■極東SS■ 『舞え、舞え、画龍』その玖 登場人物 頼片 蓬莱(ヨリヒラ ホウライ) ・三味線弾き ・ダメセクハラロリコンキタナイクサイクズハゲヘタレヒゲボンクラお父さん ・今回出番なし http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/669.html 霜舟(ソウシュウ) ・墨絵描き ・いい女 ・お母さん http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/1440.html ゲスト出演 ゴザルマン http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/202.html 貧乳 http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/895.html 偽婆ァ http://www23.atwiki.jp/rpgworld/pages/918.html ----------------------------------------------------------------------- 何気ない風景。いつもと変わらぬ穏やかな街道。 昼間は人が通り馬が通り、夜は獣が横切り妖が徘徊し賊が得物を待ち受ける。 なだらかな下り坂は帝都から離れる者にとっては良い助け。 懐かしい、または呪わしい、若しくはそのどちらも含んだ心。故郷に向かう者たちの胸の内。 彼らの心を帝都から引き剥がすのが、この道。 まぁ、んなこたぁ商人や股旅の者にゃあ少しも関係ないけんども。 行きは良い良い帰りは辛いたぁこの事ですぜ。 それはさておき、その平和極まりない昼の街道に怪しい影がポツリ。 すわ、真昼間から妖か!などと息巻いてもしゃあない事。 よぉくみてごらんなさい、全身を覆う黒毛に見えるのは藍染めの服、人を一呑みに出来そうな 大きなド頭は天蓋という奇妙な編み笠。 この奇妙奇天烈な格好、「和々僧(ワナゴゾ)」という立派な神職である事を証明する格好なんである。 極東の神さんは大陸の龍さんと違って(そう違ってもいないか…)「あんた結局何がしたいのん?」 ってぇ御仁が多い。イワナガなんざゆとり的なキレ方をして極東をボロボロにした割になんでか ツンデレっぷりを発揮して人間にゃあ甘いし、ハクカスなんざ美味い酒飲む事意外なぁんにも 考えちゃあいない。いやまぁホントのとこどうなのかは知りようが無いのだけれど。 んで、和々僧の崇めるのはワヤワラノナゴっちゅう神様。 なんだか舌を噛み千切りそうな名前であるけれど、かの『放覩真事象記』にも出てくる立派な神さんである。 これもまた何がしたいんだかさぁっぱり解らん御仁で 「喧嘩は良くない!」なぞと叫んで戦を止めたと思ったら、次に戦が起こる前にとんずらこいてしまう… かと思えばまたふらりと姿を現す…っちゅうなんともフリーダムな神さんなのである。 ところがそんな首尾一貫しない行動でも、神さんがやるとなんだか大層なものに思えてしまうんである。 和々僧の創始者曰く「留まらぬ事、つまり執着せぬ事は争いを断つ事のできる唯一の方法である」…んだそうだ。 それを体現したのがワヤワノワラゴなんだってさ。本当かねぇ…? まぁ残念ながらこの話からしばらく時代が下ると、和々僧の格好は「何もしなくてもお金や食い物くれるぜ!」 ってんで無銭旅行者達の間で流行し、最終的にはなんの威光も保たなくなるんだからかわいそうな話である。 まぁ正式な認定手続きも無いもんだから仕方の無い話ではある。 余談。 この和々僧達、時折どこかに腰を下ろしては尺八を吹く、という奇妙な習慣がある。 一応の事これは音楽をワノヤラワナゴに捧げるという意味があるらしいのだけれど、どちらかといえば 托鉢を貰う為の芸に等しくなっているのが実情である。 