所迷惑な狐狗狸の服装はルパン三世のコスプレだった。当然ジャケットは緑である。 「それでそんな格好してるのかよ。というか前から思ってたんだけどそういうコスプレ衣装どこから持ってくるんだよ。こない だのメイド服といいそのルパンといい」 「僕のクラスに結城千鶴というコスプレ趣味のある友人がいてね。魁子は接点がないから知らないだろうがね」 「相変わらずお前の交友関係は普通じゃないな・・・」 その交友関係に確実に自分が含まれているだろうと思いつつ魁子は小さく溜め息をついた。 「というか魁子、そういうキミだってしっかりコスプレして来てるじゃないか」 「いやこれはコスプレじゃなくてある意味正装であってだな」 「僕が知らないでも思ったのかね。一見ただの黒いスウェットに見えるがそれは燃えよドラゴンでブルース・リーが着てたスウ ェットのレプリカだろう。しかも白いナップザックまで忠実に再現してるじゃないか」 「だって夜中忍び込むのにこの格好しないなんてリー先生に失礼じゃないか!」 「分かった分かった。分かったから落ち着きたまえよ。まぁ動きやすいだろうし僕は一向に構わんが破れたりしたらまずいんじ ゃないのかね?」 「大丈夫!これは実用で保存用は別にあるから!」 魁子はそう言って誇らしげにBカップの胸を張った。 「・・・さて、虫除けの効果が切れる前に行くとするか」 「無視すんなよ!」 塔の中はすでに死屍累々だった。 先に入った者達が気絶しそこら中に転がっていた。 番人である教師の仕業だろうがせめてもうちょっと丁寧にしてもいいんじゃないかってくらいいい加減な転がし方である。 しかもよく見ると何人かの生徒の顔にはマジック(たぶん油性)で落書きまでしてあるではないか。 とても聖職者の所業とは思えないが言霊学園だしこれくらいは日常の範囲内だろう。 「こいつらは世紀末倶楽部だな・・・。で、こっちは迷彩服だしサバゲー部か。こんな狭い所じゃエアガンなんて有効じゃないの に馬鹿な奴らだな」 「そう言うな魁子。彼らは自らの信じる武器を手に立ち向かったのだ。結果はどうあれ悔いはないはずさ。それより早く上に行 こう」 2人は夢破れた者達の墓場を後にして階段を駆け上がった。 途中狐狗狸が階段から転がり落ちるというハプニングもあったが無事最上階へと辿り着いた。 あとは目の前にある扉を開けるだけである。 「さてさて、待ち受ける守護者は誰かな」 「あれだけの数を倒すくらいだし格闘技系の部の顧問辺りだろうな。・・・それじゃ開けるぞ」 魁子はゴクリと唾を飲み込むとゆっくり扉を開けた。 広さは一般的な教室と同じくらいだろう。 四方の壁に扉が設けられたその部屋には男が1人いるだけで他には何もなかった。 「次の赤点希望者は君達ですか・・・」 男は眼鏡の位置を直しながら静かに呟いた。 男の名前はロジャー兼政。社会科教師にして男子剣術部の顧問を務める男だ。 「ろ、ロジャー!?・・・先生」 予想以上の相手に魁子は戦いた。 ロジャー兼政といえば言霊学園最強の剣士であり嘘か真か居合で鉄骨を両断したと噂されるほどの技前である。 か弱い女子高生2人の相手としては強大過ぎる相手だ。 だがロジャーは戦く魁子を尻目に淡々と言葉を続ける。 「いくら特別手当が出るとはいえ今日だけでもう30人以上相手にしてるんですよ。私だってもう若くないんですからそろそろ休 ませてくれませんかね。大体猫神も一本槍・・・は微妙だがそれでも赤点という事はないでしょう。まぁここに来てしまった以上 赤点ですが若者が安易に楽な道を選ぼうというのは感心しませんよ」 「テストの点は問題じゃないのですよ先生。そこにお宝があるのなら手に入れたくなるというのが大泥棒というものなのです」 「相変わらず猫神は変わっていますね。分かりました・・・そういう事なら容赦しねぇ!このロジャー先生様がてめぇらクソガキに夜の教育指導をしてやらぁ!!」 