麻生さんのおもちゃ  僕は麻生さんのおもちゃである  麻生さんというのは、超能力者が集うこのサイオニクスガーデンでも飛びぬけた優等生 で知られる、高等部二年の麻生奏詠先輩だ。  そんな僕は彼女の後輩であり、特別際立った能力を持たない一般生徒Tである。  僕が彼女のおもちゃになったのにはそれ相応の理由があるのだが、今は別に詳しく話す 必要もないだろう。ともかく僕が彼女の所有物になってから、僕の学園生活は一変した。  麻生さんは優等生だ、授業を欠席することもないし、テストではいつも上位をキープし ている。特にサイコキネシスの能力では学園の教諭にすら引けをとらない力を持っていて、 課外授業と称して何かと学園を離れることも多い。  そんな彼女と会うのは決まって放課後の使われていない教室である。  今日は麻生さんが数日ほどの課外授業から帰ってきて、久しぶりに麻生さんと会うこと になった。  僕は手足を机に縛り付けられ、身動きが出来ないでいる。  ズボンは脱がされ、上着もボタンがはずされて大して厚くもない胸板を晒している。  僕は麻生さんの“おとなのおもちゃ”なのだ。  とはいっても僕が彼女に触れることはないし、彼女も僕に触れたことは一度もない。  思い返せば一番最初、彼女は僕にオナニーを見せるように言ってきた、おもちゃの僕は それに逆らうことは出来なかったし、何より憧れの麻生さんに自分の醜くも卑猥な行為を 見せ付けるということに、屈折した性的興奮を覚えていた。  きっと僕はMなのだろう、とその時気がついた。  麻生さんはそんな僕を冷たい視線で見下ろしていて、僕はその視線を感じてさらに興奮 したりもした。  僕は普段するよりも激しく自慰し、いつもより少し早く果てた。  麻生さんは特別興味を抱くような素振りは見せなかったけど、視線はずっと僕の顔と股 間を見ていた。結局彼女は一言も発することなくその場を離れた。  僕はきっとコレで飽きて棄てられ、一生口を聞くこともなく、廊下ですれ違っても顔も 知らない他人として無視される、いや、最初からいなかったかのように扱われるものだと 思っていた。  でもどうやらそういうわけでもなかったらしいと気づいたのは、それから三日経ってか らだった。  再び放課後の教室に呼び出されたとき、僕は自分でオナニーする必要はなかった。  僕はズボンを脱がされて横になり、麻生さんのサイコキネシスでしごかれたのだ。  サイコキとでも呼べばいいだろうか、知らない人が見たら何もない空間に向かって腰を 振る間抜けな姿に見えたことだろう。  たぶんすべてを知っている麻生さんもこの間抜け姿の男子生徒を嘲笑っていたかもしれ ない。そういえば顔がいつもよりにやけていた様な気もする。  ともあれ、彼女のサイコキは荒々しく、無理やりに行われるもので、痛みばかりで気持 ちよくないものだった。それでも流石の麻生さんは力の微妙なコントロールを覚え、すぐ に痛みが快感に変わるようになってきた。  しばらくそんな生活が続き、次第に行為はエスカレートして道具を使うようにもなった。  サイキックで直接サイコキするよりも、貫通式のオナホールとローションを使った方が 強い刺激になり、僕の反応も良くなったからだ。  非貫通式でないのは、麻生さん曰くイク瞬間が良く見えないので面白くないらしい。  僕がそんな回想をしている中、麻生さんは準備を進めていた。  オナホにローションをたっぷりつける、貫通式なのでぽたぽたとタレ落ちるが、別にそ んな細かいことは気にしないらしく、十分な量を流し込むと無造作に僕のほうに向かって ぽいっと放り投げる。  それは放物線を描いて僕の上までやってきて、突然ピタッと空中に静止する。  麻生さんがサイキックを使っているのだ。  僕はその様子をつぶさに見つめ、すでにギンギンになっているモノをビクビクと痙攣さ せている。  麻生さんはそんな僕を焦らすようにゆっくりと這わせた後、一気に押し込む。  僕は情けなくもくぐもった声を上げ、全身を痙攣させる。  