さて、暑いけれども平和極まりない街道に突如現れた一人の和々僧、もまた腰を下ろす。 腰巻に挿した古びた尺八を取り出し、一度天を拝む。 もう少し近くに寄って少し耳を傾けてみよう… …う〜む …これは酷い 俺が聞いてたらドリフ、または吉本新喜劇ばりにずっこけるぞ。いや、ずっこけさせてくれ。 ズコー ○凹彡 絶望的に調子っぱずれなのもそうだが、そもそもほとんど音が出ていない。 なんというか死にかけのジイサンの最後の呼気が延々と続くような… そんな不気味さを存分に発揮してしまっている。 蓬莱の三味線を魂を惹き付けて離さない音色とするならばこいつの尺八は魂が裸足で逃げ出す音色である。 駆け出し…?にしちゃあ随分と年季の入った格好だし… あ!もしかすると「便乗無銭旅行者」の魁なのかも知れん! 私達は歴史の変わる瞬間を見ているのかも… と、近くの農村から散歩でもしに来たのか、老婆と孫らしき二人連れがやってくる。 どうも坂道が弱った足腰にこたえるらしく、孫に手を引かれながら亀の如き歩み。 不気味な音色の射程圏内に侵入した。 ああ、可哀想に。短い寿命が更に縮まっちまう…と思いきや、和々僧の向かいに座って まるでまともな旋律を聴いているかのようにうっとりとし始めたではないか!衝苦! きっと婆さん耄碌してんだろうね、こう「あんだって〜?」的な感じで。 でもそれじゃあお孫さんが平気な理由は? 「ヂッ!?ヂヂヂヂ…」 誰も見ることは出来なかった。一匹の蝉が命を落とした瞬間を。 誰も気付く事は無かった。その瞬間、和々僧の座す位置が三寸ばかりずれた事に。 眼の良いものならば解る。蝉の命を木に縫いとめたのが、毛ほども細い一本の針だということに。 遠目から見れば仲の良い老婆と孫娘。和々僧に笑顔で語りかけている。      イクサバ 「流石に『戦場に舞う』男。これしきの小細工には動じないか。いや、見事だよ。世辞じゃなくてさ。」 指は動かしてはいても呼気は竹筒を通ってはいない。天蓋の男は思っていたよりも若さの残る声で答える。 「お前達何者だ…でござる?僕…拙者命を狙われるような覚えはとんと無いのでござるが。」 「ハッ!極東で一、二を争う闇の者が、『狙われる覚えが無い』だって?笑わせる!」 老婆…に化けた何者かがクスクスと笑い声を立てた。蝉の声に掻き消されて一間も離れれば 全く聞こえない会話。しかし本人達には明瞭に聞き取れる。これは極東の暗殺者達に伝わる 独特の発声法である。 「誰であろうと構いやしないだろう?和々僧の何野誰兵衛がどこぞの賊に殺されました。  瓦版に載るとしたらそれだけなんだからね。」 「もう一度聞くでござる。お前達はどこの手の者でござるか?ただの意趣返しにしては手並みが鮮やかに過ぎるでござる。」 「自分の胸に聞いてみるでゴザルよ。」 孫娘に化けた女が男の口真似をすると老婆がクスクスと笑う。 「あんたが死ななきゃあいけないと断じた御人がいるからあたし達は殺す。闇の者にそれ以上の理由は  いらないんじゃないかしら?」 「最早、我が『限』は消え失せ、『美空』はホツマを照らすことなく、『天城』の山は崩れ去った。  『戦場に舞う』者は果て、いつ晴れることも知れぬ『霧』がホツマの夜を覆う…」 「まさか、死霧の…!」 ばっと飛び退り天蓋を弾き飛ばすと、内で纏めていた黒髪が弾ける。 人の心を射抜くような真っ直ぐな視線と熱い瞳。「闇の者ならぬ闇の者」クロウ・センブはその眼差しを 謎の暗殺者達に向けた。 「落葉、余計な事言わない。あ、知られちゃったからには息の根止めなきゃね。」 「応さ!」 「くっ!」 紅葉と落葉が動き出すよりも一瞬早く藍色の法衣を脱ぎ捨て、煙玉を叩きつける。 クロウが逃げに転じたのは二対一という状況に不利を感じたからではない。 闇に生まれた者と闇に育てられた者ではそもそものセンスが違う、生まれながらの殺人者の血は 後天的に植えつけられた技術を上回る。二対一でも決して遅れを取る事は無いだろう。 死霧の里の連中はお互いに血の繋がりを持たない稀有な集団である。