何がスイッチだったのだろうか。 ロジャーは突如として汚い言葉使いのクレイジーな×××野郎へと変貌を遂げた。 腰の日本刀は既に抜かれている。 生徒相手であるため真剣ではなく模造刀だがロジャーほどの使い手ならばそれがたとえ割り箸だとしても十分脅威に違いない。 「フッ、ついに本性を現したなこの教育者ならぬ狂育者め!この猫神狐狗狸が引導を渡してくれる!!」 気絶しかねないほどの殺気を当てられてるにも関わらず狐狗狸は何故か生き生きとしていた。 「ちょ、大丈夫なのかよ!相手はあのロジャーだぞ!?あたしらが勝てる相手じゃないって!」 「まぁそう慌てなさんな。僕が何の策もなくここまで来たと思っているのかい?まぁキミは下がって見ていたまえ!」 自信たっぷりにそう言うと狐狗狸は懐から縁日でお馴染みの水風船を取り出した。どうやって持ち歩いていたのかは気にしては いけない。 狐狗狸は大きく振りかぶると水風船を思いっきり投げた。 「食らえ!44ソニック!」 大層な名前とは裏腹なへっぽこボールがロジャー目掛けて飛んでいく。 「シャアッッ!!」 当然水風船はロジャーに当たる前に斬り落とされたがその結果ロジャーは水浸しになってしまった。 「チィ!小賢しい真似しやがってこのガキャア!!」 「フハハハハ!悪いがまだ僕のバトルフェイズは終了していないぞ!」 猛り狂うロジャーを文字通り嘲笑うと狐狗狸の手には見慣れた黒い物体が握られていた。 毎度お馴染みのスタンガンである。ここまでくれば次の行動が予想出来るだろう。 案の定狐狗狸はスタンガンをロジャー目掛けてぶん投げた。 「ライトニングボルトーーー!!」 「フン!」 が、これも予想通りスタンガンは水風船同様空中で両断されてしまう。 「くっ!流石ロジャー!まさか僕のアトミックサンダーボルトを防ぐとは!」 「ライトニングボルトじゃなかったのかよ」 「かくなる上は!ムッ!ハアァァァァァ・・・!!」 魁子のツッコミを無視した狐狗狸は何やら拳に力を篭め始めた。 そのただならぬ雰囲気にロジャーも警戒を強めている。 「ハアァァァァァ・・・ハッ!!」 次の瞬間狐狗狸の手から一輪の小さな花が出現していた。 「今はこれが精一杯」 「お前もう帰れば・・・?」 もう、というか最初から頼れるのは自分1人だけだった事実を確認し魁子はいよいよロジャーへと向き直った。 「ケッ、次はてめぇか一本槍。まぁ精々一瞬で気絶させてやるよ」 「ふん、あたしを舐めてると痛い目見るぞ。教師だからって殴られないとか思わないでくれよな」 「ほぉう、生意気な口叩くじゃねぇかガキ・・・」 もはや完璧に犯罪者の顔である。 こうなると怒りの原因を叩きのめすまで止まらないのがロジャーという男である。 魁子と狐狗狸の命とテストはもはや風前の灯火だ。 だがこの状況でも決して諦めないのが魁子のいい所である。 スウェットの上を脱ぎ捨て白いタンクトップ姿になった魁子は軽快なステップを踏みつつロジャーとの間合いを計っていた。 (初速は同じくらいだろうけど間合いはロジャーの方が圧倒的に広いからな・・・。こんな事ならヌンチャクくらい持ってくるん だったな) 「どうした?ホラ、かかってこいよ?ん?」 じっくり様子を伺う魁子を挑発して自分の間合いに誘い込むつもりだろう。 浅はかな戦術だが挑発に弱い魁子には有効だ。いつもの魁子ならばの話だが。 「どうした一本槍?ホラ、先生を殴るんじゃなかったのか?」 (落ち着け・・・不用意に飛び込んだらロジャーの思う壺だぞ) 今日の魁子にはどうしても負けられない理由があった。 それは先日の事である 「やぁ魁子。明日の夜なんだけど白い巨塔に行くから空けといてくれ」 「絶対にノゥ」 「そう言うと思っていたよ。なので僕はこんな物を用意した」 「何を用意したって?」 「チラッ」 狐狗狸が懐から一瞬だけ何かを覗かせると魁子は全力で食いついた。 