■日本分断YAOYOROZ■ 顔瀬 良亮(かんばせ りょうすけ) http://nathan.orz.hm:12800/soe/index.php?%B4%E9%C0%A5%A1%A1%CE%C9%CE%BC この子で書こうとしていたSSの構想のようなもの ------------------------------------------------------------------------------- 地方から進学校に通っている男の子。地元ではそれなり成績も良かったが、その驕りは一瞬で 打ち砕かれた。教室では目立つ事は少なく、しかし友人がいないわけではなく… 燃える事が一つも無い、冷め切った高校生活を送る良亮。只唯一の楽しみは夜中に家を 抜け出して海沿いの道をチャリで疾走する事だけだった。そうすれば下らない悩みを 海風が吹き飛ばしてくれたから。 その日もぼんやりと疾走していた良亮、コンビニ前の道で通行人と激突してしまう。 転んでしまった通行人を助け起こそうとする…と、急に力強く襟首を掴まれた。 鬼のような表情で良亮を睨んでいたのは「角材の角田」、通称「カックン」。 その凶暴さ、無慈悲さで一帯のヤンキーたちから恐れられるチンピラ(高校三年生)である。 良亮が激突した通行人はカックンの女だったのだ! -------------------------------------------------------------------------------- カックンと取り巻きたちによって近くの空き地に連行される、どう考えてもリンチの始まりである。 「ちょーありえなーい!」などとわめき散らすカックンの女。左手で女の頭を撫でてやりつつ右手で 角材を素振りするカックン。こりゃあ参った、風切音に殺意がこもっている。 恐ろしい、というより馬鹿馬鹿しい、と思った。別に大した怪我をしたわけでも無いのに。 女の手前、自らが力を持ってるって事をアピールしたいんだろうな、動物レベルだな。 …などと思っていたところで情況が好転するわけではない。 「誠意見せろや。」凄みを精一杯利かせたカックンの脅し。 「すんません、これしか持ってないっス。」 財布から小遣いの五千円を出すと同時に角材(どこで拾ったのだろう?)が右腕を襲った。 痛い、痛いっていうか、熱い。多分骨とか逝ってる。 「全然誠意足らねーんだけど?」 蹲った俺を豚でも見るかのように見下ろすカックン。 足りないとか言われてもこれ以上出すものは無い。 「…すんませんした。俺が悪かったッス、勘弁してください。」 DO☆GE☆ZA。 予想通り後頭部をこれでもかと言うほど 踏みつけられる。二、三分ほど罵声と唾を浴び、脇腹を何回も蹴りつけられる。 サッカーボールか何かと勘違いしているのだろうか?っていうぐらい。 息できないんスけど。っていうかゲロ出たわ。 「うわっキモッ!ゲロった!」 お前らのせいだろっつの。 カックン曰く。「顔上げろ。」 多分「今後あなたは私達にお金を提供しなければなりません。」という宣告が来る… まぁこれ以上痛いのはいやだしなぁ…いざとなったら警察とかに駆け込めばいいよな。 …と思ってたらその前に、掬い上げるようにして角材が振られた。わお、今度の俺はゴルフボール代わりらしいぜ。 意思とは無関係に仰け反ってしまう。あ、やべぇ、眼、逝ったわコレ。 角材の先端の、こう、丁度角張った部分が目ん玉にめり込むのが解った。音としては「ぐちゅ」が先に来て その後「ガン!」みたいな? 眼からすっごいどくどく血と涙と目ん玉の中身が出てきてるのが解る。うわー、洒落ならんよこれ。 「片目だと遠近感取れないらしいなぁ…っていうかマジ痛いんだけど。」ぐらいしか頭に浮かばない。 カックンとその取り巻きたちは転げまわる俺を見て下品に笑ってる。 うわー、マジ腹立つわー。有り得ない理不尽さだろコレ。俺ただぶつかっただけじゃん? それで眼潰されるとかさ。ちょっと泣けてくるよ。あ、でも今泣いたら目に沁みるよなぁ… う〜〜〜!ふざけんな!うぜぇ!殺す!死ね!死ね!殺す! う〜〜〜〜〜ちくしょおおおおお!!いてえええええ!う〜〜〜〜〜〜! 「マジウケるこいつ!うーうー唸ってるし!」「オラ、唸ってないで何とか言ってみろよ!」 「ママー!とか言うぞきっと!」「ギャハハハ!」 いや、声出して無いんだけど、俺。五行前の一文は俺のモノローグで… 「ヴ〜〜〜〜〜!」 あ…え?俺?俺の声?…じゃないぞ!?近くに犬でもいるのか? うわ、なんか携帯のバイブ音がずーっと続いてるみたいだ。 …でも、なんだろう、怒った犬、のほうが近いなこの音。 「いつまで寝てんだコラ!」 いやあすんません立てないっス。って言って許される状況じゃない。 でも立てない。 ご親切にもカックン大王は俺の自慢のボサボサヘアーを引っ掴んで立たせてくれました。 