血統を作り上げる 事よりも「血の契り」を交わした相棒以外と交流を断つ事によって、カラクリの如く非情で正確な手駒を 作り上げる事に執心したのだ。そのカラクリのように冷徹な心を持った彼女達が、偶然場に居合わせた 人々をどう扱うだろうか? ただ、ただ彼は関係の無い人間を巻き込むことを恐れたのだ。   *   *   *   *   * さてその頃、我らが霜舟はクロウ達が刃を交えている場所の大分先を歩いていた。 「むむっ!」 霜舟の絵心は、なにかを掴んだらしい。 急いで来た道を引き返す。 お前故郷のピンチはどうしたんだよ、とか突っ込んではいけない。 彼女にとっては食欲や睡眠欲よりも「良い絵描きたい欲」が上回るのである。   *   *   *   *   * ※ここからは都合によりダイジェストでお送りします※ 「落葉!」 「応さ!」 突き立てられた『千閣』が妖しげな力を地の植物達に与える。神木の加護を与えられた 根や蔓がクロウの足に絡みつき、繋ぎ止める。 「ぬううっ!」 急激に速度を失った身体を御しきれず、クロウの体勢が崩れる。 「殺った!」 宙に跳んだ紅葉は後ろ手に構えた針を振り上げるようにして放つ。 逃げ場は無い、地の者総てに滋養を与える雨の様に、毒針がクロウを中心とした一帯に突き立つ。 「…まさか!」 クロウは何事も無かったの様に、其処に立っている。 傷一つでもあれば瞬時に昏倒してもおかしくないはずなのに。 毒への耐性だとか、そんな子供騙しではない、奴は… 「今のはちょっとビビっ…驚愕したでござるよ。」開いた掌からパラパラと針が零れ落ちる。 奴は総てを捌ききったのだ!最速の一撃がいとも簡単に! 「くそおおおっ!」   *   *   *   *   * 「なぁ…あの言っちゃあ悪いんだけどよ…何時になったら描き始めるんだべさ?」 「…。」 霜舟、農家の庭先で座して待つ。ひたすら待つ。 「なぁってばよ、描かねぇなら障子紙は返してもらうっぺさ。」 「…。」 百姓Aは早くも後悔していた。障子紙を一枚くれれば素晴らしい絵を描いてくれるというんで 紙だけでなく場所も貸したというのに… 山の方向を向いたまま少しも筆を動かしゃあしない。 「…まぁいっぺ。夜になる前に発った方がよかんべよ?あんたに出す飯はねぇからよ!」 「…。」 霜舟待つ。ただ何かを待つ。   *   *   *   *   * 両の手刀で、紅葉の操る刻魔針と落葉の操る千閣を止めてから数刻が経った。 動かないのではない、動けないのだ。云わば剣豪同士の鍔競り。 下手に動けば命が無い、しかし少しも力を抜くことは許されない。 二人の力はクロウと拮抗しているのだ。 しかし、状況はクロウにとって確実に不利になりつつあった。 刻魔針の毒はクロウの鋼の爪をも侵食し、千閣は水分を吸い上げる根の如くクロウの力を奪っている。 「(このままでは…)」 最後に斃れ伏すのは自分の方。ならば、ならば一か八かに賭けるしかあるまい。 「おおっ!」 落葉の脾腹に肩からぶち当たる。吹き飛んだ落葉、くるりと地を転がり方膝を突くクロウ。 刻魔針が過たずクロウの眉間に迫る。 クロウは動かず、しかし手刀を地に深々と突き刺し、叫んだ。 「 地 哭 震 ! 」   *   *   *   *   * どっ、と大地が揺れ。 木々が悲鳴を上げ。 「きたきたきたああああああっ!」 空を覆い尽くすかのように、鳥達が一斉に飛び立った。 混乱の境地に肉体を余すところ無く躍動させて羽ばたく鳥達。 その一匹一匹の生命の輝きが霜舟の筆によって障子紙に映し出されてゆく。 「い…一体全体何事だべさ!島が堕ちるかと思ったべ!」 障子を開けて飛び出してきた百姓Aに誇るように障子紙を見せ付ける霜舟。 「どうだい、晩飯の御代くらいにはなるんじゃない?」 この時の作品「乱れ千羽」は様々な人の手を渡り、今は大陸にあるのだそうだ。 浮草村まで残り:歩いて二日 〜続く〜