「もし無事に答案用紙を手に入れる事が出来たらこれを譲ってあげようかなーなんて思ってるんだが」 仮に魁子がジョジョオタであってもこの時『だが断る』とは言えなかっただろう。 かくして交渉は成立した。 (なんとしても答案用紙を手に入れてアレを貰わないと・・・!アレだけは絶対に!) 焦る気持ちを押さえつけ魁子はただひたすら一瞬の隙を伺い続けた。 先に痺れを切らしたのはロジャーだった。 「くぉんのガキャアさっさとかかってこいっつってんだろうがぁ!」 唐竹割り一閃。 ロジャーの剣は一筋の光となり天から地へと走り抜けたがその軌道に魁子の姿はなかった。 冷静な時ならいざ知らず頭に血が上ったロジャーの剣は速さと威力が増した分その筋が読み易くなっていたのだ。 「ゥアチャゥ!!」 魁子の拳はロジャーの脇腹へと綺麗に決まっていた。 「フゥゥゥゥ・・・!!」 そしてこの好機を逃さす即座を畳み掛けようと追撃をしようとしたその時─── 「ッくぅ!?」 何かを感じ即座に後ろへ飛んだ魁子の目の前をロジャーの剣が走っていた。 「くっ!」 ギリギリ回避したかに思えたがその切っ先は魁子の腹部をかすめタンクトップを切り裂き、その隙間から日焼けしていない白い 肌が覗いていた。 「ふぅー・・・すいませんね。どうやら取り乱していたようで」 ロジャーは冷静さを取り戻していた。 どうやら魁子の攻撃を受けた痛みで我に返ってしまったようだ。 狂乱状態のロジャーであれば何とかなったかもしれないが冷静な状態のロジャーが相手では魁子の勝ち目は全くないだろう。 (やっぱあの時無理してでも畳み掛けるべきだった・・・!どうする?もう一度怒らせるか?いや、たぶん無理だな・・・じゃあどう する) 絶望的な状況で頭の中を纏まらない考えがかき回し今度は魁子の冷静さが失われていた。 (一か八か特攻をかけるか・・・よしっ!) 「魁子!これを使いたまえ!」 若さ故の過ちを犯しそうになった魁子を止めたのは狐狗狸だった。 魁子はハッとして振り返り咄嗟に狐狗狸が投げたであろう何かをキャッチした。 「これは・・・」 「本物とはちょっと違うがキミなら扱えるだろう」 そう言って狐狗狸はニヒルに微笑んだ。 「いや、使えるとか使えないていうかこれ?ハンガー”じゃん!!何でこんなもん持ってるんだよ!?」 そう、狐狗狸が魁子に渡したものとはハンガーであった。 「なぁに、ルパン三世のコスプレをするにあたってモンキーパンチ体型の特徴であるいかり肩を再現するためジャケットにいれ ておいただけさ!」 「あーもう何かよく分からないけどないよりマシだ!ありがとう!」 そんなコントをしている2人をロジャーは冷めた視線で眺めていた。 「・・・一本槍。君はてっきりブルース・リーオタクかと思っていたが武田鉄也もイケたんですね。案外守備範囲が広いですね」 「違う!これは今だけ!緊急避難!あたしはリー先生一筋だ!!」 「どっちでもいいですけどね。どの道そんな物で・・・痛っ!」 喋っている最中刀を持つ手に痛みを感じ不覚にもロジャーは刀を取り落としてしまった。 魁子のハンガーヌンチャクである。 ロジャーとしては喋っていても油断はしていないつもりだったがやはりハンガーという滑稽さに惑わされ気が緩んでいたのだ。 加えて魁子達以前に30人以上もの生徒と戦いを繰り広げていた事による披露の蓄積がロジャーの反応を鈍らせていた。 その結果が刀を落とすという失態に繋がったのだが後悔してる時間はない。 ロジャーは素早く刀を拾おうとしたがその顔面をハンガーヌンチャクが容赦なく襲った。 ただの木製ハンガーが恐るべき凶器へと変わった瞬間である。 「アチョーーーー!!アチョ!アチャ!アチョ!アチョ!ゥアチョーーーー!!!」 魁子は抵抗できないロジャーを一方的に攻撃し続けた。ずっと俺のターン状態である。 (これならイケる!) そう思ったのも束の間、魁子のバトルフェイズは唐突に終了した。 ハンガーが壊れたのだ。 魁子の無茶苦茶に付き合えるほどの耐久性はハンガーにはなかったのである。 そして攻撃が止んだ事によりロジャーも刀を拾って復活してしまった。 しかも思ったよりダメージは軽かったらしく平然としていた。 「てめぇ威勢よくぶっ叩いてくれたじゃねぇか・・・。覚悟は出来てんだろうな?」 &再び狂乱モードのスイッチが入っていた。 今度こそ万事休すである。 (明日は1日保健室のベッドで過ごす事になりそうだな) そう思っていたその時である。 「スカーレットニードル!!!」 突如狐狗狸の声が響き渡った。 しかしその姿はどこにも見えない。 魁子がキョロキョロと辺りを見回していると刀を振りかぶっていたロジャーが無言で倒れた。 「な、何だ!?って狐狗狸!そこにいたのか!」 行方不明だった狐狗狸はロジャーの後ろにいた。 そして何故かその手の形は忍者が印を結ぶ様な形に固められている。 「安心したまえ。ロジャーは完全に沈黙したよ」 「沈黙って・・・あ、ホントだ白目剥いてる。じゃなくてお前一体何したんだよ!?」 「それは企業秘密だよ。それより魁子、服が破けてるじゃないか。ホラ、早く上着を着たまえ」 狐狗狸は落ちていた魁子のスウェットを拾い──気のせいか拾う時指を擦り付けてるように見えた──ながら爽やかに言い放っ た。 「そして何よりロジャーを倒したという事はお宝は僕達の物という訳だよ!ワンピースゲットだぜ!」 「何か色々混ざってるぞ・・・って、えぇ!という事は!?やったのか!?あたしたちやったのか!?」 「だからそう言ってるだろう?僕達は試練を乗り越えたのだ!」 「じゃあじゃあ約束の例の物は!!」 「あぁ当然キミの物さ。キミの協力がなければロジャーを倒せなかったからね」 「やったぁぁぁぁぁぁ!!やった!やりましたリー先生!!!」 「はっはっはっ!近所迷惑だぞ魁子!」 こうして2人は無事答案用紙を手に入れる事に成功し白い巨塔を後にした。 ちなみにロジャーは答案用紙を守れなかった罰として来月の給料を15%カットされる事が決定した。 翌日、魁子はKMRの部室を訪れていた。 「狐狗狸ー!約束のモノ貰いにきたよー♪」 「気持ち悪い声出さないでくれたまえ。ほら、ちゃんとここに用意してあるから」 狐狗狸は小さなアタッシュケースを開くとその中身を魁子に確認させた。 「どうだい?僕も偶然手に入れる事が出来たんだがいいものだろう?何せ本物から型を取ったレプリカだからね」 「ありがとう狐狗狸!一生大切にするから!!本当にありがとう!それじゃね!!」 魁子はアタッシュケースをぬいぐるみの様に抱きかかえるとルンルンとスキップしながら去っていった。 魁子が去りKMRの部室には1人狐狗狸が残された。 「さて、それじゃあ次の仕事へと取り掛かるとするか」 後日KMRにけっこうな額の臨時収入が入ったがその出所は定かではない。 余談ではあるが今回のテストは高得点の者がかなりの数にのぼったという。 ◆あとがき◆ 久々に書きました。萌えよ小龍。 PGのSSを書いたりもしましたがこの話のネタ自体はずっとありました。 暖めていた訳でなくオチがなくて書かなかったんですが今回無事適当なオチをつけて書く事が出来ました。 ぶっちゃけ昔読んだ漫画のネタパクった訳ですがこれが一番無難だったのであえてそうしました。 開き直れば許してもらえると思ってる私はきっと最低ですね! 冗談はさておき今回もやっぱり自分の設定オンリーです。 と思ったけど1人だけ、名前だけの登場ですが他人の設定がありました。 結城千鶴の設定あき、借りました。ありがとう! どんな設定かは登場人物紹介を御覧下さい。 あと魁子が狐狗狸から何を受け取ったのかは秘密です。 以上、萌えよ小龍でした。 あーラブコメ書きてぇ