俺の顔があった場所にはゲロとか血とか諸々の液体で水溜りが出来てる。 「ヴヴヴヴヴヴ!」 だからなんなんだよこの音は!?どこから響いて…? 携帯をマナーモードにした時にさ、ちょっとバイブ震えるじゃん? そんな感じの振動が、俺の頭、そして左目を押さえている手に響いてる。 さっきよりもずっと強く。 「うわぁああ!」 思わず手を離す。俺の目玉があった部分から何かがずるり、と落っこちた。 カックンが俺を離して飛び退いたもんだからバランスを失って尻餅をついてしまった。 誰一人俺の事なんか見てはいない。 みんなの視線は血溜まりに落っこちた球状の物体…多分俺の目ん玉、嗚呼、さようなら…に釘付けだ。 そして俺の残った一個の目玉もまた球体に釘付けになった。 だってさ、銀色してて、ぶるぶる震えてる目玉なんて、とても珍しいじゃあないか! ってか…あり得なくね? 「なんだ…?これ…?」 カックンが手を伸ばしてそいつを掴もうとすると、そいつはまるで意思でもあるかのように転がって逃げた。 いきなりの超常現象にびびる子分たちと女を差し置いてカックンは顔を真っ赤にして球を追いかけている。 …前言撤回、多分意思はある。だって俺が動け、と思うとそいつは転がるし、跳ねろ、と思えば そこら中を跳ね回るのだもの。 「(行け!谷間に飛び込め!)」 女の胸に飛び込ませてやると、女は盛大に金切り声を上げた。カックン一同はもう大慌て。 チューブトップを着てるもんだから球がどこを這いずっているかは一目で解る、んで男衆が 掴もうとして女に触るとビンタが飛んでくる。仕舞いには彼らは女を囲んであたふたしているだけ。 さっきまで俺のことを嘲笑っていた連中が、今度は俺に嘲笑われる側になったわけだ!痛快! どうも俺は痛みも忘れて笑っていたらしい。カックンたちの怒りの矛先が、俺に変わる。 「テメなにらってんだぁらああ!」 とか理解不能な奇声を上げて俺に突進してくる。笑ってないで逃げりゃあ良かった! 角材が振り上げられる! 「(守れ!俺を守れ!こいつらをブッ倒せ!)」 その思いに反応して球は女の胸からすっ飛んできた、ピンボールのように子分達の頭の間を跳ね カックンの後頭部をジャンプ台にして宙に舞う。 カックンと俺の間にゆっくりと落ちて来る球体、近くで見てはじめて解る、こいつどんどん回転が速くなってる! 回転速度が上がるにつれて、球体はぱち、ぱちと静電気を発し始めた。 ジジジジッとゲームの効果音でしか聞いた事が無いようなスパークの音、明滅は青白い発光へと姿を変え 銀色の球体は遂に青白い球雷になった! 「う…おおおおっ!」 角材が振り下ろされる! スパーク! …俺が見える。 失ったはずの左目がぽかんとする俺を見てる。 残った右目は、鉄色の球体とそこから生えた長い腕…そしてその掌にある俺の目玉を見ている。 自分と視線が合うって、なかなか気持ち悪いもんだなぁ… カックンは腰を抜かして倒れてる、子分たちも呆然。 と、球体は天を指差すように腕を上げると、宙をかき混ぜるような仕草をした。 吸い込まれるような風。 気付けばカックン達は洗濯機の中のシャツみたいにくるくると空中を振り回されている。 三メートル…四メートル…うわ、六メートルぐらい上ってるな、あれ。 球体が指を止めると風もピタッと止んで、カックン一同は折り重なるようにして地面に激突した。 女が最後だったのは一応の情けだったのだろうか? 怪物は尺取虫のように器用に腕を動かしながら近づいてくる。 「お前さ…あれは過剰防衛なんじゃねぇの?」 掌の眼が悲しそうな表情になった。 「いや、でも…ありがとな。」 何故だろうか、常人だったら裸足で逃げ出してしまいそうな怪物が目の前にいるのに 全然怖くない。俺の目玉だっていう確信があるからなのかな? あ、ってことは俺、もう片目が無いって事?血は一応止まったけどさ… てか、顔中血だらけだよ…どーすんだこれ。母ちゃんとか妹が見たら気絶するだろうなー。 怪物はまた器用に腕を使って球体側を俺に向けた。 黒々した表面に亀裂が走ったかと思うと、その奥に歯並びの良い大口が見えた。 涎に塗れた舌が伸びてくる。 「食われる…?って事は無さそうだな。」 生暖かい舌で顔の汚れを舐め取られる。気持ち悪い、が、暖かい…。 「くすぐってぇなぁ。なんだ、お前、犬みたいだな…」 なんだかとても安心して、良亮は眠りについてしまった。 ---------------------------------------------------------------------------- 眼を覚ますと… 見慣れない天井の模様。 普段と色味の違う蛍光灯。 相変わらず片目は真っ暗なまま。 「…怪物の次はテレポートか?」 次週、■日本分断YAOYOROZ■ 「良亮、関東から京都まで運ばれてしまいました」の巻