それでコトが終わるわけでもなく、麻生さんが立てた指の動きにあわせて、サイコキが 開始された。  激しく上下に振られ、あるときは回転し、あるときは蠕動しては僕に絶妙な刺激を与え ている。  極普通の市販されたオナホに過ぎないそれは、麻生さんのテクニックによって至上のオ ナニーマシンと化して僕を絶頂へと誘おうとする。  僕はそんな時間を少しでも長く味わうため、必死にイクのを我慢する。でもそれは余計 に快感を乗算させていくだけで、僕は気が狂いそうな快楽を貪っていた。  ふと――  その刺激が途絶える。  僕は荒い息を上げ、体を細かく痙攣させながらも、麻生さんに視線を送る。  彼女は片手で頭を抱え、うずくまるようにして身を丸めていた。  息を整えつつ彼女に僕は心配げに声をかけたが、それが癇に障ったのか、キッと顔を上 げて今まで以上に凄みのある顔でにらんでくる。  暫く蛇に睨まれた蛙のごとく身を凍らせていた僕だが、次に彼女が見せた残忍ともいえ る微笑に脊椎まで凍りつかされた。  そして麻生さんは新しく試して見たいことがあるといって、サイコキを再開した。  ギュウッ、っと激しく締め付けられる感覚を股間に感じる。  見れば今まで自然な形で拡張されていたやわらかいオナホが、元のサイズ以上に細く締 め付けられていた。それも千切れてしまうのではないかと思うほど強烈にである。  僕はその光景に息を詰まらせた、締め付けを強くすることでより強い刺激を得るという のはそう珍しいことではないが、この力は常軌を逸している。もしこのまま続けられたら 僕はそのまま死んでしまうかもしれない。  しかしそんな僕の不安や絶望ともいえる期待に、麻生さんが応えないわけもなかった。  麻生さんの指が上下に振られる、最初はゆっくりと、徐々に激しく。  一番最初に引き抜かれたとき、僕はそのまま魂が抜け出てしまうのではないかと思った が、次の瞬間には引き戻り、無理やり魂を挿入される。  そんな肉体を通り越した霊魂レベルの刺激は、普通に手でやるのは不可能な速度のピス トン運動によって絶対的なまで僕を蹂躙し、麻生さんの扇動の声に後押しされ、僕は十を 数えるまでもなく絶叫して果てた。  数日分溜め込まれ濃く、量も多い精子は、強烈な締め付けによって押しつぶされた尿道 をこじ開け、ジェットエンジンのごとく加速して射精された。  それは教室の天井まで届き、痙攣とともに周囲に撒き散らされ。  そして、ぽとりと一滴…少し離れた麻生さんの頬を汚した。  あらゆる電気パルスを麻痺させ、僕は一瞬だけ卒倒していたと思う。  僕が次に気がついたとき、麻生さんは呆然としたまま頬に手をやり、何が自分の身に起 こったのかを反芻しているようだった。  次の瞬間には顔を伏せて肩を震わせ、ズンズンと僕に近づいてきた。  ブルブルと震えて僕を睨みつける麻生さんの顔は、僕が今まで見たことのないもので、 うっすらと瞳に涙を浮かべ、耳まで真っ赤したそんな顔だった。  僕はびっくりしてその顔を見つめ、上ずった声で麻生さんを呼ぼうとしたけど、先ほど の刺激が尾を引いて全く呂律は回っていなかった。  唐突にその口が柔らかいもので塞がれる。  睫毛が触れ合いそうなほど麻生さんの顔が近くにあるのに、僕は最初それが何なのか理 解できなかった。  しかし口の中に暖かくねっとりとしたものが差し込まれたとき、僕はやっと麻生さんに キスをされているのだと分かった。  出会ってから数ヶ月、手すら握ったことのないまま、ただオナニーを続けさせられてい た僕に、彼女は前触れなくキスをしたのである。それも唇が触れ合うだけのものでない、 舌と舌とが絡み合う濃厚なヤツだ。  僕はひょっとして、自分の精子には媚薬の効果があるんじゃないかとか、そんなバカを 事を薄っすら考えていたけど、それ以上に僕は彼女の舌を味わうことに夢中になっていた。  うぶっ、いう声が漏れ出た。  麻生さんは今度は僕につけられたままのオナホを握ったのだ、サイキックではない彼女 の素手でだ。  彼女はそのままキスを続け、さらに激しくオナホを上下させていく。  それは稚拙なもので、ついさっきまで味わっていた最高のテクニックには程遠く。彼女 が始めてサイコキをした時のように乱雑なものだった。  それでも僕は舌を這う柔らかさと彼女の鼻息や甘いにおい、そして彼女自身の手で擦ら れているというその事実そのものに激しく興奮し、つい先ほどこの刺激を凌駕する幸福感 に満たされていた。  全身全霊が口と股間だけの生物に成り果てたかのように、僕はその集中し、そのちょっ とした余波で体をよじらせたが、手足を縛られたままなので結局延々と滑稽な踊りを続け るだけになる。  そんな刺激にいつまでも耐えられるはずもなく、口を塞がれたまま僕は声をあげ、二度 目の射精をする。  今度は先ほどのような勢いはないものの、オナホの先から零れ落ちた精子が麻生さんの 手を汚していく。彼女はそれに気を止めることなく、絶頂で敏感になっている僕に休むこ とのない享楽を与え続ける。  ローションと精子が混ざり合ったなんだかよく分からない白濁した汁ですべり、勢いあ まってオナホが抜け落ちる。しかしそれに構いもせず今度は素手で僕を強く掴み、初めて 触ったであろう男のモノを淫靡な音を立てて擦り上げる。  その間も舌は僕を占領し、僕を完全に征服していた。  あまりの刺激に僕は奈落へと落ちていくような恐怖を感じて今まで以上に体を激しくゆ すり、麻生さんの唇から逃れるために頭を振り回そうとする。  そんな僕の頭を、開いているもう片方の手で抱え込むように固定して逃さないようにす る。僕はたまらず三回目の射精をした。  僕が覚えているのはここまでだ。  僕は完全に気絶した――  ――それからどれだけの時間が経ったのか、僕が気がついたとき、窓の外はすっかり暗 くなっていて、真っ暗な教室で一人大の字に横たわっていた。  僕は全身に力が入らず、ぐったりとしたままで周囲を観察する。  麻生さんの姿は見えない。  手足を拘束していたベルトははずされている。  服は着ていない、全身は鉛になったかのように重く、股間はヒリヒリと痛み、その周囲 は今まで見たことないぐらいに汚れていた。  どうも僕が気を失った後も行為は続いていたらしい…  僕は苦労しながら何とか体を起こし、服を拾って足を引きずりながら教室を出る。  部活で使うシャワールームを失敬しようと半裸のまま扉をくぐった時、視界に人影が飛 び込む。  麻生さんだ。  どうやら廊下にずっと経っていたらしい。  麻生さんは髪一つ乱すことなく、服のシミやシワも見当たらない小奇麗なブレザーを着 ており、さっきの出来事が僕の脳内で起きた妄想だったのでないかと錯覚したほど、一切 の痕跡を残していなかった。  いや、少しだけ赤く腫れている瞳だけ、それだけが先ほどの狂宴の名残として確かに残 っている。  「…なにか言いたいことはないの?」  彼女は聞いてきた。  僕は何を聞かれているのか判断できなかった。まだ頭は半分朦朧としているし、何より いつも彼女は事が終われば先に帰ってしまっていたので、僕は完全に不意打ちを受けた形 になってしまった。  僕はきっと間抜けな顔で彼女を見つめ、その後で金魚か何かのように口をパクパクと意 味もなく動かし、何とか言葉を紡ごうとしていたのだろう。  でもその間抜けな顔の間抜けな口は、結局どんな間抜けな台詞を垂れ流すこともなく、 間抜けに閉じられた。  そう――とだけ彼女はいい、僕の前からただ立ち去った。  そんな彼女の後姿を見て、馬鹿げたことに僕はまた勃起していた…  麻生さんはまた課外授業に出かけていった。  あれ以来姿を見かけていない。  麻生さんが何故あんなことをしたのか、その答えは結局分からないままだった。  あるいはアレが僕と彼女の最後であり。  僕が最初に彼女のおもちゃになった時感じた不安の通り、棄てられて忘れ去れてる時が 来たのかも知れないと思った。  麻生さんは課外授業に出かけている。  帰ってくるのはまだ数日先である――  了